音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

嫉妬、羨望、裏切り。欲望渦巻く『バーレスク』で最後に笑うのは誰か?

2011年06月04日 | インポート

Burlesque

 いわゆるサクセス・ストーリーものの殆どが、似たような筋書きを辿るのはもうしかたのないことなのかもしれない。

 クリスティーナ・アギレラが主演した『バーレスク』もご他聞に洩れず、才能はあるがチャンスに恵まれないひとりのシンガー(&ダンサー)が登場し、様々な障害を乗り越え夢を摑んでいく、といったありきたりなストーリーなのだが、主演があの弩迫力の声量の持ち主、クリスティーナ・アギレラとなると話は別なのかもしれない。

 碌に給料も払わない店のウエイトレスとして働くアリス(クリスティーナ・アギレラ:劇中ではアリと呼ばれている)は、夢を捨てきれず、アイオアの田舎町を飛び出し、LAへ。そこで偶然眼にした〈バーレスク〉というダンスクラヴでのショーに魅せられ、ステージで躍らせてくれないかと店のオーナーに直談判するが、当然のごとく門前払いにあう。

 それでも諦めきれないアリスは、強行にこの店のウエイトレスとして働き始め、チャンスを窺うことにしたのだが…。

 デビュー当時そのままのすっぴん美人のクリスティーナ・アギレラがやがてステージに立つことになり、どぎついメークを施し可憐に変身していく様、全編を通し、大迫力の歌声とダンスを披露するアギレラのステージは圧巻。

 超セクシーなステージ衣装も魅力のひとつだ。

 〈バーレスク〉を借金の形に明け渡すことを懸命に阻止しようとするオーナーにシェールが熱演。アギレラを演技の上でも好サポートしている。Burlesque1

 シェールといえば数々の浮名を流した名女優という印象が強いけれど、もともとは歌手出身の女優で、ソニー&シェールというデュオで音楽活動をスタートさせ、「アイ・ガット・ユー・ベイブ」のヒット曲もあるらしい。

とにかく、単なるサクセス・ストーリーの枠組みを超えて、「魅せる/見せる」ことに終始したのがこの映画の成功だったと思うな。

 最初から最後まで音楽とダンスの洪水。これでもかこれでもかと魅せてくれる。

 基本的にダンスミュージック好きな僕としては『バーレスク』は満足度100%な映画である。


『ビリー・ジョエル ライヴ・アット・シェイ・スタジアム』に寄せて

2011年06月02日 | インポート

 15年もレコード(CD)を出していないビリー・ジョエルがシェイ・スタジアムのステージに立つ。

 この世界的イベントがニュースとなって世界を駆け巡っていた2008年の7月。

 正直なところ、僕は全くこの事実を知らなかった。

 同年11月に来日し、東京ドームでライヴを行っているので、もしかしたらこのニュースを見聞きする機会もあっただろうが、一時引退騒動もあったので、すでに当時は興味の的ではなかったかもしれない。

 40 この事実を購読している『大人のロック!』で知ったときは驚きを隠せなかった。

 2009年に取り壊しが決定したニューヨーク・メッツのホームグランド、シェイ・スタジアムの2回公演がCD&DVDでコンパイルされる。

 なんでもその公演ではサプライズ・ゲストとしてポール・マッカートニーが出演している。

 そしてビリーと同じステージで「レット・イット・ビー」を歌う。

 これだけでも大変な話題である。

 ポール・マッカートニーの出演はビートルズが始めてこのシェイ・スタジアムでコンサートを行ったことに由来し、この歴史的ステージを完璧に終わらせるのには是非彼の尽力が必要だと、これはビリーの予てからの希望であったらしいが、エド・サリヴァン・ショーで始めてビートルズを目にしたビリー少年にとって、ビートルズというグループは同時に彼の音楽的原点ともいえ、ポールへの出演依頼は一人のミュージシャンとしてのひとつの区切りだったのかもしれない。

 そう思うと意味深いものがありそうだ。

 「ソロ・デビューから40周年…そうか、もうそんなになるのか…」

 僕がビリーを知った中学時代からも30年は経っている。

 『ストレンジャー』から『グラス・ハウス』までの4年間、ミュージシャンとしての絶頂期をリアルタイムで見守ってきた僕としては、引退撤回後もニューアルバムを一枚もリリースしないビリーに苛立っていた。

 いったいどうしてしまったんだろうな、ビリーは。おそらく彼の音楽を愛する世界中のファンも同じ気持ちだったんじゃないかな。

 Billy_joel_live_at_shea_stadium_the そんな疑問を晴らす答えが、96分のドキュメンタリー・フィルムの中に収められているが、これからこの『ビリー・ジョエル ライヴ・アット・シェイ・スタジアム デラックス・エディション』を購入する方のためにいわないでおく。

 このアルバムを購入しようかどうかを迷っている40歳代の僕と同世代の方々に断言しておく。

 これは凄い、ライヴ・アルバムだ。

 でっぷりと肥り、頭の禿げ上がった風貌からはかつてのロックスターの面影を偲ばせるものは何一つない。

 そのかわりにステージで歌う楽曲の数々は妙に新鮮であの頃のままに瑞々しい。

 それは彼のヴォーカリストとしての圧倒的な才能と過去世に送り出した名曲の素晴らしさを証明するものだ。

 「夏、ハイランドフォールズにて」がいいね。

 アメリカの良質な短編小説のようにこの曲が僕の耳には聞こえてくる。