音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

常識破りのドキュメント映画

2008年12月06日 | インポート

Shinealight3

 12月5日、冷たい雨が降りしきる中、『SHINE A LIGHT』を観に三ノ宮の劇場に行った。正直な感想を言わせて貰うと、もう少しライヴ映像を観たかった。映像としては、これよりも前に発売されたサントラ盤からもわかるように、膨大な量のフィルムを残している筈だ。けれど本編に至ってはドキュメント映画として成立させる為に割愛もまたやむを得ない選択だったのだろう。

 映画を観て冷静にこんな分析が出来るのはやはり、観てからすこしばかり時間が経過しているせいもある。とにかくスコセッシの今回の映画は途轍もなくスケールのでかいドキュメント映画に仕上がっていた。開始直前まで知らされていなかったセットリストの紙切れをスタッフから渡されたスコセッシが、引っ手繰るように受け取って確認したオープニング曲は、スコセッシ自身の予想とどんぴゃりだったようで、映像を通してその歓喜が伝わってくるようだ。 

Jumpin' Jack Flash!!

 もう何度となく聴いた、観た、このストーンズの定番曲が、画面からはみだすようなスケール感で迫ってくる。そしてキースが弾くギターが途轍もない爆音で会場を煽る。そこにはこれまで観たどのシーンよりもカッコいいミックとキースが映っていた。とてもじゃないが、それは還暦を越えたバンドが出せる音ではないし、ミックのあの若々しい体のしなやかさは、ロックの常識を悉く覆している。脂の乗り切ったロックバンドならまだしも、ストーンズは間違いなくピークを過ぎた長寿バンドなんだよ。でも『SHINE A LIGHT』ではメンバーの年齢の事なんか忘れさせてくれるような超パワフルな爺達のライヴパフォーマンスをストーンズは魅せてくれている。

 「All Down The Line」では曲の終わりでチャーリー・ワッツが頬を膨らませて深い溜息を付く場面が映るけれど、これも彼なりのパフォーマンスなのかな。映画の中で挿入されるインタビューのシーンでは「60歳になってもまだロックをしますか」というインタビュア質問に、二十歳の頃のミックが「勿論!」と答えて会場を沸かせ、それが巧く現在の溌剌としたライヴパフォーマンスと繋がる構成で、こういった過去の映像を挟むことでビギナーにも退屈させない箸置き効果を与えている(これは一緒に行った実弟の感想)。

 個人的に僕は映画前半のスコセッシとストーンズ(特にミック)との心理的場外乱闘を描いた場面が面白かった。場外乱闘といってもプロレスのような殴り合いをするわけではなく、お互いに意見を衝突させていく口合戦だ。ビーコンシアターで撮る事に折り合いが付いた経緯やなかなかセットリストを公表しないミックに業を煮やし歪んでいくスコセッシの顔。それを嘲笑うかのようにミックが「撮影日には必ず提出するよ」と笑って答えるミックのコメントはスコセッシに対する挑発以外の何ものでもない(笑)。「キースときみとどちらが巧いと思っているか」とインタビュアーに訊かれたロニーは「勿論、僕さ」と答え、それを知ったキースが慌てるシーン。「たぶん彼ならそういうと思った」と認め、苦し紛れに「どちらも下手さ。でも下手なふたりがギターを弾くと最強になる」と答えていたり…。さすが、スコセッシしかできない映画構成には舌を巻いた。

 肝心のライヴパフォーマンスはおそらく僕の記憶ではもっともエネルギッシュでパワフルだった。何度も言っているが、型破り、桁違いのスケールに満ちている。もうストーンズはロックでは規格外のモンスターバンドになっているから、僕らが思い描く60歳のロックバンドの理想を軽く超越しているのだ。ビートルズみたいに伝説にならなかった代わりに彼らは今でも現役であり続けている。いつだったかロニー・ウッドはこんな事を喋っていた、「俺達はロックバンドとしてどこまでやれるか試しているんだ」。ロニーにいわせるとこの映画もストーンズのほんの奇跡の一部でしかないのだろう。それではこの辺で次なる名曲を。

「As Tears Go By」。リストの中でも「[I Cant' Get No]Satisfaction」と並ぶ古い曲なんで曲紹介の時にミック自身も気後れしていたみたいだったけれど、そういえば演奏後にミックは「どう?いい曲だっただろ」と付け加えていたよな。

 ストーンズは一体これからどんなパフォーマンスを魅せてくれるのだろう。でもこの映画を観て確かにいえることは、それは我々が想像しているものとは全く別次元のものになるのだろうということ。そしてこの映画が60歳時点のベストパフォーマンスであるという事。さらにはストーンズにとっては単にバンドとしての通過点であるといえるかもしれない。

映画『SHINE A LIGHT』セットリスト

  1. Jumpin' Jack Flash(68)
  2. Shattered(78)
  3. She Was Hot(83)
  4. All Down The Line(72)
  5. Loving Cup(72)
  6. As Tears Go By(65)
  7. Some Girls(78)
  8. Just My Imagination(78)
  9. Far Away Eyes(78)
  10. Champagne&Reefer(08)
  11. Tumbling Dice(72)
  12. バンド紹介
  13. You Got The Silver(69)
  14. Connection(67)
  15. Sympathy For The Devil(68)
  16. Live With Me(69)
  17. Start Me Up(81)
  18. Brown Sugar(71)
  19. [I Cant' Get No]Satisfaction(65)

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2 コメント

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こんにちは♪ (kingbee)
2008-12-07 17:00:40
こんにちは♪
こちら一日遅れで観賞しました。
もう最高!としか表現できなくて、
まともなレポートがUPできません(汗)。
気分は完全ライブ戦闘モードで臨みましたので、
座ってみているのが苦痛でした!
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 今晩は、Kingbeeさん。 (活字中毒)
2008-12-08 22:09:34
 今晩は、Kingbeeさん。
やはりストーンズはストーンズでしたね。スコセッシの自由にはさせないぞ、という意気込みが伝わってくるような映画でした。ストーンズファンなら誰しも言語障害に陥りそうなほど物凄い映画でしたね。映画なんだ、と自分に言い聞かせながらも、余りの興奮で、必要以上に体が火照ってくる感覚を味わっていました。入館前に買ったLサイズのコーラーが物凄いスピードで空になっていました(笑)。
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