正直なところ、20年も30年も同じロックバンドを聴き続けるということは大変な忍耐が必要になる。ぼくが夢中になっていた頃にはよもやこんな時が来るとは考えずに聴いていたのだけれど、さすがにスタジオ盤なんて通算すると何十回、何百回と聴いている訳で、もういい加減好きな連中でも飽きてくる。しかしそんななかでもローリング・ストーンズだけは別格のバンドであった。とりわけ目を瞠るのは彼らのパフォーマンスのかっこよさだけれど40年以上という音楽キャリアにも熟成したワインに似た芳醇さがあって、曲のひとつひとつが粒選りで完成度の高いのも彼らの魅力であった。
マーティン・スコセッシ監督の映画『シャイン・ア・ライト』の上映に先駆け発表された同名のオリジナル・サウンドトラックはマーティン・スコセッシ監督自身も解説で語っている通りその映画の感動を耳で体験できるアルバムに仕上がっている。映画は今から2年前の秋にニューヨークのビーコン・シアターで行った2回のライヴを映像化したものだが、この撮影場所の決定にはかなりな時間を掛けたようだ。しかも場所と日程が決まった後でも曲目がなかなか決まらず、なんとコンサート直前までマーティン・スコセッシ監督には知らされなかった経緯が解説には書いてある。ストーンズは莫大な数の曲を全て覚えている訳ではなく、厳選した後も曲を覚えなおす作業を強いられる。したがってリハーサルで違和感なく流れるような演奏をするためには曲順を決めることが最大の難関であるのだ。ストーンズが全ての曲を覚えていないというのは以前読んだ本にも書いてあったのでさほど驚かなかったけれど、マーティン・スコセッシ監督自身が語っている通り、何でも容易くやり遂げると思っていたストーンズがじつは相当な努力によってこれらを乗り越えているのを知って素直に衝撃を受けたことも書かれてあるので非常に面白く読めた。それではこの辺でサウンドトラックに収録されているラインナップを―。
DISC ONE
01.JUMPIN' JACK FLASH
02.SHATTERED
03.SHE WAS HOT
04. ALL DOWN THE LINE
05. LOVING CUP with Jack White Ⅲ
06. AS TEARS GO BY
07. SOME GIRLS
08. JUST MY IMAGINATION
09. FARAWAY EYES
10. CHAMPAGNE & REEFER with Buddy Guy
11. TUMBLING DICE
12. BAND INTRODUCTIONS
13. YOU GOT THE SILVER*
14. CONNECTION*
DISC TWO
01. MARTIN SCORSESE INTORO
02. SYMPATHY FOR THE DEVIL
03. LIVE WITH ME with Christina Aguilera
04. START ME UP
05. BROWN SUGAR
06. (I CAN'T GET NO)SATISFACTION
07. PAINT IT BLACK
08. UNDERCOVER OF THE NIGHT
09. LITTLE T & A*
10. I'M FREE
11. SHINE A LIGHT
こうしてみるといつものようにかわり映えしないラインナップなのだが、サウンドトラックなのに2枚組みのヴォリュームっていうのがストーンズらしいといえばストーンズらしい。このラインナップでひと際目を惹くのが豪華なゲスト陣だ。ジャック・ホワイトという人物は勉強不足でわからなかったけれど、バディ・ガイは80年代から良く知るブルースマンだ。マディ・ウォーターズや勿論ストーンズとも交流があってマディ・ウォーターズとストーンズのギグに飛び入り参加したのを映像で観た覚えがある。最大の驚きはクリスティーナ・アギレラの参加であろうか。聴いてもらえればわかると思うけど、この迫力のあるヴォーカルは完全にストーンズを喰っているなと思う。
それからこのアルバムでの特筆すべきはキースがヴォーカルをとったDISC ONEの「YOU GOT THE SILVER」「CONNECTION」とDISC TWOの「LITTLE T & A」の3曲(ラインナップでは曲の最後に*と記した。これがキースがヴォーカルをとったストーンズナンバーである)。キースの情感豊かなヴォーカルは若い頃の一本調子で荒々しさだけが目立つヴォーカルスタイルからは想像も出来ない変化だ。「YOU GOT THE SILVER」はもしかしたらオリジナルを超える出来栄えじゃないかな。ライ・クーダーばりのスライドギターがいいね。弾いているのはロニーかな。「CONNECTION」もキースのソロプロジェクトのライヴでも取り上げた一曲なんだけど、こちらのほうが断然いい。それに付け加えるとこのアルバムでのダリル・ジョーンズの存在が光っている。「LITTLE T & A」の間奏部分ではダリルのいかしたソロを聴くことが出来る。DISC ONEの「AS TEARS GO BY」と続く「SOME GIRLS」もいいね。こんなに古い曲ばかり集めても少しも古臭くないところがストーンズの魅力だ。新曲を一曲も入れなかったのが意図的であることがわかる。個人的に良かったのは『アンダーカヴァー』に収録されていた「SHE WAS HOT」と「UNDERCOVER OF THE NIGHT」の2曲。オリジナルとはまた一味違う毒気が抜けた感じのこの曲は久しぶりに聴いたが、新鮮で、それでいてなぜか懐かしさに包まれていった。それになぜかこのアルバムを聴くとオリジナル盤のほうも久しぶりに聴きたくなるから不思議だ。『SHINE A LIGHT』は呆れるくらい元気で、いかした男達の新作だ。それにしても、ストーンズもバディ・ガイもとっくの昔に引退していてもおかしくない年齢なんだもんね。恐れ入りました。
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記事の参考にしたストーンズ情報
●ストーンズの最新情報をメルマガで⇒《Mike's Rolling News of THE STONES》
●『シャイン・ア・ライト』ニューヨークプレミア⇒パレス・ホテルでの記者会見
●woodstockさんのブログ⇒《BEATな日々》