音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

変わる法廷

2008年04月25日 | 本と雑誌

 以前弊ブログでもお話した胃潰瘍治療の通院ということで今朝方車を駆って診察を受けるために近くの病院へ行ったのだが、診察まで暫く待たねばならないので名前を呼ばれるまでの間、待合室のソファに腰掛けると、最近嵌まっている読み止しの本を膝の上に開く。読売新聞社会部裁判員制度取材班[著]『これ一冊で裁判員制度がわかる』という本で、勿論これは来年の春から施行されることになる「裁判員制度」について書かれた本だ。先週の日曜日に立ち寄った本屋さんで偶然見つけた一冊なんだけど、これがまた頗る面白い。つい面白いと表現してしまったが、些か語弊を承知で述べさせていただくと、この本は「裁判員制度」についてQ&A方式で書かれているので非常に親しみ易く、しかも丁寧に解説してあるから法律云々を知らない初心者には打ってつけの書物といえる。つまりぼくのような法律に疎い者や新しい司法制度に不安を抱いている者には極めて「優しい解説書」となっている。国民が司法に参加する。この壮大且つ画期的提案は実は小渕内閣当時に司法制度改革審議会が設立された1999年から数えた2年後の2001年に幾多の紆余曲折を乗り越え、陪審制と参審制の両方の特徴を併せ持つ日本独自の国民の司法参加制度を盛り込んだ最終意見書が纏まり、小泉首相に提出された。新しい司法制度の名称は「裁判員制度」となった。

天国の駅 天国の駅
価格:¥ 4,725(税込)
発売日:2005-01-21

 ずっと若い頃にぼくは吉永さゆりさんの『天国の駅』という映画を映画館で観た。この映画は当時、吉永さゆりさんの濡れ場シーンが話題となり、むしろ映画の内容よりもこちらのほうが興味先行で肝心の評価のほうは蔑ろになっていた気がする。日本で始めて死刑判決を受けた女性の半生を描いたこの映画は当時ぼくの心を鷲摑みにした。さっそく図書館に行って女性職員を摑まえ「日本の犯罪史を調べたいのだが、適当な書物はあるか」と尋ねたところ、途端にその女性職員は慌てだし、「そのような書物はここには今ないので至急取り寄せるか検討する」という回答があって平謝りに申し訳なさそうにしていたものだから、かえって悪いことをしたものだと反省したのを覚えている。まさか日本の犯罪史を調べたい、という利用者など今までなかったのだろう。

 そんなことを不意に思い出し待合室のソファで待っていると程なくして診察室から声が懸った。先日受けた血液検査の結果、ピロリ菌の存在が陽性と判断された。ピロリ菌の除菌をするかと訊かれたので、勿論しますと答えたが、どうも質問の意味をはかりかねたので尋ね返すと、実は一応患者さん一人ひとりに訊いている確認事項で、下痢とか肝機能に障害を受けるとか、多少の副作用もあるので治療を拒絶する人もいるらしいとか。 

量刑 量刑
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2001-06
 話を「裁判員制度」に戻す。昔和久峻三氏の法廷もの、とりわけ「赤かぶ検事シリーズ」はテレビ放映されたりして人気があったのでよく原作本も読んだ。それ以外では少し前になるが夏樹静子女史の『量刑』などもとても興味深く読めた。しかしこれらの本は「裁判員制度」が施行される前のもので今から読むとすればやや時代懸った趣を捨てきれない。こんなふうに司法が変わればそれまで持て囃されていた文学は過去のものとなり、新たな司法制度を取り入れた法廷ものにとって変わる筈だ。たとえば、芦田拓氏の『裁判員法廷』のように。これこそ「裁判員制度」を見据えたもっとも新しい法廷もののミステリーといえる。あいにくこの小説は未読だが是非読んでみたい一冊である。
裁判員法廷 裁判員法廷
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2008-02


アレサ・フランクリンを聴くならこれ!

2008年04月19日 | Aretha Franklin
Amazing Grace: The Complete Recordings

 今夜は久しぶりにアレサ・フランクリンを聴こうと思っている。さしずめゴスペルアルバムをいくつか選んでみた。たとえばアトランティック中期である1972年の『Amazing Grace』なんかは定番なんで特にお薦めであるが、アリスタ盤である1987年の『ゴスペル・ライヴ』なんかも捨てがたい。これなんぞはアリスタ期の中でも突出した出来であった。但し基本的にゴスペルは賛美歌なんで昨今のヒップポップやリズム&ブルースを好んで聴く音楽ファンにはやはり物足りないかもしれない。ぼく自身もゴスペルはなるべく時間の許す休暇などに部屋で聴くことにしている。間違っても車などで聴くような音楽ではないから、それなりに心構えがいる訳だ。

ゴスペル・ライヴ(紙ジャケット仕様)

 さてこれ以外のアルバムではアトランティック時代の黄金期のアルバムが聴きたいのだが、棚を隈なく調べたところ思いのほかアトランティック盤が少ないことに愕然とする。そこでやはりこれもライヴの定番となってしまうが、1971年発表の『Aretha Live At Fillmore West』を選んでみた。これなどは国内盤が入手困難アレサのアルバムのなかでも、人気盤として確たる位置付けをされているので今でも国内盤で入手可能な数少ないアルバムのひとつである。

Aretha Live at Fillmore West

 アレサ・フランクリンは大物とされるシンガーの中では唯一来日していない外タレのひとりである。飛行機嫌いなうえ気分次第でコンサートのドタキャンの可能性があるということでスポンサーも付かなかったのが主な原因であろうか。1970年代後半の不振から一転してアリスタへ移籍後に華々しい復活を果たすことになったにも拘わらず、日本での人気はいまひとつであった。こんなところもアレサの国内盤が少ない理由とはいえないだろうか。まあそれでも現在も輸入盤ではどうにかこうにか手に入れることが出来るので取敢えずは安心はしている。話がつい横道にそれてしまったが、アレサのこのライヴアルバム『Aretha Live At Fillmore West』はこの頃のものでは最高潮のアレサを聴くことが出来る、まさにライヴの白眉といえないだろうか。

Aretha in Paris

 それからライヴ盤で見逃せないのが1968年に発表した『Aretha in Paris』。これなんかもライヴならではの迫力と臨場感が味わえる一枚だ。時期的には『Aretha Live At Fillmore West』よりも3年早く発表されたアルバムであるが、静謐で繊細な『Aretha Live At Fillmore West』に比べると『Aretha in Paris』のほうがブートっぽい荒々しさがある。このブートっぽさが好きなのだ。このあたりは『Aretha Live At Fillmore West』とは極端に対比をなすライヴだと思っている。選曲はローリング・ストーンズの「サティスファクション」を筆頭にアレサの代表曲である「Night Life」「Groovin'」「(You Make Me Feel Like)A Natural Woman」「Chain Of Fools」「Respect」なんかを熱唱している。馴染みのあるこれらの曲群がちりばめてあるのもファンとしてはなんとなく和んで聴いてしまうし、スピード感でいうなら断然にこちらのほうが上だ。勿論『Aretha Live At Fillmore West』も好きなのでこちらは聴かないという意味ではないが、個人的には『Aretha in Paris』のほうがぼくは好きで良く聴いている。さてそれでは『Aretha in Paris』の中身を見てみることにするが、この頃のものではやはり期待していたパリのライヴ映像はなかったのだが、1968年にストックホルムでのコンサートをテレビ放映された映像を多数見つけたので今回に限っては一通りの収穫であった。それで今回は曲目をクリックするとYou Tubeに飛ぶように設定したので愉しんでいただきたい。

   1.(I Can't Get No) Satisfaction

   2.Don't Let Me Lose This Dream

   3.Soul Serenade

   4.Night Life

   5.Baby,I Love You

   6.Groovin'

   7.(You Make Me Feel Like)A Natural Woman

   8.Come Back Baby

   9.Dr.Feelgood (Love Is A Serious business)

10.Since You've Been Gone (Sweet Sweet Baby)

11.I Never Loved A Man (The Way I Love You)

12. Chain Of Fools

13.Respect

 それではこの辺で貴重なライヴ映像をひとつ。曲は「Say A Little Prayer 」といって往年のアレサファンには堪らない一曲だ。これは今から10年前の1998年の映像でアルバムでいうと『A Rose Is Still A Rose』の頃のものだ。 話は変わるが、この頃同時期に発表された『The Delta Meets Detroit: Aretha's Blues』という超レアなアルバムがある。アレサには珍しいブルース集になっているが、これは同時にアレサのルーツを知るうえではもっとも興味深いアルバムといえる。

The Delta Meets Detroit: Aretha's Blues

 『The Delta Meets Detroit: Aretha's Blues』は最近amazonで購入したアルバムなんだけど、基本的に音源は古く、アトランティック時代のものらしいので、1960年代後期から1970年代後期の約10年間で録音されたものと思える。あいにく国内盤はなく輸入盤で手に入れたものでレビューなどで詳細を摑む事はできないが、これらはアトランティック時代に残した過去のアルバム音源やシングル音源を再編集した企画盤として発売されたものらしい。

A Rose Is Still a Rose

 『A Rose Is Still A Rose』はアリスタ期のもので再びアレサが脚光を浴び始めた記念すべきアルバムである。同タイトルの曲「A Rose Is Still A Rose」ではローリン・ヒルが参加している。個人的にはアリスタ期のアルバムではこのアルバムと先に紹介した『ゴスペル・ライヴ』と引退作と囁かれた『So Damn Happy』が秀逸だ。

 最後にアレサ・フランクリンをより良く知りたい方は《アレサ・フランクリン‐Wikipedia》をご覧ください。これはぼくも重宝しているサイトで、アルバムを購入する時にも役立っている。

アレサ・フランクリン‐Wikipedia


雨の降る日はパソコンで…

2008年04月13日 | 日記・エッセイ・コラム
Djin Djin

 本日但馬地方は雨。こんな日は出かける気にもならないので、家でパソコンを覗いてみたり、本を読んだりしている。普段はパソコンはご無沙汰気味。読書についても仕事の帰りが遅く、とてもページを開く気にならない。だから概ねこれらは週末、それも完全な休みの日に集中してしまう。以前はそれでも土日が休みの場合が多くて週末に記事のネタを仕入れてそれを分散して発表していたのだが、近々の事情によりそれも叶わず、最近ではブログを書く気も失せかけていたのだが、「なんかとっておきの映像がアップされていないかな」などと殆ど他力本願でYou Yubeを覗いてみる。すると、ちょっと気になる映像がアップされていた。ジョス・ストーンで検索したのだが(勿論英語版のYou Yubeなので検索はJOSS STONEと打つ)、そこでAngelique Kidjo(アンジェリーク・キジョー)なる黒人ミュージシャンが目に留まったのだ。曲目はローリング・ストーンズの「ギミー・シェルター」。なんとフューチャリングで参加しているのがジョス・ストーンであった訳だ。フューチャリングの語源については以前このブログでも説明したと思うけど、音楽の話題にする場合は複数のアーティスト(ミュージシャン)が協力して楽曲作りに参加するという意味に使われ、同じような意味で使われるコラボレーションとは一線を画しているようだ。さて今回話題にした「ギミー・シェルター」に少し触れておこう。収録アルバムは『Djin Djin』といって、amazonで欲しいCDがあったので購入するついでに調べてみたのだが、なかなか興味をそそられる一枚だ。ちなみに「ギミー・シェルター」のカヴァーはこんな感じ。

 ジョス・ストーンは弊ブログでもたびたび記事にしているので説明は省くけれど、将来が楽しみな物凄いミュージシャンであることは誰もが認めるところである。このPVでもわかるように完全に主役を喰っている。そんなミュージシャン泣かせなところがある存在感、それに天性ともいえる音楽フィーリングを持つジョスはこれからも長きに渡りリズム&ブルース界に君臨するであろうことを予感させるのだ。なんかジョス・ストーンばかり贔屓する記事になってしまったけど、アンジェリーク・キジョーのパワフルなヴォーカルがジョスの艶やかなヴォーカルで引き立っていることは確かだ。それではこの辺でジョスの話題をもうひとつ。米amazon.comが全米第2位の書店であるBORDERSグループとの提携により俄かに脚光を浴びているBORDERSサイトでジョス・ストーン関連の興味深い映像を見つけたのだ。このサイトは英語版なんで書いてある記事は勿論全てが英語、普通なら訳してまで読む気も起きないのだが、

Introducing Joss Stone

 最新アルバム『イントロデューシング』からシングルカットされた生々しいレアなLIVEやジョス・ストーンがCDをショッピングする映像(下の映像がYou Yubeにアップされていた)なんかも映っている。ファンにはたまらない貴重なシーンが満載されているので、英語がわからなくても映像を観るだけでも随分楽しめてしまう。この辺は音楽や映像が国境や言語の壁を越えてしまう強みだ。


ROLLING STONES / SHINE A LIGHT

2008年04月08日 | Rolling Stones
ザ・ローリング・ストーンズ×マーティン・スコセッシ「シャイン・ア・ライト」O.S.T. ザ・ローリング・ストーンズ×マーティン・スコセッシ「シャイン・ア・ライト」O.S.T.
価格:¥ 3,800(税込)
発売日:2008-04-09

 正直なところ、20年も30年も同じロックバンドを聴き続けるということは大変な忍耐が必要になる。ぼくが夢中になっていた頃にはよもやこんな時が来るとは考えずに聴いていたのだけれど、さすがにスタジオ盤なんて通算すると何十回、何百回と聴いている訳で、もういい加減好きな連中でも飽きてくる。しかしそんななかでもローリング・ストーンズだけは別格のバンドであった。とりわけ目を瞠るのは彼らのパフォーマンスのかっこよさだけれど40年以上という音楽キャリアにも熟成したワインに似た芳醇さがあって、曲のひとつひとつが粒選りで完成度の高いのも彼らの魅力であった。

 マーティン・スコセッシ監督の映画『シャイン・ア・ライト』の上映に先駆け発表された同名のオリジナル・サウンドトラックはマーティン・スコセッシ監督自身も解説で語っている通りその映画の感動を耳で体験できるアルバムに仕上がっている。映画は今から2年前の秋にニューヨークのビーコン・シアターで行った2回のライヴを映像化したものだが、この撮影場所の決定にはかなりな時間を掛けたようだ。しかも場所と日程が決まった後でも曲目がなかなか決まらず、なんとコンサート直前までマーティン・スコセッシ監督には知らされなかった経緯が解説には書いてある。ストーンズは莫大な数の曲を全て覚えている訳ではなく、厳選した後も曲を覚えなおす作業を強いられる。したがってリハーサルで違和感なく流れるような演奏をするためには曲順を決めることが最大の難関であるのだ。ストーンズが全ての曲を覚えていないというのは以前読んだ本にも書いてあったのでさほど驚かなかったけれど、マーティン・スコセッシ監督自身が語っている通り、何でも容易くやり遂げると思っていたストーンズがじつは相当な努力によってこれらを乗り越えているのを知って素直に衝撃を受けたことも書かれてあるので非常に面白く読めた。それではこの辺でサウンドトラックに収録されているラインナップを―。

DISC ONE

01.JUMPIN' JACK FLASH

02.SHATTERED

03.SHE WAS HOT

04.  ALL DOWN THE LINE

05. LOVING CUP with Jack White Ⅲ

06. AS TEARS GO BY

07. SOME GIRLS

08. JUST MY IMAGINATION

09. FARAWAY EYES

10. CHAMPAGNE & REEFER with Buddy Guy

11. TUMBLING DICE

12. BAND INTRODUCTIONS

13. YOU GOT THE SILVER*

14. CONNECTION*

DISC TWO

01. MARTIN SCORSESE INTORO

02. SYMPATHY FOR THE DEVIL

03. LIVE WITH ME with Christina Aguilera

04. START ME UP

05. BROWN SUGAR

06. (I CAN'T GET NO)SATISFACTION

07. PAINT IT BLACK

08. UNDERCOVER OF THE NIGHT

09. LITTLE T & A*

10. I'M FREE

11. SHINE A LIGHT

 こうしてみるといつものようにかわり映えしないラインナップなのだが、サウンドトラックなのに2枚組みのヴォリュームっていうのがストーンズらしいといえばストーンズらしい。このラインナップでひと際目を惹くのが豪華なゲスト陣だ。ジャック・ホワイトという人物は勉強不足でわからなかったけれど、バディ・ガイは80年代から良く知るブルースマンだ。マディ・ウォーターズや勿論ストーンズとも交流があってマディ・ウォーターズとストーンズのギグに飛び入り参加したのを映像で観た覚えがある。最大の驚きはクリスティーナ・アギレラの参加であろうか。聴いてもらえればわかると思うけど、この迫力のあるヴォーカルは完全にストーンズを喰っているなと思う。

 それからこのアルバムでの特筆すべきはキースがヴォーカルをとったDISC ONEの「YOU GOT THE SILVER」「CONNECTION」とDISC TWOの「LITTLE T & A」の3曲(ラインナップでは曲の最後に*と記した。これがキースがヴォーカルをとったストーンズナンバーである)。キースの情感豊かなヴォーカルは若い頃の一本調子で荒々しさだけが目立つヴォーカルスタイルからは想像も出来ない変化だ。「YOU GOT THE SILVER」はもしかしたらオリジナルを超える出来栄えじゃないかな。ライ・クーダーばりのスライドギターがいいね。弾いているのはロニーかな。「CONNECTION」もキースのソロプロジェクトのライヴでも取り上げた一曲なんだけど、こちらのほうが断然いい。それに付け加えるとこのアルバムでのダリル・ジョーンズの存在が光っている。「LITTLE T & A」の間奏部分ではダリルのいかしたソロを聴くことが出来る。DISC ONEの「AS TEARS GO BY」と続く「SOME GIRLS」もいいね。こんなに古い曲ばかり集めても少しも古臭くないところがストーンズの魅力だ。新曲を一曲も入れなかったのが意図的であることがわかる。個人的に良かったのは『アンダーカヴァー』に収録されていた「SHE WAS HOT」と「UNDERCOVER OF THE NIGHT」の2曲。オリジナルとはまた一味違う毒気が抜けた感じのこの曲は久しぶりに聴いたが、新鮮で、それでいてなぜか懐かしさに包まれていった。それになぜかこのアルバムを聴くとオリジナル盤のほうも久しぶりに聴きたくなるから不思議だ。『SHINE A LIGHT』は呆れるくらい元気で、いかした男達の新作だ。それにしても、ストーンズもバディ・ガイもとっくの昔に引退していてもおかしくない年齢なんだもんね。恐れ入りました。

<script type="text/javascript" src="http://www.universal-music.co.jp/blogparts/JS/rollingstones0803_L.js"></script>

記事の参考にしたストーンズ情報

●ストーンズの最新情報をメルマガで⇒《Mike's Rolling News of THE STONES

●『シャイン・ア・ライト』ニューヨークプレミア⇒パレス・ホテルでの記者会見

●woodstockさんのブログ⇒《BEATな日々

 


音楽がぼくに与えてくれたこと

2008年04月06日 | Billy Joel

  ビリー・ジョエルはどちらかというとライヴ盤のほうが好きだ。この趣向は昔からではなく、むしろ最近の傾向といえるかもしれない(ちなみについ2年前に購入して良く聴いたのはU.S.S.R.コンサートの模様を伝えた『コンツェルト/КОНЦЕРТ 』。当時は貸しレンタルでダビングして良く聴いていたのだが、カセットテープレコーダーが壊れたしまったため已む無くコンパクトディスクを購入し直したのだ)。

コンツェルト-ライヴ・イン・U.S.S.R.- コンツェルト-ライヴ・イン・U.S.S.R.-
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2006-05-24

若い頃は、圧倒的にオリジナル盤を良く聴いた。ライブ盤が少なかったことも理由のひとつだけど、なによりもオリジナル盤のほうが、最初に聴いた曲調のためか耳に馴染んでいたし、どういうわけかフェイクし過ぎた音はぼくの好みではなかった。結局、Aという音がライヴの感覚でA’になるというのが許せなかったみたいだ。これはジャズでいうところのインプロビゼーション(即効演奏)ということになるのだろうが、その頃はまだ規格どおりの音楽が真の音楽と信じて疑わなかったから、アドリブを重視した演奏そのものに違和感を感じていたかもしれない。しかし、もしもレコードと同じ音を聴くためにコンサートに行くならわざわざ高いチケットを買ってまで聴くことはないのである。すなわちライヴ盤のレコードなりコンパクトディスクがスタジオ盤と同じ音なら果たしてそれは値段に見合う音楽といえるのかどうかという問題である。そういう考えに傾いたのはぼくがジャズを聴くようになった1980年代の初頭の頃からである。ジャズは緊張感と躍動感が交互に現われる非常に摩訶不思議な音楽だ。ジャズは今から百年ほど前にクレオールよって生まれた音楽と伝えられている。クレオールとはフランス系の白人と黒人の間に生まれた混血である。すなわちジャズとは西洋音楽と黒人音楽の融和によって誕生したといえる。当初、ニューヨークで暮らす彼らは白人と同等の扱いを受けていた。ところが、奴隷解放令によりクレオールは白人の扱いを受けなくなったばかりかこれまで虐げられていた黒人社会からも迫害を受けるようになった。次第に没落の一途を辿ることになるクレオール達はやがて黒人社会へと溶け込んでいくことになるのである。それは彼らが学んだヨーロッパスタイルの音楽がアフリカをルーツに持つ黒人音楽と邂逅して自然に溶け合う瞬間でもある。こうして生まれたのがジャズのルーツであるディキシーランドスタイルなのである。この頃の代表的なジャズメンがあのルイ・アームストロングである(ヴァーヴ盤の『エラ&ルイ』は超お薦めの一枚だ!)。

エラ・アンド・ルイ エラ・アンド・ルイ
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2003-04-23

彼が活動の場をニューオリンズからシカゴに移したことからジャズの拠点もシカゴに移ったといわれている。しかしその後黒人ジャズにとって受難の時を迎えることになる。時は第一次世界大戦真っ只中、軍幹部がジャズメン達を歓楽街から追い出したことや「禁酒法」の施行によりジャズメン達は一様に職を奪われた。ところがイタリアのマフィア、アル・カポネのバックアップでヤミ酒場での演奏の機会を与えられたお陰で多くのジャズメン達が殺到した。こうしてジャズの原型であるディキシーランドスタイルから大編成のビックバンドスタイルが生まれたのである。 「禁酒法」廃止が本格化した1930年代半ば、ようやく聴衆の趣向がもっと明るく軽快な音楽へと傾くにつれてベニ―・グッドマン率いる白人ジャズバンドが人気を博すことになる。スウィングジャズの到来である。スウィングジャズが台頭した背景には聴衆のダンスミュージックへの渇望がある。現在のミュージックシーンを見てもわかるように重厚なサウンド主体の音楽の次にヒットするのは概ね極めて軽めの音楽だ。1980年代のロックシーンがそうだった。ハードロックやパンクロックに代表される音のざらつき感がピークに達した粗雑な音楽から電子ドラムに象徴される1980年代のロックシーンにはスウィングジャズのような受け入れやすい音楽性があった。スカーン、スコーン。あの透き通るような歯切れのいい電子ドラムの音はもっとも1980年代を感じる。

 軽めのジャズ―。それがいいのか、否かは勿論、好みの問題なのでなんともいえないが、次第にスウィングジャズは廃れていった。これは演奏するミュージシャン達がいわゆるジャムセッションという演奏スタイルによってもっと自由で制約のない演奏で技量、力量を磨きたいという欲求から生まれたものだ。聴く側よりも演奏する側によって音楽のスタイルが変わっていくというのがジャズらしくて愉快だ。音楽により高度なものを求めるというのは音楽が成長するうえでは必要不可欠なものである。こうして生まれたのが後にモダンジャズの原型となるビ・バップスタイルなのである。この頃の代表的なジャズメンはチャーリー・パーカーである。

ストーリー・オン・ダイアル Vol.1 ストーリー・オン・ダイアル Vol.1
価格:¥ 1,835(税込)
発売日:1997-05-28

あの「テーマ⇒アドリブ⇒テーマ」というモダンジャズ独特の演奏スタイルは21世紀になった現在も正統に継承されている演奏スタイルで、芸術的にも評価が高い。

 さて蛇足、余談はぼくの専売特許。どうしても記事は長めになるが、この辺で話を元に戻すと、ビリー・ジョエルを最近良く聴くようになったのは、一昨年発売された『12ガーデンズ・ライヴ /12 Gardens Live 』を手に入れたからだ。

12ガーデンズ・ライヴ 12ガーデンズ・ライヴ
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2006-06-14

これはマディソン・スクエア・ガーデンで12夜による前人未到の連続ライヴをパッケージ化したものである。ビリー・ジョエルをリアルタイムで聴かなくなったのは色々と理由がある。長くミュージックシーンから遠ざかっていたことも理由のひとつだし、この時点でミレニアム・コンサート盤『ビリー・ザ・ライヴ/2000 Years -The Millennium Concert』でぼく自身、ビリーの一通りの節目を作っていたのも理由のひとつといえるのかもしれない。

ビリー・ザ・ライヴ~ミレニアム・コンサート ビリー・ザ・ライヴ~ミレニアム・コンサート
価格:¥ 3,780(税込)
発売日:2000-05-10

『ビリー・ザ・ライヴ/2000 Years -The Millennium Concert』ではローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」を録っていたのには驚いた。ライヴならではの臨場感やその迫力にはやはり聴いた当初は度肝を抜かれたし、選曲も頷けるものだったからそれなりに満足のいく音源だったのだけど、『12ガーデンズ・ライヴ /12 Gardens Live 』と聴き比べると、ずっとぼくがビリーに抱いていたあのすこぶるハッピーで物悲しいイノセントな音は少し陰を潜めていた気がする。譬えるなら、『12ガーデンズ・ライヴ /12 Gardens Live 』は第2の『ソングス・イン・ジ・アティック/ Songs in the Attic 』だ。

ソングス・イン・ジ・アティック ソングス・イン・ジ・アティック
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:1999-01-21

 今ぼくはビリー・ジョエルを聴いている。そしてあの頃の気持ちに戻ろうとしている。あの頃の自分に戻ろうとしている。何故今ビリー・ジョエルを聴くのかはぼくにも説明できない。ぼくはビリーを知ってジャズに興味を持った。きっとそれは音楽がぼくに与えてくれたささやかで偉大な何かだ。次に紹介する映像はニューヨーク市で行われたライヴの模様。「マイアミ2017」という曲で、ビリーが演奏するピアノはワルツのようで清々しい。いつにも増してフェイドインしていくビリーのヴォーカルが聴き所だ。