音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

トム・ウェイツを子守歌にして[ライヴ・アルバム篇]

2010年10月23日 | インポート

Tom_waits

 トム・ウェイツの音楽に初めて接した人はいったい彼に対してどんな評価を下すだろうか。

 ずっとそのことが気がかりで、つい僕の周りの人にはトム・ウェイツを話題にすることがなくて、彼の音楽に出会ってもうかれこれ二十年になるのにも関わらず、僕がトム・ウェイツの大ファンであることはひた隠しにして、ついぞ語ったことはなかったわけである。

 そんなわけで僕がトム・ウェイツについて思いっきり語れるのはこのブログ上だけになってしまった。

 トム・ウェイツの音楽性を時系列的に分析すると、アサイラム時代とアイランド時代以降に大きく分かれる。

 ロックというよりジャズやブルースに傾倒していたアサイラム時代は 、時折、彼をジャズ歌手と錯覚するほどその歌声と曲は洒脱性に溢れていた。

 基本的に彼が弾くピアノの弾き語りによる数多くの名曲達は、当時やはり同世代を疾駆し、若者から絶大な支持を受けていたビリー・ジョエルの音楽と重なる。

 この場合のキーワードはジャズである。

 ジャズの内向性とロックの粗雑性が融合したのである。Tom_waitsnighthawks_at_the_diner_2

 最近になって僕は所有しているiPodに、トムのライヴ盤をまとめて収録した。

 オフィシャルでは2010年現在で3枚のライヴ盤が発表されているけど、そのすべてを収録したわけである。

 そして暇が出来ると、耳にイヤフォンをあてて聴いている。

  もっとも古いものはアサイラム・レコードに残したサード・アルバムで、1975年に初のライヴ・アルバムとなる『娼婦たちの晩餐~ライヴ』が聴きやすくてお薦めだが、レコード会社が変わるたびにリリースしているライヴ音源にも注目だ。

 Tom_waitsbig_time_2アイランド・レコードで1988年に発表した『ビッグ・タイム』は、僕がトムに出会った直後の音源であり、もっとも親しみ深いライヴ盤だけれど、その音楽はロック・バンドによるものというよりも、何々楽団による演奏といったほうがちょうど当て嵌まってしまう。

 1980年に現在のワイフであり、よき音楽パートナーであるキャスリーン・ブレナンと結婚したトムは彼女の影響により徐々に音楽性にも変化が見られるようになった。

 彼の特異性のある歌声や音楽の作風はこのアイランド時代でがらりと変わり、その音楽はアヴァンギャルドで実験的な方向に向かっていくのである。

 そして、彼が生み出す音楽 はアンタイ時代になり、パンク・ロック的要素も加わりよりヘヴィーさを増していく。

 Tom_wait_glitter_and_doom_live現在までで一番新しいライヴ盤が2008年の『グリッター・アンド・ドゥーム・ライヴ』である。

 アンタイ・レコードでリリースされたこのアルバムは、「破壊された喉を持つ怪物が歌う狂気に満ちた歌声」と形容していいほど、息遣いさえ尋常ではないのだけれど、なぜかトム・ウェイツの音楽として成立してしまっているから不思議だ。

 これら性格の異なる3枚のライヴ盤を聴くと、ミュージシャンとしてのトムの音楽的軌跡を一瞬のうちに掌握できてしまう。

 『娼婦たちの晩餐~ライヴ』から『ビッグ・タイム』までは13年、『グリッター・アンド・ドゥーム・ライヴ』は実に『ビッグ・タイム』から20年後ということになり、ずいぶん野太くなった声質とリリース当初より、硬質を帯びたアレンジは、キース・リチャーズの影響なのかなとも思うし、きっとミュージシャン同士はお互い影響されながら音楽性を高めていくんだなと思った。

 今や、キース・リチャーズにとって「興味深い男」から「双子」のような存在になったトム・ウェイツは、今後どこに向かうのであろうか。

 その答えはきっと彼が残している最新ライヴ・アルバム『グリッター・アンド・ドゥーム・ライヴ』の中にこそあるような気がしている。

 見世物小屋の袖から貌を覗かせる「怪物」の飼い主は、今度はいったいどんな見世物で僕達を驚かせてくれるのだろう。

 その日が来るのを僕はじっと彼の音楽に耳を傾け、ただただ待つしかないのである。


蔵出しの決定打は、『レディース&ジェントルメン』

2010年10月18日 | インポート

Ladies_gentlemen_rolling_stones

 発売日の朝、AMAZONから届いていました。

 会社に行く数分前の出来事で名残惜しく後ろ髪引かれる思いで会社に向かったのであった。

 正直なところ、僕がリアルタイムでストーンズを知ったのはロニー・ウッド加入直後のことで、テイラー期のこの映像は当時としてはもっとも観たかった映像のひとつかもしれない。

 それが40年の時を超えてこうして届けられた。

 これは奇跡という以外にないのである。

 1972年といえばあの歴史的名盤『メイン・ストリートのならず者』が発売された年だ。

 ある人にいわせると『ベガーズ・バンケット』、『レット・イット・ブリード』、『スティッキー・フィンガーズ』、それに『メイン・ストリートのならず者』というアルバムをリリースしていた時代こそがもっとも創造性に満ち溢れ、リアル・ロックを体現できた時代なのである。

 このロックン・ロール・バンドとしてもっとも濃密な時期にもっとも刺激的なギタープレイを披露していたのがミック・テイラーだ。

 初期のバンド・リーダーだったブライアン・ジョーンズともユニークなプレイでストーンズにポップを持ち込んだギタリスト、ロニー・ウッドとも違う、そうだな、この場合、ストーンズにジミー・ペイジみたいな凄い奴が加入したぜ、というような表現がいいのかな。

 この『レディース&ジェントルメン』を観ると、当時からストーンズというロック・バンドがいったいどういうバンドだったかがわかるのだ。

 実際はどうだったかはわからないのだが、映像を観る限りは『メイン・ストリートのならず者』のプロモーション用に作ったようないくつかの公演を繋ぎあわせたライヴ映像で構成されており、曲中でコスチュームが入れ替わったりして辻褄が合わないのが気になるけれど、その迫力、スピード感は充分伝わってくる。

 確かに昨今にみられる複数のカメラを駆動させて撮る立体的なライヴ映像と違い、平面的で固定カメラに入ってくる映像を映し出すだけのこの当時の映像技術は稚拙で、最新技術で撮ったDVDに慣らされたひとにはやや物足りないライヴ映像かもしれない。

 映像に至っては当初の暗かった映像をかなりクリーン・アップして観やすくなってはいるものの、映像的に妙にどぎつくなってしまったような観がある。しかしそれがまたこのバンドの性質を正確に捉えているような気がして不思議とリアル感が増している。

 単なるロックファンには単なるロック・バンドの回顧的ライヴ映像には違いないのだが、ローリング・ストーンズの純粋なファンにとってはこれは喉から手が出る思いで待ち望んだDVDなのである。

 拡大版『メイン・ストリートのならず者』から始まったストーンズのアーカイブ期の最大の目玉であるこの『レディース&ジェントルメン』は後世に残すストーンズ映像の中でも1,2を競うであろう、これこそ本物のライヴ・バンドとしての本領が発揮された絶頂期の記録なのである。

 一連の蔵出しの決定打がこれとは思わなかったぜ。

 恐るべし、ストーンズ!


ソロモン・バーク逝く

2010年10月13日 | インポート

Solomon_burke

 ソロモン・バーク(Solomon Burke)。2010年10月10日、オランダのスキポール空港で逝去。享年70歳。

 Solomon_burke_hold_on_tight ソロモン・バークは12日に行われる地元ロックバンド、デ・ダイクとのコラボアルバム『Hold On Tight』のリリース記念の為、ロサンジェルスからアムステルダムへ向かう飛行機に搭乗し、機内で死亡が確認されたそうだ。死因については親族からは「自然死」と公式サイトで発表された。

 1960年にアトランティック・レコードと契約。ローリング・ストーンズにカヴァーされた「Everybody Needs Somebody To Love」は余りにも有名。

 1970年以降はヒット曲に恵まれず不遇な時代を過ごすが、2002年、パンク・レーベル、エピタフ傘下のファット・ボッサム・レコードからリリースした『Don't Give Up On Me』がその年のグラミー賞で最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム部門を受賞、名実共に一線に返り咲いた。

 何よりもローリング・ストーンズに多大なる影響を与えた人物としてストーンズ・ファンには愛された人物。

 キング・オブ・ロック・アンド・ソウルと冠されたまさにロックやソウルの原点だった。心よりご冥福を祈ります。


キースのベスト盤発売に高まるストーンズ再始動の期待感

2010年10月05日 | インポート
  1.  時々覗きに行っているキース・リチャーズのオフィシャルサイト"The Offical Community of Keith Richards"でとても貴重な情報が掲載されていました。

 幣ブログの右サイド・バーに貼り付けてあるスクリーン・ショットからも訪問できますが、英語で書かれているため、迂闊にも見逃していました。Talk_is_cheap_2

 キースは過去にライヴ・アルバムを含め、公式では3枚のアルバムをリリースしている。

 まず初めにキャリア初となるファースト・アルバム『TALK IS CHEAP』は、ストーンズのみならず世のロック・ファンを驚愕させた一枚であった。

 キース人脈で製作されたこの『TALK IS CHEAP』は、彼が崇拝し愛好するR&Bやソウルの大御所達をリスペクトしたきわめて私的なものになったが、結局、このアルバムのリリースがミックの眼を覚まさせ、再びストーンズ再始動のきっかけにもなった。Live_at_the_hollywood_palladium_2

 キースはこのアルバムを引っさげ、ストーンズの分身ともいえるバンド、X-ペンシヴ・ワイノーズで大々的にツアーにも出ることになる。 その模様を収めたヴィデオやCDが『LIVE AT THE HOLLYWOOD PALLADIUM』に結実。

  その後、間隔を置いてリリースされた『MAIN OFFENDER』は、『TALK IS CHEAP』程のインパクトはなかったものの、ロック・ファンには歓待される一枚であった。Main_offender_3

 アルバムに収録される曲は勿論、この3枚からの選曲になり、新たに新曲は入れないようだ。

 そのかわりにハリケーン・カトリーナ救済に寄付した人だけが手にすることが出来たチャリティー・シングルの「Hurricane」をリストに加えるらしい。

 レコード会社は〝Wingless Angels〝をリリースしたMindless Recordsになるということだ。

 〝Wingless Angels〝といえばつい先日も新譜のリリース情報を摑んだばかりで、これは今考えると自身のアルバムへの伏線であったのだろうかと勘ぐってしまう。

 その名も『Vintage Vinos』。

 X-ペンシヴ・ワイノーズにしろ、つくづく酒がらみのタイトルが好きだな、この人は。

 立て続けにストーンズの旧盤リマスター化が続いた後にロニーの最新作と今度はキースの番か…。

 ヴァージン・レコードがあんな風になってしまったので、ベスト盤はたぶんリリースされないだろうと高を括っていたし、なにしろ選曲段階でもスタジオ録音の『TALK IS CHEAP』と『MAIN OFFENDER』が中心になると思ったので、それでは些か曲数が足りない。

 もうあと1枚か2枚は要るよなと思っていたので今回のベスト盤リリースは寝耳に水でとても驚いた。

 なんとなくベスト盤をリリースすることになったということは、もうソロ活動には一区切りつけたい思いもあったのだろうか、ということはストーンズ再開の日が近いということも推測できるがどうだろう。

 ストーンズは2012年に結成50周年を迎える。もしも動きがあるとすれば来年あたりが最終リミットだ。

 ストーンズは結成40周年には初のオールタイム・ベストとなる『FORTY LICKS』をリリースした。

 しかし、さすがに50周年目ともなると前回のようにはいかない筈で、きっと僕達が想像だにしないサプライズがあるはずだ。

 昨年はリマスター盤の『GET YER YA-YA’S OUT!』で盛り上がり、今年は『EXILE ON MAIN ST.』の豪華版で盛り上がらせてもらった。

 来年は『EXILE ON MAIN ST.』に匹敵するストーンズ史上もっとも重厚かつエキサイティングなアルバムが届けられることを期待している。

 まずは、ヘヴィー・ローテーションで聴いているロニーの新譜でしばし我慢しながら、近々AMAZONから届くことになっている『LADIES & GENTLEMEN』を楽しみに待つ日々である。

 それでは今夜はベスト盤にも収録されることになる「Hate It When You Leave」のライヴ映像を最後にお届けする。雰囲気はもろアル・グリーン風ソウル・ナンバーである。キースは時々こういうセンチメンタルな曲を作るから驚くよな。