
森健著、小学館文庫刊
物流に関心があって本書を手に取りました。
「宅急便」の生みの親である小倉さんの評伝は大分前に読んだ記憶がありますが、本書のタイトルが「祈りと経営」とあるので、違和感と興味を覚えました。
本書は、小倉さんの生い立ちと宅急便をシステムとして考え出し、経営難になりつつあった自社の現状を打破するために、部下達の反対を押し切って果敢に切り込み、同業他社の参入も圧倒して盤石の基礎を確立した業績を振り返っています。
その一方で、大きな病を得てキリスト教に帰依し、生き方に大きな影響を受けた様子も描かれています。
経営から身を引いた後に、私財をなげうって社会福祉法人を設立すると、自ら勉強して障害者が自立できる支援に力を注ぎ、自ら実践して成功しており、その様子も紹介しています。
著者は、これらの偉業を跡付けながらも、小倉さんが辿った道程に不可解な点を感じ、それを掘り下げていきます。
行き着いた先は、小倉さんが抱えていた家庭内の問題でした。
その真相に辿り着くまでの展開はミステリーの謎解きのようで、個人の秘密を探ることのためらいも感じられます。
しかし、立派な業績を上げた小倉さんが「戦っていたもの」に、とうとう行き着きます。
その過程を、著者は絶妙の筆致で描いており、真実を追究する本能と、人生を旅する一人としての礼節がせめぎ合いながら、光射す光景に行き着きました。
困難で丁寧な取材と、心ある執筆の在り方が相俟って、苦悩の中にあって祈り続けた小倉さんの魂を温かく描いた作品になったのだと思います。
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○小倉昌男 ○森健
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