読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

黄金の世界史

2011年09月22日 21時29分02秒 | ■読む
増田義郎著、小学館刊
実に面白い書籍でした。著者は文化人類学者であり、ラテンアメリカ歴史学者でもあるそうですが、本書は金という視点から人類の歴史を俯瞰しています。古代文明から説き起こし、オリエント時代の中東から中国に至る圏域での海上貿易、ローマ帝国が勃興してからの地中海周辺の文明を加えた交易の過程、更に、中世での中東地域とインド、中国間の流通過程。ヨーロッパ諸国が、香辛料や陶器などの東方の文物を希求したことから見出されたアフリカ大陸を迂回する海上航路や、アメリカ大陸の発見。アメリカ大陸の開発による富の発生と移転。こうした世界史には必ず富の移転手段として金が存在しました。世界での総量は、新たに採掘されなければ増えませんが、世界中の国々が、文字通り血眼になって採掘に明け暮れました。このような、歴史の過程は、著者が広範な学問分野での精進により著すことが可能となったのだと思います。著者は最後に、金が単なる経済の伝達手段だけではなく、人を引きつけて止まない魅力を持っていることを示しています。正に神秘の魅力です。
本書で著者がたびたび指摘しているのは中世までの世界においては、ヨーロッパ文明が、世界全体にあっては傍流に過ぎないということです。大航海以降、西欧文明が世界の主導権を握ってきたことから、西欧文明が、人類の文明の主流であり続けてきたに感じていましたが、本書によって、紀元前三千年の古代文明は、エジプト、中東、インド、中国に発生し、ローマ帝国が成立した時点でも、強大な中国文明があり、決して世界文明の主流ではなかったことを理解しました。また、ヨーロッパ諸国が富を蓄積したのは、植民地の支配と同時に、奴隷貿易や数多の搾取によるものだということが分かりました。
現代にあっては、人権など、人類の平均的な倫理感が大きく進展したものの、昨今の中国の言動を見ていると、弱肉強食が世の習いであることもまた歴史の真実であってみれば、少しく不安になります。
本書はインカなどの黄金の装飾品が美しい写真で数多く紹介されています。出版されたのが1997年ですが、後書きで著者は、日本の金保有量が、先進諸外国に比べて著しく少ないことに危惧の念を抱いています。本書を読んだ結果、私も同感です。
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URL => http://ja.wikipedia.org/wiki/増田義郎
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評価は5です。

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