読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

悉皆屋康吉(日本文學全集44収録)

2015年03月23日 17時31分55秒 | ■読む
舟橋聖一著、新潮社刊
NHKラジオアーカイブスで、舟橋さんについて詳しく知り、その作品集を手に取り、代表作の一つである本作品を読みました。悉皆(しっかい)屋とは何かを、本書の冒頭で「悉皆屋というのは、昔は大阪ではじめた商売だという。大阪で、着ものや羽織の染模様、小紋又は無地の色あげ、或いは染め直しものなどを、請負って、それを京都の染物屋に送り、仲介の労をとって、口銭を儲けたのが、はじまりである。ついでに、しみぬき、洗い張り、ゆのし、湯通しなども引き受ける様になった。明治になって、交通の便が開けたことから、悉皆屋の存在は大阪ばかりにとどまらなくなった。東京の呉服屋でも、反物を京都に送って染めさせることが、平易になり、それに準じて、必ずしも京都でなくとも、染物業の仲介をするものを、すべて、悉皆屋と呼びなれることになったのである。」と解説しています。今となっては見たことも聞いたこともない職業ですが、着物が使用されているので、私の身の回りにないだけなのでしょう。
さて、主人公の康吉は、田舎から東京に出て稲川という悉皆屋の手代になりました。そして縁あって、同業で勢力を得ていた梅村の手代にヘッドハンティングされます。その内に関東大震災によって、梅村が灰燼に帰したので、康吉は水戸の知遇を頼って主人とその娘を養います。その後、紆余曲折の後、その娘と所帯を持ち、自分で東京に店を開き、力を付けていきます。そして・・・。
主人公の康吉は小柄で見栄えのしない容貌との設定です。しかも不器用で実直。しかし、愚直なまでに商売に精を出し、その道の勉強に打ち込むことによって、商売も人間としても成長して行きます。そうしたことを、作者は、康吉が出会う様々な出来事を通じて明らかにして行きます。そして、戦前の日本が辿ろうとしていた暗い時代への予兆を敏感に感じ取らせており、康吉の見識が人並み以上になっていることを示しています。
舞台が古く、習慣風俗が異なり、大変興味深く読みましたが、人の営みと感情生活の基本は少しも変わっていないと再認識しました。いままでに読んだことのないタイプの小説です。収録された他の作品も楽しみたいと思います。
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URL => http://ja.wikipedia.org/wiki/舟橋聖一
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評価は4です。

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