サジッタ&清史郎の部屋

相棒3頭と暮らす馬日記

馬術の基本について

2007-10-03 11:18:08 | コーチとして
ヴェルランドに乗っていた頃、額の力が抜けなくて首が突っ張ることにいつも苦労していた。本人は自分の技量が足りないことを自覚していたが、障害馬からの馬場馬に転用調教していたこともあり、ある程度の時間も必要だと思っていた。
 ところが夏の学生大会で蒜山へ行った際に、審判員で現地に来ていらっしゃった平岡氏に指導いただく過程でヴェルランドに乗っていただいたところ、ものの数分で頭がストンと下がり、全身が自然で伸び伸びとした運動を始めた。私は大変な衝撃を受けたのだが、平岡氏は、「私はほとんどの馬の頭を下げさせられます。ま、【神の手】と思ってください。」と笑って仰った。次の夏までの1年間、私は眼に焼きついた平岡氏の状態を再現すべく、本当に一生懸命、真面目に取り組んだのですが、はかばかしい成果は得られなかった。
 過去に乗った清志然り、そして今乗っている清史郎然りで、私が乗ると馬の額が突っ張ってくる。そのことは馬の調教の第一段階でなさねばならないリラクゼーションの欠如に起因しているのを本人も自覚している。騎手の体が強張っているのではないか・・・と考え、体を緩める「ゆる体操」というものが効果あると聞けば早速本屋で関連図書を購入するし、DVDも手配した。バランスの狂いが馬に与える影響を考えていた時、たまたま目にしたDVD「バランス イン ムーブメント」も直ぐに取り寄せた。とにかく自分が見聞きして良い・効果があると判断したものは片端から試している状態である。

 最近のmixiの日記に、骨盤の角度と座り・姿勢の説明が、ミューゼラー著「馬術教本」に於いても初版と改訂版、或いはドイツ語版と英語版では挿絵が挿入されたり削除されたりと、その時期のFEIの思想とも相まって変化していることが書かれていた。そこで改めて、骨盤の角度と座りということに注目した。
 猫背で歩く私の姿勢は悪いです。平素、背中を丸めて歩いているから、意識してファッションモデルのような骨盤を体の前に突き出し、胸を張り背筋を伸ばした歩き方をすると体がギシギシいう。でも、その姿勢が正しく、美しい姿勢。
これを馬上で表現するには、下記の要領。
1. 鞍壷にきちんと座る
2. 胸を張り骨盤に対して上体を真っ直ぐに乗せ、脚も真っ直ぐに下げる
3. 軽く脚で馬体を圧迫し、地上で歩くのと全く同じバランスで意識を骨難に集中し、とにかく「歩く」
4. 「歩いている」のは人間であって、動いている馬に「揺られて」追随していく感覚にならないよう注意する
この時自分でもビックリしたのだが、グイグイ歩いている状態で膝を締め付けると、馬がガクンと失速する。本当に、サイドブレーキを掛けたように、見事に失速する。これは何が起こったかと言うと、骨盤でグイグイ歩くことによっての伸び伸びと動いていた馬の背中の筋肉が一気に硬直したことを意味するのだと理解した。
 では日常的に膝で締め付けて乗っている学生は如何するのか。失速した馬を前に出さねばならないことは意識しているから、拍車や鞭で馬を刺激して前進させる選択しかない。結果として背中の動かない、ちょこちょこ歩きの馬が出来上がる訳で、拍車だけを慢性的に使用しているのだから、踵で馬を抱き、膝は適度に緩む代わりにずり上がり、典型的な「腰掛乗り」になる。
 馬場鞍だから脚位置が体の真下に入りやすく、障害鞍だから脚が前に流れ易いかというとそんなものではなく、馬場鞍でも腰が引けた腰掛乗りになるし、障害鞍でも奇麗な馬場姿勢に近い座りも得られるのです。
「膝で馬を締め付ける=馬の背中の動きを殺す」事を意識して、鐙に足を軽く置き、馬に「はまる」事を意識して軽速歩を行なうと馬体が不要に緊張しないことが判るが、これは調教初期に必要とされる「リラクゼーション」の考え方そのもので、これで元気良く前進してやると、馬はハミを求めて低伸を始める。推進~後駆の踏み込み増大~ハミの透過という、一連の循環が動き始めたのでしょう。

 では駈歩運動においては如何なのか。
 従来の私の思想は、鞍の一点から尻がずれないように、定点で乗ることを意識していました。それが上体の静定であると思っていた。
 ところが、夏休みに合宿に来た部員に見せたDVDのアンキー(言わずと知れた、世界NO,1の馬場選手)の駈歩運動は、尻も動けば脚も動いていて、決して定点で止っていない。動くというよりは、尻も脚も存分にスイングしている。そのことに昨日着目した訳で、イメージで捉えたことは即実行。駈歩時に馬の背中が存分に動くことを意識して乗ると、平素のより1ランク高い質の運動になった。背の動きと、運動の質の関連に今更ながら着目です。
 常歩・速歩・駈歩という3種の歩度を実行する際、とにかく膝を絞めないで乗り、正しいバランスで、馬の背中が活発に動くことを要求する。これが馬術の基本であると馬歴30年を越えようとする今気づいた次第です。
 人は馬に乗れば、膝で締め付けようとするのは普通の行動。初めから「膝で絞めるな」だけを指導の重点とすれば、日常的にポロポロ落馬する光景があちこちで見られそうです。如何に膝での締め付けを軽減させ、同時に前後左右のバランスで馬の中心に姿勢を維持させるか。その姿勢で、脚の使用、手綱の使用といった総合扶助を効率よく高め、馬場馬術・障害馬術に要求される運動を指導していかねばならない。学生に与えられた時間は入学して引退するまで実質3年時半です。この3年半でずぶの素人に正しい馬術の基礎を教え、競技に通用する選手を育成なのですから、指導者にはより高い見識が求められるのは当然でしょう。
 自分が30年掛かって気付いたことを学生に教えるのだが、運動能力に個人差がある学生がどこまで習得できるか。体格は向上していても、筋力・敏捷性などの能力が低下していることは全ての指導者が口にすることです。馬術の基本に忠実でありつつも、期間の制約の中で見切り発車しなければならない部分もある。全てにじっくりと時間を掛けられない、それが学生馬術でもあると改めて思うところです。
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