すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

藤原正彦「国家の品格」

2006-07-16 09:00:22 | 書評
金持ちで会社経営者でもあるみのもんたが「朝ズバッ!」で庶民の味方をしているのが楽しくてたまりません


またミーハーなんですが(ミーハーって死語だな)、ベストセラーの「国家の品格」を読みました。


帯には「すべての日本人に誇りと自信を与える 画期的な日本論!」となっております。

感想としては「そうか?」。


言ってることは、特に反対するつもりはありません。

「今のアメリカはおかしい」とか「最近の日本の拝金主義にはあきれる」とか「論理の構築だけが、世界を正しい方向に導けるとは限らない」等々、著者の主張にはうなずける箇所も多いです。

が、その主張の根幹となると、きわめて曖昧です。一応「武士道」に則っている、と著者は言いたいのでしょうが、…………さて。

 私にとって幸運だったのは、ことあるごとにこの「武士道精神」をたたき込んでくれた父がいたことでした。父からはいつも、「弱い者いじめの現場を見たら、自分の身を挺してでも、弱い者を助けろ」と言われていました。
 父は「弱い者がいじめられているのを見て見ぬふりをするのは卑怯だ」と言うのです。私にとって「卑怯だ」と言われることは「お前は生きている価値がない」というのと同じです。だから、弱い者いじめを見つけたら、当然身を躍らせて助けに行きました。
 私は体格がよく力も強かったので、必ずいじめている者たちを蹴散らしました。それを報告するたびに父は本当に喜んでくれました。あれほど喜んでくれたことは、他にはほとんど思いつきません。母は渋い顔で、「正義の味方もほどはどよ。暴力少年のレッテルを貼られ、内申書にでも書かれたら、行きたい中学にも行けませんよ」なんて言ってましたが。
 父は、「弱い者を救う時には力を用いても良い」とはっきり言いました。ただし五つの禁じ手がある。一つ、大きい者が小さい者をぶん殴っちゃいかん。二つ、大勢で一人をゃっつけちゃいかん。三つ、男が女をぶん殴っちゃいかん。四つ、武器を手にしてはいかん。五つ、相手が泣いたり謝ったりしたら、すぐにやめなくてはいかん。「この五つは絶対に守れ」と言われました。
 しかも、父の教えが非常に良かったと思うのは、『それには何の理由もない」と認めていたことです。「卑怯だから」でおしまいです。
 で、私はその教えをひたすら守りました。例えば「男が女をぶん殴っちゃいけない」
と言ったって、簡単には納得しにくい。現実には、ぶん殴りたくなるような女は世界中に、私の女房を筆頭に山ほどいる。しかし、男が女を殴ることは無条件でいけない。どんなことがあってもいけない。しかも何の理由もない。そういうことをきちんと形として教えないといけないということです。
藤原正彦「国家の品格」127頁 新潮新書
ようするに、理由なんか、クソ食らえ。

古き良き常識に従えば、オールOK!

というスタンスは、
「最近の若いもんは、まったくなっとらんよ。我々の時代には、プロジェクトXのように報われなくても、ひたむきに努力した人間がいたもんだよ」
と、自分の功績でも努力でもない例を出して、現代を批判しているような、……………はっきり言って場末の酒場の愚痴のようです。

そもそも武士道精神と言えば「美しい日本思想の純粋なる結晶」の響きがありますが、一方で封建思想であり、奴隷根性の美化に過ぎないとも言えるわけで……………。


こういうのが売れるのは、ホリエンや村上ファンドがもてはやされた反動なんだろうなぁ。

後数年もしたら、すっかり忘れ去られる本には間違いないので、読むなら今だと思います。


国家の品格

新潮社

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