「文化史こそ歴史である」

2020-02-01 11:20:00 | 本関係
『中世の秋』で述べたのはホイジンガーZ先生だが、学校教育の中で政治史をメインで教わり、文化史などあくまでサブでしかなかった私たちの経験からすると、こういう考え方は荒唐無稽に感じられるのではないだろうか。
 
 
しかし、『ホモ・ルーデンス』を含め彼の著述が世界認識や世界観の形成、すなわちコスモロジーについての分析だと気づいた時、それが宗教、倫理、法概念、パラダイムなどあらゆるものを包摂しうるパースペクティブを持っていることが理解され、表題の言葉もけっけして過言ではないと感じられるのではないだろうか。
 
 
ちなみに、そういう根源についての問いは、我々が自明と思っている事柄や世界理解のメタルール性を暴露することにもつながる。それはたとえばユダヤ教の世界理解の背景を探ったレヴィナス、ヨーロッパ世界の思考の背景にプラトンとアリストテレスの二項対立を見たデリダ、あるいは自らの世界観がメタルールに過ぎないと看破し、ゆえに他者のそれを尊重し共生を模索するというリベラルアイロニズムを提唱したリチャード=ローティ・・・こういったアプローチとも深く関連するのである。
 
 
これだと抽象的に思えるだろうから具体例を挙げると、例えば『ヨブ記』を読んで「篤信者なのにどうして苦難ばかり降りかかるの!?」といった違和感を持つ人は多いと思うが、ではその違和感の根源は何かを探ると、無意識のうちに「因果応報」というルールを内面化していることがわかる。しかし、よくよく考えればわかるのだが、物理法則として明示されているわけでもなく、また「悪い奴ほどよく眠る」的な反証も数多くあるというのに、一体どうして「因果応報」が自明のこととして成り立つと言うのだろうか?つまり、『ヨブ記』に示された「深淵」を見る時に、私たちの「深淵」(すなわちコスモロジー)もまた見返されているのである(ニーチェ並感)。
 
 
ことほどさように、私たちは自明でないものを自明なものとして生きているのだが、このような見地に立つと、たとえば「この世で悪いことをした人間はあの世でひどい目に遭う」という宗教にしばしば見られるコスモロジー(要するに「天国と地獄」という世界観)は、前述の「悪い奴ほど~」という不都合な現実への反証として設定されたものだと理解することができる(複雑怪奇な現実を統一的なルールの元に馴致するというのは宗教のオーソドックスな機能の一つであり、たとえば「宿業」のような言葉で疫病や現実世界の差別に対する不満・不安を正当化する役割などを果たしてきた。この機能を形而下の世界に限定すれば、イデオロギーや陰謀論になるわけだ。まあ『サピエンス全史』のハラリ師匠も言うように、人類は妄想を活用して拡大・生存してきた生き物だからしょうがないねw)。
 
 
ちなみに、『ヨブ記』のような理解をセム的一神教のようや契約の概念として一般化し、日本の宗教や日本人のコスモロジーと対比する向きもあるかもしれない。それは一つのアプローチとしては結構だが、ならばカトリックにおける「善行」はどのように捉えるのか?という問題が生じる。なるほどプロテスタントの「予定説」的なコスモロジーであれば、その説明は理解できなくはない。というのもそれは、「神は全知全能であるがゆえに私たち人間の死後もすでに決定づけられており、ゆえに現世で救われようとしても端的に無意味である」というものでまさに『ヨブ記』と整合するし、そのような観念を持たない(か薄弱な)日本の宗教や日本人の世界理解とはかけ離れていると言いうるからだ。
 
 
しかし、カトリックの「善行」とは免罪符の購入や領地の寄進がそうであるように、「善きことをすれば天国に近づける」というコスモロジーであり、『ヨブ記』的な世界理解とは合致しないのではないだろうか?もちろん、教会が己の権威付けのために聖書を読めない無知な民衆をコントロールするためのプロパガンダであって、本来のキリスト教とはかけ離れているんだ!と「まじめに」反論する人が中にはいるかもしれない。しかし、そのようなコスモロジーが中世ヨーロッパで広く受け入れられていた現実を鑑みれば、『ヨブ記』をもって西洋VS東洋の二項対立の象徴のように語るのはいささかoversimplificationだと思う次第である。
 
 
え?そんな偉そうに語るってことは『ホモ・ルーデンス』をすでに読み終えたのかって?いいえ全然(・∀・)まだ第一章すら終わってないっすwww何せ『企業墓』っていう別の本を読んでたからねwしかしとりあえず、
 
 
 
 
という体で毒書会に向けて記事をまとめていきますよと(・∀・)まあ今まで読んで考えたことをつれづれなるままに・・・という感じである。
 
 
が、ここまで書いた時点でなかなかの分量になったので、続きは稿を改めることにしたひ。

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