ポルトガルの空の下で

ポルトガルの町や生活を写真とともに綴ります。また、日本恋しさに、子ども恋しさに思い出もエッセイに綴っています。

「凱旋門」と林檎酒「カルヴァドス」に再会する

2018-01-15 16:03:19 | 
2018年1月15日

土曜日の図書館での日本語教室を終え、別クラスのポルトガル人生徒数人を引き連れて漢字検定試験場である我が古巣、「ポルト日本語補習校」へ行ったある年のことです。

この学校で創立時の1987年から2009年の3月まで22年間毎週土曜日に通いました。もちろん、わが子たち、東京息子もモイケル娘もです。

「土曜日の 補習校までの道のりは 母の説教 9年間」とはモイケル娘の中学卒業時に残した短歌であります。うちでの説教もままありましたが、補習校までの20分ほど、後座席に座る彼らにそれとはなしに軽い説教をよくしたものでした。が、当のわたしはどんな説教をしたのか覚えてはおりませんです、はい。

そんな古巣に足を踏み入れると、我が子たちのみならずそれまでの22年間で受け持ってきたたくさんの子供達の顔も蘇り、少しジンと来ます。これまでで最長年勤めたというので、学校を退いた後も一応顔パスで校内に出入りできるのですが、物欲しそうに見えるのも不恰好であり、年に一度の漢検に生徒を連れて行く以外は顔を出しません。

ともに仕事をしたかつての同僚も現在何人かいますが、新しい人たちもおり、行くたびに補習校から感じ取られる雰囲気は違います。時代が変わりつつあるのだと思います。

1時半から試験は開始です。連れて行った生徒達が終了するまで補習校が図書室として使用している教室で控えて待とうと椅子に座るや、すぐYY塾のパートナーでもあり補習校でも教えているOちゃんがやってきて、「これを」と何やら、プレゼントらしきものを差し出されました。

誕生日でもなし、バレンタインデーでもなし、なんで?といぶかっているわたしに、いつもお世話になっているからと言います。断るのもなんですしねw、頂いて帰りうちであけてみると、おお!なんと懐かしや、「カルヴァドス(Calvados)」ではありませんか!


ひぇ~、Oちゃん!今でこそ、飲むものと言えば赤ワインかビールに落ち着きましたが、若い時分は結構酒豪でいろんなお酒に手を出しました。日本酒から始まりウイスキーは全部ストレート、ブランディ、ビンごと凍らせて飲むドイツのお酒シュナップス、そしてほろ苦い思い出がからむフランスのブランディ、りんご酒のカルヴァドス。

ビールを好むようになったのは当時大阪の梅田新道にあったビアハウスの老舗「アサヒビアハウス」で留学資金作りにバイトで歌うようになってからです。このビアハウスは現在も同じ場所にありますが改築されて同和火災ビルという名もフェニックスタワーとなり、「アサヒビアハウス」も「アサヒスーパードライ梅田」に変更されました。店内も改築と同時にガラリと変わりましたが、アコーディオン演奏でビアポルカのライブは今日でも火・木の週2回聴けるそうです。

さて、話をカルヴァドスにもどして。Oちゃん、なにかの折にわたしが話したカルヴァドスのことを覚えていてくれたのでしょう。このお酒の名前を知るきっかけになったのは20代に読んだレマルクの名著「凱旋門」でした。



カルヴァドスは物語の最初の場面ででてきます。フランスに不法入国し身分を隠して闇の手術を請け負ってその日暮らしをして生きているドイツ人外科医ラヴィックがこれまた異国人でよるべない端役女優ジョアン・マズーに夜更けのパリで出会う。うつろな表情の彼女を放っておけず、タクシーの運転手達のたまり場のビストロへ誘う。


夜も遅いそのビストロで二人が注文して飲むのがカルヴァドスです。

今回改めて読み返してみようと手にとったのですが、記憶違いな部分や忘れていた部分がたくさんありました。長い間、この本の舞台は第二次世界大戦中のパリだと思っていたのですが、旅券を持たない避難民で溢れかえっている大戦勃発寸前のパリでした。

「凱旋門」は2度映画化されています。ラヴィックをシャルル・ボワイエジョアンをイングリッド・バーグマン(1948年)が、 1984年にはアンソニー・ホプキンス主演ですが、どちらも原作には歯が立ちません。

最初のはメロドラマ的でわたしは途中で投げ出し、アンソニー・ホプキンスのはと言うと、いい役者さんではあるけれど、「ハンニバル・レクターのイメージが強烈でダメでしたw光が消えた暗いパリ、人々の果てしない恐怖と絶望が渦巻く大戦勃発前夜のパリを描き出している原作にはかないようがありません。

わたしは本の虫ゆえ、読書そのものは常にしているものの、若い時に読んだ多くの文学作品からは長い間ついつい遠ざかっていましたが、70を過ぎた今、改めてそれらの文学作品を読んでみようと思っています。
Oちゃんのカルヴァドスがきっかけです。

そうそう、今回発見したことがもうひとつあります。カルヴァドスはりんごを原料にしますが、いわゆるアップル・ブランディーとは一線が引かれ、フランスのノルマンディー地方で造られたもののみを指すのだそうです。

このお酒の名前を「凱旋門で」知って以来、20代の頃に勤めていた会社の東京本社上司が頻繁に仕事でフランスへ行くのをいいことに、わたしはその都度、当時国内では入手不可だったこのお酒を買ってきてもらったものでしたが、これがなんとアルコール度数40度なんだってば!こんなのを20代でちびりちびりと飲んでいた自分を思い出して、あはははは、ではあります。

ポルトガルに来て以来、アルコール度数の強いお酒といえば20度前後のポルトワインしか口にしてきませんでしたので、こんな強度のお酒は?味は?と多少躊躇するところがあるものの、Oちゃんからいただいたこの一本のカルヴァドス、過ぎし青春の日々に思いをめぐらしながらじっくり、ゆっくり、この先の一生をかけて飲み終えようと思っています。