ポルトガルの空の下で

ポルトガルの町や生活を写真とともに綴ります。また、日本恋しさに、子ども恋しさに思い出もエッセイに綴っています。

え!鍵はふたつ?

2019-03-04 17:53:40 | spacesis、謎を追う
2019年3月4日

鍵二つって、そりゃspacesisさんはそうでしょよ。二つどころか三つ四つあっても自分の家から自分を締め出すのは再三起こりますってば。なんて、だれだぃ、そんなことを言ってるのは(笑)

そう言われてもあまり大きな声で反論できない、実は何度も自分を締め出している情けないわたしであります。

でも、今日はその鍵じゃないんです。

大学講師の仕事が休みの東京息子が帰国していた天気がよかったとある冬の日、急遽、以前から見たいと思っていた教会を見にポルト近隣のオヴァール(Ovar)まで探して行って来ました。ポルトガルでも美しい教会のベスト10に入ると言われておりずっと興味をもっていたのです。

オヴァールの町中にあると思いきや、探して行ったふたつの教会はどちらもかなり奥まったところにありました。今日はそのひとつ、Igraja Mátriz de Cortigaçaの紹介です。



Cortigaça(コルティガッサ)というオヴァールの村にある教会は、ポルトのイルデフォンソ教会のように建物の外側が全てアズレージュで被われています。12世紀のものであろうと言われます。残念ながら昨日は閉まっていて中が見学できませんでした。

アズレージュは向かって左が聖ペトロ(ポルトガル語ではサン・ペドロ)、その下がアッシジのサン・フランシスコ、右が聖パウロ、その下がサンタ・マリア(聖母)が描かれています。

教会入り口中央の上部にはサン・グラールこと聖杯が見られます。その下にも聖杯と十字架が交差しているシンボルが見えます。写真を撮っていると、ぬぬ?サン・ペドロは二つの鍵をもっているではないか。



サン・ペドロはイエス・キリストの12使徒の一人で、昨年初秋にわたしたちが旅行してきたバチカンの初代教皇でもあり、「天国の鍵」を手にしています。

すると、息子と一緒に後ろにいた夫も「あれ?鍵がふたつあるぞ」と言う。「あ、ほんとだね。ふたつって?」とわたしが応じると、夫、すかさず、「スペアキーだよ、君同様、サンペドロも時々自分を締め出してしまうので、天国に入るのに合鍵が要るんだろ」・・・・

側で我ら夫婦のやりとりを聞いて息子がぷっと吹き出している。我が家のフラット2階のベランダから入り込むのにご近所のジョアキンおじさんから長~い梯子を借りて、やっとこさ自宅に入ったと言うこの間の締め出し事件を彼に話して「また、やってたの?梯子のぼるの危ないよ」と息子に言われたところであった。

夫のこの手のジョークは毎度のことで、言い得ているのがこれまた腹が立つのであります。ちがうわ!なんでサン・ペドロが、天国に入るのに合鍵がいるんだぃ!と、いきり立ち、よし!家に帰ったら早速調べてみようと思い、したのでありました。

サン・ペドロが天国の鍵を持つ、というのは知っている人も多いかと思います。かつては国民のカトリック教徒が多かったポルトガルです、夫もカトリックではありませんが、こと聖書に関してはやはり色々知っています。

しかし、日本語では単数複数の表現はなく「鍵」です。ポルトガルの伝統陶芸家ローザ・ラマーリュのサン・ペドロも手に一つの鍵を持っているし、わたしは昨日までサン・ペドロの鍵は一つだと思っていました。


陶芸家ロザ・ラマーリュの作品「サン・ペドロ」

調べた結果がこの絵で分かりました。



上の絵はバチカンのシスティナ礼拝堂にある壁面画の一枚です。下に拡大しました。



確かにイエスから二つの鍵を受け取っています。

「わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」( マタイ伝 16:18)

金の鍵は天の国における権威を示し、銀の鍵は縛ったり解いたりする地上の教皇の権限を意味しているのだそうです。鍵の先は上(天)を指し、鍵の握り部分は下(この世)に向き、これらはキリストの代理人の手にあることを示唆しています。 二つの鍵をを結んだ紐は天国とこの世に渡る二つの権威の関係を示す、とあります。



上記バチカンの紋章にもペドロが授かった金銀の鍵が描かれています。現フランシスコ教皇はサン・ペドロから数えて266代目の天国と地上の権威を現す二つの鍵を預かる教皇ということになります。

ということなのよ、うちのダンナ!合鍵じゃないわ・・・


「最後の法王」のベストセラー作家の死

2018-03-05 14:14:33 | spacesis、謎を追う
2018年3月5日

古典文学から現代小説まで、好きな本はたくさんある。
根っからの活字中毒で、本は借りるより、自分で買って手に取り読むタイプです。話題に上る現代作家のものにも惹かれる本は多いが、サイン会などに出かけて行って直接署名をお願いするなどは、正直、一度もしたことがない。まぁ、したいと思ってもポルトガルからでは無理なのだが、元来が著名人にサインをもらうということに、さして興味がないからでもある。

そのわたしが、署名してもらったものがたった一冊、いや上下だから二冊ある。


ポルトガル人作家、ルイス・ミゲル・ローシャの作品、「O Último Papa (最後の法王)」だ。
日本語学習者の一人とたまたま本の話をするに及び、ローシャ氏を知っているという、当時は「P2」を読み終えた直後であり、彼の本を持っていると言ったところ、希望ならば署名をもらってきてあげますという。

その際、持っているのは単行本ではなくて、文庫本なのだが失礼ではないのか思い、尋ねると、大丈夫大丈夫というので、せっかくの生徒さんの申し出に甘えることにした。


ローシャ氏は親切にも上下両方に「Yukoへ:この本をあなたが楽しみますように。Beijinho(ベイジーニュ=ポルトガル語でKissの意味)」と書き入れてくれた。わたしは、お礼に、間に入ってくれた日本語の生徒さんとローシャ氏に、日本の小物をさしあげたのである。2015年春のことである。


ルイス・ミゲル・ローシャ氏は、ポルト生まれである。ポルトガルのテレビ局TV1で番組制作の仕事をしていたが、イギリスへ渡り、脚本家、プロデュサーとして番組制作に携わっていた。2006年に「最後の法王」を発表し、イギリス、アメリカ、ブラジルなど、30カ国以上で翻訳され、2009年にはニューヨークタイムズ紙で、ベストセラートップにあげられた。

この本、邦題は「P2」とされている。「P2」とは、正式名を「ロッジP2 」もしくは「Propaganda Due(プロパガンダ2)」の略で、イタリアフリーメーソン大東社のロッジのひとつだったのだが、目的のためには手段を選ばない違反活動により、P2はフリーメーソンから破門されている。後、極右秘密結社組織「ロッジP2」となる。スキャンダルまみれで失脚に追い込まれたイタリア元首相ベルルスコーニはこのメンバーだ。

ローシャ氏が、この本で取り上げているヨハネ・パウロ1世は1978年9月に自室で遺体で発見され、在位がたった33日という歴代の法王で在位最短であり、暗殺、陰謀説が囁かれる。ヨハネ・パウロ1世は周囲をこのP2メンバーに取り囲まれていたと言われる。

ローシャ氏はこの作品をヨハネ・パウロ1世に捧げている。

残念ながら日本語訳はまだ出ていないが、この他、「The Holly Bulle(聖なる弾丸)」「The Pope´s Assassine(法王の暗殺)」などが、ローシャ氏のバチカン・ミステリーシリーズとして出版されている。

さて、早く他の日本語翻訳版がでないかなぁと、常々思っていた矢先の3月26日のこと、「最後の法王の著者、ルイス・ミゲル・ローシャ、亡くなる」と流れたニュースに驚かざるを得なかった。39歳の若さである。どのニュースでも、死亡原因が「長い間の持病」としか書いておらず、実は検索しまわったのである。


ルイス・ミゲル・ローシャ(Luis Miguel Rosha)

とあるサイトでやっと見つけたのが「癌」だ。ふ~む、一体なんの癌だったのだろうか、と思いつつ、数日前に、もう一度本を読み返してみようかと、まず、訳者あとがきから始めた。以下、要約を許されたし。

「ローシャは複数のインタビューで法王の死をめぐる自説について重大なコメントをしている。小説中の場面はすべて独自に入手した情報、資料を基にして再構築した。最大の情報源は10数年前に知り合い、書面で長く交流があった人物で、2005年に、ポルトまでローシャを訪ねてき、法王の死は暗殺だったこと、下手人は自分だと告白し、死亡当夜、法王が持っていた書類や日記をローシャに手渡した。

その人物は当時すでに高齢で今はこの世の人ではない。ローシャによると、それらの証拠書類は、法王の没後40年目の2018年9月29日午前1時に公開されることになっている。」今年だ。

ローシャ氏が存命中に読んだはずこの文章は、当時さほど気にしなかったが、この赤字の文にわたしの目は吸い寄せられしばらく呆然としたのである。ローシャ氏は本当に病死だったのか?その書類は今、どこにあるのか?言うではないか、事実は小説より奇なり、と。

ここまで来て、わたしは寒気を覚えたのである。