テツ君の次は、お兄ちゃんのヨウ君(中1・アスペルガー児)のレッスンです。
ところで、その日は、ちょうどヨウ君の中学の合唱祭だったらしく、
ヨウ君兄弟は、40分程遅れてレッスンに来ました。
なので私は、ヨウ君がピアノに座るなり、
「ヨウ君、今日は合唱祭だったね。」と尋ねてみました。
「はい、合唱祭でした。」とヨウ君。
「どうだった? 初めての合唱祭は。」
「僕のクラスは、賞を取れませんでした。」
「まあ、そうだったのね。残念だったね。頑張ったのにね。」
私は、ヨウ君の表情が少し蔭ったのを察したので、
それ以上、合唱祭の話はしませんでした。
なので、すぐにレッスンをしようと
「さて、ヨウ君、今週は練習できたかな?」と尋ねました。
「あまり出来ていません。」
そう答えると、ヨウ君の目には、涙が溢れました。
「あら~中学生が忙しいって事、先生は知っているからね。
だから、そんなに気にしなくていいのよ。」
と、私は言いました。
Y君は、小学生の頃、
練習が出来ませんでした~と言っては泣くような、繊細な少年だったのです。
するとヨウ君は
「そっちじゃありません。」と言って、ハラハラと涙を流しました。
私はすぐにピーンときて「ああ、合唱祭の事なのね。」と言いました。
ヨウ君は、黙って頷きながら泣いていました。
私は、ティッシュを差し出しながら、ヨウ君が落ち着くのを待ちました。
言葉をかければかける程、悲しくなるのが分かっていたからです。
そして、これ程までに合唱祭に打ち込んだ、ヨウ君の純粋さに、感動したのでした。