以前、ある短編の中で、人の魂はみなそれぞれの塔の上に一人だけ住んでいると書いたことがありました。社会というのは、そのような塔の立ち並ぶ平原であって、その上に一人ずつ人が住んでいる。われわれは互いに他の人を見ることはできるし、大声でどなって話をすることもできるけれども、なにしろ塔の上にいるのだから抱き合うことはできない。そのためには、塔をおりなければならないのに、ぼくたちはみな身体というものの囚人だから、一緒にはなれない。魂は身体の内部に閉じ込められているから、魂同士は融合できない。誰かを愛すると言っても、そこにはどうしても距離がある。ぼくの心は他の誰か心と融け合うことはできない。これが孤独と悲しさの理由ではないかと思ったのですが。
未来圏からの風/文・池澤夏樹 写真・垂水健吾
今、僕の心は迷っています…
未来圏からの風/文・池澤夏樹 写真・垂水健吾
今、僕の心は迷っています…