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「日本の面影」のこと──子育て幽霊

ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の生涯を描いた「日本の面影」というドラマを昔NHKで放送した。私はビデオに録画して見たが、素晴らしい出来栄えで、ハーン役のジョージ・チャキリス、妻・小泉セツ役の檀ふみの好演が光った。
その中に、「子育て幽霊」という怪談を大雄寺(だいおうじ)の墓地で、セツがハーンに語って聞かせるシーンが出色だった。
大雄寺のそばに水あめなどを売っている飴屋があった。そこへある夜から、蒼白い顔の女が一厘だけ水あめを買いに来た。
あまりの顔色の悪さに主人は、どうしたのかね、と訊くが、女は何も答えない。
そうして或る晩、女は店に来たが、お金が尽きたと見えて、ただ立っている。
「どげしたかね。」主人が声をかけると、女は黙ったまま店をでる。主人が追うと、手招きをするかのような素振りで、大雄寺までやって来る。そしてそこの小さな墓の前でふと消えた。
不思議に思った主人が、人を呼んで墓を掘り起こさせると、女の死骸の横に、生きている赤ん坊がいる。そして提灯の明かりを見て笑っている。その横には小さな、水あめの入ったお椀があった。
早まって葬られた墓の中で、赤ん坊が生まれていた。そして女の幽霊は、三途の川を渡るためにと持たされた六厘の金で、水あめを買い求めてわが子を養っていたのである。

この話を語り終えたセツの目に、背中を向けたまま孤独な物思いに沈むハーンの姿が映る。ハーンは幼くして生き別れた母の面影を、子育て幽霊の話の中に見ているのである。
そのハーンを見つめるセツの瞳が切なく、美しかった。

あんな素晴らしい作品がDVDにもならず埋もれているとは実にもったいない話である。
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