森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

2002年12月23日

2007年12月23日 | あるシナリオライターの日常

 午前9時、起床。
 頭痛発生。戦場が脳にまで拡大したか。
 大量投与、大量排出作戦続行。

 夕刻、頭痛の緩和を待ち風呂。
 頭痛解消。ようやくモニタを見る気力が生まれる。

 午後7時、先輩からメール。
 望月女史からメール。返信。
 父からメール。年末年始の帰省について。
 日程調整の為、姉にメール。

 夜、鼻詰まりもほぼ解消。まだ頭の芯にぼうっとしたものが残っているが、明日からの出勤には問題を残さずにすみそうだ。
 連休が潰れたのは痛いが、通常風邪の完治に二週間かかる私としては奇跡的な快復劇だった。

 午後11時、就寝。

2002年12月22日

2007年12月22日 | あるシナリオライターの日常

 午前2時、あまりの喉の痛みに目が覚める。
 バイト先に欠勤の電話。風邪だと伝えたが仮病と思われた様子。長々と愚痴を聞かされる。
 すみません、悪いのは私です。わかってますから早く解放して休ませてください……。
 やむなく体温計で熱を測るが、36度2分。どうやら喉に防衛線が敷かれ、激しい戦闘が繰り広げられているようだ。

 しばらくしてから布団の中に潜り込むも、一時間おきに目が覚める。

 午前7時、とりあえず起床。
 睡眠時間だけはそれなりに確保できた。目は冴えている。
 喉はまだ痛い。

 先輩からメール。返信。
 昨日の望月女史のメールに返信。

 午後1時、海藤から電話。

 一日休養。茶を6リットルほど飲み干す。
 大量投与、大量排出で身体中の老廃物を追い出す作戦。これが功を奏したか、夜には喉の痛みが引く。
 今度は鼻詰まり。戦場が移っただけか。それとも快方に向かっているのか。

 『発掘あるある大辞典』を観る。我流のマッサージに多少の問題点を発見。
 午後9時30分頃から記憶なし。

2002年12月21日

2007年12月21日 | あるシナリオライターの日常

 午前8時、起床。
 喉の痛みが増している。やばい。
 望月女史からメール。しかし返信の余裕なし。

 一日休養。
 熱はないようなので柚子湯に浸かり温まる。

 たまには私の手料理が食べたいとレンが言いだす。
 レンが失業し私が働くようになってからは立場が逆転しているが、元々はレンが働き私が家事をしていた。
 とはいえ、休みの日にはレンと二人で家事をしていたから、その訴えはわからなくもない。
 しかし何故、よりにもよってこんなときに。

 やむなく夕食の用意。
 ター菜と鶏肉のスープ。ベースはコンソメとチキンブイヨン、隠し味に椎茸。スパイスはホワイト&ブラックペッパー。
 ──会心の出来。
 レンが梅雑炊を作ってくれたが、こちらも会心の出来だった。

 『体育王国』を見つつ食事。
 女の美しさと逞しさ、一部見苦しさを目の当たりにした2時間だった。

 午後10時、就寝。

年末年始

2007年12月21日 | Weblog

 昨日、【僕達の惑星へようこそ】の連載を終了しました。
 よろしければこちらの「小説評価/感想」ページから、ご意見・ご感想等お寄せいただければ幸いです。

 なお、12月29日から1月6日まで、ほとんどネットに繋ぐことができません。
 【あるシナリオライターの日常】だけはどうにか更新するつもりですが、それもできない日があるかと思います。
 次の連載については年明けに予定しています。

 【小説を書く、ということ】に関しては、現在いくつか考案中です。
 以下は今後掲載予定の記事タイトルです。

  ・ファンタジー小説の難しさ
  ・リアルとリアリティ
  ・終わりのない推敲

 順番は特に定めていませんので、ご要望があればお応えします。

2002年12月20日

2007年12月20日 | あるシナリオライターの日常

 午前1時、就寝。
 午前8時、起床。

 師からメール。媒介役の行動と設定に対する指摘。
 午前8時30分、望月女史から電話。こちらが戸惑ってしまうほどに無欲な方。

 午前10時30分、出社。

 OHP更新。
 新作候補企画メインシナリオのプロットに着手。プロローグと第一話のプロットを立てる。

 午後7時、退社。
 午後8時、帰宅。

 喉が痛い。先輩の風邪をうつされたか。
 午後10時、早めの就寝。

僕達の惑星へようこそ -インデックス-

2007年12月20日 | 僕達の惑星へようこそ


 いつものように『処刑』を終え、独り街を歩いていた夜。
 雨の中、僕は彼女に出会った。
 魔女の名を語る彼女との出会いが、この街に生きる僕達の運命を変えていく。
 『処刑』グループのリーダー、リョウの。
 『ビジネス』を営む女子高生、カナの。
 ……そして、誰にも心を開けずにいた、僕の。


第一話「彼女の銃と僕のビデオカメラの話」 

 1-1 …… 11/28更新
 1-2 …… 11/29更新
 1-3 …… 11/30更新
 1-4 …… 12/01更新
 1-5 …… 12/02更新

第二話「黄色い煉瓦で造られた交差点の話」

 2-1 …… 12/03更新
 2-2 …… 12/04更新
 2-3 …… 12/05更新
 2-4 …… 12/06更新
 2-5 …… 12/07更新

第三話「カカシとセルロイドの美女とライオンがメリーゴーラウンドの中で踊る話」

 3-1 …… 12/08更新
 3-2 …… 12/09更新
 3-3 …… 12/10更新
 3-4 …… 12/11更新
 3-5 …… 12/12更新
 3-6 …… 12/13更新
 3-7 …… 12/14更新

第四話「青年と少女が宇宙の旅に出る話」

 4-1 …… 12/15更新
 4-2 …… 12/16更新
 4-3 …… 12/17更新
 4-4 …… 12/18更新
 4-5 …… 12/19更新

エピローグ&プロローグ

 E&P …… 12/20更新

エピローグ&プロローグ

2007年12月20日 | 僕達の惑星へようこそ

 OUT OF TIMES

 結局、偉そうな自己犠牲精神にのっとって歩いて行った僕は、田島さんの娘さんが望んだように裁判にかけられることはなかった。リョウが全ての事件の主犯は自分であり、他の者は自分が巻き込んだだけだと言い張ったからだ。
 おかげで僕は、しばらく警察の厄介になっただけで釈放された。
 僕は田島さんを何度も訪ね、謝罪を繰り返している。娘のレイナちゃんは未だに僕のことを許してくれていないが、田島さんとは結構良い関係を築くことができていると思う……多分。
 数週間後、パールさんは意識を取り戻した。
 十三回目の生還を遂げたパールさんは、僕らを見て「くだらない……」と呟き、少しだけ涙を流した。
 カウボーイはリョウの刑事裁判における証人の役を買って出たが、別に重い罰を望んでいるわけではないようだ。結局は周囲の動きに押される形で賠償請求に踏み切った田島さんも、必要以上の請求はしなかった。
 カナと僕は、世間で言うところの『恋人同士』の関係を行っている。『行っている』と言ったのは、彼女が最初に条件を出したからだ。その条件は、一年ごとに関係を継続するか終了させるかを話し合う、というものだった。
 彼女は自分にとって不利益になる者と付き合っても意味がない、どちらか一方でも好きでなくなったらすぐさま関係を終了させるべきだと言った。でも絶対に私と付き合って損はさせませんから、と言ったカナの照れたような表情は、とても可愛らしかった。
 僕はこれまで人と関係することを恐れていたが……彼女との関係だけは壊したくないと思っている。
 僕はカナに、努力する、と答えた。

 先輩は、努力する、と言ってくれた。
 私はこれまで数人の男性にこの条件を出したことがある。でも皆、うるさいことを言う女だと思ったのか、真剣に取り合おうとはしなかった。酷い時には、それ以上話をすることもなく別れを突きつけられたこともあった。まあ、その時はそんな男と長く関係を続けなくて正解だったって思ったけど。
 私としては先輩との関係はこれまでになく真剣なものだったから、関係を悪化させる可能性のある条件を出すのには少しためらいがあったのだけれど、これだけは譲れない条件だった。そして先輩は、私の出した条件に少し戸惑いながらも、照れたような微笑みを浮かべて、努力する、と言ってくれた。
「うまくできるかどうかわからないけど、努力するよ」
 ……と。
 そう言った時の先輩の表情は、本当に綺麗だった。

 リョウは刑務所の中で退屈しない生活を送っている。僕を含めて数人の者がひっきりなしに面会に来ているからだ。
 この前はジンの姿も見た。彼は毎回、リョウに会ってもらえないらしいが、それでも懲りずにやってきている。一度話しかけた時、顔の傷は大したことはない、と言っていた。その瞳からは僕に対する敵意は消えていなかったけれど、もう、僕たちが対立するようなことはないだろうと思う。
 カナの友人のクミという女の子ともよく会う。彼女のことは一度だけ見て知っていたが、再会した時は見違えるほど綺麗になっていたので驚いてしまった。彼女は差し入れのお菓子の詰まった袋を握り潰しそうになりながら、お願いだからカナにだけは自分がここに来ていることを言わないで欲しいと言った。
 僕はカナから、しばらくはクミに私が彼女の行動を知っていることを言わないでいて欲しいと意地悪な表情で頼まれていたので、黙って同意しておいた。

 私は自分の我侭を押し通す為にあんな条件を出したわけじゃない。ただ、やっぱり恋愛っていうものは、どちらか一方から与えるだけではいけないと思う。
 私は先輩にできる限りのものを与えようと思う。先輩の方から私との関係を終了させると言い出す可能性もあるんだから。
 そうそう、私は春休みを利用してアメリカに行こうと計画している。できれば先輩にも一緒に来て欲しいけど……そうすると、クミはダメだろうな。まあ、そんなに気にする必要もない。お互いに、もうそろそろ独り立ちしてもいい頃だと思うし、彼女とは世界中の何処にいてもネットを通じて話ができるんだから。
 ……母とは少しずつ話し合う機会を増やしていこうと思っている。

 リョウと僕は短い面会時間の中で取り留めのない話をする。最近の街の様子とか、流行っていることとか……カナのこととか……やはり女の子のことについては彼の方が色々と詳しいようだ。
 裁判の時、リョウは田島さんやその他の被害者の人達に向かって頭を下げて謝った。いつになるかわからないが、必ず償いをすると。
 リョウについては様々な意見が飛び交っているが、僕は彼のことを本当に格好いい男だと思っている。
 ……きっと、これからも。

 面会時間が終わって僕達が別れる時、僕は決まって指で銃の形を作り、リョウを撃つ真似をする。リョウは笑って心臓の辺りを押さえ、撃たれた真似をしてみせる。
 僕らにはそれで十分だ。
 僕らの旅も、まだ始まったばかりだ。

 PM.11:23

 田島亮介は数杯目のグラスを少しずつ傾けながら、隣に座っている男を横目で見た。
 三年前に妻が亡くなって以来、幼い娘と二人暮らしになった田島は、仕事が終わったらまっすぐ家に帰るようにしている。しかし今日は何となく、昔馴染みの飲み屋に顔を出してみる気になったのだ。
 隣の男は別の町から出張して来たらしい。早い時間から浴びるように酒を飲み、誰彼かまわず当たり散らしていた。
「わかりますか? こんなことじゃダメなんですよ! こんなことじゃ、この国は本当にダメになってしまう」
 田島はあまり真剣に男のことを相手にしていなかったが、遂に手に持ったグラスを振り回して割ってしまい、その破片で左の頬を切ってしまったのを見て、仕方なく男の体を支えて声をかけた。
「どうしたっていうんです? ほら、血が出てる」
 田島は店の者に掃除用具と医療用具を持ってくるように頼むと、男を椅子に座らせた。
「ダメなんですよ……こんなことじゃダメなんです」
 酔いの為か、男はさして痛みを感じている様子もなくブツブツと呟き続けている。
「何がダメなんです?」
 田島は男の三日月形に裂けた頬の切り傷を見ながら尋ねた。運良く薄皮一枚を切り裂いただけのようだ。これならじきに塞がるだろう。
「僕はね、信じてるんですよ。人と人との間には確かな信頼関係が必要だって……いや、違う。そうあるべきなんですよ。人間というのはね」
「それは私も思いますね」
 田島は店員を待ちながら呟いた。
「幾ら社会が情報化されたと言っても、結局は社会というものは人間が動かしているんですから……」
「違う! そうじゃないんだ!」
 男は突然叫び出し、血走った眼で田島を睨みつけた。
「そうじゃない。僕が言っているのはそんなものじゃなくて、もっと根幹的な繋がりなんだ。本当にお互いを必要とする関係、二つに別れた磁石が引き合うような……打算や計算のない関係が僕らには必要なんだ」
 最後の『僕ら』は、『僕』に置き換えても良かったかもしれない。
 男は掠れた声で喋り続けた。
「僕らには……本当の心の平安が必要なんだ。一時しのぎの快楽や、金で買ったような愛情なんかあってはならないんだ」
「ごもっとも、ごもっとも……」
 田島は少しうんざりしながら相槌を打った。
「貴方の言いたいことはよくわかりますよ。私にも小さな娘がいますがね。やはりしっかりとした人間関係の中で育って欲しいと思いますよ」
 しかし男は田島の話を聞いている様子もなく、うつむいて低く呟き続けていた。
「僕だって人並みの恋愛や人生を楽しみたいんだ……それなのにあいつらときたら僕のことをまるで珍しい動物か何かのように見やがって……僕はお前らみたいな奴らと親密な関係なんか持つ必要はないんだ。お前らが僕のことをどう思っているか知らないが、僕だってちゃんと人を愛せるんだ。ただお前らと関係を持ちたくないだけなんだ。いつか誰かが現れるんだ……誰かが。そして僕らは完璧な関係を築くんだ……完璧な……」
 男はそこまで言って、急に怒りに顔を歪めた。そして今までの考えを振り払うように腕を振り回した。田島が慌てて腕を避ける。
「畜生! どうして、どうして僕らは誰かを必要としなければならないんだ!?」
 男は叫び、立ち上がり……バランスを崩して床に倒れた。
「……まったく……」
 田島は男を床に座らせた。
「何を言っているのかよくわかりませんが、人と人との関係なんて妙な縁で繋がっているものですよ。私の死んだ女房とは見合い結婚でしたが、結構うまくいっていましたし……まあ、こんなことは貴方にはどうでもいいことですかね」
 田島は店員が救急セットを持ってきたのを見て、ではお大事に、と言って店から出ようとした。
「……なあ、どうして人は誰かを必要とするんだろうな?」
 小さな声で男が呟いた。
「さあ、それが人間ってものなんじゃないですか?」
 田島は振り返って答えた。
「それに、貴方がどう思っているかは知りませんけど、私はまだこの世界に失望しきってはいないんですよ」

 店員は男の傷の手当てをしようとしたが、冷たく敵意を感じさせる目でじろりと睨まれたので、仕方なく割れたグラスの掃除にとりかかった。
 男は床から立ち上がると、よろめきながら近くの席に座った。そしてコートのポケットから紙切れを取り出した。
 そこには、『明日、午前十時に駅前で。K&K』と書かれていた。
「僕だって、運命的な出会いってものを信じてるんだ……」
 男は呟き、金を払って店を出た。
 夜空には月もなく、雨が降りそうだった。

                           -了-

2002年12月19日

2007年12月19日 | あるシナリオライターの日常

 午前1時30分、就寝。
 午前8時30分、起床。
 望月女史氏からメール。返信。

 午前10時30分、出社。レンがついてくる。

 午前11時30分頃、間違いFAXが届く。土地抵当権に関する云々──いかにも重要そうな書類が十数枚。あのー、これはマズイんじゃないですか?
 確認の為、送信者欄にある番号に電話。慌てた声。やはり送信ミスであった。
 午後0時30分、レンが帰る。

 新作候補企画を見直し。ヒロインを2人追加。
 キャラクターを設定しプロットを立てる。

 午後5時頃、送信ミスをした会社の大阪支局局長が直々に来訪、謝罪。我が社のFAX番号が、取引先のFAX番号と1番違いであったらしい。書類を引き取り菓子折りを置いていった。

 午後7時、退社。
 午後8時、帰宅。

 師にメール。一定の関係図に基づき作成したプロットを提出。

第四話 「青年と少女が宇宙の旅に出る話」 5

2007年12月19日 | 僕達の惑星へようこそ

 AM.8:17

 それは不思議な男だった。
 まるで慌ただしい周囲の時間の流れから切り離されたように、彼は静かだった。
 表情も、気配も、瞳も……全てが静かだった。

「先輩?」
「……やあ、カナちゃん」
 いつもと同じ少し戸惑ったような沈黙の後に、彼ははにかみ、返事をした。

「先輩、何処に行ってたんですか? 大変だったんですよ、パールさんもカウボーイさんも……リョウさんも……」
「うん……知ってるよ」
 彼は呟き、じっとカナを見つめた。
「腕、大丈夫?」
「えっ……だ、大丈夫ですよ! ほらっ!」
 彼の不思議な雰囲気に呑まれていたカナは、我に返って慌てて腕を振った。
「そう、それは良かった」
 彼は優しく微笑んだ。
 それから彼は備えつけのテレビに目を向けたが、カナは彼を見つめ続けた。
 彼の体からは潮の匂いと……別の女の匂いがした。
 カナは彼が何処か遠くに行ってしまったような気がした。
 胸に大きな穴が開いたようだ。
 ……そんなことには慣れっこだ、とカナは考えようとした。
「ドロシーさんは何処ですか?」
「行っちゃったよ。何処かへね」
 彼は口元に指を当てて小さく笑った。
「ふーん。やっぱりあの人、人間じゃなかったんだ」
 カナはロビーの長椅子に座った彼の隣に腰かけ、わざと強気な口調で呟いた。
「確かに……確かにそうだね」
 楽し気に笑う彼の横顔は綺麗だった。
 元々端正で繊細な顔立ちだったが、怯えや卑屈さといった影がなくなり、目は輝いている。カナはいつの間にか、彼に見惚れている自分に気がついていた。
 彼は変わってしまったのではない。カナは考えた。多分、これが本当の彼なのだ。まだ弱々しくて不安定だが、彼はやっと自分の殻から抜け出して、新たな一歩を歩み出そうとしている。
 ……私がそれを手助けできたら良かったのに。そして、彼にとって特別な存在になれたなら……。
 でも、彼は私の手の届かない所に行ってしまった。
 カナは自分がひどく冷たい所に取り残されたような気がした。

「リョウ……」
 テレビを見いてた彼が、不意に呟いた。
 それは朝のニュース番組で、内容は先程カナが見ていたものと変わらなかったが、カナのいる病院の前から中継が入っていた。
 テレビに映っている建物の中に自分がいるというのは、何となく奇妙な気分がする。
「リョウは無事なのか?」
「怪我は酷いけど、そんなに悪い状態じゃないそうです。この病院の何処かにいるはずですよ」
「そうか……」
 その時、カナは不意にリョウの行動の理由がわかったような気がした。
「先輩」
「何?」
 カナは彼にもたれかかりながら呟いた。
「リョウさんは……先輩のこと……好きだったんでしょうか?」
 彼の体が一瞬緊張するのが感じ取れた。しばらくの沈黙の後、長々と息を吐ききり、呟く。
「……多分、そうだったんだろうね」
「…………愛してたと思います?」
 カナは彼の顔を覗き込むようにして尋ねた。
 彼は落ち着いた目でカナを見た。
「そうかもしれないけど……肉体関係を望んでたとは思えないな。何て言うか……」
 彼は少し考えてから言った。
「何て言うか、リョウは寂しかったんじゃないかな? リョウは誰かを求めてたんだ。でもそれは、愛情とか欲情とかいうものとは少し違うと思う……言いにくいけど、わかる?」
「わかります……とても」
 カナが言うと、彼は少し寂しそうに笑った。
「そう……でも僕は、それを受け止めてあげられなかった」
「そんなことないですよ」
 カナは呟いた。
「あの人は他人を独占することでしか愛情を示せない人です。ただの我侭です」
「でも人は一人では生きられない。誰かと関係しなければ生きていけないんだ。例え、それがどんな方法でもね」
 彼は誰かと似た台詞を言った。その台詞は、カナの頭の中に嫌な記憶を呼び起こした。
「先輩も……そう思いますか?」
「何を?」
「人は誰かと一緒でないと生きていけないって」
「…………ああ」
 彼はカナの体を優しく抱き締め、囁くように言った。
「さっきね。ドロシーと別れてから、ある人に会ったんだ。その人は口では嫌なことばかり言うけど、本当はとても繊細な人なんだ。僕はその人を駅まで送ってあげたんだけど……車の中でずっと泣いてたんだ」
「どうしてですか?」
 彼のカナを抱き締める力が少し強くなった。
「それはよくわからない。ただ、今まで自分が傷つけてきた人に謝りたいって言ってたよ。今まで自分が愛していたのに心を打ち明けられなかった人に……って。それからこんなことを言っていた」
 彼は一息ついてから言った。

「世界中に愛と平和がもたらされることを……人と人とが本当にわかり合える世界が実現することを」
「変な人……」
 カナは吐き捨てた。それとよく似た台詞にも嫌な気分がつきまとっていたからだ。
「そうでもないよ」
 彼は呟いた。
「その人は、ただ他人が恐いだけなんだ。本当は誰かを愛しているのに、素直にそれを伝えることができないんだよ」
「そんなこと……あるんでしょうか?」
 カナは彼の顔をじっと見つめた。彼はカナを見つめ返した。
「僕も人が恐くて仕方がなかった。実を言うと、カナちゃんのことも恐かったんだよ」
「……それ、本当ですか?」
 カナは少し驚き、
「うん、ずっと誰もが恐かった。ずっとね。でも心の中ではわかってたんだ。僕は一人では生きられない。でも誰も僕と共にはいてくれない……愛してなんかくれないと思ってた」
「そんなこと……そんなことないですよ!」
 体を起こして彼の目を見つめた。
「……そうだね。そんなこと、ないんだね」
 彼はゆっくりと目を閉じ、掠れる声で呟いた。
「何を怖がってたんだろう、僕は……誰かに愛されたかったら、自分から愛せばいいだけなのにね」
 そして彼は、何処か遠くの方を見つめるようにして言った。
「カナちゃん、前に君はエンタープライス号に乗りたいって言ってたよね?」
「ええ。でも冗談ですよ?」
 カナが言うと、彼は本気とも冗談ともつかない表情で言った。
「思うんだけど……僕達はもう、スタートレックの世界にいるんだよ」
「??? どういうことですか?」
 カナの疑問の眼差しに微笑みを返し、彼は穏やかな口調で続けた。
「この世界は星の海……一人の人間は一つの星だ。僕は『僕』という星のたった一人の住人で、星と共に宇宙を旅するんだよ。人間は一人一人、宇宙人だ。皆、自分の星に住んでいる。一人が一つの文化や歴史を持っていて、それぞれ別の考えを持っている。同じ星は一つとしてないんだ。星は旅の途中に別の星と巡り会う。星と星は仲良くなって交流したり……うまくいかなくて戦争をしたり……ただすれ違うだけの時もある。ただ、どんなに仲が良くなっても、どれだけの時を共に過ごしても、二つの星は同じになったりはしない。だって、星は一つ一つ違うんだからね」
「悲しい考え方ですね」
 カナは呟いた。
「そうでもないよ」
 彼は言った。
「僕達はスタートレックの世界にいる。僕達は自分の星を動かして宇宙を旅するんだ。ワクワクしない? 宇宙は広いんだ。これからどんな星の住人と出会えるかってね」
 彼の瞳に綺麗な光がともった。
「『宇宙は最後のフロンティア』だよ……僕らの旅は、まだ始まったばかりなんだ」
 カナは少しうつむいて黙っていたが、不意に顔を上げると彼の手を取った。
 そしてそのまま彼の手を自分の胸に押しつけた。
 彼が一瞬動揺し、困惑した表情を見せる。
「いつか……私の星に来て下さい。正式に御招待します」
 彼の手のひらの温もりを感じながら、カナははっきりとした口調で言った。
「そして一緒に旅をしましょう。……宇宙を」

 その時、ロビーの横を賑やかに騒ぎながら、田島親子と桜田が通った。
「あの人は」
 彼が長椅子から立ち上がった。
「いけません、先輩!」
 カナは彼の手をつかんで止めた。
「いけません、先輩。あの人は……」
 彼は振り返り、少し戯けた口調で言った。
「謝ってこなくちゃ。リョウの分もね」
「そんな……」
 彼はカナの手を握り返し、穏やかに微笑んだ。
「さっきの言葉、嬉しかったよ。いつかきっと、カナちゃんも僕の星に来てよ。あんまり居心地のいい所じゃないと思うけどね」
 彼はカナの制止を振り切り、田島の方に歩き出した。

 カナは歩き去る彼の後ろ姿を見つめていた。
 彼からは別の女の匂いがした。多分、心もその女のものだ。今更自分が何をしても無駄かもしれない。カナは自分が交渉の場に出遅れたことを悟った。
 しかし。
 ……しかしだ。
 カナの心の中で、何かがまだ諦めてはいけないと言っていた。例え不利な交渉であろうとも続けるベきだと。そして交渉が成立すれば、きっと大きなものを手に入れられるだろうとも。
 それが何なのか、はっきりとはわからない。
 いや、多分簡単な単語で言い表すこともできるのだろうが……言葉にしてしまうと、きっとつまらなくなってしまうだろう。
 カナは自分のボキャブラリーの中から、その言葉を探すのをやめた。
「あ~あ、本気で好きになっちゃったかな?」
 カナは大きく伸びをして呟いた。

2002年12月18日

2007年12月18日 | あるシナリオライターの日常

 夢を見た。
 私は天使だった。誰の目にも見えず、触れられることも、声が届くこともない、天使。
 戦乱の世なのだろうか。家を持たず、大地に寄り添い眠る子供たちに、そっとボロ布をかけてやった。そんなことしかできない自分の無力さに、拳を握り締める。
 天使は翼を持たなかった。私は空を見上げた。一羽の鳥が舞っている。その遥か高みを目指して、跳躍した。
 追いつき、追い越し、足元に見下ろす。やった。そう思った途端、鳥は大きく羽ばたき、更なる上空へと翔けていった。翼を持たぬ天使は、地上に降りた。
 地上には悪魔がいた。歪な人型をした闇の塊。私は気づいた。子供たちがいない。闇に喰われたのか。
 闇が、迫った。

 午前7時、起床。
 望月女史からメール。返信。

 午前10時30分、出社。
 先輩は午後から出社するとのこと。

 午後0時30分、望月女史と初顔合わせ。ほんわか系の可愛らしい女性。
 メールの文面がそのまま地のテンションだった。音声認識ソフトを用いればデフォルトで語尾に☆や♪がつきそうだ。事前に電話で聞いていた声からおおよその予想はついていたが、ここまで高純度にキャラクターが保たれている女性と初めて出会った。
 レストランで打ち合わせ。好感触。
 食後、オフィスで社長と先輩を加えて打ち合わせの続き。新作候補を二本に絞り込む。
 うち一本は私の企画。

 午後4時、打ち合わせ終了。

 OHPリニューアル。
 JavaScriptの用い方に一考の余地あり。

 午後7時20分、退社。
 午後8時、帰宅。

 歳暮に関するトラブル。レンの機嫌が非常に悪い。

 午後10時、和泉氏HPの6時間ネット対談記録を読む。
 今の私を支えている最大のインプットは、小学生時代に読破した世界文学全集。そして高校時代(90年代半ば)、バイト代にものを言わせてレンタルしまくっていたOVAだろう。
 最近のOVAやテレビアニメに魅力を感じないのは、良質なインプットに恵まれた証拠であると信じたい。

 午後11時、望月女史からメール。返信。