森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

休載のお知らせ+α

2010年03月31日 | Weblog
 今週のマリオネット・シンフォニーは休載します。
 理由は前回と同様、体調不良によるものです。

 病態の現状把握のため、昨日の3月30日に内視鏡検査を受けてきました。結果としては、幸いにして特に異常は見当たりませんでした。
 私が患っている潰瘍性大腸炎は、現時点では完治不能な病気ですので、決して『正常』な状態になることはないのですが。少なくとも入院時と比べれば遥かにマシである、ということです。

 私は、こと大腸癌に限って言えば、常人と比べて10倍近いリスクを背負っています。
 定期的な検査で早期発見に期待するのが最も確実な予防法なのですが、内視鏡で体内を掻き回される不快感は筆舌に尽くし難いものがあります。
 当日はまともに動けないほど体力を消耗しますし、毎回「もう二度と検査したくない」と思うのですが。
 少しでも長く健やかに生きられるよう、頑張ります。


 話は変わって。
 前回の更新時、3月24日に初めてweb拍手からコメントをいただきました。
 拍手自体はチラホラといただいているのですが、コメントをお送りいただいたのはこれが初めてです。
 おもしろいです。がんばってください。この二言がどれほど励みになることか。本当にありがとうございます。
 来週は必ず更新しますので、今後ともよろしくお願いします。

お知らせ

2010年03月29日 | Weblog
 予告から少し時間が経ってしまいましたが。
 本日より、新しいコンテンツが始動しました。

 以前より公開しておりましたSRPG企画【DIVINE GARDEN】──その小説版が連載されます。

 執筆者は私ではありません。
 名乗りを挙げて下さったのは、小説投稿サイト『小説家になろう』にてご活躍中の銀猫様
 私の企画書を元にどのような物語が展開されるのか、楽しみでなりません。

 さてさて。
 小説版の公開に伴い、企画書の公開を一時的に中止しました。
 以前にお目通し下さった方々の中には、もしかしたらキャラクターや物語の真相、どんでん返しに至るまで覚えて下さっている方がいらっしゃるかもしれません。
 名乗り出て下さったなら個人的には感激に打ち震えるところですが、ここは一つ、連載終了までこっそりと優越感に浸りつつお楽しみいただければと思います。


 【DIVINE GARDEN


 神へと挑む物語。
 どうぞお楽しみ下さいませ。

DIVINE GARDEN -INDEX-

2010年03月29日 | DIVINE GARDEN
DIVINE GARDEN



世界で唯一「神」が現存する国、ルミナス教国。
大陸最強の軍事国家、マグナード王国。
大陸二大国家の同盟関係は、二つの暗殺事件によって終わりを告げる。

伝説の覇王の再来と謳われた、マグナード国王ハイレオン。
そして、王国第一王女シオンの暗殺。
容疑をかけられたのは、教国の聖騎士カームと仲間たちだった。

同盟を破棄し、教国に攻め入る王国軍。
何故か教国にのみ狙いを定めた魔物の大攻勢。
かつて大陸最強の座を追われたウォレス帝国が、
王国に向けて侵攻を開始。
戦乱の早期収拾を目指すリディア共和国、戦場に生きる傭兵団も介入し、
事態はより複雑化する。

交錯する想い、渦巻く陰謀、暴かれる真実。
三人の主人公が織り成す、破壊と解放の物語。


そして人は、神に挑む。



-小説版(著:銀猫様)INDEX-

※リンクをクリックすると外部サイトにジャンプします※

プロローグ 誰にも届かなかった言葉たち …… 03/29公開
第一話 綴られていく物語 …… 03/29公開
第二話 薄蒼い夕闇の街にて …… 03/29公開
第三話 オリーブ色の膚の死女神 …… 03/29公開
第四話 尋問、のち事情聴取、そして …… 03/29公開
第五話 月女神(ルナ) …… 03/29公開




-ゲーム企画書INDEX-

※小説版の公開に伴い非公開化
連載終了後に再公開予定

世界設定
ストーリー
システム
コンセプト詳細
開発情報

【企画コンセプト】

■サイエンス・ファンタジーSRPG
 サイエンス・フィクションとファンタジーの融合。単なる「剣と魔法の世界」に留まらない、独自の世界を構築。全年齢を対象とした、重厚すぎず軽すぎず、敷居は低く奥の深い作品を目指す。
■ターン共有型バトルシステム
 プレイヤーターンとエネミーターンが同時進行。一方が動いてからもう一方が動く、というターン交代制の不自然さを廃し、よりリアルかつ戦略性に富むバトルを追求する。
■マルチアングルストーリー
 一つの歴史を異なる視点で切り取る三編構成。疑問・違和感の材料を各所に配置し、別の視点で解決。自ら育て上げた軍が次の編では敵に回るなど、期待に応えて予想を裏切るストーリーを提供する。

浮遊島の章 第17話

2010年03月24日 | マリオネット・シンフォニー
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 アイズとバジルの周囲には、無残な廃墟の光景が広がっていた。
 生々しく刻まれた破壊の跡と、物が焼け焦げる嫌な臭い。どうやら何処かの街が戦争に巻き込まれた直後の様子らしい。
「今度は何……? 何処なの、ここは?」
 口に手を当てて呟くアイズ。
 しかし、バジルの返事はない。妙に思って見上げると、バジルは明らかに動揺した表情で目を見開いていた。
「……こんなことが……!」
 その時、遠くの方からピアノの音色が聞こえてきた。バジルがビクリと震え、その方向を凝視する。
「……くそっ!」
 突然バジルは駆け出し、アイズも慌てて後を追った。

 やがて二人が到着したのは、広いすりばち状のコンサートホールだった。街と同様に破壊されており、観客席には誰の姿もない。入り口付近に積み重なるようにして倒れている、複数の死体を除いては。
 ステージにはピアノがあり、その近くには演奏者と思われる格好をした男の死体が転がっている。
 そして、ピアノの座席には。
 一心不乱に演奏する、一人の少女の姿があった。

「何なの、これ……どういうこと?」
 観客席の半ばで立ち尽くしていたバジルに追いつき、その異様な光景に息を飲むアイズ。
「……ここはリードランス中部の町……時は11年前……そして」
 バジルは今にも泣きだしそうな声で呟いた。




「あの少女は……俺が殺した……」




第17話 幻の島 -微笑みの理由-



 ピアノの演奏は続いた。
 その音色に引き寄せられるように、バジルはフラフラと進んでいく。
「ちょっとバジルさん、しっかりしてよ! 不用意に動いちゃダメだってば!」
 パティがいなくなったときのことを思い出し、アイズが慌てて止めようとする。
 と、少女がピアノの演奏をやめて立ち上がった。そのままこちらに歩いてくる。両腕を広げ、バジルを迎えるように。
「君は……俺を許してくれるのか……?」
 震える声で尋ねるバジルに、少女は可憐な微笑みで応えた。バジルの首に腕を回し、その唇がバジルの唇に触れようとする……瞬間。
「バジル、目を覚ましなさい!」
 アイズは足元に転がっていた石を拾い上げ、少女めがけて投げつけた。少女の姿が石に貫かれ、水面に映っていた虚像のように掻き消える。
 バジルが正気に戻ったとき、彼の眼前には極めて細いワイヤーが張られており、その端は近くの木に設置された手榴弾のピンに結びつけられていた。
「もう少しで熱ーいキスをするとこだったわね……」
 息を吐いて座り込むアイズ。

「……11年前の話だ」
 バジルはひどく疲れた口調で呟いた。
 二人は近くの木にもたれて座っていた。アイズが尋ねたわけではなかったが、バジルは何かを吐き出すように話し始めた。
「俺はその頃、ハイムの兵士として戦闘を繰り返していた。いや、戦闘なんてもんじゃない。ただの虐殺だ……」

 No.03『バジル』は大戦中、クラウン・ドールズ最強と称された人形である。
 初期の試作型なので特殊能力等は付加されなかったが、バジルはオリジナルのリードにも匹敵する奇跡的な身体能力を発揮した。彼の行くところには山のような死体が築かれ、あらゆるものが破壊された。彼の攻めた街に生き残りがいることはありえないとさえ言われていた。
 大戦中の彼について、こんな逸話がある。
 バジルを造り出した科学者は己の技術を過信し、更に強力な殺人兵器を造り出そうと、新たなクラウン『カノン』の製作に着手した。しかし、徹底的に戦闘能力を高める方向で開発が進められたカノンはバランス調整段階で暴走。生みの親である科学者を殺害し、研究施設を壊滅状態にまで追い込んだ。
 当時戦線に出ていなかったバジルを含む5体のクラウンは、この事態の収拾を命じられてカノンの破壊任務を遂行。戦闘能力を極限まで高められたカノンは完璧な包囲網を強行突破して反撃に転じ、機能停止するまでにクラウン3体を戦闘不能にした。
 バジルと共にカノンを撃破したクラウン、No.6『ネイ』は任務報告の際に語っている。
「確かにとんでもねえバケモノだったよ、カノンは。だがバジルの野郎、そのバケモノを赤子の手をひねるように倒しちまいやがった。ああ、実のところ俺はほとんど何もしちゃいねえんだ。現場に到着したときには、もう勝負はついていたも同然だったのさ」
 その戦いの様子は、まるで闘牛士と暴れ牛のようだったともネイは語っている。
 戦いの後、バジルは生みの親の死体を抱え、ネイに笑いながらこう言ったそうだ。
「大砲(カノン)とはよく言ったもんだ。確かに出力は圧倒的だったが、戦略も何もあったもんじゃない。こんな木偶坊を何体作ったところで、あのアインスにかかれば一網打尽にされるのがオチだろうよ。その程度のこともわからないとは、まったくハイムの人材不足は深刻だな」
 そんな彼が、人間のことを下等な存在として見下していたのは不自然なことではなかった。
 彼の人生を変えることになる、一人の少女と出会うまでは。

「その日、俺はあの町を攻めろという命令を受けた。目的は、先の戦闘に敗れて逃げ込んだリードランス王国軍の一個中隊を片付けること。住民を皆殺しにするようにも言われていた。任務は簡単だった……一時間もしない内に、俺は王国軍を含めて500人以上を殺した」

   *

「まったく……髪が汚れたじゃないか」
 バジルは一面に累々と横たわる死体を眺めながら、返り血に濡れた髪を掻き上げた。
「さてと。後は残りの住民を皆殺しにするだけだな……ん? 何だ……?」
 風に乗って流れてきたピアノの旋律に、バジルは音のする方向に向かい、コンサートホールに到着した。つい先程襲撃したばかりの所だ。己の手で殺した人間達の死体が多数転がっている。
 不思議に思って中に入ったバジルは、そこで奇妙な光景に出会うことになる。廃墟と化したステージでピアノを奏でる、貧しい身なりの一人の少女に。

   *

「……で、どうしたの?」
 アイズの問いに、バジルは苦しげに呟いた。
「殺した……さっきも言ったようにね。だが、問題はその後だ」

   *

 バジルの剣は、背後から少女の身体を貫いていた。
 少女の胸から突き出た刀身を伝って、鮮やかな紅の血がピアノの鍵盤を染めていく。
 バジルは剣を引き抜いた。
 その時、少女が振り返った。まるで、剣に貫かれて初めてバジルの存在に気がついたように、ほんの少し驚いた様子で。
 避けられない死に恐怖する様子もなく、少女は静かな瞳でバジルを見つめていた。
 そして。



 ──少女は、微笑んだ。


 バジルが我に返ったとき、少女は既に息を引き取っていた。
 まるで、眠っているかのように。
 穏やかな表情で鍵盤に伏す少女の亡骸を、バジルは呆然と見つめていた。

   *

「何故だ。どうして微笑んだんだ……自分の命が失われていく中で、どうして……」
 バジルはがっくりとうなだれ、力なく呟いた。
「俺は……俺はそれ以来、自分の行動に疑問を持つようになったんだ」
「そっか。それでスケアさんと一緒にハイムを抜けたのね」
「まあ、理由はそれだけじゃないが……そうなるかな。この11年間、罪の償いは勿論だが……あの微笑みのわけが知りたくて、俺は生き続けてきたんだ」
「レムさんのことも?」
 バジルがビクリと顔を上げる。
 わずかな驚きに見開かれた瞳は、すぐに穏やかなものへと変わった。
「気づいてたのか。やっぱり君は只者じゃないね」
「まさか。ただ思っただけよ、似てるなって」
 幻で見た少女の姿を思い返して、アイズは答える。
「そもそも、私とバジルさんが同じ幻を見ていたのかどうかもわからないんだけどさ。私には最初から、小さなレムさんにしか見えてなかったから」
「……なるほど。そういうことか」
 バジルが苦笑する。
「そうだな、レムは……あの少女に似ていた。いや、俺は本気で彼女のことを守りたいと思ってるんだが……レムのことだ、何もかもお見通しなんだろうな」
「結構イイ男ね、貴方って」
 アイズの台詞に、バジルは少しおどけて言った。
「やっとわかったのかい? ベイビー」

 次の瞬間。
「アイズ!」
「きゃっ!?」
 バジルは突然アイズに覆い被さった。
 同時に飛来した鋭い何かが、バジルの髪を貫いて木の幹に突き刺さる。
「おいおい、こんな森の中でラブシーンか? 不真面目な局員だなぁ、バジル」
 嘲るような声と共に、地面から一人の男が浮かび上がってくる。
 バジルはアイズを起き上がらせると、そのまま背中に庇って剣を抜いた。
「ネイか。君は昔から仕事熱心だったからね。今日は残業かい?」

   /

「白のナイトとポーン、そして黒のナイト……戦闘開始」

   /

 アイズとバジルは森の中を疾走していた。
 後方の地中から飛び出したネイが硬化した爪を放つ。間一髪かわしたバジルだったが、直後に死角から同様の攻撃が襲いかかり、バジルの脚を浅く切り裂いた。
「チィッ!」
 アイズを抱えて跳躍し、近くの樹上に移動するバジル。
「3……いや、4体か。ネイの奴、やってくれるじゃないか」
 移動を開始してから数分の間に、バジルは同様の攻撃を浴び続けていた。全身傷だらけになりながらも冷静に状況を分析し、敵の数を予測する。
「らしくねぇなぁ、バジル。それが最強と言われた男のすることかよ」
 ネイの声と共に、複数の男達が地中から浮かび上がってきた。その数まさに4人。いずれもネイと同じ服装の、よく似た男達だ。
 バイザーに隠れて見えないが、その瞳に自我の光はない。ネイと同じ能力を備え、ネイによってコントロールされる、ネイ自身の量産型クラウン部隊である。
「戦略の基本は地の利を活かし、数を用いて敵の戦力を確実に削いでいくこと。お前の持論だったじゃねぇか。それが何だ? そんな足手まといの女を抱えて戦うなんざ、昔のお前なら絶対やらねぇぞ」
 二人のいる樹を取り囲むように現れた男達とは対照的に、ネイは少し離れた場所に上半身だけを現している。
「まったくだ。俺もバカなことをしてると思うよ」
 バジルは呼吸を整えて言った。
「だがな、これは俺の償いなんだ」
「フン、くだらねぇ……」
 ネイの呟きと共に、量産型の一体が手刀を一閃させた。幹が裂ける甲高い音と共に、二人を乗せた樹が倒れ始める。
 バジルはアイズを抱えたまま、近くの樹に飛び移った。
「アイズ、しっかりつかまってろ!」
 そのまま樹から樹へと移動しようとした、その時。

「……貴方、バカ?」
 アイズはバジルの頬を軽く叩いた。
「貴方ねぇ、女の子をなめないでよ! 貴方のやってることは“愛”とか“優しさ”とかじゃないわ! なーにが償いよっ! 女の子ってのはねぇ、そんな償いなんかされてもハッキリ言って迷惑なのよっ!」
 そして唖然とするバジルの腕をほどくと、そのまま地面に飛び降りた。
「な……バカ!」
 着地したアイズに量産型が襲いかかる。
 が、
「よせ! バジルは上に……!」
 ネイが叫んだ瞬間、舞い降りたバジルの剣が量産型を一刀両断した。着地と同時にアイズを抱え、更に飛びかかってきていた量産型をもう一体切り捨てて包囲網を突破する。
「なぁぁぁぁぁんてことするんだ君はっ! もう少しで殺されるとこだっだぞ!」
「いいじゃない、二人やっつけられたんだからさ。見ててわかったんだけど、あいつらバジルさんが絶対に反撃できない距離からしか攻撃してこないじゃない? けど私が相手なら、わざわざ距離を取ったりはしないだろうし。それにあいつら、地中から直接攻撃はできないみたいだから、狙うならそこかなって思ってさ……あ、勿論貴方の腕を信用してるのよ?」
 バジルはアイズを抱えて走りながら溜息をついた。
「まったく、女ってのはわけがわからん……」

「なるほど、あれがアイズ・リゲルか。優先指令が裏目に出たな……やるじゃないか」
 ネイは不敵に笑うと、残り二体となった量産型と共に地中に潜った。

 しばらくの後、アイズとバジルは少し開けた場所に出た。今のところネイの攻撃はないが、そう簡単に諦める相手とは思えない。しかしアイズはビクビクする様子もなく、見事に開き直っている。
「たいした女の子だね、君は。いつ殺されるかもしれないこの状況で、よくもまぁそんなに落ち着いていられるものだ」
「そうかな? 女の子っていうのは、男が考えるほど弱いものじゃないんだよ」
「ああ、君を見ているとそう思うよ」
 苦笑するバジル。
 その時ふと、バジルの胸に一つの思いが浮かんだ。
「……そうだ、君はどう思う? あの少女の微笑みの理由について……」

 尋ねる声を中断し、バジルが周囲に視線を走らせる。
 やがて二人を取り囲むように、ネイと二体の量産型が地中から姿を現した。
「さて。決着をつけようじゃないか」
「やれやれ、ゆっくり話もさせてもらえないか」
 バジルがアイズを片腕で抱えて剣を構える。
 と、アイズはバジルの首に腕を回して耳元でささやいた。
「バジルさん、私思うんだけどさ。その女の子が笑ったのはさ……バジルさんがピアノの演奏を聴いてくれて嬉しかったからじゃないかな?」
「な……何だって?」
 呆気に取られたバジルめがけて、ネイ達の遠距離攻撃が一斉に襲いかかる。バジルは慌てて跳躍すると、再び近くの樹上に逃れた。
「どうしてそんな──理由は?」
 アイズは自分でも変な考えかもしれないと思ったが、とにかく説明した。
「バジルさん、さっき言ってたでしょ? その女の子は、とても貧しい身なりをしていたって。その子は一度でいいから、大きなコンサートホールで思いっきりピアノを弾いてみたかったんじゃないかな。でも家が貧しくて、そんな機会はなくて……で、やっとその機会が巡ってきたんだけど、今度は聴いてくれる人が一人もいなかった。そこにバジルさんがやってきて、自分の演奏を聴いてくれた……だから微笑んだ」
「……まさか、そんなことが……」
「どうして否定できるの? 少なくとも、これも一つの可能性よ。今更真実なんてわかりっこないわ」
 アイズは微笑んで言った。
「わからないことをいつまでも悩んでたって損よ。それなら前向きに明るく考えた方がいいじゃない。その子はバジルさんのおかげで夢を叶えて死んでいけたんだ、ってね。何もわからないくせに“償い”なんて自分勝手よ。そんなことで悩んでる暇があるなら、二度と女の子が殺されたりしなくてすむような未来を作りなさいよ!」

「何をゴチャゴチャと!」
 ネイが樹木を切り倒し、落下する二人めがけて量産型が遠距離攻撃を放つ。バジルは不安定な体勢をもとのともせずに襲いかかってきた刃を弾き飛ばすと、
「クッ……ハハハハハハハハハハッ!」
 着地と同時にいかにもおかしそうに笑い出した。呆気に取られるアイズとネイ。
「ハハハハハハッ、気に入った! 本当に気に入ったよ! まったく、こんなに面白い女の子は初めてだ!」
「何か、褒められてる気がしないんだけど」
 ちょっとムッとしているアイズを立ち上がらせると、バジルはアイズに背中を向けた。ずっとアイズを庇うために使っていた左手を離し、この戦いが始まって以来、初めて両手で剣を構える。
「アイズ、ここは任せろ。君は先に進め! 今回のゴールが何処にあるのかは知らないが、君ならきっとたどり着ける!」
 そしてバジルは、優しい声で呟いた。
「どういうわけかな。この11年間、目を閉じれば浮かんでくるのはいつだってあの少女の微笑みだった。しかし今、心に浮かぶのは君の太陽のような笑顔だ。何故だろうね」
「……っ。一生悩んでなさい!」
 少し紅くなった頬をごまかすように、アイズは踵を返して走り出した。
「ああ、そうさせてもらうよ。君は一生かけて考えても到底わかりそうにない難問を与えてくれたからね」
 そうして剣を構え直し、バジルは笑いを堪えるように呟いた。
「やれやれ。やっぱり女ってのはよくわからないな。スケアが変わったのはわかる気がするが」

   /

 何かを察知して、スケアは立ち止まった。
「ん? どうしたスケア」
 一緒にカシミールを捜していたモレロが立ち止まる。と、スケアが突然L.E.D.を抜いてモレロの方を振り向いた。
「うわっ! スケア!?」
「伏せろ、モレロ!」
 モレロの背後に向けて、スケアがL.E.D.を真一文字に振り抜く。
 同時に、その方向から凄まじい炎の壁が押し寄せてきた。L.E.D.から放たれた帯状の閃光に切り裂かれ、周囲に拡散する炎の壁──その奥から現れたのは。
「ちっ! 気づかれたか……!」
「君は……アート!」
 驚くスケアの目の前で、アートはF.I.R.を大きく振りかぶった。


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お知らせ

2010年03月16日 | Weblog
 今週のマリオネット・シンフォニーは休載致します。
 理由は色々ありますが、体調の悪化が主な原因です。

 3年前に社会復帰して以来、おそらくは最悪と言っていいほど病状が悪化しています。
 4月から始まる新生活に備えて、少し休養にあてる時間を増やしたいと思います。

 せめて二週連続の休載だけはしないよう手を尽くしますが、しばらくは二週間に一度の更新になるかもしれません。
 続きを楽しみにして下さっている皆様、心よりお詫び申し上げます。


 マリオネット・シンフォニーとは別件ですが、近々(早ければ今日か明日にでも)新しいニュースを発表できる予定です。
 詳細は、また改めて。

浮遊島の章 第16話

2010年03月10日 | マリオネット・シンフォニー
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「バジルー! アイズさーん! 何処なのー!? ……痛っ!」
 二人を捜して歩いていたパティは、足首に走った痛みにうずくまった。どうやら先程斜面を転げ落ちたときに痛めたらしい。
「まいったわね……」
 地面に座り直し、パティは先程の幻を思い返した。
「あれは確かにリードランスだったわ。それに、あの橋……」
 呟くパティの脳裏に、懐かしい景色が浮かび上がる。更に蘇りかけた一つの記憶に、パティは慌てて頭を振り、両手と片足だけで立ち上がった。
「今はそんなことを思い出している暇はないのよ」
 思いを振り切るように呟き、歩き出す。

 と、その時。
 視界の片隅を一つの人影が通り過ぎた。
 痩せた長身、蒼い髪。少し癖のある歩き方。

「……アインス!?」



第16話 幻の島 -遺されたもの-



「待って、アインス! 貴方には聞きたいことがあるの!」
 痛む足を引きずりながら、パティはアインスの背中を追いかけた。
「貴方は……どうして、あの時……!」
 呼びかける声に応えてか、アインスが立ち止まり、振り返る。パティは安堵の微笑みを浮かべ、急いでアインスの元に駆け寄ろうとした。
「戻れ、パティ!」
「きゃっ!?」
 鋭い声と共に、パティの腕がつかまれ引き戻される。地面に尻もちをついたパティは、その時初めて自分の前方に地面がないことに気がついた。
「ふうっ……何とか間に合ったな、パティ」
「……ケイ!」

   /

「白のルーク、クィーン“知性”と合流。なかなかいい手ね」

   /

「立てるかい?」
「え、ええ……痛っ」
「ああ、無理はしないほうがいい。少し休もう」
 足首の痛みに顔をしかめたパティを見かね、ケイが優しく肩を押さえる。
 仕方なく座り直すパティ。その隣に、ケイも腰を降ろした。
「ケイ、どうしてここに?」
「ああ……これを読んでね。すぐにでも話をする必要があると思ったんだ」
 ケイは鞄から一冊のファイルを取り出した。
「それは……!」


 新しい国家システムについての考案。
 国家というものは一定のシステムに基づいて動いている。しかし国が繁栄して長い安定の時期を迎えると、システムは老朽化し柔軟性を失ってしまう。リードランスがハイムの侵略を許してしまったのも、まさにその点に原因があったと言えるだろう。
 ここではどのようにすれば国家としての一定のシステムを維持しつつ、その老朽化を防ぐことができるのか、その方法について考えてみたい──


「全部、読んだのね。ケイ」
「ああ。悪いとは思ったが……」
「……そう」
 パティはうなだれると、自嘲気味に呟いた。
「それなら、もうわかったでしょう? ご覧の通り、そこに書かれているのは情報局の原案よ。このファイルは今から12年前に、私が『彼』から譲り受けた物……」


 ──以上が私の考案する国家の自浄システムである。
 これは現実的には極めて難しい、言わば理想論だ。現在のリードランスでこの案を実現するには、少なくとも10年近い歳月を要するだろう。
 そしてまた、数多くの優秀な人材の発掘が必要不可欠となる。案が理想論に近いからこそ、それを正しく理解し実行できる理想的な人材なしにこの案は成立しない。
 しかし、私は信じる。いつの日かこの案が実現し、どのような状況にも対応できる理想的な国家が誕生することを。そのような日が迎えられることを楽しみに、本書を締めくくりたいと思う。

           アインス・フォン・ガーフィールド


「そう、情報局設立のアイデアを提示したのは私じゃない。アインス・フォン・ガーフィールドなのよ!」
 胸のつかえを吐き出すように。
 パティは叫び、大きく息を吐いた。
「……パティ……」
 どう声をかけたものかと戸惑うケイ。
 と、その時。二人の周囲に、再びリードランスの街並みが出現した。
「な、なんだこれは?」
 驚いて辺りを見回すケイ。
 一方、パティは何かに気づいたように立ち上がると、ケイに向かって手を差し出した。
「……案内するわ、ケイ。一緒に来て」

「私とアインスが出会ったのは、この橋の上なの」
 パティが立ち止まったのは、アイズ達とはぐれる前に見た橋の上だった。
「当時15歳だった私は、留学生としてリードランスにやってきていたわ。でも全然その環境に慣れなくて……ひどいノイローゼにかかってね。ここで自殺しようとしたの」
「自殺だって?」
 パティの台詞に驚くケイ。
 その時、二人の近くに一人の少女が現れた。化粧っ気のない顔に分厚い眼鏡。服装は垢抜けず、ボサボサの髪を無理やり三つ編みにしている。
「あの子は、写真に写っていた……」
「バカな子よね。小さい頃から勉強ばっかりで、その他のことは何も知らなくて。飛び級に飛び級を重ねて言われるままに留学して、そうなって初めて、自分には何の目的も生きがいも……友人もないって気がついたのよ」
 15歳のパティが橋から飛び降りようとする。幻とはわかっていても、思わず駆け出すケイ。しかしその時、ものすごい勢いで駆けつけた誰かが15歳のパティにしがみつき、引き戻した。
 二人はしばらくもみ合っていたが……どういうわけか、助けに来た男の方が橋から落ちそうになってしまった。パティが慌てて男の腕をつかみ、引っ張り上げる。
「助かりました。貴女は命の恩人です」
 男は無事橋の上に戻った後、呆れているパティに向かってにこやかに頭を下げた。その男の腰に下げた剣には、リードランス王家の紋章が。
「あれは、君と一緒に写っていた……ということは、彼が?」
「そう。これがアインス・フォン・ガーフィールドとの出会いよ」

   *

 15年前、リードランスのとある街。
「……ねぇ! 何で、貴方は、ついて、くるわけ!?」
「受けた恩は必ず返せと、家訓に……ところで、どうして走ってるんですか?」
「貴方が、おっかけて、来るからで、しょうがっ! ……きゃっ!?」
 息を切らして走っていたパティは、後ろを振り向いて叫んだ途端、石畳の隙間に足を取られて転んでしまった。
「アイタタタ……あ、眼鏡が……」
「大丈夫ですか? どうぞ、つかまって下さい」
 目の前にスッと手が差し出される。パティは渋々礼を言おうとして、見上げた先にあるものに思わず声を上げた。
「何してるのよ!」
 いつの間に拾い上げたのか、パティが落としてしまった眼鏡をアインスがかけていたのだ。
「うーん。これはダメですね……」
 片手でフレームを上下に揺らして、アインスは独り言のように呟いた。よほど落ち方が悪かったのか、レンズにはヒビが入り、フレームは歪んでしまっている。
「返して! 返してよっ!」
「どうしてです? 眼鏡がない方が可愛いですよ? それにこの眼鏡、ほとんど度が入っていないじゃないですか」
「…………っ!?」
 パティが驚いたように硬直する。
「わ、私は……そんなこと言われたって嬉しくなんてないのよっ! いいからさっさと返して……あっ、何をするのよ!?」
 パティはキッとアインスを睨んだ。アインスが眼鏡を懐に入れてしまったのだ。
「壊れてしまったのは私の責任ですし、知人に修理を頼ませていただきます。修理が終わるまでの代用品は……そうですね。どうでしょう、お礼とお詫びを兼ねて、私から一つ新しい眼鏡をプレゼントさせてもらえませんか?」
「お……大きなお世話だわ。勝手なことをしないで」
 改めて差し出された手を払い除け、頑なに関わりを拒否するパティ。
 アインスは困ったように微笑んだ。
「どうやら貴女は、心にも度の合わない眼鏡をかけてしまっているようですね。それを外さない限り、貴女の目には何も正しくは見えませんよ」
「……ど、どういう意味よ」
 パティが質問を返したことが意外だったのか、アインスがわずかに驚いた顔をする。
 その表情が少々悪戯っぽいものへと変わるのに、さして時間はかからなかった。
「どうです? 私と旅に出ませんか?」
「旅? 何でいきなりそんな……」
「どうせ死ぬのなら、もっと派手な所の方がいいじゃないですか。あんな小さな橋じゃなくてね」
「……はぁ?」
 呆気に取られるパティ。
 と、その時。遠くからアインスを呼ぶ声がした。

 その時のことを、パティは今でもはっきりと覚えている。
 出会ってからわずかな時間ではあったが、常に大人びた雰囲気を身に纏っていたアインスの表情が、子供のように明るくなった瞬間を。


「リード! カシミール! ここだよ!」
 声のした方向を振り返り、アインスが大きな声で応える。
 間もなく、一組の男女が二人に駆け寄ってきた。随分とスタイルのいい綺麗な女性と、凛々しい風貌の剣士だ。
「アインス! もう、何処に行ってたのよ?」
「このお嬢さんは?」
 アインスはもう一度パティを見ると、ニッコリと笑って言った。
「新しい旅の仲間だよ」

   *

「こうして私は、アインス達の旅に加わることになったの。自分の死に場所を捜すっていう、今にして思えば妙な旅だったけど。楽しかったわ、本当に」
 プライドが高く頑固なパティと、何処までもマイペースでのんびりしたアインス達。到底うまくいきそうにない組み合わせだったが、パティの負けず嫌いの性格も手伝い、四人の旅は続いた。
 見知らぬ土地を旅して歩き、幾多の危険をアインス達と共にくぐり抜け、いつしかパティは変わり始めた。死にかけたことは何度もあったが、当初の目的だった“死に場所”は見つからなかった。そして旅が終わる頃、それはどうでもいいことになっていた。
「ま、あいつらの方が大人だったのよ。悔しいけどね」
 周囲に広がる光景は、いつの間にか、何処かの図書館らしき景色に変わっていた。

   *

 アインスとの出会いから3年後。
 リードランス王立図書館の中、パティは大きな机の上に何冊もの本を広げていた。
 15歳の頃よりすっきりとした服装に、短く切りそろえられた髪。薄く化粧を施された顔にはシャープなデザインの眼鏡がかけられている。
「……君は、フェルマータには帰らないのかい?」
 パティの向かい側には、少々疲れた様子のアインスが座っていた。
「その必要はないわ。私はこの国で政治家になるって決めたんだから。それに、貴方はデスクワークが苦手でしょう?」
 本を読む目を上げることなく、パティはぶっきら棒に答えた。それが照れ隠しだとわかっているのかいないのか、
「そうか。嬉しいよ」
 アインスは本当に嬉しそうに言い、それからポツリと呟いた。
「戦争……起きるかな」
「たかが属領の小国の反乱でしょ? すぐに片付くんじゃないの?」
 深く考えずに答えるパティ。
 しかしアインスは考え込むように言った。
「何か嫌な感じがするんだ。ハイムの国王は私もよく知っている人物だが、今のハイムの手口はあの人らしくない。それにリードランスのシステムは、長い平和で老朽化してしまっている。現代の戦争には対応できない」
 アインスは持っていた鞄から一冊のファイルを取り出した。
「パティ、これを預かっていてくれないか? 僕なりの新しい国のシステムについての考えが記してある。時間があれば読んで欲しい。それから、もしも……」
「もしも?」
 ファイルを受け取り、パティが尋ねる。
 しかしアインスは笑って首を振った。
「いや、何でもない。……ねえパティ、戦争なんてバカげたことを、どうしてやりたがる人がいるのかな。本当に不思議だよ」
 そしてアインスは立ち上がった。
「何処に行くの?」
「カイルさんに会ってくるよ。あの人は顔が広いから、ハイムにも知り合いがいるかも知れない。それから、外務大臣とラトレイアの所を回るつもりだ」
 アインスは図書館の扉口でもう一度振り返り、微笑んで言った。
「君の夢……叶うといいね。いや、パティならきっと叶えられるよ」

「変な奴。いつもだけど」
 去っていくアインスの後ろ姿を見ながら、ふとアインスが二度と戻ってこないような気がしたのは何かの予感だったのだろうか。
 しかし本の続きを読み始めてしばらくの後、その予感のことも、アインスから預かったファイルのことも、パティは忘れてしまっていた。

 数日後、リードランス大戦が勃発する。当時宰相の地位についていたアインスは公務に追われ、パティも戦火を逃れて住居を転々としていたため、二人が会うことは二度となかった。

 それから一年と半年。
 アインス暗殺の報せが届いた日の夜、パティは初めて預かっていたファイルを開いた。そしてその翌日、以前から交流のあったオードリー、ケール博士らと共に、彼女はリードランス王国を脱出する。
 彼女達がハイムから逃走中のスケアとバジルに出会うのは、それから二日後のこと。
 ケイを含む各方面からスカウトした優秀なスタッフらと共に、フロイド企業事故の受難から精神走査能力を手に入れたレムが参入し、メルクが本格的な活動を開始するまでには、更に一年の月日が流れることになる。

   *

「どう? これが貴方が長官と呼んでいた女の正体よ」
 パティは自嘲気味に呟いた。
「確かに情報局のシステムはフェルマータを変えたわ。でもそれは私の才能じゃない」
「そうかな?」
 ケイはまっすぐにパティを見つめて言った。
「確かに基本的な部分を作ったのはアインスだろう。なるほど彼は天才に違いない。でもな、パティ。それを実行したのは誰だ? 君と、僕と、バシルやスケア、オードリー、ケール博士、そしてレム。僕達メルクのメンバーだろう」
 ケイの口調が強くなった。
「確かに考えたのはアインスだ。しかしこの10年間、素晴らしい実行力でこの国を変えてきたのは君じゃないか! それは僕だけじゃない、みんなが知っていることだ! ……10年前、僕は駆け出しの官僚だった」
 ケイは昔を思い出しながら言った。
「君も知っているだろうけど、僕の家は政治家の家系でね……多分あのままいってれば何処かの長官にでもなって賄賂なんかも貰って楽しく暮らせてたんだろうね。現に僕の親もそうだった……でも、何かが物足りなかった。そんな時、僕は君と出会ったんだ。
 君の持ちかけた情報局のアイデア。それは当時の僕の特権を破壊してしまう考えだったけど、僕はそれに惹かれた。官僚をやめた時、両親は気絶して妻は出て行ったけど……この10年間は本当に楽しかった。初めてやりがいのある仕事に出会えたんだ。そして僕らはここまでやってきた。誰が君に文句を言うんだい?
 この10年でフェルマータは大きく変わった。とてもいい方向にね。それは僕らの仕事の成果だ。妻と別れて以来、娘には苦労をかけたけど、今は胸を張って言えるよ。お父さんは素晴らしい仕事をしているんだってね。パティ、君のおかげだ」
「ケイ……」
「さっきも言ったけど、確かにアインス・フォン・ガーフィールドは天才だ。何せ君という才能を見つけたんだからね」

「実はね、僕も学生時代は友達がいなくてさ。よくいじめられてたんだ」
 パティに肩を貸して歩きながら、ケイは懐かしげに語った。
「そうだったの……」
「ああ。でも言うだろ? 終わり良ければすべて良し、ってね。問題はどんな大人になるかだよ。僕はねパティ、今度の同窓会が楽しみで仕方がないんだ。仕事が忙しくて、今まで一度も顔を出していなかったから……僕がメルクで副官をやってるなんて知ったら、みんなどんな顔をするかな?」
 悪戯を企む子供のようなケイの笑顔を見て、パティも微笑んだ。
「……そうね、今の私たちはフェルマータ合衆国最強のコンビよね……過去は問題じゃないわ」
「ああ、その通りだ」
 ケイは力強くうなずくと、バジルの口調を真似て言った。
「やっとわかったのかい? ベイビー」

「……ケイ……悪いけど、それだけは似合わないわ……」
「ああ、僕も今そう思った……一度やってみたかったんだよ」

   /

「イマーニはプライス博士の19番目の人形。能力は一言で言うと『幻』だ」
 バジルとアイズはパティを捜して森を進んでいた。
「ふーん……でも、何でそのイマーニがこんなことをするの?」
「さぁね。女心ってのはわからないもんだ」
「……それ、本気で言ってるの?」
 アイズのつっこみに、バジルは妙に真面目な顔で答えた。
「ああ、本気だぜ?」
 その時、何かが焼ける音と臭いと共に、大量の煙が辺りを覆った。
「ゴホッゴホッ、何よこれ?」
「またか……」
 バジルが剣を抜き、前方の空間を一閃して剣圧で煙を吹き飛ばす。

 そこには、無残な廃墟の光景が広がっていた。


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無理!

2010年03月03日 | Weblog
 今日中に更新とか無理です(汗)。
 息子まだ治ってないし。自分のことまるでできてないし。
 ようやく固形物を食べられるようになったと思ったら、昨日また全部吐いてしまいました。

 というわけで、今週のマリフォニはお休みです。
 第二章に入ってから休載多いよ……よくない流れだよ……。


 これだけというのも読者の皆様に失礼な話ですので、一つイラストを掲載します。
 私が心よりお仕えする永遠のお嬢様、黒雛 桜さまより贈り物をいただきました。



 本編ではまずお目にかかれない、正装のスケアとバジルです。
 きっと情報局の仕事で表舞台に出るときはこんななんですよ!

 ……意外と似合うなあ、眼鏡。