森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

日々の生物(ナマモノ) 第38回

2009年01月15日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「昆虫にも血管があるの?」
A:「ありますが、中途半端です」

 体内にある血管の経路のことを「血管系」と言います。
 血管系には「開放血管系」と「閉鎖血管系」があります。ヒトなどの脊椎動物と昆虫などの節足動物はそれぞれの血管系の代表格なのですが、どちらがどちらの血管系かわかりますか?
 答えは昆虫が「開放血管系」、ヒトが「閉鎖血管系」です。どうも「閉鎖」という言葉がイメージ悪いのか、質問すると大抵、間違えます。勿論、間違えてくれそうな生徒を当てるんですけどね。

 血管には動脈と静脈がありますが、この間が毛細血管でつながっているのが、閉鎖血管系になります。開放血管系は太い動脈と静脈はありますが、途中で途切れて毛細血管がありません。
 脊椎動物の血管には文字通り赤い赤血球が流れていますが、これは毛細血管からも外には出ないので「閉鎖」血管系になります。血管から外に出るのは液体成分の「血しょう」だけで、これが細胞の間に入ると「組織液」と名前が変わります。水ぶくれを潰したり、皮がめくれると出てくる透明な液体が組織液ですが、元々は血液の液体成分です。
 昆虫などの開放血管系の場合、動脈はありますが、体の各部まで来たところで途切れて、そこから流れ出た血液は直接細胞間を通ってから、静脈へ戻ります。
 血管の外に血液(昆虫の場合は体液)が出るので「開放」血管系です。

 例えるならば、大型トラックで工場(心臓)を出発し、高速道路(大動脈)を通って目的地の近くまで行き、そこから一般道(動脈)に下りて、どんどん細い道(毛細血管)に入っていき、目的の家(細胞)の前で停車して荷物を下ろして届けた後で、また高速(静脈)に乗って帰ってくるのが閉鎖血管系のイメージです。この場合、トラックは道(血管)から外には出ていません。
 一方、高速から下りるとそこから道路がなくなり、家は車のギリギリ通れる隙間を残して密集して並んでおり、その隙間を通って目的地の玄関先まで行き、そこで荷物を下ろして帰ってくるのが開放血管系です。この場合、隙間はあるけど、明確な道はありません。

 2つの血管系の違いが生じるのは酸素の運搬方法の違いになります。
 脊椎動物の場合、血管内には赤血球が流れており、これが体の各部に酸素を届けます。赤血球は通常の体細胞より少し小さい程度で数も多く、これがスムーズに移動するためには太い血管が必要になります。先程の例え話でトラックと言いましたが、トラックが連続して通れるくらいの道が必要なわけです。

 昆虫の場合、血管の代わりに体中に「気管」という空気の通り道が走っています。これが体中に酸素を届けるので赤血球のような酸素運搬用の血球は必要ありません。昆虫の場合、血球は人間の「白血球」のような免疫の為のものしかありません。人間の場合でも白血球は赤血球より数が遥かに少ないので、太い血管を隅々まで通す必要がないのでしょう。
 整備された道はないけど各家をつなぐトンネルがあって必要な物がそこを通ってやってくるような感じでしょうか。

 ヒトの血液が赤いのは赤血球にヘモグロビンという赤い色素があるからですが、昆虫の場合、そのような血球がないので体液には色がついておらず、食べた物の色がそのまま現れます。虫を潰してしまったときに白とか緑色の液体が出るのは、その虫が植物を食べているからです。

 ちなみに閉鎖血管系を持つ生物には脊椎動物の他にミミズなどの環形動物がいます。環形動物は脊椎動物の直接の祖先で、脊椎動物の閉鎖血管系も環形動物から受け継いでいます。ミミズに感謝しましょう。

日々の生物(ナマモノ) 第37回

2009年01月10日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「ムギとハトムギはどうちがうの?」
A:「穀物なのがムギ、ハトムギは薬用植物」

 授業で使っていたプリントは前回でネタ切れなのですが、身近なところから質問が出たので新たに答えることにします。
 今回は、なんと篠森の息子(5歳)からの質問です。
 ……しかし、しぶい質問ですね。流石はIQ140超ですな。

 さて、ハトムギって知ってますか? 
 私の場合、名前は知っていますが、具体的に植物の姿は浮かんできませんでした。
 一番最初に思い出したのが某CMソングです。

「ハトムギ、玄米、月見草~、ドクダミ、はぶ茶、プーアール~~~爽健○茶」

 ちなみに私はプーアールと聞くとドラゴンボールのブタをまず思い出します。
 あ、あっちはウーロンか。

 そんなわけで、お茶に使うことは知っていてもそれ以上のことは知らないハトムギですが、イネ科ジュズダマ属の穀物です。ムギとついていますが、コムギやオオムギとは遠縁の植物で、むしろトウモロコシに近い植物です(コムギ、オオムギは同じイネ科植物ですが、その次の「亜科」の段階でハトムギとトウモロコシを含むグループとは別のグループに別れます)。

 形もかなり異なります。
 元々、ハトムギはジュズダマという植物を作物化したものです。このジュズダマという植物、水辺に生えるムギのような植物なのですが、大きな丸い種子を付けるのが特徴です。ジュズダマという名前はこの種子を数珠やお手玉の中身にして子供が遊んだことから付けられています。


 左からハトムギ、ジュズダマ、ハトムギの種子の写真。
 ハトムギとジュズダマはほぼ同じ外見です。

 上の写真で見ると、丸く膨らんだ所から小型の穂が出ているように見えますが、丸い部分が雌花、先端の穂が雄花になります(正確には雌花があった場所が丸く膨らんでいます)。近縁のトウモロコシも雄花と雌花が一つの植物の上下に存在しますが、ハトムギはムギの穂の上下に雄花と雌花が分かれていると考えてください。そして下の雌花が丸い種子になります。

 そんなわけでハトムギはムギという名前とは裏腹に、かなり大型の種子をつけます。
 この種子を干したものは、いぼ取りの効果、利尿作用、抗腫瘍作用などがあるとされており、薏苡仁(よくいにん)という名で漢方薬として使われていました。ちなみにハトムギのエキスには保湿作用、美白作用があり、基礎化粧品にも使われます。
 栄養価も高い穀物なので、薬や茶以外にも近年では健康食品として利用されていますが、妊婦には悪影響があり、食べないほうがよいとされています。
 コムギやオオムギと異なり、主食として食べるのには適していなさそうですね。
 長靴一杯は食わないほうがよさそうです。

 ちなみにハトムギは中国大陸から朝鮮半島を経由して入ってきた作物で、昔は四石麦(しこくむぎ)という名がついていたそうです。これは1反歩(約10アール)で、4石(約180リットル)の収穫があるということからついたとされています。
 ハトムギという名前は明治以降についた名前で、ハトが好んでその実を食べることからついたそうです。

日々の生物(ナマモノ) 第36回

2009年01月06日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「どうして植物は重力に逆らって育つんですか?」
Q:「どうして川の魚は流れに逆らって泳ぐんですか?」
Q:「どうして蛾は光に向かって飛ぶんですか?」

 生物学の用語に「走性」というものがあります。「ある刺激に対して生物が決まった動きを行うこと」を指します。刺激には光や温度、それに水流や重力などもあります。植物は「重力に対して逆らって育つ性質(走地性)」(注1)、川魚は「流れに逆らって泳ぐ性質(走流性)」を持つと言えます。
 この走性という用語は昔の教科書には載っていましたが、今の教科書には載っていません。理由は幾つかありますが「当たり前のこと過ぎて、いちいち用語にするのは無意味」というのが大きいと思われます。正直、ツッコミどころが満載なのですよ。

「植物は重力に逆らって育ちます」
 →「地面にめり込んだら、枯れるだろうが!」
「川魚は流れとは逆に泳ぎます」
 →「逆に泳がなかったら、海まで流れていくだろうが!」

 動物の行動を決める機構は複雑ですが、生存の可能性を上げるという共通の目的があります。野生動物は火を見ると逃げますが、それは火に向かっていくと死ぬ可能性が高いからです。植物の成長には光が欠かせませんし、川魚は決まった場所に住んでいる方が生活しやすいわけです。細かい機構まではよくわかっていないことが多いですが、動植物の動きは合理性を追求した結果と言えます。
 ただ、それでは説明できないのが「蛾が光に向かって飛ぶ」です。光源が火である場合、それこそ「飛んで火に入る夏の虫」で死んでしまうわけです。

 これが何故起きるのかと考えていくと、どうやら生物としては想定外の出来事が起きている結果である、と言うことができそうです。
 夜中に光に集まる昆虫には幾つかの条件があります。

①夜中に活動すること。
②微弱な光を関知して、自分の位置を判断すること。

 夜間に飛ぶ虫は、月明かりなどを目安に方向を定めて飛行します。月はかなり距離が離れていますので、移動しても見える方向はほとんど変わりません(夜道を走っていても月の位置は変わりませんよね)。
 なので、飛行する方角を月明かりがある方向に対して、一定の角度を保てば、常に同じ方向に飛行する事が可能なわけです。
 しかし、電灯などすぐ近くにある明かりの場合、例えば昆虫の右前方に電灯があるとすると、そのまま真っ直ぐ進めば、明かりの見える方向も移動します。車に乗って景色を眺めると、遠くの山などは位置があまり変わりませんが、目の前の建物はすぐに位置が変わるのと同じ理屈です。
 この場合、昆虫は明かり(電灯など)が同じ方向に見えるように飛行方向を決めるわけですから、そのように補正し続けていくと、だんだんと明かりに近づいていくことになります。さらに、明かりに近づくと、光の周りをぐるぐる回ることになってしまうのです。

 月の光を基準にした飛行は渡り鳥も行っています。ただ、鳥は明かりの種類を識別できるので、火の中に飛び込んだりはしません。夜行性の昆虫(たとえば、カブトムシは基本的に夜行性)も昼間に活動する際は太陽に向かって飛んでいったりしないわけですから、まったく識別できないわけではないのでしょうが、人工的な明かりは昆虫にとって想定外で対処できない光のようです。


注1)
走性は動物にのみ使う用語で、植物の場合は「屈性」という用語を使います。

日々の生物(ナマモノ) 第35回

2008年12月28日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「ウサギが独りぼっちで寂しいと死ぬって本当?」
A:「嘘です。ウサギは孤独を愛する一匹狼タイプです」

 現在の日本で一般的なウサギは外国の品種で、本来は地面に穴を掘って巣を作ります。おまけに縄張り意識の強い生物なので、むしろ単独で生きているほうが良いようです。日本の品種は巣穴を掘らず、森に住んでいたようですが、基本的な習性は変わらないようです。
 と、言うことで、飼うときはむしろ密度が小さくなるように注意したほうがいいでしょう。あと、檻の床が土だと穴を掘って逃げますので注意。


Q:「霧(きり)と靄(もや)は何が違いますか?」
A:「見た目」

 上空で空気中の水蒸気が凝結して、細かい水滴となって浮かんでいている状態が「雲」です。
 これが地上で生じると靄と霧になります。二つとも地上にできた雲ということですね。
 そして、この二つは密度で分類されます。濃いと霧、薄いと靄になります。
 日本式の分類では視程(どこまで見通せるか)が1km未満のものが霧、1km以上10km未満のものが靄とされているそうです。見た目で分類しているわけですね。


Q:「ナメック星人はどうして腕が再生できるんですか?」

 再生能力を持った敵キャラというのは結構沢山いるのですが、ドラゴンボールのピッコロが特に強烈なインパクトを誇っているのは、いきなり切り口から腕が突き出してくるからですね。「その腕は何処に入ってるんだ?」とツッコミたくなります。
 皆さんはさすがにやらないでしょうけど、私は小学生くらいで見たので、よく遊びました。袖の中に腕を入れておいて、ズバッと突き出す遊び。
 まあ「ナメック星人だから」でいいのかもしれませんが、劇中でピッコロが行った身体操作を挙げてみると、①腕の再生、②腕を伸ばす、③巨大化、④分身、⑤指の数を増やす(笑)などがあります。あと、口から手下や子供を産めるというのもありますね。
 恐らくナメック星人はすさまじく細胞の分裂が早いのでしょう。巨大化できることから細胞も急激に大きくできるのでしょう。ですから、大きな腕を体内で作るのではなく、切り口で小さく腕を作り、それを巨大化させているのかもしれません。そうすれば腕が突き出してくるように見えるはずです(②と③を合わせた感じで)。
 個人的には、地球人のはずなのに①背中から腕を突き出したり、②分身ができる天心飯のほうが不思議です。彼は何なのでしょうね?

日々の生物(ナマモノ) 第34回

2008年12月27日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「スカイフィッシュって何?」

 1994年に発見されたスカイフィッシュは未確認動物(UMA)の一種で、筒状の体に羽を持ち、高速で飛び回る生物だとされています。
 あまりに早いので肉眼では見えず、ビデオ撮影された動画をスロー再生することで初めて確認されます。ちなみに生息場所はUFO墜落で有名なアメリカのロズウェル、スカイダビングで有名なゴロンドリナス洞窟、それと日本の六甲山とされています(笑)。
 この設定が一部の人達に好評だったのか、様々なメディアで取り上げられました。たとえば「ジョジョの奇妙な冒険」には「スカイフィッシュを操る能力者」が出てきます(ちなみにこのキャラクターの「俺はアポロ11号だーッ!!」という台詞は劇中屈指の名台詞として有名です)。
 ただ最近になって、これは飛行している虫の「残像」が棒状の生物のように見えているだけではないかと考えられるようになりました。
 地球上に「人類未踏の地」があった頃はネッシー、雪男といった未確認動物も信憑性があったのですが、現在ではそのような生物のリアリティも失われています。その代わりに出てきたのがスカイフィッシュという「身近にいるけど気付かない」設定の未確認動物だったのでしょう。
 変わった物好きとしては、少々寂しい話ですね。

日々の生物(ナマモノ) 第33回

2008年12月23日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「ナマズが地震を予知するって本当?」
A:「ナマズは地震には敏感ですが、予知までは無理なようです」

 ナマズは地震と縁の深い生物です。昔は地面の下に巨大なナマズがいて、地震を起こすとされていました。江戸時代末の「安政江戸地震」の時には「鯰絵」というものが出回ったほどです。
 これは人々が巨大なナマズをやっつける絵で、地震に対するお守りとして売られていました。歴史の教科書で見たことがあると思います。

 現在でもナマズは地震に敏感な生物として知られており、ナマズを使った地震予知が様々な研究機関や大学で研究されています。ただ、その根拠は結構いいかげんです。

 そもそも、地震を起こすとされていた生物はナマズではありませんでした。
 地震=ナマズの関係が最初に指摘されたのは安土桃山時代とされています。豊臣秀吉が地震対策のことを「ナマズ対策」と言ったという話もあります。庶民派の秀吉ですから、地震=ナマズの認識は、当時広く一般に知れ渡っていたものと思われますね。
 さて、それではナマズの前は何だったのかというと、実は「龍」でした。
 風水という考え方を知っているでしょうか? テレビでインチキくさい占い師(誰とは言いませんが)が家の間取りを変える根拠に使ったりしていますが、元々は中国で発達した理論です。
 その風水の用語に「龍脈」というものがあります。これは地面の下にあるエネルギーの流れで、これが乱れると地上に災いが起きるとされています。元々は地面の下にいるのは巨大な龍、もしくは蛇状の生物だったのですが、これがいつの間にかナマズに変化したのです。
 龍がナマズに変化した原因は両者が似ているから……正確には、ナマズこそが龍のモデルになった生物だからです。ナマズはかなり巨大になる生物で、稀に1mを超えたりします。おまけに水底にいてよく見えないので、「水中にいる蛇みたいな巨大生物」と思われ、龍のモデルになったと考えられています。
 ナマズが龍のモデルになったことはヒゲからわかります。ナマズには感覚器官である長いヒゲがありますが、龍にもヒゲがあります(例:ドラゴンボールの神龍)。これは龍を絵に描く時にナマズをイメージしたからとの説があります。

 上で説明した通り、元々は龍だった「地震を引き起こす生物」はナマズに変わりました。ナマズは元々西日本にいた魚で、東日本まで広がったのは江戸時代以降だそうです。新しく入ってきた珍しい姿の魚を見て、江戸の人たちは驚いただろうと思います。
「この魚、話には聞いていたけど本当に龍みたいだし、地震にも敏感だぞ!」
 ……っていう感じで。

 実際のところ、ナマズに予知はできるのでしょうか?
 最初に言ったとおり、ナマズは非常に地震に敏感です。視界の悪い水底にいて長いヒゲで周囲を探って生きているので、振動を敏感に察知できるのです。地震が発生する前に生じる電磁波を感じ取ることができるとも言われています。
 ただ、昔から研究されている割に具体的な成果はあがっていません。
 そもそも、動物を使った方法以外でも地震予知は成功しておらず、こればかりは正に「天任せ」としかいいようがありません。中国では国レベルで動物の異常行動などを集めて地震予知を行う取り組みを行い、実際に一度予知に成功したのですが、その翌年の地震では予知に失敗しました(現在は行われていません)。
 将来、完璧な地震予知が現実のものとなればいいですね。

 
 最後に、ナマズと地震に関する松尾芭蕉が弟子と詠んだ歌をご紹介。


 大地震 つづいて龍や のぼるらん (芭蕉の弟子)
 長十丈の 鯰なりけり (芭蕉)

意味
「大地震の後に龍が天に昇っていくよ」
(と弟子が幻想的な描写をすると)
「それ、大ナマズやし(笑)」
(芭蕉が下の句でツッコミを入れた)


 ……それでいいのか? 芭蕉。それで。

日々の生物(ナマモノ) 第32回

2008年12月21日 | 日々の生物(ナマモノ)
ゲテモノ編-3


Q:「ゲテモノはいつから食べられていますか?」
A:「大昔の人はみんなゲテモノ食いでした」

 この質問、何を「ゲテモノ」とするかで変わってくるのですが、下で「ウニ」が出てきているので、今回は「ナマコ」について答えます。
 ナマコは生きている姿を見ると食う気になれない気持ちの悪い生物で、よく「ナマコを世界で初めて食べた人は勇敢だ」と言われたりもします。たとえば、「ディライト」という映画では主役のシルベスター・スタローンがナマコを初めて食った人がいかに勇敢かを力説していて笑えました。

 ただ、ナマコは日本や中国では古くから食用されており、かの「古事記」にもナマコが出てきますし、松雄芭蕉もナマコを題材に俳句を詠んでいます。

 生きながらひとつに凍る海鼠かな 松雄芭蕉
 意味:桶の中で海鼠が何匹も重なりあい、あわれにも生きたまま、一つになって氷りついているよ

 海鼠とはナマコのことですが、漢字のほうを後から当てはめたようで、昔は調理したナマコを「コ」と呼んでいました。未調理のナマコは生きているので「生のコ」→「ナマコ」です。昔は「コ」と呼んでいたことは、ナマコの内臓の加工品を「コノワタ(コの腸)」と呼んでいることからもわかります。
 狩猟や漁の器具や技術が未発達な昔の人々は、第一に捕まえやすさを重視していました。美味しくても捕まえにくい動物より、グロテスクでも動かない生物のほうがよいということです。特にナマコは刺も毒もなく、逃げもしないので、日本人は神代の時代から食していたようです。

日々の生物(ナマモノ) 第31回

2008年12月20日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「スカシカシパンって何ですか?」
A:「ウニ」

 スカシカシパンは、棘皮動物ウニ綱タコノマクラ目カシパン亜目スカシカシパン科に属する生物です。簡単に言えば、ウニです。ウニですが平べったく、長い刺がありません。
 このスカシカシパンは昨年、かの中川翔子がブログでネタにしたので、少しだけ(本当に少しだけ)ブームになっております。この質問もそれを知っているからでしょうね。
 ちなみにブログでの紹介文章は以下の通り。

「スカシカシパンは、カシパンにそっくりだし、花のようなもようと、すかし穴がある、カシパンににた海の生き物なんだお ギザカワユス みてるとお腹すいてくるお でもじつはウニ」

 ……実に的確で無駄のない文章ですね。
 たった80文字でカシパンの生物学的な分類と特徴を説明しつつ、感想文までも書くとは並の文章力でできることではありません。
 何でも彼女のブログを元にローソンでスカシカシパンをモチーフにしたパンが発売され、アニメ化もされるそうです。

 ちなみにカシパンというのは明治以降についた名前です。
 現在は刺のあるなしに関わらず「ウニ」と呼んでいますが、昔は様々な名前がついていました。実際、ウニというだけでも漢字は「海胆」、「海栗」、「雲丹」と色々な漢字がついています。
 一般的には生きているウニを「海胆」、食用にする中身だけだと「雲丹」と表記します。だから、スーパーなどに置かれている加工品だと「雲丹」の表示になります。
 ちなみに食べている部分はウニの「生殖腺(精巣・卵巣)」です。
 胆は内臓を表す漢字ですね。海にいる内臓だけの生物、という意味でしょうか。丹は朱色を表すので、生殖腺の色を示していると思われます。

 他にもウニの名前は本当に適当で、連想したことをそのまんま名前にしたようなものが多くあります。
 例えば、学名にもなっている「タコノマクラ(蛸の枕)」や「バフンウニ」、「ブンブク」というのもあります。どちらも刺がないタイプのウニの呼び方です。特に「タコノマクラ」なんか最高ですね。タコがウニを枕にして寝ている光景を想像すると実に楽しい(実際にはそんなこと起こりませんが)。
 「ブンブク」は狸が茶釜に化けたという「ぶんぶく茶釜」に由来します。刺のないウニは茶釜に似ている→「ぶんぶく茶釜」という連想ですね。
 ウニは海岸で普通に見かけるので(おまけに逃げない)、話の種にしやすかったのでしょう。

 その中で最近になってできたのが「カシパン」と言う呼び方です。
 詳しくはわかりませんが、明治以降に「菓子パン」ができてから広まった呼び方のようです。
 日本で初めて作られた独自の菓子パンは1874年(明治7年)に木村屋が作った「あんパン」ですが、形から考えると「パンケーキ(ホットケーキ)」の方をイメージしていたのかもしれません。

 ちなみに、「スカシカシパン」の「スカシ」のほうは中川翔子の文章にもあるように、殻に5つの穴が開いていることから「透かし」とつけられたようです。

日々の生物(ナマモノ) 第30回

2008年12月18日 | 日々の生物(ナマモノ)
ダイエット編-2


Q:「通販で売ってるアブトロニックって本当にダイエットできるの?」
A:「ある程度は効果があるとは思うけど、あれだけでは痩せません」

 深夜放送の通販番組で筋肉ムキムキなお兄さんが腹を震わせながら売っているのがアブトロニック……とその類似品です。最初のブーム時には日本だけで100万台を売り上げたとされています。
 これは低周波(電気信号)で筋肉を動かすEMS(Electrical Muscle Stimulation / 電気筋肉刺激)という仕組みを利用した装置で、家庭にある「低周波マッサージ器」や「電気風呂」も同じ原理を用いています。
 電気信号で強制的に腹筋を動かし、脂肪を減らすというのが装置の目的です。

 さて、食べたものは消化され、体を作る材料になったり、活動のためのエネルギーとして利用されます。それらが残った場合は糖分や脂肪として体に貯蔵され、運動する際にエネルギー源として消費されます。脂肪を直接摂取した場合は勿論、糖分も一部は脂肪に変化して貯蔵されます。
 運動で脂肪を燃焼させる方法は以下の二つ。

 ①有酸素運動をする
 ②筋肉を増やす

 ①の有酸素運動は酸素を取り入れながらする運動で、いわゆる「エアロビクス」ですが、ウォーキングやサイクリングなどの軽い運動にも同じ効果があります。この時、脂肪と糖分が半々の割合で消費されるそうです。一方、息が切れるような激しい運動では糖分が優先して消費されるため、逆に脂肪は減りにくいと言われています。
 ②の場合は、筋肉がつく→筋肉を維持するために長時間エネルギーが使われ続ける→消費カロリー増大(有酸素運動と同等)の過程で脂肪が消費されます。エンジンの大きい大型車のほうがガソリンの減りが早いのと同じ理屈です。

 EMSは有酸素運動ではないので、②の経路で効果が現れることになります。まず筋肉がつき、その筋肉が消費することで脂肪が減るということです。
 女性の方で「筋肉がつくのは嫌」という人は有酸素運動を行って下さい。有酸素運動は筋肉量を増やすことには向いていませんが、持久力は向上します。スポーツをしている人は二つの方法を同時に行うのがよいでしょう。
 ただ、アブトロニックには腹筋運動ほどの効果はないようです。普段から腹筋運動を行わない人には効果があるでしょうが、日常的に腹筋運動をしている人には効果が感じられないかもしれません。補助的なものと割り切って使うのが良いでしょう。


★ダイエットのポイント

①有酸素運動は一日20分以上。
 20分以上の運動で脂肪が燃焼され始めるそうです。ただし、連続して行う必要はないそうです(10分の運動を2回繰り返しても可)。息が上がると、逆に効果が薄れます。

②夜寝る前には食べない。
 就寝の2時間前以降に摂取したカロリーは脂肪として蓄えられやすいそうです。逆に朝食はいくら食べても大丈夫です。

③1日3食きっちり食べる。
 中途半端に食事を抜くと、体が「定期的に食料を得るのが困難な状況にある」と判断します。その結果、摂取したカロリーを全力で貯蔵に回そうとするので、逆に太ることになります。

日々の生物(ナマモノ) 第29回

2008年12月17日 | 日々の生物(ナマモノ)
ダイエット編-1


Q:「筋肉って脂肪よりどれくらい重いんですか?」
A:「一割以上重いようです」

 基本的に脂肪よりは筋肉のほうが重くなります。
 どれくらいの差があるのかと言えば、水の比重を1.0とすると、筋肉の比重(密度)は約1.0で、脂肪の比重は約0.9になるそうです。ですから、同じ体積では筋肉は脂肪より一割以上重いということになるようです。
 脂肪が軽いのは、水よりも軽い油分が含まれていることや、細胞の密度が関係しているのでしょう。

 脂肪のほうが軽いのですから、同じ体重でも脂肪の割合が多いほど肉体の体積が増えることになります。そのため、体重だけで太っているのか、痩せているのかを判断することは危険です。同じプロポーションでも、筋肉や骨格(これも比重が大きい)の割合が高いと体重は重くなります。
 運動によってダイエットをする場合、最初は体重が落ちますが、筋肉がついてくると逆に体重が増えるという現象が起きるのは、筋肉のほうが重いからです。
 もっとも、筋肉の有酸素運動によって脂肪は燃焼されるので、筋肉が増えれば増えるほどに一度に燃焼される脂肪の量も増えていきます。一時的にこそ体重は増えますが、その分、脂肪を燃焼しやすくなり、長期的に見れば体重が減少します。ですから、筋肉をつけておくほうがプロポーションを維持しやすいということになります。実際、女優や女性ミュージシャンは驚くほどのトレーニングを継続して体型を維持しているようですね。


おまけ<ボディビルダーは水に沈むのか?>

 脂肪率のことを調べていると、よく出てくるのが「筋肉は脂肪より重い。だから脂肪のほとんどないボディビルダーは水に沈んでしまう」という話です。
 実際、浮力は比重の小さい脂肪が多いほど高くなります。筋肉はごくわずかながら水より比重が大きいため、筋肉だけなら水に沈むことになります。料理をしていればわかりますが、赤味の肉は水に沈みますし、脂身が多ければ浮かびます。
 では、ボディビルダーは本当に沈んでしまうのかといえば、そうではないようです。人体には最低限必要な脂肪が存在するので、完全に脂肪をなくすことはできないようです(言い換えれば、その脂肪を失ってしまったら死んでしまうということです)。消化器や呼吸器の中には気体がありますし、全体的に見れば、人体が水よりも比重が大きくなることはありえません。
 考えてみれば、一流の水泳選手は普通のボディビルダー以上の体をしていますが、沈まずに泳いでいますね。

 ……ただ、見たかった気はしますね。プールの底に沈んでいるボディビルダー……。