親和会27年度総会のあと 大正琴の演奏会があった 平成27年4月18日
オリーブの首飾り 尾山美知子
「さくらさくら」のメロディーが自治会館のなかにひろがる。大正琴の合奏である。ボランティアの奥さん達の合奏であった。紫色のブラウスにピンクのスカーフが愛らしい。七人の奏者のそばに先生。はじめて眼にする可愛い楽器である。
自治会の老人会の総会のあとの演奏会である。
今朝会場の入口のところで会員の一人がつれの手をとって「退院されたんですよ。」とさけんでいた。「えー。」とそばにいた数人が声をあげる。「知らなかったわ。」「でもよかったわね。」あちこちでささやく。
その方は九五歳で自治会の最長老でみんなが知っている人である。
「肺炎だったんですよ。」と説明がつづく。頬がふっくらして薄紅色だ。
演奏曲目は「朧月夜」「月の砂漠」とつづく。黒板にある次の曲目には「オリーブの首飾り」とある。大正琴のはなやかな音色で「オリーブの首飾り」のメロディーが室内をみたした。
「これって手品のショーには必ずつかうのよね。」以前誰かが云ったことがある。そういえば息子の結婚披露宴のとき、私の妹がこの曲を流しながら手品のショーをした。
娘が置いていったピアノで私はこの曲を練習したことがある。十年前私はふっと駅前のピアノ教室に足をはこんだ。私はまだ六十歳代であった。ピアノは初めてだったが両手でドレミからはじめて、そしてバイエルを卒業した。やさしいピアノ曲集を楽しむことが出来た。「早春賦」「花嫁人形」「上を向いて歩こう」「ある愛の詩」初心者向けに編曲されたものを先生に教わりながらだった。「オリーブの首飾り」もやさしい編曲ながら曲らしく弾けたのだった。「エリーゼのために」これも初心者向けの編曲をしたものだった。いつか正式の曲にとりかかりたいと思っていた。「エリーゼのために」をちゃんと弾けるようになったら、御褒美ちょうだいね。と夫にいったものだった。
ピアノは突然やめた。夫の入院のときだった。夫の病気は回復せず退院する事はなかった。それ以来ピアノの前に座ることはない。ピアノを練習したのは七年ほどだったのだろうか。
大正琴の音色の「オリーブの首飾り」のメロディーは私のからだに染みこんできた。私の眼はウルウルになってきた。なぜ?なぜ?泣くことなんかないじゃないのと問うてみる。あのピアノを無邪気に弾いていた時間はなんだったのだろう。もう取りもどすことが出来ない時間だった。もう過去のことになってしまった貴重な七年という時間なのだ。
大正琴の演奏は次の曲に移っていた。いくつかの曲目のあと、さらに演奏にあわせての合唱となった。歌集がみんなにくばられたが、みな知っている曲で一斉に声があがる。「浜辺の歌」「茶摘」と数曲つづく。そして「四季の歌」
秋を愛する人は 心深き人
愛を語るハイネのような ぼくの恋人
歌いながらウルウルになってくるのをとめられなかった。帰りの出口で幹事さんにとってもよかったとお礼を云った。帰り道一緒だった奥さんが「わたしね、最後の「ふるさと」のときウルウルしちゃって。」と云った。「わたしも。」といいそうになったけどやめて「そお。」と相槌をうった。