私の般若心経Ⅲ
尾山美知子
般若心経は何を語っているのだろうか。何を教えているのだろうか。
この経は、仏陀が弟子の舎利子に観世自在菩薩の姿を通して仏陀が悟りに到った思想を語るのである。智慧の完成によって苦悩からの脱却を教えている。
智慧の完成とはどのようなことなのか。
照見五蘊皆空 度一切苦厄
五蘊とは何であるのだろうか。
五蘊とは五つのかたまりであり、それは色、受、想、行、識である。色はかたちあるもの、目にみえるものである。受、想、行、識は人間の精神活動を意味する。
空とは何であるのだろうか。
空は実体がないという意味である。原語ではスニヤターといい、なにもない状態を意味する。存在しているが、固定的実体がない。この世の現象としては実在しているものの、その本体は存在していないとみるのである。この世のすべては変化していく。万物は流転するという見方である。諸行無常は仏教の思想であり日本仏教の主流となっている。
五蘊は空であると見きわめたということは仏陀の悟りである。
空であるという意味は、仏陀の教えの十二縁起で明らかにされる。すべてこの世に存在するものは縁によって起るものである。万物は因縁により生ずる。この世の存在で永遠不変の固定的実体はないのである。これは仏陀が発見された真実である。この世のすべては現象的世界とみるのである。五蘊は空であるということ、すなわち現象世界には永遠はない、空であることを認識することを空観という。
十二縁起の教えは「無明」にはじまる。「渇愛」から「老死」にいたる。「無明」がなくなれば「老死」はなくなる。菩薩になる道を一歩一歩すすむことを教えるのである。
仏陀は四つの真実を教える。
1、苦 人生は苦しみに満ちている。
2、集 苦には原因がある。
3、滅 原因を滅ぼせば、苦が滅する。
4、道 滅ぼす方法がある。
苦しみは、四苦八苦といわれ、四苦は生老病死、それと愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦があげられる。
この世の苦悩をいかにほろぼすか、仏陀は教える。この世の現象として存在することがらを、智慧の目で真実を見きわめることが空観でみることなのです。
しかしこの世は現象世界であり現実に存在するものであり、無常の世から逃れることは出来ない。「空即是色」なのです。
不生不滅、不垢不浄、不増不減
この世の現象世界では生滅、垢浄、増減の相対的世界である。しかし空観でみれば、変化しない永遠の世界にかわる。
無無明、無無明尽、無老死、無老死尽
無明からはじまり老死まで十二縁起でこの現象世界は説明される。存在は現象としてあるのである。
無苦集滅道
仏陀が明らかにした苦集滅道さえも空観によってこだわりを捨てることで無となる。
心無罣礙、無罣礙故、無有恐怖、遠離一切顛倒夢想、究竟涅槃
執着を捨てこだわりがないから恐れることもなく、顛倒した心を遠く離れて永遠の平安に入っていけるのである。悟りの世界は英語でspiritual enlightenment 経典は呪文で終わるが彼岸に往ける幸せを念じているのです。
以上、岩波文庫 般若心経 中村元 紀野一義訳註によるものです。