原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

弾劾証拠について

2011-04-06 | 刑訴法的内容
なんで弾劾証拠なのかといえば,今日の教官派遣講義で少しだけ出てきたからです。今日は,刑事弁護教官が東京からやってきまして,刑事弁護について,広島弁護士会館にて,午前中は起案(証拠意見など),午後は講義だったのです。

で,弾劾証拠なのですが,328条は,321~324の規定により証拠とすることができない書面・供述でも,供述の証明力を争うためには,証拠とすることができる,旨を定めています。

要するに,証人Xが,法廷で,「放火したのは被告人甲です」と証言した。ただ,実はこのX,警察から事情を聴かれた時には,「私は放火した人を見ていない」とか,「放火したのは乙です」とか言っていた(KSになっている)。こういう場合に,弁護側が,法廷での「放火したのは被告人甲だ」という証言の証明力を減殺するために,KSを証拠にできるってことですね。

しっかり押さえてほしいのは,ここでの立証命題は,「Xが別の機会には法廷と違うことを言っていた」ということです。となると,その「違うことを言っていた」事実の有無(存在)が問題になるので,内容の真実性は問題にならず,そもそも伝聞証拠ではないのですね。328は当然のことを規定したまでです。あくまでも,乙が放火したことを立証しようとするのではないのです(この場合は,乙が放火したかどうか,内容の真実性が問題になるので伝聞であり,そりゃやっぱり証拠にできない)。「このXという人,別のこと言ってたじゃん。大丈夫なの?信用できないでしょ」という立証ならば,伝聞法則の規制ははずしてもよかろう,そういう規定です。

これがわかると,自己矛盾供述に限るとか,このあたりの話がすっきりするはずです。自己矛盾供述というのは,「自分で言ってることが違うこと」です。上記の例です。では,自己矛盾供述と対立するのは?あまり聞き慣れませんが,他者矛盾供述とでも言いましょうか,Xが自分で違うことを言ってるんじゃなくて,「Y」が,「放火したのは乙だ」などと言ってる場合です。

この場合,「Y」が言ってるんですから,「Xが別の機会には別のことを言っていた。この人大丈夫?」を立証命題にすることはできません。「Xは甲が放火したと言い,Yは乙が放火したと言う。どっちが本当なんだ?」ということになってしまうので,これは供述(証言)の内容の真実性が問題になってしまうのです。だから,弾劾証拠は自己矛盾供述に限る,と言われるわけです。よく言われる,「実質証拠として用いられる危険」というのをかみ砕くと,こういうことになります。

で,ここから先は論文・刑訴の大好きな重判の問題。上記のKS,要するにXが,「私は放火した人を見ていない」「放火したのは乙だ」と述べているKSです。これに,Xの署名・押印がなかったらどうでしょう?328の証拠にあたるか?最判H18.11.7は,次のように述べます。

「本条は,…矛盾した供述をしたこと自体の立証を許すものであり,矛盾する供述をしたという事実の立証にについては,刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であるから,本条により許容される証拠は,…供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る),…に限られる」

こう判示して,供述録取書で署名押印のないものは,本条(328)が許容する証拠にあたらない,と判断しました。要するに,厳格な証明が必要なので,328の「321~324によって証拠とすることができなくても」とは,「特信情況を欠くとか,供述不能要件をみたさなくても」という意味ですよ,ということです。

こここらへんが,弾劾証拠の理論面の問題です。で,今日の講義で問題になったのは,実は,全然別の問題。

公判前整理手続をやると,「やむを得ない事由を除き」,公判前整理手続が終わった後には証拠調べ請求できなくなります(316の32)。せっかく公判前整理手続をやってるんだから,審理の効率化のために全部証拠請求してください,ということです。

弾劾証拠も??

これは例外です。「やむを得ない事由」にあたるので,後から請求できます(名古屋高裁金沢支部判H20.6.5)。考えてみればわかりますよね。証人Xが,公判で何か証言してくれないと,弾劾の対象が特定できませんから。その証言の証明力を減殺させようとして証拠を出していくわけですよね。

今日は,これくらいにします。模試の方,初日,お疲れ様でした。明日が一番きついかもしれませんが,頑張ってください!

<参考文献>

池田=前田「刑事訴訟法講義(第3版)」(東京大学出版会)416頁以下

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7 コメント

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??? (元さいたま修習生)
2011-04-09 10:49:23
公判前整理手続後に弾劾証拠を出すことは常に「やむを得ない事由」があるとされるというのはいささか疑問を感じますね。
証人が公判で何をいうかは供述調書に記載されていますし,供述調書がない証人については,証言予定事実要旨記載書に書かれるわけですから,ほとんど予測できるわけです。そうであれば,弾劾証拠も予め提出できるのではないでしょうか?事前に出しておいて,証人が証言中に自らボロを出したら証拠請求を撤回すればいいだけですし。
裁判官の中には公判前の中で,「弾劾証拠があるなら事前に予定事実記載書面に書け,そして証拠請求しておけ。」と強権をふるってくる人もいます。
従って,実務的には「やむを得ない事由」があると主張してすんなり通してくれる裁判官の方が少ないような気がします。あくまでも個人的な感覚ですが。

ちなみに,弾劾証拠を利用して証拠請求する場合は,罪体の立証に用いる場合と証拠等関係カード(証拠調べ請求書)に記載すべき立証趣旨も自ずと違ってきますが,どのように記載すべきでしょうか?理論は当然として,実務的にはここまで押さえておく必要があると思います。

検事の立場に立ってみれば,署名押印を書いた供述調書も,まったく役に立たないわけではなくて,別の利用方法があるため,事件記録にちゃんと綴じておくんですけどね。
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コメント2回目 (弁護士(新63期))
2011-04-09 19:52:01
三段階審査の回に続いて、2回目のお邪魔です。結構毎日楽しく読んでますよ。

元さいたま修習生さんは検事さん?

先生は”常に必ず例外なく”という趣旨で書いたのではないでしょう。たぶん。

文言も「やむを得ない事由がある時」なわけで、当然個別的判断が必要になるわけで。

名古屋高判はいつでも認められるかのような書きぶりですが。

裁判官の感覚はどうなんでしょうかね。職権で採用しちゃったこともありましたけど、これは裁判官次第ですかね。

立証趣旨は変わりますが、受験生向けブログではまあ、、、先生は研修所の教官じゃありませんし笑

ところで先生、聞こうと思っていたことが一つ。

今度、広島に行くことになったんですが、牡蠣ってまだ食べれます?牡蠣がないなら、何食べるのかおススメですか?笑
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Unknown (はら)
2011-04-10 02:19:57
元さいたま修習生さん,ご指摘ありがとうございます。弁護士(63期)さんが代わって釈明してくださった通りで,常にあたるという趣旨までは含まない意図でございました。ご指摘の通り,証拠開示を受けて予測できるケースもあるでしょうから(というより,それが常態でしょうが),「常に」とするのは誤りであります。お読みの受験生の皆さんは,個別具体的に判断する視点を,元さいたま修習生さんの指摘から学んでください。

参考までに,弁護士(63期)さんも指摘する名古屋高裁です。曰く,「328条による弾劾証拠の取調請求については,弾劾の対象となる公判供述が存在しない段階では,同条の要件該当性を判断できず,証人尋問終了以前の取調請求を当事者に要求することは相当でないから,本条1項の『やむを得ない事由』がある。」(平成23年度版・有斐閣・判例六法より抜粋)

受験生の皆さんは,これを読むと弾劾証拠について,どういう性質のものか,理解が深まるのではないかと思います。司法試験においては,「弾劾の対象となる公判供述が存在しない段階では,同条の要件該当性を判断できず,証人尋問終了以前の取調請求を当事者に要求することは相当でない」という着眼点・発想が持てるか,それを答案で指摘できることが大事で,その趣旨で今回,この話をいたしました。以下,司法試験「では」押さえる必要のない部分と思いますが,話を戻しまして…

証拠等関係カードの立証趣旨の記載ですが,罪体の立証に使う場合は「犯行状況」となるのが一般的で,弾劾証拠として用いる場合は「自己矛盾供述の存在」「供述経過事実」などと記載すべきで,要は,裁判所が証拠決定するにあたり,内容の真実性を問題とするのか,弾劾証拠として供述そのもの存在を問題とするのかが区別できればよいはずです。

署名押印を欠く調書の利用法については,本文に掲げたH18判例によると,弾劾証拠として328によって証拠とすることはできないわけですよね。とすると,同意があれば証拠とできますが,それ以外は基本的にただの紙切れとして不提出記録の中に眠ることになるはずです。ただ,そうであっても,当然,公判に立会う検察官の目には触れるはずですから,被告人質問・証人尋問において事実上活用することは可能になるように思います。その他,何か方法があるのでしょうか…??ご教授いただけると嬉しいです。

まだまだ勉強することばかりですので,元さいたま修習生さんのような指摘を頂けると刺激になります。ありがとうございます。

弁護士(63期)さん,そうですね,カキはそろそろシーズンが終わるみたいです。広島は,あなご,それから瀬戸内海はタコもうまいとか(私はちゃんと食べたことないんですが…)。あなご飯なんかはオススメです。
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Unknown (受験生)
2011-04-28 14:55:37
質問です。
論文で、弾劾っぽいけど自己矛盾供述ではないものが出た場合、検討の順番としては、

328
でも自己矛盾供述に限定だからダメ
321-324を検討

なのか、それとも

まず321-324を検討、要件満たさない
328(自己矛盾供述限定だからダメ)

という順序で検討すべきなのでしょうか?

328の条文の文言からすれば後者のように思うのですが、答練の優秀答案では前者で書いてあるので・・・

よろしくお願いします。
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Unknown (はら)
2011-04-28 18:12:13
結論からいうと,論理的な先後関係があるわけではないので,どちらもOKと理解していいんじゃないかと思います。要するに,当事者からすれば,「選択的に」主張する点なわけですよね。

「条文の文言からすると」とありますが,「321以下にあたらなくても」という部分は,法律上の要件ではないので(328で証拠能力を認めるための要件ではないので),両者の検討に論理的先後関係はない,ということです。

ですからまず,伝聞で同意がないから原則として証拠能力がないことを一言述べて,

①自己矛盾ではないので→328は使えない→とすると321以下の例外に該当しなくてはいけない。さてどうか?

②まず321以下に該当すれば328を検討するまでもないので,まずその点どうか?→(あたらない)→とすると残された手段は328→自己矛盾でないのでダメ。

論理的にはいずれでも良いことになります。

もっとも,「弾劾証拠かどうかが微妙で(もっと言えば自己矛盾に限るとしてもそれが自己矛盾なのかどうか微妙で),明らかにその認定をさせたい問題」ならば,①の書き方で,その点を存分に検討して,321以下にあたるかどうかはさらっと書く,のが出題趣旨に即した書き方だと思います。

というのも,②の書き方で321以下に該当すると認定してしまうと328の話が出てきませんし,①の書き方でもって出題意図を捉えていることを試験委員に示すためにもまずはそこから存分に検討する,という姿勢が良いと思います。328が問題になる事案では,321以下にはまず該当しないでしょうし。だから,321以下の検討はさらりとで良いのが多くの場合だと思います。

私は,以上のように考えます。

もうひと頑張りです。頑張ってください!
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Unknown (受験生)
2011-04-30 19:20:27
ありがとうございました。
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Unknown (受験生)
2013-04-27 03:06:25
先生のブログで勉強させていただいております。

328条に関する先生の「・・こう判示して,供述録取書で署名押印のないものは,本条(328)が許容する証拠にあたらない,と判断しました。要するに,厳格な証明が必要なので,328の「321~324によって証拠とすることができなくても」とは,「特信情況を欠くとか,供述不能要件をみたさなくても」という意味ですよ,ということです。」という部分に疑問がわきました。

厳格な証明という場合、伝聞法則の適用があるということになるところ、署名押印のないものは328が許容する証拠にあたらない、というのは、伝聞法則の適用はないが、自然的関連性の問題として署名押印ないしそれにかわるものが必要、というご趣旨とみてよろしいのでしょうか?
重判の山田道朗先生の解説では自然的関連性と考えているようなので、私はそのように考えておりました。一方で、調査官解説では、明らかに伝聞法則の適用があると考えているように思えます。
先生がどのようにお考えになっておられるか、ご教示のほど、よろしくお願いいたします。
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