原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

逮捕と勾留

2011-08-24 | 刑訴法的内容
今日から,模擬裁判(裁判員裁判)が始まりました。1日で証拠調べ(被告人質問)まで完了しまおうという,裁判員裁判(それも一部否認事件)にしてはかなり無理あるスケジュールなのですが,そこはあくまでも「模擬」ということで(笑)私は,被告人質問をやって参りました。裁判員はどういう心証を持ったか。本来の裁判であれば,弁護人は評議を傍聴できないんですが,「模擬」では傍聴できるので,裁判員の心証も明日判明する予定です(笑)

さてさて,表題の件に関連して,短答(平成21年・刑事系23問・3)に次のような肢がありました。

「司法警察員は,被疑者を逮捕した時は,直ちに弁護人にその旨を通知しなければならず,被疑者に弁護人がない時は,被疑者の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹のうち被疑者の指定する者一人にその旨を通知しなければならない。」

正解は,×ですね。これは,「逮捕」の時の話ではなく,「勾留」の時の話です(280Ⅰ→79)。逮捕は,短期の身柄拘束で,その拘束期間は長くても72時間とちょっとされています。ここで,72時間「とちょっと」という点もしっかり押さえてください。警察が逮捕して48時間以内にするのは検察官に送致する「手続」(203Ⅰ)で,身柄を受け取った検察官が24時間以内にするのは,勾留の「請求」(205Ⅰ)です。これが身柄拘束の時から72時間以内になされていなくてはいけません(205Ⅱ)。要は,勾留の「請求」までを72時間以内にするのであって,実際に勾留されるまでが72時間以内ではありません。72時間以内に勾留されなければいけないわけではないですから(72時間以内に勾留されなければ身柄が釈放されるわけではないですから),逮捕による身柄の拘束は,72時間を超える場合もあります。そういう意味で,72時間「とちょっと」です。

いずれにせよ,逮捕による身柄拘束は,最大で72時間「とちょっと」なので,弁護人や一定の親族への通知は要求されていません。ここらへんは,逮捕が不当だと思っても準抗告できない(429②に「逮捕」が含まれない,430Ⅰにも「逮捕」の語がない)のと考え方としては同じです。長期の身柄拘束になる勾留は,準抗告でもって不服申立てができますが,短期の身柄拘束たる逮捕ではできないわけです。不服があれば72時間「とちょっと」後に行われる勾留決定に対する準抗告をすればいい,というわけです。

さて,ここで肢にもどってみます。肢には,「被疑者を逮捕した時は,直ちに弁護人にその旨を通知しなければならず」とあります。そもそも,逮捕の時に,弁護人はいるのでしょうか?もっというと,逮捕より前から弁護人を付けられるのでしょうか?

普通は,いません。一般的には,弁護人が選任されるのは,逮捕後です。逮捕されて,弁護人選任権が告げられて(203Ⅰ),それで弁護人を選任する,というケースが「早い」弁護人の選任の例だと思います。逮捕の時には,弁護人選任権の告知が必要ですよ。逮捕されると,まずは,弁解録取(通称「べんろく」)という手続がありまして,

「今,刑事さんから伝えられた事実に間違いはありません。私は,Aさんに胸を狙って,Aさんをナイフで刺しました」

みたいな調書ができる可能性があります。初期供述,つまり,被疑者(被告人)が最初に何を言っていたか,というのは供述の信用性を判断するうえで非常に重要です。逮捕直後になされる弁解録取は,そういった意味で大きな意味を持つので,その手続の前,すなわち,逮捕時に弁護人選任権の告知が必要になるわけです。*弁解録取については,次の(明日の記事で)補足します。

さて,話を戻して,逮捕前に弁護人が選任されているということがあるのか,という点ですが,答えは「あり」です。203Ⅱを読めば明らかです。「前項(逮捕時に弁護人選任権の告知が必要)の場合において,被疑者に弁護人選任の有無を尋ね,弁護人がある時は,弁護人を選任することができる旨は,これを告げることを要しない」とあります。ですから,逮捕前から弁護人がいることを,法は予定しているわけです。実際上は,世間一般にいう,再逮捕の場合なんかが典型ですかね。

「弁護人選任権は,被疑者・被告人の権利であるから,逮捕前に弁護人を選任することはできない」

なんて肢に惑わされないでください。

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