原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

逮捕の意義,弁解録取の意義

2011-08-25 | 刑訴法的内容
模擬裁判(裁判員裁判)2日目,今日は論告・弁論をやって,その後,評議を傍聴(実際は,検察官・弁護人・被告人が評議を傍聴できることはありません。完全非公開です。書記官もいません。ただし,修習生は傍聴可という運用がされており,私も実際の評議を傍聴したことがあります)。判決は,明日。さて,どうなるか。

さて,昨日の続きの話です。短答・プレ刑事系23問・アの肢です。

「司法警察員が被疑者を逮捕状により逮捕した場合は,直ちに弁解の機会を与える必要があるのに,弁解の機会を与えないまま,最寄りの警察署まで連行することは違法である」

答えは,例によって,誤りです。

まず,逮捕後の手続を規定する条文(203Ⅰ)から確認。

「司法警察員は,…逮捕したとき,又は…逮捕された被疑者を受け取ったときは,『直ちに』①犯罪事実の要旨及び②弁護人を選任することができる旨を告げた上,③弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し…(以下,略)」

この条文だけをみると,最寄りの警察署への連行前に,①犯罪事実の要旨の告知,②弁護人選任権の告知,③弁解録取,をしなくてはならないように思います。

しかしながら,もう少し詳しく,「引致」という概念も入れて考えるとちょっと考え方が変わるはずです。法は,「逮捕」と「引致」を使い分けています(200等)。「引致」とは,引っ張ってくること,警察署への連行などを指します。そうすると,①~③の手続を要求する203が,「逮捕したとき」と規定した意味がわかると思います。要するに,「逮捕」とは,「引致」を含む(時的に広い)概念であって,手錠をかけるその瞬間をいうものではないのです。だから,引致された後(警察署に連行された後)も,「逮捕した場合」にあたり,その時に①~③の手続をせねばならないのです。203は,ざっくり言えば,引致後(連行後)に,被疑者を放置してはならず直ちに①~③の手続をしなくてはならない,という意味の規定です。

よく考えればそうですよね。逮捕は何のためにするのかといえば,被疑者を隔離してその逃亡及び罪証隠滅を防止するためのもので,引致(連行)して隔離が完了して逮捕だ,というイメージでよいでしょう。

で,①犯罪事実の要旨の告知,②弁護人選任権の告知,が終わったら,③弁解録取となります。まず,押えて欲しいのは,条文上,逮捕のタイミングでは,黙秘権の告知は要求されていないということです。それでいいのか?という疑問を持つと思いますが,判例は,「弁解録取は専ら被疑者を留置する必要の存否を調査するためのものであり,198の被疑者の取調べではないから,あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなくてもよい」とします(最判S27.3.27)。

条文も,「③弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し」(203Ⅰ)とありますから,まぁ,なるほどな,という気はします。実際は,昨日の記事でも書いたように,ここで被疑者が何を言ったか(初期供述)というのは重要なんですけどね。弁解録取はあくまでも身柄拘束の必要性,つまり,罪証隠滅・逃亡の可能性を吟味するための手続とされています。否認すれば,その可能性は大きくなると考えるべきです。

逮捕と,それに続く弁解録取のイメージを作ってください。

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