原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

相殺の効果,「双方の債務がが弁済期にあること」の意味

2011-08-22 | 民法的内容
昨日(日曜)は,ふらっと尾道へ。模擬裁判の準備が,だいたい目途が立ったので,電車に乗ってふらっと行ってきました。尾道は,5月にも一度行っているので,二度目になります。ある修習生から教えてもらった尾道ラーメンの店,「壱番館」のラーメンが無性に食べたくなったので,広島からわざわざ尾道へ。広島の地理に詳しい方は,私がいかにお馬鹿なことをしているかわかると思います(笑)尾道,結構遠いんです。在来線でも1450円かかる距離。尾道に着いたら,早速,「壱番館」でラーメンを堪能し,その後は「尾道浪漫珈琲」という喫茶店で一服し,それだけして家路へ。途中,三原という駅でふらっと途中下車。この三原という駅(新幹線停車駅でもある),それはそれは不思議な造り。三原城跡を横切る形というか,天主台跡の上に線路が走っている,そんな駅です。お堀の上を新幹線が走るんです。知らずに降りて,びっくりしました。

さて,相殺について少し。基本的だが,しっかりと押さえなくてはいけない点を。

まず,相殺の効果です。双方の債務が,相殺適状になった時に遡って消滅します(506Ⅱ)。相殺権は,担保として機能するもので,その担保としての相殺の期待は,相殺適状に達した時,すなわち,両債権が弁済期を迎えた時から法的保護に値するわけです。例えば,受動債権(相殺される債権)の弁済期が4月1日,自働債権(相殺する債権)の弁済期が5月1日,そして,今日(8月22日)に相殺の意思表示をしたとすると,5月1日に遡って両債権は消滅します。だから,例えば,5月1日以降の遅延損害金は発生しないし,5月1日以降に時効が完成してもその援用は観念できないわけです(508はそういうこと)。

相殺適状(相殺に適する状態,相殺の要件)という言葉を使って説明しましたが,これは,①二人が互いに債務を負担すること,②双方の債務が同種の目的を有する債務であること,③双方の債務が弁済期にあること,と説明されます(505Ⅰ)。相殺は,相殺者に有利な法律効果を発生させるので,相殺者が相殺適状につき主張立証責任を負うのが原則的な考え方です。この点につき,今日は,③双方の債務が弁済期にあること,についてちょっと説明します。

受働債権(相殺される債権)は,債務者である相殺者が期限の利益を放棄すればいいので,問題にならないと言われます。ただ,これについては,そもそも要件にならないと考えるべきなのか,受働債権の弁済期の到来も要件ではあるが相殺の意思表示をすることにより黙示的に期限の利益の放棄の意思表示もしていると捉えるべきか,悩ましいところです。

自働債権はどうでしょう?前提として,売買代金支払請求の場面で弁済期の到来の主張が必要か考えてください。結論は,不要ですよね。売買契約が成立すれば代金支払債務は直ちに履行期を迎える(代金支払請求権は契約と同時に発生する)ので,条件や期限が抗弁になるのでした。とすると,相殺の場面ではどうか?通常の売買と同じように考えて,弁済期の未到来は被相殺者が再抗弁(相殺の抗弁に対する再抗弁)として主張すると考えることもできるし,いや相殺の場面は通常の売買代金支払請求の場面とは異なる,自働債権が弁済期にあること(相殺適状にあること)は,相殺権の発生の原因(根拠)となるのだから,相殺者が主張するべきだ,と考えることもできます。なお,貸借型契約の場合には,相殺の場面でなくても弁済期の到来の主張が必要ですから,これを相殺の自働債権にする場合も,弁済期の到来を主張せねばならないのは当然です。

ちょっと要件事実に立ち入ってみました。要件事実は,「要件事実」と独立のモノとして捉えるよりは,民法の延長線上にあるものとして捉え,また,司法試験にせよ予備試験にせよ,相対立する考え方を押さえておくことが重要です。

<参考文献>

「要件事実論30講<第2版>」(弘文堂)355頁以下

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