原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

少額訴訟について

2011-04-19 | 民訴法的内容
昨日,ちょっと書いたように今日は簡裁修習(といっても講義なのですが…:笑)でしたので,それに関連して少額訴訟について少し。短答向けの整理です。

簡裁はもともと,比較的少額軽微な事件を一般市民が利用しやすい手続で迅速に解決するための裁判所です。ですから,口頭での訴えの提起が可能であるなど(271)の特則が設けられています。簡裁で行われる手続の規律を考えていくときに最も重要な視点は,「一般市民が利用しやすい手続で迅速に解決する」ということでして,それを簡裁の通常訴訟よりも推し進めたものが少額訴訟です。手続の「固さ」だと,地裁通常訴訟>簡裁通常訴訟>少額訴訟なわけです。したがって,少額訴訟をメインにおきつつ,それと簡裁通常訴訟を比較しながらお話しするのが理解しやすいかなと思いまして,今日のタイトルになりました。

手続の対象は,訴額が60万円以下です(簡裁は140万円ですね)。それも,「金銭の支払の請求を目的とするもの」です(368Ⅰ)。物の引渡しや債務不存在はダメなわけです。こういったものは,複雑な審理になってしまうので,簡易・迅速な解決に向かないわけですね。なお,附帯請求の価額は参入されません(8,9)。

少額訴訟には,利用回数制限があります。要は,業者がバンバン使っては裁判所がパンクしてしまう,ということです。年に10回という回数はよく覚えているところでしょうが,ポイントは,「同一の原告が」「同一の裁判所に対して」というころにあります。ですから,裁判所が異なれば同一人であっても10回以上利用できます(368Ⅰ,規則223)。この回数制限を明らかにするために,原告には利用回数の届出義務があり,嘘をつくと過料の制裁があります(368Ⅲ,381Ⅰ)。

原告が少額訴訟を利用したい場合には,その意思を明らかにしなくてはいけません(368Ⅰ・Ⅱ)。「少額訴訟によるかどうかの1次的な選択権は原告にある」なんて言われます。簡裁に用意してある定型訴状には,「少額訴訟を希望します」というチェック欄があるんですね。そこにチェックすればいいことになっています。なお,被告が「通常手続でしっかりやってもらいたい」と思えば,簡裁における通常手続への移行の申述ができます(373Ⅰ・Ⅱ)。これは,被告が最初になすべき口頭弁論期日において弁論をし,又はその期日が終了するまで可能です(373Ⅰ但)。また,裁判所による職権による移行も可能です(373Ⅲ)。どうしてこのように移行が問題になるのかは,手続が通常訴訟よりもだいぶ簡略化されているからです。以下,その点について。

まず,少額訴訟は,原則として1回の口頭弁論期日で審理を完了し,その後「直ちに」判決の言渡しをせねばなりません(1期日審理原則。370Ⅰ,374Ⅰ。簡裁通常訴訟ではそうした縛りはありません)。原告が訴状を出して(あるいは口頭で訴えの提起をして)期日が指定されたら,その日に全部終わらせる,ということです。ただ,これには例外があって,「特別の事情がある場合」には期日を続行できます(370Ⅰ・Ⅱ但)。どういう場合かといえば,相手方が訴訟の準備ができず,かつ,それもやむをえない場合などです。また,少額訴訟は代理人が付かず,本人たちがかなり「取っ組み合い」に近い状態でやりあうので,「直ちに」判決するのではなく,当事者が冷静さを取り戻す頃合いを計って判決をする,という運用もされているようです。なお,「直ちに」判決するので,判決は原本に基づかなくてもOKです(374Ⅱ。地裁通常手続の原則は原本に基づくことを確認(252)。簡裁の通常訴訟も原本に基づくことが必要。これに対して,刑訴では原本に基づかなくてもよかったのですね)。なお,反訴は禁止です(369,379Ⅱ)。1期日審理原則に相容れないのですね(審理が複雑になってしまう)。被告は,反訴がしたければ,通常訴訟に移行させたうえですればいいです。

証拠調べも簡略化されています。即時に取調べられるものに限られます(371。簡裁通常訴訟ではこのような制限はない)。証人尋問をしたいなら,在廷の必要があります。証人尋問は宣誓させないですることができます(372)。また,電話会議の方法による証人尋問も可能です(372Ⅲ)。さらには,証人等の陳述を調書に記載する必要もありません(規則227Ⅰ)。1日で判決までするという仕組みなので,後から読み返すということが予定されておらず,調書をとる意味が希薄なのですね。

こうした証拠調べを経て出された判決に対しては,控訴ができません(377)。あくまでも「1期日で終わらせる」のです。不服申立ては,その判決をした簡易裁判所への異議申立に限られます(378Ⅰ)。こういった不服申立ての制限があるので,判決には,「少額訴訟判決」という表示をせねばなりません(規則229Ⅰ)。なお,少額訴訟の判決は,支払猶予や分割払を内容とする判決ができます(375)。和解とか,調停とかと通ずるところがあって,要は,裁判所が当事者の間に入って丸く収めよう,そういう制度です(もちろん,簡裁通常訴訟ではこういうことはできません)。

短答対策としては,このあたりを押さえておけばよいかと思います。

今日の広島,空は晴れているのに,雲は見当たらないのに,雨…。この雨はいったいどこから降ってきているのだろう??

<参考文献>

「民事訴訟法講義案<再訂補訂版>」(司法協会)367頁以下

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3 コメント

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Unknown (3年生)
2011-04-19 23:04:39
小額訴訟の意義を知るだけで規律の理解がすごく進みますね!読むだけでとても勉強になりました。ありがとうございます。
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Unknown (はら)
2011-04-20 00:45:55
そうですね,こういった分野は単に条文を読んでいくだけではなかなか理解が進まないんですね。目的をもって作られる制度ですから,その目的を理解したうえで,条文を読み進めてください。そして,過去問なり肢別なりに当たって,答練でもその都度確認していけば,点を落とさなくなるはずです!
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Unknown (3年生)
2011-04-20 21:59:53
ありがとうございます。がんばります。
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