原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

刑事第一審公判手続(証拠調べ以降)

2011-04-10 | 刑訴法的内容
日付が変わってしまいましたが,模試だった方は今日で論文が終了ですね。明日(今日)の短答は,先日も書きました通り,集中力勝負です。この点をテーマにしてください。

さて,私はというと,要件事実演習なる宿題(?)が出ておりまして,今日はそれをやっておりました。検討して,起案。一通り終えて,公式には確か今日発売の,重判と刑訴の百選を買いに大きな本屋に行くも,刑訴の百選が見当たらず…。重判のみ購入。砂川の神社の事件がなんてネーミングになるか楽しみにしていましたが(「砂川事件」ってわけにはいかないし…),「砂川政教分離訴訟」になった模様。穏当なネーミングだと思います(笑)

で,リクエストがございました,表題の話です。昨年の12月7日の記事に続けて読んでいただけるとよいかと思います。冒頭手続よりも後,証拠調べから,の話です。

1.検察官の冒頭陳述

略して,「冒陳(ぼうちん)」からスタートです(296)。証拠に基づいて立証しようとする事実を明らかにします。何のためにするかといえば,裁判所に対しては事案の全貌を示して証拠採否等の訴訟指揮の方針を与え,被告人・弁護人に対しては起訴状を一層具体的にして,防御の範囲や対象を知らせるのですね。

事件の性質にもよりますが,一般的には,歴史的順序に従って,犯罪の背景,犯罪自体に関する事実,重要な情状に関する事実などが,物語形式で述べられます。項目としては,「犯行に至る経緯」「犯行状況等」「その他情状に関する事項」が一般的です。裁判員裁判では,検察官は図などを多用して,どんな事実を,どんな証拠によって証明しようとするか,極めてわかりやすく説明します。裁判員裁判ではない通常の裁判では,早口でさっと説明されます。

2.被告人・弁護人の冒頭陳述

ポイントは,原則として任意であることです(規則198)。

ただ,公判前整理手続に付された事件では義務的です(316の30)。裁判員裁判は必ず公判前整理手続に付さねばなりませんので,裁判員裁判では常に被告人・弁護人の冒頭陳述が行われます。

3.証拠調べ請求,証拠決定

まず,検察官が証拠調べ請求をします。検察官は,事件の審判に必要な全ての証拠を請求すべきとされています(規則193Ⅰ)。ただ,これは,「このタイミングで」全ての証拠を請求せねばならない,というわけではなく,審理の途中でその都度必要に応じて請求できます(規則199)。

自白は,他の証拠が取り調べられた後でないと請求できない(301)とされていますが,仮に一緒に請求したとしても自白調書よりも先に他の証拠が調べられれば違法ではないとされます(最決S29.3.29)。

証拠請求は,立証趣旨を明示しなくてはいけません(規則189Ⅰ)。LS2年次の授業で見たことがあると思いますが,いわゆる証拠等関係カードというものを使って行われます。実行行為の存在を立証したいのであれば,「犯行状況」などと立証趣旨が記載されます。

請求した証拠が全て取調べられるわけではなく,裁判所が証拠調べをするかしないかの判断をします(証拠決定,規則190Ⅰ)。そして,証拠決定をするには,相手方の意見を聴かなくてはいけません(規則190Ⅱ)。「しかるべく」(←「どうぞ,その証拠の取り調べをしてください」の意味)とかいうやつですね。供述証拠については,「同意」「不同意」などの意見が述べられます。「同意」は,一般的に326の同意です。伝聞証拠なんかであっても証拠能力を付与する,と解されています。「同意,ただし信用性を争う」となると,証拠能力を与えることに異論はないが,本当にその調書通りであるのか,調書記載の内容が信用できるか争います,ということです。伝聞証拠に「不同意」の意見が付されたら,伝聞例外に該当しない限り証拠能力が与えられませんので,一般的には,撤回して新たに証人尋問を請求することになります。調書の内容と同じことを法廷で直接言ってもらって,同じ効果を狙うわけです。多くの場合,調書を不同意としても,証人尋問は「しかるべく」という意見が述べられ,いかに反対尋問をするかが弁護人(検察官)の腕の見せ所となります。

証拠調べの順序は,まずは検察官請求証拠からです(規則199Ⅰ)。ただ,裁判所はその順序を変更することもできます(規則199Ⅰ但)。

4.証拠調べの実施

ここは,書き出したらキリがないので,日を改めて。

5.論告・求刑,最終弁論,結審

証拠調べが終わると,検察官は論告をします。公訴事実の認定,情状についての意見を述べるほか,刑罰法令の適用についても意見を述べ,その際,求刑についての意見を述べます。検察官の求刑は,あくまでも意見ですから,裁判所はその求刑を上回る判決を出すこともできます。一般的には,「本件公訴事実は,当公判廷において取り調べられた関係各証拠によりその立証は十分である」からはじまって,争点についての再確認,それから「身勝手な犯行で動機に酌量の余地はない」などと情状に関する意見を述べ,そして,「相当法条適用のうえ,被告人を懲役○年に処すことを…」というふうに求刑がなされます。

そして,検察官の論告が終わったら,被害者参加人がいる時は,このタイミングで意見を述べます(316の38。被害者本人ではなく,その委託を受けた弁護士のケースが多いです。被害者参加人から委託を受けた弁護士は,検察官の横に座ります。検察官の隣に弁護士バッジが見えるのは,慣れるまではちょっと違和感があります)。これは意見であって,証拠にはなりません。なお,裁判所が相当と認める時に意見を述べることが許されますが,裁判所が「ダメ」というケースは極めて稀でしょう。

続いて,被告人・弁護人の最終弁論・最終陳述です。否認事件では,争点についての弁護側の主張に重点が置かれ,自白事件では情状に重点が置かれます。後者の場合,「被告人は反省し,被害弁償によって被害が回復されている,それゆえ,寛大な処分をお願いする次第であります」なんて感じになります。

この段階において,結審です。この先,新たな証拠が出てきたりすると,弁論が再開されることになります(313Ⅰ)。どういった場合にそうなるかというと,結審後に示談がされれば,示談書を証拠として提出するために弁論を再開して,そこで猶予付判決を求める,なんて場合でしょうか。

6.判決

判決は,主文と理由で構成されますが,どちらから告げても構いません。死刑判決なんかの時には理由から,なんてのはよく聞くところかと思います。理由については,要旨の告知でも足ります。ですから,判決の時に判決原本が作成されていなくてもよいのです(裁判員裁判なんて,前日の夕方まで評議して,翌日判決ですから,原本がないのが通常かと思います)。この点,民事訴訟は原本に基づいて判決しなくてはいけない点に注意(民訴252。この例外の民訴254も併せて確認を)。

判決の理由まで告げ終わると,14日以内に控訴できること(ただ,判決の翌日から14日なので,判決の日からカウントすると15日),控訴申立書は第一審裁判所に提出すべきことが告げられます(373,374,期間につき55Ⅰ)。そして,これも有名ですね,説諭ができます(規則221)。「奥さんがあなたの帰りを待つと言ってくれているんですから,しっかりと罪を償って,もう悲しい思いをさせないようにしてくださいね」みたいな(笑)

以上が,ざっとした流れです。イメージ作りの参考にしてください。…とはいえ,期日が3日くらいの裁判員裁判を傍聴する方がしっかりとしたイメージはできるかな。

<参考文献>

前田雅英編「刑事訴訟実務の基礎」(弘文堂)
三井=酒巻「入門・刑事手続法<第5版>」(有斐閣)

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6 コメント

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ありがとうございます (3年生)
2011-04-10 23:57:44
早速記事を書いていただきましてありがとうございます。本当に助かります。

何度も読んで参考にさせてもらいます。

ご指摘の通り、裁判員裁判の傍聴はよさげなので機会があれば行ってみようと思います。

ちなみにLSの3年生です。あと一年がんばります。
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Unknown (はら)
2011-04-13 00:50:12
裁判員裁判,オススメです。手続の重要性は年々高まっていますからね。今後の短答でもやっぱり結構出ると思います。

試験対策にフライングはありません。早くスタートした者勝ちです!
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犯行再現を記録した実況見分調書について (yasushi)
2011-12-23 17:11:53
弁護士登録おめでとうございます。

質問があります。

H17年9月27日の判例では

事案について、検察官が設定した立証趣旨を前提にするとおよそ証拠として無意味になる例外的な場面であるようですが、本当にそういえるのか、疑問があります。

調査官解説では「警察署内で、警察官を相手に被疑者、被害者が犯行、被害の状況の再現を行ったものであって、…(犯行の)物理的可能性の吟味検討の要素を含むものではない」とされています。
また、その注10には、「警察署内で警察官を相手に再現が行われていても、被疑者、被害者が供述するような行動が物理的に可能であるか否かを吟味検討する要素を含む場合もあるが、本件はそのような要素がないものである」とされています。

でも、私は、物理的可能かどうか、検討の要素も含むといえそうにも思える(警察署内、取調室内であっても、電車内と同様の状況を作り出して、犯行の物理的可能性を吟味することは可能なはず)のですが、上記注10はどうしてそのように言えるのでしょうか。
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Unknown (はら)
2011-12-28 12:24:10
ありがとうございます!

さて本題ですが,本件の事案を考えると,そのように言えるでしょう。本件は,電車で,「隣に座っていた」女性の「尻を触った」という事案です。想像していただきたいのですが,これは100%物理的に可能です。手が届くことは明らかです。ですから,これを立証することは無意味であり,「物理的に可能かどうかの要素は含まない」と,調査官解説が言うように解してよいでしょう。他方で,隣には小さな子どもが座っていて,さらにその隣の女性の尻を触った,などの事案であれば,物理的可能性を立証することも意味があるかと思います。

平成21年の本試験も参考になりますので,併せて検討してみてください!
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Unknown (yasushi)
2012-01-06 19:53:14
やはりそうですか。


ご返事ありがとうございます。

もう少し、まともな質問ができるよう、精進します。
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Unknown (はら)
2012-01-08 11:30:52
そういう問題意識を持てない方も多いですからね。疑問を一つ一つ解決していくことが大事です!そもそも,十分「まともな」質問ですよ~。

頑張ってくださいね!
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