原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

<学習用>再婚禁止期間規定違憲事件(最高裁平成27年12月16日)

2015-12-20 | 憲法的内容

再婚禁止期間規定違憲事件(最高裁平成27年12月16日大法廷判決)

 

本件は,再婚禁止期間の規定(民法733Ⅰ)は憲法14Ⅰ及び24Ⅱに違反するにも関わらず,本件規定の改廃措置をとらなかった立法不作為を理由とする国賠訴訟である。最高裁は,再婚禁止期間の規定は再婚禁止期間の規定のうち,100日を超える部分は違憲であるが,立法不作為につき国賠法上の違法は認められないとして,上告を棄却した。以下,最高裁判決(法廷意見)を,学習用に私がまとめたものです。

 

<原告の主張>

 

本件規定は,道徳的な理由に基づいて寡婦に対し一定の服喪を強制するという不当な趣旨を含むものである。また,本件規定の立法目的が父性の推定の重複を回避することにあるとしても,DNA検査等によって父子関係を確定することが容易になっているなどの近年の状況に鑑みれば,父を定めることを目的とする訴え(民法773条)の適用対象を広げることなどによって子の父を確定することでも足りるはずであり,あえて再婚禁止期間を設けて女性の婚姻の自由を制約することに合理性は認められない。

また,民法772条は,婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子を当該婚姻に係る夫の子と推定していることから,前婚の解消等の日から300日以内で,かつ,後婚の成立から20 0日の経過後に子が生まれる事態を避ければ父性の推定の重複を回避することができる。そのためには,100日の再婚禁止期間を設ければ足りるから,少なくとも,本件規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分(以下「100日超過部分」という。)は,女性に対し婚姻の自由の過剰な制約を課すものであり, 合理性がない。

 

<原審の判断>

 

これに対し,原判決は,本件規定の立法目的は父性の推定の重複を回避し, 父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解されるところ,その立法目的には合理性があり,これを達成するために再婚禁止期間を具体的にどの程度の期間とするかは,上記立法目的と女性の婚姻の自由との調整を図りつつ国会において決定されるべき問題であるから,これを6箇月とした本件規定が直ちに過剰な制約であるとはいえず,本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないと判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。

 

<最高裁の判断>

 

本件規定は,「婚姻制度に関わる立法として,婚姻に対する直接的な制約を課すことが内容となっている」から,「本件規定が再婚をする際の要件に関し男女の区別をしていることにつき,そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から憲法適合性の審査を行うのが相当である。」

 

本件規定の立法目的は,父性の推定の重複を避け,もって父子関係をめぐる紛争を防止することである。もし,再婚禁止期間の規定がないならば,前夫と後夫と二重の推定が働いてしまう場合があり,その場合はどちらが父親であるか定まらないことになり,子の福祉を害することになる(前婚解消から300日以内に生まれた子は前夫の子と推定され,一方で,後婚後200日以降に生まれた子は後夫の子と推定される。そうすると,例えば,女性が離婚当日に再婚した場合,離婚と再婚の日から200~300日の間に子が産まれたならば,二重の推定が生ずる事態となる)。従って,立法目的には合理性がある。これは,科学技術が進展した今日においても,もし父性の推定の重複の事態となれば法的手続でもって父を確定せねばならないことに変わりないから,やはり合理性を有する。

 

そうすると,次に,立法目的と手段との合理的関連性が問題となるが,上に述べた例の通り,婚姻・離婚が同日に行われた場合,その日から200~300日に子が産まれた場合に父性の推定の重複が生ずるから,再婚禁止期間の規定のうち,100日までの期間は,目的達成のために合理的関連性を有するといえる。他方で,100日を超える再婚禁止は,父性の推定の重複防止という目的達成のためには不必要であり,婚姻の事由が憲法24Ⅰに照らし「十分尊重されるべきもの」であることに鑑みれば,「過剰な制約」であり,憲法14Ⅰ,24Ⅱに反する。

 

では,この違憲状態を国家が放置していたことは,国賠法上の違法となるか。立法不作為が国賠法上違法の評価を受けるのは,「法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合など」,例外的な場合のみである。本問題については,平成7年に最高裁が合憲判決を出しており,また,本問題の議論状況からすると,本件においては,立法不作為が違法であるということはできない。

 

したがって,再婚禁止期間規定のうち,100日を超える部分は違憲ではあるが,国賠法上,違法ではない。


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