原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

【平成23年・憲法】出題趣旨考察

2011-09-27 | 憲法的内容
広島からの引っ越し,転居に伴う各種手続き,弁護士登録手続き,などでバタバタしており更新が滞っていました。そして,今日から和光。いやー,辺鄙なところにある(笑)噂には聞いておりましたが…。片道2時間かけて通っております。「寮があるんじゃないか?」と思われるかもしれませんが,入れないんですねー。関東に住所のある者は,まず無理です。広島在住の人でも入れない人がいますし…。今日から起案と講義三昧。50分×6コマ,自分でやったらあっという間なのに,聴講するとなると長い(笑)

さて,前回記事で予告しました憲法(試験終了直後にアップした答案)の自己点検と受験生に向けてのアドバイス。出題趣旨を引用し,【 】の中に,コメントを書き加えていきます。今年の憲法の出題趣旨は読みごたえがあります。受験生に「修正」を求めていますので,しっかりと読まなくてはいけません(当然,再現答案や答案作成をしてから)。

まず,試験直後の5月15日にアップした答案と,その時点における私の分析です。その時から,大きな考え方の変化はありません。5月15日の記事をリンクします。

5月15日記事(答案と分析コメントは後半にあります)

=出題趣旨引用=

今年の問題でも,「暗記」に基づく抽象的,観念的,定型的記述ではなく,問題に即した憲法上の理論的考察力,そして事案に即した個別的・具体的考察力を見ることを主眼としている。【「暗記に基づく抽象的,観念的,定型的記述」とは,「表現の自由は自己実現・自己統治に資するから違憲審査は厳格であるべき」などの記述ですね。本問場面では,自己統治の価値がないわけなので,こういう書き方をしてしまうと評価の土俵にすら乗らないでしょう。】
問題を解くに当たって,問題文を注意深く読むことが必要である。議論が不必要に拡散しないように,問題文の中にメッセージが書かれている。例えば,「行政手続法の定める手続に従って」中止命令が出されたことは,手続上の問題は存在しないことを示している。【憲法の問題なので,行手法について論じさせる意図はないと考えるのが普通です。】
設問1は,まず,X社側が訴えを提起する場合の訴訟類型を尋ねている。訴訟法上の問題を詳論する必要はなく,提起する訴訟類型を簡潔に記述すればよい。【結論と,その訴訟類型を採用する理由や実益くらいをちょっと書けばいい,ということでしょう。訴訟類型を問うのは,訴訟類型が変われば請求原因(本案として設問で検討すること)も変わるので,そこらへんを明確にさせるためでしょう。ここは,あまり気にする必要はありません。】
法令違憲の主張に関しては,何でも書けばよいのではない。【中途半端に五月雨式に主張するのではなく,大きな争点となる点をしっかりと論じろ,ということです。】憲法の論文式問題において登場する弁護士は重要な憲法判例や主要な学説を知っている,と想定している。したがって,憲法論として到底認められないような主張を書くのは,全く不適切である。一定の筋の通った憲法上の主張を,十分に論述する必要がある。例えば,本問では,検閲が問題になることはない。【重要。実務家登用試験として,当然です。我が国の,現在の法律的議論の上に立った答案が必要です。】
あるいは,本問の法律で,「個人の権利利益を害するおそれ」等の文言の明確性が,一般的に問題になるわけではない。【答案に続く分析コメントで「まぁ,問題にならない」としましたが,迷った挙句,私は答案に書いてしまいました。受験生心理としては迷ったら書いてしまう。でも,ここは全く書かなくて良かったんですね。よく考えてみればそうです。他の“ありがちな”法令の書き方に比較して不明確とは言えないですよね。こういう判断ができるようになるためには,とにかく実際の法令によくあたることです。答練,演習書,判例集などを使って修練すべきです。】本問で明確性を問題にするとすれば,「生活ぶりがうかがえるような画像」が「個人権利利益侵害情報」に含まれるのか否かが明確ではない,という点である。【適用違憲で書けということでしょうかね。私も,この点を適用違憲と構成して論じてみました。】
また,本問において,X社はユーザーの「知る権利」侵害を理由として違憲主張できるとするのは,不適切であり,不十分でもある。まず,ここで「知る権利」と記すことが,「知る権利」に関する理解が不十分なものであることを示している。X社の提供する情報は,政治に有効に参加するために必要な情報ではないし,政府情報等の公開が問題となっているわけでもない。【全くもってその通りです。「見れなくて困っている」場面ではないんですね。表現行為がシャットダウンされた場面です。第3回,第4回の問題と場面の違いをよく噛みしめてください。「具体的場面に即して考える」とはこういうことを言います(その一例です)。ただ,知る権利に「資する」ことは言えるものと考えられます。詐欺かどうかの情報提供にもなる,という情報もありますし。ですから,私はこの点(性質)を,厳格に審査すべき事情として盛り込みました。これは間違いではないはずで,評価の対象になると思います。】
さらに,ユーザーは不特定多数の第三者であるので,特定の第三者に関する判例を根拠にX社がユーザーの「知る自由」を理由に違憲主張できるとするのは,不適切であり,不十分である。そもそも「知る自由」は,他者の私生活をのぞき見する自由を意味しない。【先に述べた点に同じ。そして付言するなら,本件の場合,家の中の様子など,公開される情報の性質からして,「知る権利」の保障にあるとするのはそもそも困難でしょう。例えば,地方自治体の財政に関する資料や,レセプトが見られない場面とは訳が違います】
法令違憲に関して本問で問題となるのは,実体的権利の制約の合憲性である。この点での本問における核心的問題は,肖像権やプライバシーを護るために制約されている憲法上の権利は何か,である。確かに,本問の法律によってX社は,営業の自由も制約される。とりわけ国家賠償請求訴訟も提起するならば,経済的損失に関わる営業の自由への制約の違憲性・違法性を主張することが理論的に誤っているとはいえない。しかし,本問でその合憲性が争われる法律は,許可制を採るものではない。そして,営業の自由とプライバシーの権利との比較衡量において,前者が優位することを説得力を持って論証することは,容易ではない。この点では,言わば「憲法訴訟」感覚が問われているといえるであろう。【ここはすごく重要です。22条で構成した方が多かったようですが,それで勝てるか,ということです。実務だったら,五月雨式に全て主張するでしょう。しかし,これは時間内に解く試験です。「何でも書けばいいわけではない」ことは,過去の出題趣旨・ヒアリング等に強調されているところであり,要するに,最も熾烈に争われるであろう(最も勝ち目のあるであろう)点にスポットライトを当てて書かなくてはいけない。どこに配点があるか,ということです。22条だけを論じても,読み手としては,「では,21条はどうなんだ?」という疑問を抱いたまま答案を読み終えることになります。そして,注目したいのが,憲法訴訟の「感覚」という点。要求されるのは,実務感覚です。22条では勝てないだろう,ということは勉強が進んだ人なら容易に気付くはずで,にもかかわらず,いわば「冷めた」議論をしても評価されない,ということです。現在の,我が国の,判例・実務に即して勝負できる構成でなくてはならないのです。】
したがって,X社側としては,表現の自由の制約と主張することになる。それに関して検討すべきことは,憲法第21条第1項が保障する権利の「領域」・「範囲」ではない。憲法上,表現の自由の保障「領域」・「範囲」があらかじめ確定しているわけではない。【**重要**前回の第5回試験のヒアリングで,この点は布石を打ってありました。三段階審査論の硬直的使用への警告がされていましたよね。このブログでもヒアリングが出た際に強調した点です。ドイツ憲法は表現の自由を(我が国のように)ざくっと保障せず,集会の自由など細分化して保障していますから,保護領域(当該人権の保障対象であるか)が問題になるのです。が,我が国の憲法は,ざくっと21条で保障して(入口はラフに設定して),権利の性質を精緻に考察し,審査基準を導きます。「精緻に」というのがどちらかと言えば公権力寄りに「精緻に」が多く,緩やかな,合理性(合理的関連性)の基準が多いのですが…。これが,「憲法上,表現の自由の保障『領域』・『範囲』があらかじめ確定しているわけではない,という意味です。我が国の実務家登用試験では,我が国の実務の考え方に従って,問題を解決していくことが必要です。ドイツ式・三段階審査とアメリカ式・芦部式審査と我が国の判例の審査は,(首都大の木村先生もおっしゃるように)それぞれ排斥する考え方ではないのですが,審査過程が異なるのですね。】問われているのは,表現の自由の内容をどのように把握するか,である。本問の地図検索システムは,X社の思想や意見を外部に伝達するものとはいえない。【そう,まさにここです。私の答案では,「意志や思想」としてこの点を表現してあります。こういう点に着目することが,「事案に即した個別的・具体的考察力」を示す,ということです。どうやったら気付けるか。「典型」と常に比較することです。政治的表現と本問の表現を比べて,どこが違うか。政治的表現が厚く保障されるのはなぜか。それは本問の表現に妥当するか。こういったことを考えていくことが必要です。】そこで,当該システムを表現の自由として位置付けようとすると,表現の自由の権利内容の新たな構築が必要となる。つまり,自由な情報の流れを保障する権利としての表現の自由である。本問における判断枠組みに関する最大のポイントは,判例や学説を参考にしつつ,相応の説得力を有する論拠を示して,自由な情報の流れを保障する表現の自由論を論述することである。【「自由な情報の流れ」を保障する表現の自由…。私は,ここまでは思考が及びませんでした。なるほど。「表現の強制からの自由」を保障する表現の自由について問うた,第1回試験が参考になります。この過去問分析が十分であれば,ここまで到達した人もいるでしょう。ただ,「通常の」合格を考える場合には,「意見・思想の表現という要素がないので,自己統治の価値はなく,自己実現の価値も希薄だ」という点に着眼できればよいと思います。】
本問における表現の自由の制約の合憲性をめぐって問われているのは,表現の自由とプライバシーの権利の調整である。【プライバシーについては,審査基準を緩やかに持っていく要素として論ずればいいのでしょう。】
本問の地図検索システムによって提供される情報は,「自己統治」の機能に関わる情報とはいえない。また,私的な事柄に関する情報が含まれているが,その対象者が「公職にある人」や「著名人」という問題でもない。したがって,「原告の主張」・「被告の反論」・「あなた自身の見解」それぞれの立場において審査基準論のあれこれを定型的に書くのは,全く不適切である。【「表現の自由は,自己実現・自己統治に資するので厚く保障されるべきで」とさらっと書いてしまった人が多いのでしょうね。「本問ではそうではないでしょ」という感想を持たれた答案が多かったのだと思います。原告から書くとしても不適切でしょね。理由・根拠として機能しないわけですから。】当該合憲性の結論は,事案に即して個別的・具体的に検討することから導き出される。【本件について言えば,自己統治の価値はなく,自己実現の価値も大きくない表現をどこまで保障すべきか,ということですね。】
今年の問題では,両者のサイドにとってそれぞれヒントとなる主張が問題文の中に書き込まれている。例えば,ユーザーにとっての利便性の向上等は,情報提供側のプラス面として挙げることができる。被告側にとっては,例えば,インターネット上の個人情報の二次利用による被害の拡大である。個別的・具体的検討において最も重要なポイントは,「公道から見える」ことと「インターネット上で見ることができる」ことの相違をどのように考えるか,である。【ネットで見ることができるなら,二次被害も大きいということでしょう。あてはめで強調せよ,ということですね。】
設問2では,「被告側の反論を想定しつつ」検討することが求められている。想定される被告側の反論を書く部分では,結論として憲法上のポイントだけを記せばよい。【ここは,毎度のことです。】「被告側の反論」では,表現の自由の制約ではなく,営業の自由の制約でしかない,とする主張はあり得る。被告側の反論の詳細な内容や論拠は,「あなた自身の見解」で書くことが求められている。【**重要**「表現の自由の制約ではなく」という点に注目してください。答練の採点をしていると,原告から21条,被告は21条には何ら触れずに「これは22条だから緩やかに」という答案を見ますが,これは議論がかみ合っていない。「これは22条だ」と言うのであれば,「21条の問題ではない」と言わねばなりません。原告の21条の主張について沈黙し続けたらどうなるかはわかりますよね。答弁書・準備書面を書くにしても,原告の21条の主張に対して何も反論せずにいきなり違う主張をすることなどありえませんよね。】
「あなた自身」の結論や理由を「原告と同じ」あるいは「被告と同じ」と書くだけでは,全く不十分である。X社側あるいは被告側のいずれかと同じ立場に立つにしても,それらとは別の見解を採るにしても,求められているのは,X社側及び被告側それぞれの見解を検討した上で「あなた自身」の結論及びその理由を述べることである。問われるのは,理由の説得力である。【「問われているのは理由の説得力だ」という点は肝に銘じてください。】

=引用終わり=

簡単に書くと,こんな感じです。もちろん,これだけに尽きるわけではないのですが,「書く」となると限界がありますので,もっと細かい点については,修習が終わってから,ガイダンス等でお話しする機会をいただけたらその時に。

かつてここで書いたことがありますが,出題趣旨・ヒアリング等には「ストーリー」があるものです。前年の出題趣旨・ヒアリング等は,いわば「予告」です。しっかりと分析してくださいね。過去問講座やりたい…(笑)

5月15日にアップした答案は,何点が付くんだろう…。採点されたい…(笑)

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5 コメント

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Unknown (ja)
2011-10-02 12:07:16
勉強になります。
出題趣旨を読むうえで大変参考になりました。
これからもう一度読み返したいと思います。

もつ鍋って美味しいですよね。
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Unknown (はら)
2011-10-03 19:11:13
出題趣旨を「読む」ことは,誰にでもできます。しかし,「読む」だけでは,点数を変化させることはできません。「解釈」して「吸収」して,答案に「反映」させることが大事です。頑張ってくださいね!

もつ鍋,好きになりました(笑)
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Unknown (TM)
2011-10-31 22:52:16
こんばんは。
お忙しいところ、恐縮ですが質問させてください。

表現の自由の保障「領域」「範囲」があらかじめ確定しているわけではない、と出題趣旨にあります。そして、本件では表現の自由の内容をどのように把握するかが問われています。
先生のお考えですと、ざっくりと21条で保護されることは認めて、正当化のところで特殊性を取り入れるとありました。
なぜ21条かという点と正当化のところで特殊性の検討するという点を区別するのが難しいのですが、それは問題をこなして慣れるしかないのでしょうか?
自分の答案では、21条で保障されることを言うために思想や意見の伝達を伴う21条プロパーの表現とは異なるよという点を長々書いてしまいました。
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Unknown (はら)
2011-11-01 19:40:54
TMさんと同じような悩み・疑問を抱えている受験生って,実に多いんです。TMさんの表現を借りると,①なぜ21か,②正当化,の部分で論述内容が重複したり,あるいは,②で書くべき部分を①で書いてしまったりするんですよね。

一言で結論を言うと,硬直的に考えすぎである,我が国の司法審査で①を論ずべき場合は稀である,すなわち,「理論」の部分に難がある,ということです。

>①なぜ21条かという点と②正当化のところで特殊性の検討するという点を区別するのが難しいのですが、それは問題をこなして慣れるしかないのでしょうか?

前述のとおり,問題をこなす前に,まずは「理論」について押さえることが大事です。ちょっと考えてみてください。

①が問題になった判例って,ありますか?あるなら,それは豊富にありますか?

あるにはあれど,あんまり多くないですよね。例えば,レペタ訴訟(法廷でのメモ取り)です。結論は,ご存知の通り,法廷でのメモ取りは21で保障されるとまでは言えないが,21に照らして保護に値する,というもの。メモ取りって,情報を発信するわけではないので,これをも「表現」と言えるか,かなり微妙です。同じような性質のものに,取材の自由があります。このれべるに至ってはじめて,①21で保障されるかどうかが問題になるわけです。その他,21に関する有名判例は多くありますが,①を問題にした事案ってあるでしょうか?ないはずです。「~~は相当と言えるのであり(~~の規制は正当と言うべきであり),所論は理由がない」と結論付けられている判例ばかりのはずで,相当性の判断をしているということは,①21の保障のもとにあることを前提として,②で「正当性あり」という結論に至っているのです。

>先生のお考えですと、ざっくりと21条で保護されることは認めて、正当化のところで特殊性を取り入れるとありました。

「ざっくり21で」というのは,私の考え方ではなくて,我が国の実務が立脚する考え方をイメージしやすいように表現してみたんですね。①の部分は,レペタ訴訟みたいなケースじゃない限り,主戦場にならないのです。主戦場は,②である。だから,答案で論ずべきも,②です。被告の反論としても,かなり無理筋です。後日,記事にしますが,我が国では,例えば,わいせつ表現や他者の名誉を棄損する表現とて21の保障が及ばないとは考えられておらず,そこらへんが戦う民主主義の国とは事情が違うところなのです。

詳しくは,近いうちに記事にしますので,それを読んでみてください。たぶん,「気持ち悪い」のがすっきりすると思います。




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Unknown (TM)
2011-11-01 20:02:39
丁寧な解説ありがとうございます。

確かに主戦場という観点で見ると自分の答案にはそれについてのメリハリが欠け、争いのないところで分量を割いてると感じました。
大変参考になりました。
この点についての記事楽しみにしています。
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