原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

手形訴訟と督促手続について

2011-04-20 | 民訴法的内容
昨日の続きだと思って読んでもらえるとわかりやすいと思います。手形訴訟については,少額訴訟と比較しながら考えてください。

1.手形訴訟

制度趣旨は,少額訴訟と同じです。「利用しやすく,簡易,迅速に解決」です。手形訴訟の場合は,債権者に迅速に債務名義を取得させる,ということです。

ですから(審理が複雑にならないように),「手形による金銭の支払の請求」及び「これに附帯する法定利率による損害賠償請求(*商事法定利率もOK)」が対象です(350Ⅰ)。また,訴状には手形訴訟による審理を求めることを記載し,その旨を申述しなくてはいけません(350Ⅱ)。ここらあたりは,少額訴訟と同じですね。

訴え提起段階で違うことは,回数制限がないところです。手形・小切手の数しか訴訟を提起できないので,業者がバンバン使うということはないのですね。

審理については,通常訴訟への移行ができること(353Ⅰ・Ⅱ),反訴禁止(351),一期日審理原則(規則215)は少額訴訟と同じです。

証拠調べは,ちょっと違います。手形訴訟では,「書証に限られる」のです(352Ⅰ)。しかも,挙証者が所持する者に限られ,文書提出命令や送付嘱託はできません(352Ⅱ)。要は,手形訴訟では,取調べるものって,手形・小切手の現物があればだいたいいいわけなんです。だから,証拠調べは書証に限っていいわけです。この点が,少額訴訟と違うところです。少額訴訟は「即時に取調べられるもの」でした(だから在廷証人の尋問はOK)。手形訴訟で証人尋問をやろうとすると(手形の現物を見ればだいたいわかるので,そもそもそんなに必要ではないのですが),裏書人がたくさんいたりして時間がかかっちゃう,ということです。なお,手形訴訟でも,例外的に,文書の成立に真否・手外の呈示については当事者本人の尋問が可能です(352Ⅲ)。絶対に書証のみ,といういわけではないんですね。文書の成否や手形の呈示については,書証だけからではわからず,また,当事者に限定すれば審理時間もかからない,そういう考慮です。

本案判決に対する不服申立ては,これも少額訴訟と同じく控訴はできず,異議ということになります(356・357)。なお,訴訟判決に対しては,これは訴訟手続一般と同じ問題なので控訴です(356但)。こうした不服申し立ての制限があるので,やはり「手形判決」と表示する必要があります(規則216)。

2.督促手続について

これは,ちょっと異質な手続です。「書記官権限」で,実体的審理なくして,書面のやりとりだけで,執行力を付与してしまう,こういう手続きです。ちゃんと定義するなら,「金銭その他の代替物又は有価証券の一定数量の給付請求権」に関する債権者の主張を「債務者が争わない」ことを根拠に,「実体審理を経ないで」,迅速かつ経済的に債権者に「債務名義を取得させる」略式手続ということになります。

この手続きは,「書面」で書記官に申し立てる必要があります(384・133)。さすがに,実体審理を経ないで債務名義を取得させるので,しっかりと書面で申し立てることが要求されるわけです。口頭でもOKの簡裁通常訴訟等とは違います。

書記官は申立書を審査して適式と認めれば,「債務者を審尋しないで」支払督促を発付します(386Ⅰ)。債務者がちゃんとそれを認識しなくてはいけないので,公示送達によることはできません(382但)。

その支払督促が債務者に送達されて2週間を経過すれば,債権者は支払督促に仮執行宣言を付すように申し立てることができます(391Ⅰ)。支払「督促」というのは,文字通り督促であって,「払ってください」という通知です。仮執行宣言が付されてはじめて執行力を持ちます(債務名義となります)。

債務者としては,どうすればいいか?審理もなくいきなり支払督促が送られてくるわけですから,そりゃ黙っていられません。言い分があれば,督促異議という不服申立てをすればよいのです(395)。仮執行宣言前に督促異議を申し立てれば支払督促はその限度で失効(390)し,また,通常訴訟に移行することになります(395)。

債務者が何もしない場合はどうなるか?仮執行宣言を付した支払督促が送達されてから2週間が経過したら,督促手続は終了し,支払督促は「確定判決と同一の効力」を持つということになります(396)。ただ,実体審理を経ていませんから,ここでいう「確定判決と同一の効力」とは,執行力のことを言うのであって既判力を意味しないと考えられています。

試験対策(短答対策)としては,このあたりまで押えておけば十分であると思います。有機的に記憶できる助けとなれば幸いです。

<参考文献>

「民事訴訟法講義案<再訂補訂版>」(司法協会)360頁以下,379頁以下

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2 コメント

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Unknown (はら)
2011-04-25 18:50:35
慶應ローではいきなりそんなところから聞かれるんですか!?そりゃ,いきなり大変な…。私が民訴の講座をやるんだったら,そこからは出発しません(笑)

こういったところまで押えておいた方がいいのは,本日(4月25日)付けの記事にした通りです。毎年コンスタントに出てるので,押えておいた方がよいでしょう。

なお,持参書証と在廷証人,要は即時に取調べが可能な証拠に制限されるののは,食学訴訟である点を確認しておいてください。手形訴訟は,原則として書証に限られるので,在天証人の尋問はできないのが原則論です。
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Unknown (H)
2011-04-23 22:30:24
慶応ローの最初の民訴で、手形訴訟の証拠制限は具体的には何か?と言われて誰もわからなかったですね。
答えは持参証書、在廷証人って言ってましたがやはり択一ではそういうところまで抑えた方がいいんですね。
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