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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係5-1

2018年09月21日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 梅雨の中休みで良く晴れた空の下、球技大会がはじまった。

 始まって早々、おちゃらけている村上哲成をとっ捕まえて、

「ヘラヘラしてんじゃねえよ!」

 ………と、怒鳴りたいのをこらえて、

「勝つぞ?」

と、一言だけ言ってやった。せめてそれくらい言わないと気が済まなかった。

 何が面白くて、こいつのためにオレがこんなに切羽詰まらなくてはならないんだ……と腹が立つけれど、勝たなければもっと腹が立つだろうから、本気でやる。久しぶりに、本気で、やる。



 こうなったのは、球技大会の一週間前の出来事のせいだ。

「なあ、享吾。村上テツ、卓球に回さねえ?」

 バスケ部の練習が終わり、着替えている最中に、同じクラスの石田と林がコソコソと言ってきた。

「あいつバレーボール下手過ぎだろ? あれだったら井上の方がマシだからさ、村上テツと井上、チェンジしようぜ?」
「卓球よりバレーのほうがポイント高いじゃん? バレー一勝もできないと痛いじゃん?」
「…………」

 確かに、クラス優勝のためにはそれは有効だけど……

「でも、井上、卓球第一志望だったから……」
「えー、第一希望が通らなかった奴なんて何人もいるじゃん!」

 林が笑いながら言うと、石田が「そうそう」と力強く肯いた。

「だいたいさ、村上テツ、鬱陶しいんだよ。下手くそなくせに、練習仕切ったりしてさ」
「毎日練習するほどこっちは暇じゃないっての」
「…………」

 村上は毎日、昼休みがくると「練習しよう!」とみんなに声をかける。石田と林も時々は参加していたけれど、内心はそう思ってたのか……。

「享吾、クラスを優勝に導くのも学級委員の仕事だぞ?」
「そうそう。これは戦略だよ。下手くそは捨てでいいじゃん」
「その方が村上テツのためにもなるって。もしかしたら奇跡的に卓球勝つかもしんねえし」
「うんうん。オレらのストレスも無くなるし、一石二鳥」
「………」

 今から種目替えとなると、ここ3週間近くの練習が無駄になってしまう。まあ、村上は無駄になるというほど成長もしていないが……

 でも……

『サーンキュー』

 練習中、フォローしてやると、毎回、二カッと笑う村上の顔を思い出して、ちょっと胸が痛くなる。ヘタなりに頑張ってたんだけどな、あいつ……

 色々な思いが錯綜して黙ってしまったのだけれども……

「なんだよ、それ?」
 凛とした声に、ハッとして振り返った。完璧美形の渋谷慶が、腕組みをして、眉を寄せて立っている。

「下手くそは捨て? チームプレー第一のバスケ部員とは思えねえ言い草だな?」
「渋谷……」

 石田と林は気まずそうにうつむいた。けれども、すぐに顔を上げると、

「これも戦略。クラス優勝のためには、そういう選択もありだろ」
「つか、渋谷、他のクラスのことに口出ししてくんじゃねーよ!」
「ああ?!」

 案の定、血の気の多い渋谷が、石田につかみかかった。

「他のクラスとかそういう問題じゃねえだろっ。バスケもバレーも、フォローし合うのがチームプレーだって言って……」
「うっせーよっ」

 石田は、バシッと、渋谷の手を振り払うと、背の小さい渋谷を見下ろして、嫌な笑いを浮かべた。

「いつもスタメンの渋谷様らしい発言だな」
「は?」
「オレら万年控えの選手も試合に出て渋谷様にフォローしてほしいなあ」
「んなこと……っ」

 渋谷は何か言いかけて……口をつぐんだ。何を言っても藪蛇になる、と思ったのだろう。その横で、追い打ちをかけるように、林も小さく笑いながら言った。

「しょうがないじゃん。試合に勝つためには上手い奴が出るのが一番。これ鉄則。だから、渋谷は毎回スタメン。オレらは毎回控え。な?」
「……………」
「だから、村上テツがバレーから外れるのもしょうがない。だろ?」
「……………」

 渋谷は唇を噛み締めて、石田と林を見上げていたけれど……

「でも」

 ハッキリとした口調で言い切った。

「でも、こんな風に、陰でこそこそ言うのは間違ってる。それに、練習誘うテツを悪くいうのも、間違ってる」
「……………」
「……………」

 渋谷……

 ああ、そういえば、オレが入部して早々にも、こんなことあったよな……と思い出した。一人の部員をイジメみたいにしごいてた奴らを渋谷が怒鳴りつけて……

 渋谷は真っ直ぐだ。そのキラキラした眩しい光は、こちらの闇を際立たせるようで……。だから………

「渋谷……お前は正しい」

 吐き捨てるように石田が言った。

「正し過ぎて、息が詰まる」
「……………」

 ああ…………、そう。「息が詰まる」。石田、うまいこと言うな。

 渋谷といると、真っ直ぐなその瞳が眩し過ぎて………

 息が、詰まる。




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お読みくださりありがとうございました!
真面目!真面目か!誰得?!いいの!私が読みたいからいいの!!
と、いつもの自問自答をしながらの……
続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると幸いです。


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