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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係8

2018年10月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


「かなりマズイ感じなのよ」

と、バスケ部の荻野夏希が教えてくれた。

「享吾君、バスケ部女子からだけじゃなくて、1、2年の男子からも無視されてるの」
「え、何で」

 バスケ部女子は、別名『渋谷慶親衛隊』って言われるくらい、渋谷のファンが多いから、渋谷に怪我させた村上享吾が無視されるのは分かる。でも、下級生男子って……

「男子まで?」
「うん。バスケ部男子って、実は渋谷君のファン多かったし……それに変な噂も流れてて」
「噂?」

 荻野はちょっと眉を寄せると、

「享吾君が、渋谷君からレギュラー奪うために、わざと怪我させたんじゃないかって……」
「はあ?」

 意味が分からない。

「奪うって……元々キョーゴだってレギュラーじゃん」
「んー、そうなんだけど、毎回スタメンってわけではないからねえ」
「……………」

 そうだとしても、あの滅多にやる気をださない村上享吾が、スタメンを奪うために人を怪我をさせるなんて、考えられない。

 なんてこと、下級生達は知らないわけか……

「こないだは渋谷君抜きでも何とか勝ったみたいだけど、今の嫌な雰囲気では次の試合はきつそうなんだよねえ。それに、このまま引退は享吾君が可哀想だし……」
「そっか………」

 うなずいてから、ふと、思い出した。

「あれ? 荻野も渋谷親衛隊じゃなかったっけ? キョーゴのこと怒ってないんだ?」
「私は現場見てたからさ」

 荻野は軽く肩をすくめた。

「あれはどっちも悪くないよ。渋谷君の運が悪かっただけ」
「ふーん」

 それでも怒ってる奴はいるだろうけど、そうじゃない奴がいるっていうのは心強いかもな……

「で、テツ君にお願いがあるんだけど!」

 言葉の調子を変えて、荻野が言った。

「野球部って負けたから、もう部活ないよね?」
「…………。嫌なこと言うな、荻野」

 ムッとしてみせる。

 確かに、野球部は負けた。でも、相手は優勝候補の中学で、ピッチャーは市選抜のエース投手で、そいつがこの日はメチャメチャ調子が良くて……。だから、しょうがなかったんだ。

 うちで唯一のヒットは、うちのエース・松浦暁生のレフト前ヒットの1本のみだった。

 それなのに、0対3で迎えた最終回、暁生は、ツーアウトで回ってきた打席をオレに譲ってくれた。

「公式戦に一度も出てないのはテツだけだから、出してやってください」

 そう言って、監督に頭を下げてくれて、「思いきり振ってこい!」って送り出してくれて……

 結果はもちろん三振だったけど、初めて公式戦の打席を経験させてもらえて、中学で頑張ってきた印をもらえた気がした。

 何しろ負けた相手は優勝候補。暁生も他の野球部員もスッキリした顔をしていたし、みんなそれぞれやりきったんだ、と思う。

 でも、これで引退というのは、正直寂しい。まだ引退じゃないバスケ部が羨ましい。

「どうせ野球部は終わりだよ!」

 わざと怒って言ってやると、荻野は「ああ、ごめんごめん」と手を振った。けど、全然反省している調子はない。まあ、荻野はそういう奴だ……

「………だからなんだよ?」
「うん。だから、今度の日曜日空いてるよね?」
「おお」

 肯くと、パチン、と目の前で手を合わされた。

「渋谷君を、今度の試合に連れてきてほしいの」





【享吾視点】

 怪我をした渋谷慶を試合に呼ぶことに関しては、バスケ部内で意見が割れて、結局「呼ばない」に決まったため、誰も誘わないことになっていた。

 それなのに、

「おーい!」
「!!」

 試合が始まる寸前、上からの声に見上げると、渋谷慶と村上哲成が、体育館のギャラリーの手すりから身を乗り出してブンブン手を振っていたため、驚いて固まってしまった。

「渋谷……っ」
「おお!渋谷!」
「渋谷先輩!」

 わあっと部員たちから歓声が上がる。と、渋谷はますます大きく手を振った。

「頑張れよー!」

 渋谷の明るい声に、みんなが嬉しそうに手を振り返している。

 渋谷……元気そうだ。見舞いに行かなくては、と思いながら、行けずにいたので、その変わらないキラキラ感を確認できて少しホッとする。
 ぼんやりと眺めていると、渋谷がオレに向かって、大きく叫んだ。

「享吾!」
「…………」

 渋谷……。渋谷の膝のあたり、サポーターみたいなものが巻かれている。痛々しい……

 本当は、渋谷もここにいたはずなのに。オレとぶつかるのをよけようとしたために怪我をした渋谷。オレがあの時、取りにいかなければ……

 どんな顔をして渋谷を見ればいいのか分からない。戸惑ったまま見返すと、

「おれの分も、頼むな」
「…………」

 渋谷の真剣な瞳に、胸が掴まれたようになる。

 渋谷……。右手に杖みたいなものを持ってる。それに頼りながら歩いてるってことか……
 ああ、オレがそっちにいられればよかったのに。そうすればこんな……

「キョーゴ!」
「!」

 思考を破る甲高い声に、ハッとすると、渋谷の横で村上哲成が、ブンブン手を振っている。

「キョーゴ、本気出せよ! それが渋谷に対する一番の励ましになるぞ!」
「………」

 村上……

 いつものように、『ニカッ』と笑った村上。

「本気、出せ!」
「………っ」

 ぐっと背中を押されたような気がした。

 本気……本気。


 出せるだろうか。




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お読みくださりありがとうございました!
BLって、ボーイズラブの略ですよね……。なのに、全然、ラブが無い!題名に偽りあり!

でも、きっと、そのうちラブの話も…………ちゃ、ちゃんと出てくるのかなあ。不安で一杯な今日この頃💦

続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただきたくよろしくお願いいたします。

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