2015年12月30日(水)
3人、3人で向かい合わせの6人席。
オレの隣に、イケメン渋谷慶。その隣に渋谷の恋人の桜井浩介。
桜井の前に、弁護士の庄司先生。
その隣に、渋谷の勤める病院の院長・峰先生。
その隣……ようは、オレの前に戸田菜美子さん。
(これは何かの罰ゲームだろうか……)
という考えが頭の中をよぎったあたり、やはりオレの中で、戸田さんの存在がかなり大きなものになっていると認めざるをえない。
こんな奇妙な取り合わせで飲むことになった理由は、少し前の出来事に端を発している。
***
目黒樹理亜20歳。
桜井の勤め先の学校の卒業生であり、渋谷が怪我の処置をしたこともあり、オレの合コン相手の戸田菜美子さんの患者でもある女の子。
現在、ストーカーに狙われている。
込み入った事情があるようで、そこは聞かないことにしていた。でも、
「ストーカーの顔、おれも見たけど、遠目だったからよく分からなくて……。山崎は話したことあるんだよね?」
だから付き合ってもらえる? と桜井から連絡があったのは昨日の夜のこと。
先週の土曜日、桜井と渋谷で樹理亜の母親に会いにいき、そのストーカーが毎週水曜日に樹理亜母の経営するキャバクラに来店するという情報を聞きだしたらしい。
渋谷はまだ仕事のため、桜井とオレとで向かった。
そして現地で、庄司先生という、桜井の父親の弁護士事務所を継いだという弁護士さんと合流した。浅黒い肌でがっしりとした体格の庄司先生。その四角い顔は何だかとても頼りがいがある。
挨拶もそこそこに店の中に入ったのだが、入った途端、吐き気がしてきてしまった。
(なんだこの店……)
『ピンクピンクズ』という店の名の通り、店内はピンクで統一されている。ここまでくると毒々しい。
樹理亜母はオレ達を見ると、嫌そうな顔を隠そうともせずに、店の女の子達に「客じゃないから何もしないでいい」と吐き捨てるように言って、店の奥に引っ込んでしまった。目が大きなところが樹理亜と似ている気もするけれど、雰囲気が全然違う。天真爛漫で明るい樹理亜とは対照的に、母親からはトゲトゲしいオーラしか出ていなかった。
(問題ありそうな母親だな……)
樹理亜が心療内科に通院しているのも、あの母親が原因なんだろうか……
その直後、本当にあの男がやってきた。オレの姿を見て慌てて店から出て行こうとしたのを、即座にドアの前に回りこみ阻止する。
「この人?」
「うん」
桜井の問いに肯くと、庄司先生が男にツカツカと歩み寄った。
「少々お時間よろしいでしょうか?」
ビーンと響く良い声。差し出された名刺を受け取った男は、観念したようにうなだれた。
それから、話は驚くほど簡単に終わった。
『目黒樹理亜さんに対する付きまとい行為をやめてほしい。内容証明の用意もある。このまま続けるようなら自宅と会社に送付する』
庄司先生がその旨を淡々と告げると、男は目をつむり、素直に小さく肯いた。それで終わりだった。
でも、オレ達が席を立ったところで、男の未練がましいつぶやきが聞こえてきた。
「俺はただ、樹理亜の望むことをしてやりたかっただけだ。金ならいくらでも払ってやったのに……」
「………」
聞いた途端、桜井がバッとすごい勢いで振り返った。
「樹理亜さんの望むことは、お金では買えません」
「は?」
眉をしかめた男に、桜井が指を突きつける。
「彼女は自由への道を歩きだしている」
小さいけれど、否とは言わせない迫力のある声。
「邪魔しないでください」
強い意志を持った瞳に、男も、オレも飲まれてしまった。
桜井の中にこんな一面があったなんて、全然知らなかった。
***
「本来は、警察に届けるべきなんだけどね」
店を出てから庄司先生が苦笑気味に言った。
「なんか色々あるみたいだから……」
「すみません……」
先ほどとは打って変わって、小さく小さくなりながら桜井が頭を下げている。
庄司先生は、まあいいんだけど、と言ってから、オレのことをジッと見つめて、
「今日は浩介君の恋人に会えると思って楽しみにしてきたんだけど……」
「え」
違います違います!と慌てて手を振ると、庄司先生、「だよね」と肯いた。
「浩介君の話とはずいぶん違うからおかしいなーと思ったんだよ」
「話?」
「ああ、天使とか王子とか……」
「…………」
そりゃおかしいと思うわな。オレが天使や王子に見えるわけがない。
庄司さんは軽く肩をすくめると、
「まあ、天使で王子な41歳なんてそうそういるわけが……」
「います!」
桜井がムッとしたように話に入ってきた。
「いるんです。それが。ね、山崎もそう思うでしょ?」
同意を求められ、あーまー、と肯く。
「天使はともかく、王子は王子かな……」
「えー天使じゃん!あれを天使といわずして何を天使というの?!」
「………」
オレの中の天使はやっぱり女性だし……そもそも、渋谷が凶暴なことも知ってるし……。なんて言えない雰囲気。ホント、渋谷のことになると桜井は頭おかしくなるよな……
桜井はムキになったように庄司先生につめよると、
「庄司さん、お時間大丈夫ですか? もしよければ今からうちの天使に会わせます!」
「おお。それは是非会ってみたい」
庄司先生がニヤリと笑った。桜井は「期待しててください」と力強く言ってから、オレを振り返った。
「山崎もよければ一緒に」
「あーうん」
飲みたい気分だったので、ちょうどいい。オレも二つ返事で肯いた。
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お読みくださりありがとうございました!
まだ途中なのですが、とりあえず半分更新します。
携帯のgooブログの調子がおかしくて……記事一覧がなかなか開いてくれないのです。
パソコンではそんなことないんですけど……そんなこんなで書き終わらず……
ものすごく不本意ですが、今日はここまで。
明日続きをアップさせていただきます。
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画面二度見して倒れそうになりました。本当にありがとうございます!!
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