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風のゆくえには~たずさえて3(山崎視点)

2016年07月10日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2015年8月2日(日)


「渋谷、あいかわらず綺麗な顔してるよな」

 酔ってソファーで眠ってしまった渋谷の顔を見ながら、皆川がしみじみと言った。

「オレ、高校時代、渋谷が女だったらいいのにって何回も思った」
「あー分かる分かる。そこらの女よりずっと綺麗だもんな」

 溝部まで調子よく肯くと、渋谷の恋人である桜井がものすごく嫌な顔をして、

「変なこと言わないで」

と言って、隠すように渋谷を横抱きに抱きあげると、リビング続きの洋間のベッドに連れて行ってしまった。その抱きあげる仕草も手慣れていて、こいつら本当に恋人同士なんだなあ……とあらためて思う。

 二人の住むこのマンションに来るのも今日で三回目。
 一回目は、同窓会の帰り、酔って立てなくなった桜井を溝部と一緒に送りにきて泊めてもらった。
 二回目は、先々週。オレと溝部と斉藤という高校時代つるんでいたメンバーと、鈴木と小松の女子二人。すっかり母の顔になった鈴木とガッツリ飲んで、溝部もようやく高校時代の片想いと決別できたようだ。
 三回目の今日は、オレと溝部、それに皆川と委員長。

 皆川はオレと同じ中学出身で、オレと同じく大人しくて地味なタイプ。委員長は学級委員でクラスを仕切れるくらい目立ってはいたけれど、基本的に真面目なので、皆川と同じグループだった。
 どう考えても、オレも委員長や皆川のいる地味グループの方がシックリくるのに、なぜか高校2年の一年間は、わりと派手な渋谷や溝部と一緒に行動していたのだ。なんでなのかいまだに本当に分からない……。

 でも、大人になり、それぞれ所属の場所が違ってしまえば、そんなことも関係なくなってくる。溝部と皆川も当時はたいして話したことなかったのに、同窓会で意気投合して、今回の集まりでも妙に二人で盛り上がっている。

「渋谷だったら男でもありだったなー。結局、桜井だって渋谷に迫られて落ちたってことだろー?」
「あんな綺麗な顔に迫られたらそりゃ落ちるよなあ」
「オレ、高校の時の渋谷だったらヤレた自信ある」
「え、まじか。え、ヤレるかー?」
「ヤレただろ! だってあの顔だし、背も小さくて華奢でー」
「可愛かったよなー。うーん、ヤレるかー」

 溝部と皆川、相当酔ってる。酒の席の下ネタとはいえ、この話題はどうなんだろう。委員長と顔を見合わせ、肩をすくめたところで、

「もー、いい加減にして!」

 戻ってきた桜井が溝部と皆川の間に割って入ってきた。

「人の彼氏のこと、ヤレたヤレたって!」
「だって結局そういうことだろー? 桜井、ヤったんだろー?」
「つか、ヤってるんだろー?」
「いいなーオレもあんな綺麗な顔に……」

と、皆川が調子に乗って腰を振るような仕草をしたところで、

「ヤってないから!」

 ビシッと、桜井が遮った。さすが現役教師。迫力がある。ふざけていた皆川もピキーンと固まってしまった。
 でも、溝部はすぐに「は?」と眉を寄せて、

「ヤってない? どういうことだ?」
「どういうこともこういうこともないよ。みんなだって知ってるでしょ、慶がものすごく男らしくて喧嘩も強いこと」

 桜井はムッとしたままそういうと、そこら辺の食べ終わった食器を重ねはじめた。
 確かに渋谷は可憐な容姿とは裏腹に、口も悪いし男らしいし、中学時代は相当狂暴だったという話も聞いたことがある。

「え、え? ってことは……」
「うそだろっ」

 溝部と皆川が手で口を押さえて、小さく叫んだ。

「桜井、お前が、ヤられる側ってことか?!」
「…………」

 桜井は食器を持ち、よいしょ、と立ち上がると、何でもないことのように言った。

「だからこないだも言ったでしょ。うちはおれが奥さんで、慶が旦那さんだって」
「…………」
「…………」

 キッチンに行く桜井を見送りながら、溝部と皆川がわざとらしくブルブルと震えだした。

「オレ、無理。いくら渋谷が綺麗でも無理……」
「掘られるのは無理。ホントに無理無理……」
「二人とも……」

 いい加減にしなよ……とたしなめたところで、桜井がお盆を持って戻ってきた。

「お茶漬け食べる?」
「うわ、なんだその気の効き方!」
「すげー豪華なトッピング!」
「これはオレの知ってるお茶漬けじゃない!」

 鮭やら三つ葉やらネギやら海苔やら梅干しやら……その場で手際よく一人ずつリクエストを聞きながらお茶漬けを作っていく桜井………

「あーオレ、桜井みたいな嫁がほしー。料理上手で、文句言わずに家事全般してくれる嫁ー」

 溝部がしみじみとつぶやくと、この中で唯一の妻帯者である委員長が苦笑した。

「溝部、そのセリフ、女の前で言わない方がいいぞ。私は家政婦じゃない!ってキレられるのがオチだ」
「委員長がいうと実感こもっててこわい」

 委員長は同級生の川本沙織と結婚している。川本は大人しそうなだけにキレると怖そう、というイメージがある。

「委員長家事してるの?」
「あー、平日はゴミ捨てくらいだけど、休みの日の昼飯はオレが作ることになってる」
「へーーー」

 子供は小2の女の子と年中の男の子らしい。休みの日はいつも子供達を公園で遊ばせていて、目下の悩みは上の子が逆上がりできないことと、下の子の自転車の練習で腰が痛いこと、だそうだ。
 委員長、別世界の住人だ……

「なんかすげーなー委員長……」
「ほんとだな……」
「別にすごくないだろ」

 オレ達の言葉に委員長が肩をすくめる。

「それを言うなら、今から恋愛はじめようとしてるお前らの方がよっぽどすごい。オレはそういうの面倒くさくてもう無理」
「えー……」

 別に恋愛をはじめようとしているつもりはないけれど、合コンに行ってるってことはそういうことになるのか……

「無理って、やっぱり川本とはもう今さら恋愛関係じゃないってことか?」

 溝部の質問に委員長は再び肩をすくめた。

「家族ってやつだな。呼び方もすっかりパパママだし」
「え、ヤってる最中もパパママ?」
「最中ほぼ無言だから、どのみち呼ばねーよ」

 皆川の突っ込んだ質問にも、委員長は平然と答えている。

「ちなみに月にどのくらい……」
「月1……いや、2?」
「委員長……」

 真面目に答えなくていいから……
 川本のこと知ってるだけに想像したくない……

 ズズズとみんなでお茶漬けをすする。これはおいしい。

「ちなみに、桜井奥様のうちは?」
「え、何?」
「何って……」

 タッパーの蓋を閉めながら振り返った桜井に、溝部が呆れたように言う。

「会話の流れについてこいよ。月に何回ヤってるかって話」
「え、月に? えーっと……」

 指で数えはじめた桜井。おいおい、片手で足りなくなってないか……?

「…………もういい。数えるな」
「え? あ」

 溝部が止めさせたところで、ちょうどベッドで寝ていた渋谷がフラフラと部屋から出てきた。

 桜井がいそいそと渋谷のところにいき、「お水飲む?」「汗かいてない?」「お茶漬け食べる?」と世話を焼いている姿を見て、溝部がしみじみと呟いた。

「桜井……。男ということをのぞけば理想の嫁だな」
「だな」

 溝部と皆川がうなずきあっている。

(理想の嫁……)

 理想の嫁ってなんだろう。料理上手なこと? 身の回りの世話をしてくれること?

(うーん……)

 それじゃ家政婦と一緒だな……。
 そもそもオレは、料理はあまり得意ではないものの、家事自体は苦痛ではないので、そこに利点を見いだせない。まあ、確かに、桜井並の料理が毎日食卓に出てきたら嬉しいけど……。

 うーん、と首をかしげたオレの横に、渋谷がストンと座った。桜井が再びタッパーを開けながら渋谷に聞いている。

「慶、どっち?」
「あー……、あ、やっぱこっち」
「いつもくらい?」
「ちょい少なめ、あ、これは多め」
「ん」

 ぽんぽんぽん、と交わされる会話。生活を共にしているものならではのやりとり。

(……こういうのはちょっと羨ましいかも)

 一緒にいるのが当然、お互いのすべてが分かっている、みたいな関係。

(まあ……そんな人に出会えるのは、やっぱり奇跡なんだよなあ)

 先月、久しぶりに合コンなんて行ったけれど、やはり妙齢の女性と話すのは気疲れしてしまって……。連絡先を交換したものの、結局あれから一度も連絡を取っていない。
 でも、溝部は連絡を取っていたそうで、新たに人数を増やしての「バーベキュー合コン」なるものに誘われてしまった。……正直、気が重い。

「桜井、おかわりー」
「オレもー」
「オレも。今度梅干しがいい」
「オレ鮭ー」

 みんなで桜井にお椀を差し出すと、渋谷が得意そうに「うまいだろ~?」と自慢しはじめた。

「出汁も全部手作りだからな!」
「すげーな。うらやましいぞ、渋谷」
「オレも桜井みたいな嫁が欲しー」
「だろー? でもこいつはおれのだから誰にもやんねーよ」

 渋谷は満面の笑みを浮かべ、前と同じようなセリフをまた言っている。

「だから野郎の嫁はいらねーっつーの!」

 そして前と同じツッコミをする溝部。
 でも皆川は、お茶漬けの用意をする桜井の様子を眺めてブツブツいいはじめた。

「でもホントに男ということを除けば理想の嫁なんだよな~。」
「理想?」
「理想だろー。料理上手で、甲斐甲斐しく世話してくれて、その上、月に……」
「み、皆川!できたよ!」

 慌てたように桜井が皆川の前にお茶漬けのお椀を押し出した。月に何回、の話は渋谷の前では触れてほしくないらしい。そりゃそうか。怒られそうだもんな。

 みんなで二杯目のお茶漬けをいただきながら、理想の嫁の条件をあーでもないこーでもないと言い合っている中、

「浩介、そっち一口」
「ん」

 渋谷と桜井はごくごく自然にお椀を交換して、

「あ、やっぱこっちもうまい」
「そう?」

 二人で微笑み合っている。こんな風に幸せそうに笑いあえることも……ちょっと羨ましい。

 


---------------

お読みくださりありがとうございました!
安定ラブラブ浩介と慶♪♪

えーと。ここで訂正(訂正?)。浩介さん、ウソついてます。本当は慶が受です。
でも慶がそういう対象でみられることに我慢できなくて、ウソついちゃったんです。
(『あいじょうのかたち33』で、浩介が慶にしてた話がこれでした)

浩介と慶、月に何回か?ですが、基本週1~2でした。が、この話の少し前に、色々あって増えまして……。増えた状態がスタンダードになりつつある今日この頃。週3くらいしてるかも、な感じ。でも回数はたいてい1回です。その1回がしつこい(丁寧と言ってあげて)浩介。………って、何を真面目に解説してるんだ私(^_^;)

そして皆川君。ここにきて書けるとは感無量……。
皆川君は『巡合4』で名前だけ出てきた男の子です。
文化祭の時の、メニュー班の一人でした。『メニュー班リーダーの鈴木さん、小松さん、山崎、皆川』って記述があります。
その時に、「君たち『溝部・山崎・斉藤・渋谷・桜井』の五人で仲良かったんじゃないの? 皆川って誰?」って思った方!(←そんな人はいない(^_^;))
本筋から外れるので当時は書けませんでしたが、もちろん皆川君もちゃんとキャラ設定ありまして。山崎の中学時代からの友人、同じ地味系男子。でもそうとうムッツリのアイドルオタク。今は秋葉原に通い詰めてます。
班決めの時に、人数の割り振りの関係で、山崎皆川でメニュー班になりました。

そしてついでにいうと、その時はまだ、溝部は鈴木さんへの恋心に気が付いていなかったため、違う班を選んでしまったのでした。溝部が鈴木さんのこと好きって気が付くのは文化祭終わってからです。
そのまま告白もせずに約24年。心の中で燻り続けていましたが、同窓会の席で勢いにのって告白、そして先々週ガッツリ飲んで、ようやく心の整理がついた、かも?(って今までも合コン行きまくったり彼女いたりしてましたけどねー)

溝部、鈴木さんみたいにちょっと気の強い、言いたいことポンポン言ってくる子が好きなので、菜美子の友人・明日香はかなりタイプなんじゃないかなあ……なんて思ったり。

なんて、あいかわらずどうでもいい細かい設定説明失礼いたしましたっ。

あくまでも、この物語は、山崎と菜美子の話!なのに、山崎が存在感なさすぎて今後が心配ですが、どうぞ温かい目で見守っていただければと……よろしくお願いいたします!!

そして……
クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当に本当にありがとうございます!
こんなどこにでもある恋愛物語ですが、友達の友達の話、くらいの身近さでお読みいただけると幸いです。
よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

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