<登場人物・あらすじ>
渋谷慶……医学部5年。身長164センチ。中性的で美しい容姿。でも性格は男らしい。
桜井浩介……高校教師2年目。身長177センチ。外面明るく、内面病んでる。慶の親友兼恋人。
渡辺恵……医学部5年。身長155センチ。慶と同じ実習グループの一人。あだ名はナベちゃん。本読み切りの主人公。
高校2年生のクリスマス前日から晴れて恋人同士となった慶と浩介。
それから7年。浩介が就職して、慶の大学の近くにアパートを借りているため、現在は半同棲状態。
カミングアウトはしていないため、まわりには仲の良い親友と言っている。
今回は慶に憧れている渡辺恵(本作初登場)の視点でお送りします。
ナベちゃんに、慶と近づける千載一遇のチャンスがやってきた!けれども……というお話。
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『風のゆくえには~王子の王子』(渡辺恵視点)
東大卒エリート官僚だった両親が、突然農業に目覚めて、縁もゆかりもない田舎で農業をはじめたのは、私が3歳の時、らしい。
それ以来、田舎暮らしをしながら両親から英才教育を受けた私は、村一番の優秀な子供としてみんなにチヤホヤされながら育った。
井の中の蛙かと思いきや、浪人当たり前の偏差値の高い医学部に現役合格できたんだから、大海知ってたんだなー大海もたいしたことないなー……と、都会生活を馬鹿にしてたのだけれども。
(………すみませんでした!!)
彼を初めて見た時、思わず、声に出して謝りそうになってしまった。
村で一番かっこよかった悟志君なんて足元どころか地球の反対側にも及ばない美少年。こんな人が地球上に存在してるなんて!
「渋谷慶です。よろしくおねがいします」
にっこりと笑ったその笑顔に、その場にいた女子は全員魂持って行かれてしまった。
(美しすぎる……)
みんなは陰で『天使』と呼んでいたけれど、私は『王子』だと思った。漫画に出てくるような王子様……。
現在、その王子と同じ実習班になった私は、みんなの羨望の眼差しを一身に受けている。男子4人女子2人の班なのだが、もう一人の女子は女捨ててる山田さん。だから敵ではない。でもとても良い子で、彼女も渋谷君のことを『王子』と呼んでいる。
王子はその見た目を裏切らず、優しくて明るくて、それでいて男らしくてリーダーシップもとれて、スポーツもできて、背が低めということを除けば、まさに完璧王子だった。
男女問わず友達も多いけれど、特定な彼女はいないため、ひっきりなしに色んな女子からアプローチをかけられている。でも、
「好きな人がいるので」
そういって、王子は毎回誘いを断っている。あまりにもなびかないから「男が好きなんじゃないの?」なんて意地悪なことをいう人もいたけれど、王子はそんな噂、どこ吹く風。絶対に一対一の誘いに乗ってくることはない。どれだけその「好きな人」に操立ててるんだ。
だから、実習班が一緒の私は、他の面々よりも一歩も二歩も王子と距離の近い女子である。
でもそれなのに、なかなか二人きりで個人的な話をする機会もなく、もどかしく思っていたある日……千載一遇のチャンスが巡ってきた。
月曜の夕方。
忘れ物をして取りに戻ったところを、先生に捕まって遅くなり、内心文句タラタラで校舎を出ようとした時のことだった。
「………?」
出入口近くにある柱の後ろのベンチに人の気配を感じて、何の気なしにのぞきこんでみて…………
(王子!)
ビックリして叫びそうになってしまった。
王子がカバンを枕にして寝てる……
(うわ……寝顔、超可愛い……)
こんなチャンスなかなかない。その綺麗な顔を近くで拝もうと、そーっと近づいていったところ………
(あれ)
様子がおかしいことにすぐ気がついた。顔がずいぶん赤い……息も苦しそう……
「渋谷君?」
小さく声をかけると、王子がうっすらと目をあけた。うるうるした目にキューンとなって、こっちの心拍数がはね上がってしまう。でも、そんな場合ではない。これは確実に高熱がある。
「だ、大丈夫?」
「…………」
僅かにうなずいた王子……辛そう。可哀想……。
それなのに、むくむくむくと悪魔の囁きが大きくなってきてしまった。
(これ、チャンスじゃない?)
王子のうちは横浜と聞いている。こんな調子では帰ることは不可能だ。
その点、私はここから徒歩圏内で独り暮らし中。こ、これはお持ち帰りしろということでは……っっ!
ドキドキする胸を落ち着け、王子の耳元に顔を近づけてささやいてみる。
「渋谷君……、私、この近くで独り暮らししてるの」
「…………」
「よければうちに……」
おいでよ、という前に、ブルブルブルと着信を知らせる音が聞こえてきた。
(なんだよ……っ)
と思ったら、王子の手元の携帯の音だった。王子は画面をみてから、私に視線を動かし、小さな声で言った。
「………ナベちゃん」
「な、なに?」
せっかく『恵』って可愛い名前があるのに、あだ名が『ナベちゃん』ということには納得いっていない。でもまあ、もう一人の女子の山田さんは『山田さん』だから、それよりは親近感あって良い気がする。
というのは、置いておいて。
王子は私に携帯を差し出すと、再び小さな小さな声で言った。
「ごめん、出てもらってもいい?」
「え!?」
「それで、ここ連れてきて……」
「??」
連れてくる? 何を?
分からないまま、朦朧としている王子から電話を受けとる。画面には『桜井浩介』と表示されている。
(友達?)
頭ハテナのまま、電話を取ってみると、電話の向こうから耳に響く優しい声が聞こえてきた。
『慶? 大丈夫?』
「………!」
うわ……っ、なんて愛情こもった声!
『慶?』
慶、だって。ビックリ……
王子は『慶君』は何とかOKだけど、『慶』と呼びつけで呼ばれることはものすごく嫌がるらしいので、誰も『慶』と呼ぶ人はいない。一年生の時、お調子者の男子が飲み会の席でふざけてしつこく呼び続けたところ、「マジで死ぬかと思った」という目に合わされたというのは、有名な話で……
『慶、今どこに……』
「あ」
電話の向こうの問いかけで我にかえって、慌てて返事をする。
「あ、あの、私、渋谷君と同じ班の渡辺……」
『…………え』
名乗ると、一瞬の間のあと、『桜井浩介』の声のトーンが上がった。
『電話出られないくらい具合悪いんですか!?』
「え、あの……」
『今、どこにいますか? 僕は門を入って一つ目の校舎を過ぎるあたり……』
タッタッタ、と走っている音も聞こえてくる。
「そうしたら、そこそのまま通り過ぎて……」
道順をいいながら、入口近くに出てみると、電話をかけながら走ってくる人影が目に入った。背の高い細身の男の人……なんとなく見たことあるようなないような……
手を上げて合図をすると、その人は携帯を切って、ものすごい勢いで走ってきた。
「あ、こっち……」
王子の寝ているベンチの方を指差すと、彼は一瞬だけ私に会釈をして、そのままの勢いで校舎の中に飛びこんでいってしまった。
(早っ)
突風のようだ。
慌てて私も中に入ると……
(う……、うわ……)
見ちゃいけないものな気がして、目を反らそうと思ったけれど、あまりもの美しさに視線が縫いつけられてしまった。
(何これ……白雪姫? 眠りの森の美女?)
そうツッコミたくなる光景……
王子の白皙の頬を大切そうに包んでいる『桜井浩介』の手が、『桜井浩介』の目線が……
「お前の手、冷たくて気持ちいい……」
そう言う王子のふわっとした笑顔が………今まで一度もみたことのない甘えきったような瞳が……
(はうう………二人お似合い過ぎ……)
…………って。
ちょっと待て!
「あの!」
我に返って二人に声をかける。
いかんいかん。危うく禁断の妄想をしてしまうところだった。
違う違う。今こそ王子と近づくチャンスなのだ。この千載一遇のチャンス、逃すものか!
「私、ここから歩いて帰れるとこに住んでるんです。よければ渋谷君うちに……」
「あ、大丈夫です」
がっついて言いかけたのを、『桜井浩介』にあっさり遮られた。
「僕のうちもここからすぐなので。すみません、ありがとうございました」
「え」
有無を言わさぬ口調の桜井浩介。
さっさと私に背を向けると、
「慶、ちょっとだけ起きられる? おんぶするから」
「ん………」
慣れた感じで王子の体を起こして座らせ、その前にしゃがみこんだ。王子もなんの躊躇もなく、その背中にきゅっとしがみつく。
「荷物これだけ?」
「ん」
軽々とおんぶする桜井浩介。くてっとした王子が桜井浩介の肩に頭を預けている。か、可愛い……っっ
「あ、あのあのあのっ」
こんなおいしいチャンス二度とこない! このまま帰してなるものか!!
「荷物、私持ちます!」
「え」
なかば強引に桜井浩介から彼自身のカバンと王子のカバンを奪い去る。
「はい! 行きましょう!」
「え、でも」
桜井浩介は渋ったけれども、王子に何か言われて、
「じゃあ、すみません。お願いします……」
不承不承、というのを隠しもせずこちらに軽く頭を下げると、おんぶもものともせず、スタスタと歩きだした。
慌てて後を追いかけながら、内心ガッツポーズをする。
よし。看病には女手必要だよね! どうせ男の独り暮らしなんて散らかってるだろうから、お片付けからはじめないと。ここは女らしさを見せつけるチャンス~~~~
……………と、思ったのに。
桜井浩介の住むアパートは、見た目は古くさくて階段も狭くてボロい感じなのに、リフォームしたのか部屋の中はとても綺麗だった。6畳程度のフローリングの1Kの部屋は掃除が行き届いていてどこも散らかっていない。下手すると私の部屋の方が汚い……。
「着替えさせるので出てもらえますか?」
「あ……」
桜井浩介、言い方冷たい……
ベッドに下ろされた王子は本格的に朦朧とした様子で座っている。
「あの、私に何か出来ること……」
「…………。じゃあ、これ、濡らして電子レンジで30秒お願いします」
タオルを渡されついでに廊下と部屋の境目のドアを閉められた。
(蒸しタオルってことね……)
指示通りタオルを濡らしながら、今部屋の中で王子が着替えていると思うとドキドキしてきた。
(着替えって……桜井浩介の服を着せるってことだよね………デカイでしょ)
それをダボッと着てる王子………か、可愛すぎるだろっ絶対可愛い!
なんて妄想を繰り広げていたら、
「終わりました」
「おわっ」
扉が開いて桜井浩介が出てきた。同時に電子レンジも終わった音がした。
「ありがとうございます」
桜井浩介は素っ気なく言うと、電子レンジからタオルを取りだし、また王子の元へ………
(あれ?)
ぽけらーと座っている王子……部屋着みたいな長袖Tシャツとジャージのズボンを着てるけど…………
(………ジャストサイズだ)
これ絶対、王子の部屋着だ……なんでここにあるんだ?
頭の中ハテナになりながら見ていると、桜井浩介は手際よく、王子の顔を拭き、手を拭き、足まで拭き、
「ポカリスエット買ってくるから眠ってて?」
これでもか、というくらい甘やかした声で言いながら、王子を寝かせて布団をかけている。
「浩介」
行きかけた桜井浩介を王子が小さく呼び止めた。
「ナベちゃんに……」
え? 私?
ドキッとして見てみると、桜井浩介が王子の口元に耳を寄せて何か聞いている。そしてうなずいてから、くしゃくしゃと王子の頭を撫でた。
「ついでに送っていくね」
「…………」
ついで。
ポカリ買うのが目的で、送るのがついでですか。はーそうですか。桜井浩介、いちいちトゲがあるな……
それに反して、王子は朦朧とした様子にも関わらず、優しい瞳を私に向けると、
「ナベちゃん、ありがとね……」
「あ、ううん。全然!」
はうう。やっぱり王子は王子だ……
うっとりしそうになったところ、王子が小さく続けた。
「それで、ごめん、頼みがあるんだけど……」
「何何!? ……え?」
おもむろに桜井浩介が机の引き出しを開け、レポートを取り出し、私に渡してきた。名前……渋谷慶。王子のだ。なぜこの部屋の机の引き出しに入ってたんだ?
「それ、提出期限明日だよね。ごめん、出しておいてくれる?」
「う、うん……」
頭ハテナハテナのまま王子の言葉にうなずく。
その後、さっさと部屋を追い出されたわけだけれども、出ていく前にサッとチェックしてみたら、食器棚にマグカップが2つ、洗面台に歯ブラシが2つあった。
これってまさか………この狭い部屋で二人で暮らしてるってこと???
**
「大通りまで送ります」
桜井浩介はそういってスタスタ歩きだした。歩くの早すぎる! っていうか、何なんだ! この敵意剥き出し! いい加減腹立ってきた。
「あの、すみません!」
「……何ですか?」
眉を寄せた桜井浩介にビシッと指差してやる。
「歩くの早すぎ! 女の子の歩幅に合わせてください!」
「ああ……すみません」
全然悪く思ってないように肩をすくめた桜井浩介。ムカつくー!
「桜井さん、彼女いないでしょ?」
「は?」
「女の子と歩くの慣れてたら、女の子のコンパス、女の子のペース、わかるはずでしょ? こんなスタスタ……」
「ああ」
桜井浩介、鼻で笑った。
「すみません、彼女、身長174センチあって、むしろ僕より歩くの速いもので」
「………………」
か、彼女いるのかよっ。ってことは、あのマグカップと歯ブラシは彼女のかっ。
ああ、余計にムカつく。ムカつくムカつくムカつくー!!
なんで王子はこんな性格悪い奴と友達なんだ?!
「あのー」
ムカついて口も聞きたくなかったけれど、好奇心の方が勝った。
「渋谷君と桜井さんは何の知り合いで……」
「高校時代からの『親友』です」
ペースをゆるめて歩きだした桜井浩介が『親友』という言葉を強めて言う。親友。はーそうですか……じゃあ教えてもらおうじゃないの。
「じゃ、ご存じですよね?」
「何を?」
「渋谷君の『好きな人』」
「……え?」
ピタッと立ち止まった桜井浩介。
「好きな……人?」
「まさか知らないんですか?」
それでよく『親友』なんて言えるな! 思わず勝ち誇ったように言ってしまう。
「高校の同級生だって、渋谷君言ってましたよ? 桜井さんもご存じの方じゃないんですか?」
「え……」
固まった桜井浩介に構わず続ける。
「高1の時からずっと好きで、今も変わらず想ってるけど、今の関係を壊したくないから恋人にはならないって……」
「…………」
「すごい一途ですよね。渋谷君。その彼女がうらやまし~ってみんなで言ってるんです」
「あ……そう……なんだ」
(なんだ?)
桜井浩介、口に手を当てて、へえ……と言いながら……
(にやにやしてる……気持ち悪っ)
まるでその相手が自分であるかのように……。
ああ、でも、この人、彼女いるんだから、そういう趣味ではないはず。ってことは、このにやにやは。
「もしかして、やっぱり知ってる人?」
「あ……、うん。まあ……」
やっぱりな。
にやにやを必死で抑えようとしている桜井浩介に畳みかける。
「どんな人なんですか?」
「どんなって……普通の人だよ」
「普通?」
あの王子に想われている子が普通とは思えないんだけど……
でも、桜井浩介は軽く手を振ると、
「本当にただの普通の人。なんでずっと好きなのか、おれも不思議でたまらないんだよね」
「へえ……」
なんだ? 桜井浩介、口調が変わった。さっきまでの刺々しさはどこにいった?
「あのー」
「え?」
ちょっと笑顔にさえなっている桜井浩介に疑問をぶつけてみる。
「桜井さん、さっきまでと全然態度違うのは何でですか?」
「え!? あ………」
今度は「しまった」って感じに口元に手を当てた桜井浩介。
「ああ………すみません。つい癖、というか……」
「癖?」
態度悪くするのが癖?
「彼、女の子に付きまとわれること多くて。なので、昔から追い払える虫はおれが追い払って………あ」
はっと言葉を止めた桜井浩介。でも遅い。
「なるほど。私も虫認定されたわけだ」
「………はい」
桜井浩介、素直に認めて「すみません」と言った。なんか面白い人だ。
「で? 私はまだ虫ですか?」
「それはあなた次第です」
また冷たい口調と真面目な顔に戻ると、桜井浩介はアッサリと言った。
「今後、彼に色目を使うようなことがあったら、容赦なく虫扱いです」
「…………」
変な人……
「彼を守ることが僕の使命なので」
「はあ……」
いたって真剣な顔で言った桜井浩介……
守ることが使命?? ってことは……
(王子の王子……か)
桜井浩介は王子の王子ということらしい。
**
3日後、渋谷王子が元気溌剌復活して登校してきた。
「ナベちゃん、ありがとうね」
いつもと変わらぬ王子スマイル。
「それで………」
小さく手招きされた。
わわわっこんなこと初めて!
赤くなった顔を見られないように、両頬を手で覆って近づくと、王子は少し眉を寄せて言った。
「ごめん。あいつ変なこといってたでしょ?」
「え、あ、うん」
桜井浩介のことだ。
「虫の話?」
「そうそう。ごめんね。ほんと失礼だよね。代わりに蹴っておいたから」
「蹴って……」
想像して笑ってしまうと、王子も困ったように笑った。
「あいつ、昔からああなんだよ。変なことばっか言ってて……」
「あー、そうだねえ。言ってたねえ。『彼を守ることが僕の使命』、とかね?」
「え!?」
王子、ビックリ眼。
「あいつそんなこと言ってた?」
「うん」
「………なんだそりゃ」
あちゃーと頭を抱えた王子は、いまだかつてみたことないほど真っ赤で……
かわいい……。からかいたくなってきた。
「なんか、桜井さんって、渋谷君の王子様みたいだね」
「え?! あー……」
王子は否定も肯定もせず、あーとかうーとかいいながら席に向かっていってしまった。途中、机にぶつかったりして、明らかに動揺している。
(まさか、本当に噂どおり……)
王子の想い人は男……桜井浩介なんじゃないだろうか。
部屋着やレポートを置きっ放しにするくらい、しょっちゅう行ってるぽいし…。
あ、でも、桜井浩介には身長174センチの彼女がいるらしいしなあ。
でも、渋谷君のことを守ることが僕の使命って……
「うーん……わからん」
いくら考えても答えはでない。でも、2つ分かったことがある。
まず、渋谷慶王子はいつでもどんな時でもカッコいいし優しいということ。
そして……
「げー……」
放課後、思わず、非難の声を上げてしまった。
校門の前、桜井浩介が立っているのを発見……
「誰だろ? あの人。ナベちゃん、知ってる?」
「あーうん」
山田さんの質問に軽く肯く。
「あの人はあれよ。あれ」
「あれ?」
「渋谷君の……」
言いかけたところで、真横を風が通り抜けた。渋谷王子だ。
王子は病み上がりとは思えないすごい速さで桜井浩介の元に走って行き、
「浩介っ」
「うわっ」
桜井浩介が悲鳴をあげるほどの勢いで体当たりした。そして、そのまま背中とか腕とかバシバシ叩いている。なんだろう。この光景……
「渋谷君……犬みたいだね」
「あ……なるほど」
山田さんにポツリと言われ、納得する。
そうだ。飼い主に久しぶりにあった犬みたいだ。ジャレ回ってる、みたいな。
「お友達?」
「うん。そうらしい」
「へ~~仲良いんだね」
「………だね」
そう。分かったことのもう一つは、『二人はとにかくものすごく仲が良い』ってことだ。
「渋谷君の王子様らしいよ」
「へえっ」
山田さんの目がきらーんと光った。
「王子の王子?」
「そうそう」
「そりゃおいしい」
そんな私達の批評を知るはずもない、王子と王子の王子は、じゃれ合いながら歩いていってしまった。
せっかく王子とお近づきになれるチャンスと思ったけれど、距離は少しも縮まらなかったな……。
でも、みんなが知らない秘密を一つ知ることができた。
渋谷君には、王子みたいな親友がいる。
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お読みくださりありがとうございました!
病気になった慶を迎えにくる浩介、というの妄想していて、誰視点で書こうかと迷っていたら、ポンッと飛び出してきたのがナベちゃんでした。元々、慶と実習同じ班の女子二人はこんな子……という下地はあったので、書けて嬉しかったです。なんのオチも盛り上がりもなく、ダラダラと9000字超え……すみません…。
ちなみに174センチの彼女とは、浩介の友人で恋人のフリをしてくれているあかねさんのことです。
そして、ナベちゃん、一年生の時に慶のバイト先に来ていた浩介のことを何度か見ているはずなのですが、浩介が当時と髪型も雰囲気も変わってしまったため、「見たことあるようなないような」止まりで思いだすことはできませんでした。
今回は慶・大学5年生の時の話でした。
一覧表で、一年につき2つ以上になるよう埋めていっております。
よって6年生は『1999年7の月』と『正しいゴムのつけ方』の2つがあるため、パス。
なので次回は、研修医一年目、かなあ。
でもその前に、現在の話にしようかなあ……と考え中でございます。
また一週間後を目安に更新できたら、と思っております。もしお時間ございましたら、どうぞよろしくお願いいたします!!
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