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創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ベベアンの扉(11/22)

2006年10月13日 14時37分27秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
「達之~? 誰か来ているの~?」
 ノックもせずにドアが開き、緑澤君のお母さんが入ってきた。そして私の顔を見るなり、眉を寄せた。
「あなた昨日も外にいたわよね? 最近、どうもおかしいと思ったら・・・、達之にはまだ男女交際は早すぎるわよ」
「そんなんじゃないよ、母さん」
 達之、と、兄の名前で呼ばれた和也は苦笑して首をふった。
「彼女は忘れ物を届けにきてくれたんだよ」
「あら? そうなの? それはどうも」
 そういいつつも目は不信気だ。
「用事が済んだのならお帰りくださる? 達之はこれから勉強しなくちゃいけないのよ」
「・・・はい」
 ごめんね、と目配せした和也に小さく手を振って緑澤邸をでた。
 白い門が、ギギギギギと不気味な音を鳴らしながら閉じる。閉じた瞬間、
『ベベアンの扉はここだよ』
『早く七重もこっちにおいで』
「!」
 あの声が聞こえてきた。でも、そんな扉はどこにも見あたらない。

 その夜、優紀子さんに緑澤君のことを聞いてみた。彼女は地域のボランティア活動に積極的に参加しているため、町内のことに詳しいのだ。
 話しによると、緑澤君が行方不明になったのは最近のことらしい。
 何でも緑澤君は、中学も高校も受験に失敗して希望の学校に入れなかったのに、大学受験にも失敗して浪人生になってしまったそうだ。弟の和也は、今春、緑澤君の落ちた中学よりもランクの高い私立中学に楽々合格したらしく、それで余計に家に居づらくなったのではないか、と近所ではもっぱらのウワサだそうだ。
 母親が和也のことを「達之」と呼んでいることもウワサになっていて、ついに先日から、彼女は夫につきそわれて精神科に通院しはじめたらしい。
「かわいそうに・・・」
 期待に押しつぶされた達之も可哀想だが、存在を消されてしまった和也も気の毒だ。
 まあ、私も両親に存在を認められていないようなものなので、似ているかもしれない。
「ママーお風呂上がったよ~」
 萌が頬を蒸気させて部屋に戻ってきた。父がお風呂に入れてあげたのだ。休日はいつもそうだというので驚いた。私は一度も父に入れてもらったことがないのに、ずいぶんと変わったものだ。
「幸せそうだな・・・」
 父と優紀子さんと萌を見ていると、本当にそう思う。母と吉川さんと弟の拓実を見ていてもいつもそう思うのだけど。
「じゃ、私って何で産まれてきたんだろう?」
 父と優紀子さん、母と吉川さんが正しい組み合わせだったとしたら、父と母の間に産まれた私っていったい何なのだろう?
コメント
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