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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 19-3(侑奈視点)

2017年02月09日 07時33分17秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


「私が好きなのは、泉だから!」

 そう、寺ちゃんが叫んだ。
 真剣な愛の告白。予想もしていなかった。寺ちゃんが泉を好きだなんて……

 でも、その後の泉の言動も、予想外のものだった。
 彼氏である諒の目の前であるにも関わらず、

「え?!オレ?!マジで?!」と、目を輝かせ、
「うわ!嬉しい!マジで嬉しい!」と、大喜びしたのだ。

 その時の、諒の顔面蒼白っぷりといったら、それはそれは本当に気の毒で……
 そんな彼氏の様子にも気がつかないように、泉はニッコニコで寺ちゃんに笑いかけ、

「全然気が付かなかった! つか、小野寺、オレのこと『お邪魔虫』とか言ってたし、むしろ嫌われてると思ってた!」
「だって、それは……っ」

 寺ちゃんは引き続き真っ赤になりながら、

「もちろん侑奈と諒君のこと思って言ったけど、でも、それで泉が侑奈と一緒にいること少なくなってくれるかなっていうのもあって……」
「あ!なるほど!そっかそっか!」

 いやー嬉しいなー女子に告白されたのなんてオレ初めて!マジ嬉しい!嬉しい!

 泉はそう散々「嬉しい」を連呼してはしゃいでいたけれど、

「じゃ、泉……」
と、寺ちゃんが期待を込めた目で泉を見返した瞬間、

「でも、ゴメン!」

 ペコンッと思いきり頭をさげた。


***


「……で、あの馬鹿、なんて言ったの?」
「それがねえ……」

 ここは泉のおうちが経営している和菓子屋さん。奥の休憩スペースで泉のお兄ちゃんとお茶を飲みながら、昨日起きた珍事(?)を報告している。

「泉、にこにこで『オレは、小一の時からずっと諒のことが好きで、やっと両想いになれたんだよ!』って」
「へえ、カミングアウトしたんだ?」
「うん……その上……」

 泉は引き続き明るく宣言したのだ。

『他の奴が入りこむ隙間は1ミリもない!』と。

「うわ、それ、笑顔で言うのが優真らしい……」
「でしょー?」

 あの時の諒の感動したような顔。可愛かった。
 寺ちゃんは「そんな冗談で誤魔化そうとしなくてもいいじゃんっ」ってムッとして、

「だいたい、泉はずっと侑奈のこと好きって言ってた……」
「ごめん、それ嘘」

 あっさりと否定する泉。ちょっと複雑。カチンとくる。乙女心は複雑なんだよ?
 でも泉はニコニコと続ける。

「侑奈のことはもちろん好きだけど、それは友達として。侑奈はおれの救いの女神。親友」
「なにそれ」

 女神とか親友とか持ちあげようとしてるけど、女としては下げられてる。
 泉は私に向かって拝むように手を合わせると、

「侑奈には感謝してるんだよ。オレのこと何度も救ってくれたし、諒と両想いになれたのも侑奈のおかげだし」
「……あー、まあね」

 うなずくと、寺ちゃんが「ホントにホントなの?」と食いついてきた。なので私も正直に、

「本当だよ。だから私も失恋したんだって」

 諒を泉に取られたんだよ。

 そういうと、寺ちゃんはしばらく目をぱちくりさせたあと、

「そっかあ……仲間じゃん私たち」

 ふふ、と小さく笑った。



 そこまで話すと、お兄ちゃんは「ふーん」とうなずいて、

「それにしても……優真ってそんなにモテないんだ? 今まで一回も告白されたことないなんて」
「うーん、そのことなんだけど……」

 そのツッコミに、頬に手を当て考える。

「思い返してみると……小学校の時も中学校の時も、泉のこと好きって言ってた子、いないこともなかったんだよね……」
「でも、告白はされなかった、と」
「うん、というか……」

 泉のことが好き、と水面化で噂が出た子は、その後、ことごとく諒に心変わりをしていったのだ。

 そのことを言うと、お兄ちゃんは目を見開いた。

「え。それ、もしかして、諒君は優真を好きになった子にわざと近づいて……」
「うん。わざと近づいて、自分のことを好きにさせてたんじゃないかなあ……」

 当時から、諒の色気は半端なくて、あの綺麗な顔にニコッとされた女子はみんな諒のファンになってしまっていたのだ。
 まあ、私もそれに引っかかったクチなわけだけど……

「諒ってフワフワしてるくせに、実はすごい腹黒だよね」
「まあ本人がどこまで意識してやっていたかは分からないけどね」

 苦笑気味にお兄ちゃんは言うと、お茶のおかわりを入れてくれた。

「侑奈ちゃん、本当に何も食べない?」
「うん。昨日のケーキがまだお腹に残ってる感じがして」

 昨日はその後、寺ちゃんと一緒に「やけ食いだ!」と私達を振った男二人の前で、ケーキを死ぬほど食べたのだ。もちろん二人のおごりで。
 今までも寺ちゃんとは気があって色々笑って話してきたけど、昨日ほどお腹の底から笑ったのは初めてのような気がする。


「と、いうことで。今日の報告は以上です」
「はい。ありがとうございました」

 お兄ちゃんに深々と頭を下げられ、笑ってしまう。

 泉と諒が付き合っていることを知ったお兄ちゃんに「心配だから時々様子を教えてくれる?」と頼まれてから早3ヶ月。こうして時々お店に寄ってお喋りをしている。

 私たちより5歳年上のお兄ちゃんは、昔から大人っぽくて、今も変わらず大人。あのガキっぽいサルみたいな泉と兄弟だなんてとても思えない。

「じゃあ、オレそろそろ戻るね」
「うん。見ててもいい?」
「明日の仕込みだから面白くないよ?」
「いいのいいの」

 親子三代ならんで作業をしている姿は、見ていて心打たれるものがある。

 お兄ちゃんは私と出会った時にはもう、この和菓子屋の跡を継ぐことを決めていた。
 私は今だに自分の将来のことなんて考えられないのに……


「……あ、ライトだ」
 ポケットの振動に気が付いて携帯を見ると、ヤマダライトからメールが入っていた。

 ライトは母親が日本人、父親がケニア人のハーフだ。
 お母さんが再婚したため、先月から再婚相手の「日村さん」のおうちに住んでいる。
 本当は一人暮らしを続けるはずだったのに、ご飯を食べにいったり遊びにいったりしているうちに、なし崩し的に一緒に住みはじめたらしい。

「町内会の運動会に出てほしいから、住民票移せって言われてさー。なんかメチャクチャだよ、ここの人たち」

 そういいつつも、ライトは嬉しそうだった。先月の運動会では持ち前の俊足を活かして色々な競技で活躍しまくり、無事に所属する4丁目チームを優勝に導いたそうだ。

「2月にバレーボール大会があるからそれまでに練習しとけって言われてんだよね~」

 そんなことをいうほど、すっかり町に馴染んでいる。だったらいっそのこと「日村」になればいいのに、ライトは母親の旧姓「山田」を名乗り続けている。

「だって、日村ライトだと、お日様にライトって、どんだけ明るいんだ!って感じがして嫌なんだもーん」

 そう、ふざけたように言っていたけれど、本当は、お金持ちの日村さんの遺産相続の件で揉めるのが嫌で養子にはならない、というのが本音のようだ。お母さんに迷惑かけたくないんだろう……

 そして………

 今来たメールには、いつもふざけてばかりのライトとはかけ離れた、真面目な文章が書かれていた。

『父親に会いに行こうと思う』

 その一文からはじまったメール……

 前から会いたいと言われていたのに行かなかったのは、行ったらますます日本人じゃなくなりそうでこわかったから。

 でも、ユーナちゃんたちとか、家族とか、「外人」って言わないでくれる人がいてくれるから、だからもう大丈夫な気がする。

 母さんに言われた。オレの「ライト」は「光」ではなくて「正しい」の「ライト」なんだって。「自分の正しいと思う道に進め」って意味で父親が付けたんだって。

 だから、行ってくる。自分探し、してくる。

 本当はオレ、日本人じゃない、もう一つのオレの体に流れる血の国のことも知りたかったんだ。



「…………ライト」

 最後まで読んで、ため息がでてしまった。
 前を向いて歩きだしたライト……

「かっこいいじゃん」

 自分の気持ちに正直になる勇気。私にも持てるだろうか……。


「あっれー?ユーナ、何やってんだ?」
「今日ボランティア教室じゃなかったの?」

 思考を破る元気な声と優しい声。お店の方から入ってきたのは、私の親友二人。段ボールをそれぞれ一つずつ持っている。

「うん。早く終わったから帰りにちょっと寄ったんだよ。二人は?どうしたの?」
「うちの方に間違えて届いた荷物、店に持ってけって母ちゃんに頼まれた」

 泉が「兄ちゃーん」と言うと、作業の手を止めてお兄ちゃんが顔を出した。

「ああ、ごめん。オレが配達先の指定間違ったんだ」
「お詫びに富士急連れてってー」
「またその話か……」

 お兄ちゃんは車の免許を持っているので、泉は遊園地に連れて行ってくれと昨日から頼んでいるらしい。
 お兄ちゃんは、うーんと唸ったあげく、

「んーじゃあ、侑奈ちゃんも一緒なら」
「え」

 突然の名指しにキョトンとする。

「私?」
「こいつら二人とオレだけ、は絶対嫌だから」
「……確かに」

 笑ってしまう。

「じゃあ、行こうかなー。絶叫コースターのって叫ぼうかなー」
「やった! じゃあ、決定!」
 
 泉と諒がパンと手を合わせて喜びあう。そんな無邪気な二人の姿に自然と笑みがこぼれてしまう。

 ずっとずっと想いを隠しあっていた二人。嘘の皮を脱ぎ捨てて、今、とても幸せそう。

 私にも、いつか、こんな風に微笑みあえる人が現れてくれるかな……。

 でも……

「ユーナ」
「侑奈」

 私のことを呼んでくれる親友二人に笑い返す。

 その日が来るまで……、ううん。その日が来ても。二人と一緒にいさせてね?



--


お読みくださりありがとうございました!
すみません!遅刻です!

侑奈視点最終回でした。
侑奈ちゃんには、お兄ちゃんみたいな、優しくて包容力のある大人の男が似合うと思うのですけど!
そして、ライト君。前にも書いたかもなのですが、彼の存在が、1年後の浩介の決断(日本を離れる)に繋がっていくわけです。

続きは明後日、どうぞよろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 19-2(侑奈視点)

2017年02月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

 寺ちゃんとは、高校2年生で同じクラスになったことで知り合った。

 見た目はどちらかというと地味目、だけど明るくて人懐こくて、私のこともすぐに「侑奈」と呼びつけで呼んできた寺ちゃん。小柄でショートボブの、少し幼く見える女の子。

 相澤、泉、小野寺、と出席番号が続いていたので話すようになり、そして、ドラマの話で盛り上がったことをキッカケに仲良くなった。

 この半年以上、喧嘩もせず、ずっと仲良くしてきた。これからもそうだと疑いもしなかった。言い方は悪いけれど、この一年楽しく過ごすためのクラスの友達、程度の上辺だけの関係なので、喧嘩もしようがなかったともいえる。私には諒と泉がいるから、そんな深く付き合う友達なんて必要ない。

 だから、さっきのことには気が付かなかったことにしようと思った。このまま波風立てずに残りの2年生生活を送ればいい。そう、思ったのに……

「……どうして何も言わないの?」

 ずっと押し黙っていた寺ちゃんがたまりかねたようにそう言って、立ち止まった。ケーキの食べ放題のお店までは学校から歩いて25分くらいなので、4人でダラダラと歩いている最中のことだった。

「侑奈、今井先輩から聞いたんでしょ?写真のこと」
「…………」

 ああ、あの演劇部の元部長さん、今井って苗字だったな……とぼんやり思う。

「何も聞いてないよ?」
「嘘。今井先輩、私のこと見て慌ててたじゃん」
「…………」

 寺ちゃんのこわばった顔……
 あーあ……寺ちゃん、言わなきゃ知らないですんだのになあ……

「写真って、なんのことだ?」
「………貼り紙の」
「貼り紙?」
 
 諒も泉も、ハテ?と首をかしげた。やっぱり二人も忘れているらしい。

 でも、寺ちゃんは、芝居じみた感じにワッと手で顔を覆って、ごめんなさいごめんなさい、と言いはじめて……

「だから、なんなんだよ?」
「あの……っ」

 泉の問いかけに押され話しだした寺ちゃん。
 内容は、やはり聞きたくないようなものだった。


 美人で頭もいい侑奈。学校で一番モテる男が彼氏で、泉とも仲が良くて、すごくうらやましかった。
 文化祭の演劇部の発表の最中、舞台上から三人が並んで座っているのを見て、その仲を壊してやりたいって気持ちが抑えられなくなった。
 その夜、侑奈に電話した際、「これから知り合いの男の子がバイトしているカラオケボックスを見に行く」というのを聞いて、まだ他にも男がいるのかって腹が立った。そして、チャンスだとも思った。その人と一緒にいるところを写真に撮って利用しようと思った。それで急いでそのカラオケボックスに行ったら、ちょうど桜井先生の車に乗りこもうとしている写真が撮れて……

「それで今井先輩にメールして……」

 今井先輩からは時々「高瀬君、あの女と別れてくれないかな」ということを聞かされていたので、彼女に送れば何かしらのアクションをおこすに違いない、と思ったからだ。でも、まさか、あんな風に貼り紙にするなんて……。

「ごめんなさい……」

 シュンとうつむく寺ちゃんに対して、別に怒りとか悲しみとかは浮かばなかった。むしろ、寺ちゃんのそういう気持ちに気が付かなくて申し訳なかった……という気もした。

 そもそも、寺ちゃんは写真を撮って送っただけで、貼り紙作りには参加していない。それに貼り紙自体も特に実害があったわけでなく、むしろ今考えると、ボランティア教室に参加するきっかけになったので良かったとさえ思える。そこも大きいかもしれない。

「まー、あれだな? 恋する女の何とかってやつだな?」
「なにそれ」

 泉の知った風な言い方に笑ってしまう。泉もやはり寺ちゃんに対して思うことはないようだ。

「だってユーナのことが羨ましいって、結局、小野寺も諒のことが好きだったって話だろ? あーモテモテ君は罪作りだなー」
「……違うっ」

 泉が言うのを遮ってブンブン頭を振った寺ちゃん。

「……寺ちゃん?」
「違う、違う……っ」

 そして寺ちゃんは、唇をかみしめたまま、泉のことを見上げた。

「違う。私、諒君のことなんか好きじゃない……っ」
「え………」

 寺ちゃんの必死な顔。
 寺ちゃん、それ……まさか、もしかして……

「諒君なんか、だって!」
 全然分かっていない泉は、笑いながら諒を振り返ると、

「なんかって言われた!諒!お前、なんかって言われた!笑える!」
「優真」

 でも諒は、真面目な顔で眉を寄せて泉の腕を掴み、ぐっと自分の方に引っ張った。

「優真、ダメ。これ以上聞かないで。ほら、行こう」
「え? 何だよ?」
「いいから。早く」

 引きづられるように歩いていく泉。
 その後ろ姿に、寺ちゃんが叫んだ。

「私が好きなのは、泉だから!」

 寺ちゃんの顔は真っ赤で………、真剣で、それでいて、ちょっと恥ずかしがっているような表情をしていて……

(初めて見た)

 この子はこんな顔も持っているんだ、となぜか少し感動した。



---


お読みくださりありがとうございました!
侑奈視点書き終われなかった……。まだ途中ですが、とりあえず書いたとこまで更新します~(^_^;)
続きは明後日、どうぞよろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 19-1(侑奈視点)

2017年02月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 夏休みが明け……高瀬諒が激変した、という噂は学校中を駆け巡った。

 正確には、変わりはじめたのは夏休み入ってすぐのことなので、私やバスケ部のメンバーは、変化が定着していく様を間近で見ていたけれど、そうでない人達にしてみれば、突然の激変、だったわけで。夏休み前、やさぐれてクールさに拍車がかかっていたから、余計に今の可愛らしさとのギャップが激しく、皆あちらこちらで噂をしていた。

「なんなのあの可愛さはっ」
「私は前のクールな感じの方が良かったなあ」
「今も黙ってればクールじゃないー?」
「でも話し出すとメチャメチャ可愛いー」
「………何があったんだろうね?」

 行きつくところは、皆そこだ。
 私に対する呼び名が「相澤」から「侑奈」に変わった(私にしてみれば「戻った」だ)ので、私とヨリを戻したんじゃないか、と何人もの人に聞かれたけれど、諒も私もその都度ハッキリと否定した。その上、諒は、

「オレは泉優真一筋だよ!」

と、本当のことを言っていた。でも、散々女を食い散らかしていたおかげ(おかげ?)か、信じる人はいないようだった。

 一方の泉も、「お前そのうち女喰いの高瀬に食われるんじゃないか?」なんてからかってくるクラスメートに対して、

「オレが喰うほうだ。バーカ」

と、こちらも本当のことを言っていた。でも、

「童貞のくせに何言ってんだよ」

と、バカにされ、

「もう童貞じゃねえよ!」
「妄想は悲しいだけだからやめろ?」
「妄想じゃねえっ」
「えー相手誰だよ?」
「それは内緒ー」
「あーやっぱ妄想な」
「だから妄想じゃねえって!」

 こんな感じで喧嘩になる、というのがいつものパターン。結局のところ、信じてる人はいない。

 それをいいことに、諒と優真は人前でもベタベタくっついていて、みんなも初めは「わざとふざけて……」と呆れた感じだったけれど、一か月も過ぎるとそれが普通になってしまった。小5の頃の私の前での二人に戻った感じがする。

 そして、人の噂も七十五日とはよく言ったもので、11月を過ぎたころには諒の変化については誰も話題にしなくなった。
 このまま、女喰いの高瀬諒なんて初めから存在していなかった錯覚に陥りそうになっていたのだけれども………


「相澤さん、ちょっといいかな」
「あ、はい……」

 おっと、久しぶりの呼びだし!と笑いそうになってしまった。
 以前は時々こうして諒の元カノやらファンやらから呼び出しをされていたのだ。最近はすっかり止んでいたからちょっと懐かしい。

 今日の呼び出しは、吹奏楽部の一年上の藤野先輩。パートが違うからあまり話したことがない人だ。諒と付き合っていたという記憶はないけれど、一回だけしてしまった口だろうか?

 促されるまま、三年生の教室までついていくと、中であと2人、3年生の女子が座っていた。3年生は授業が少なかったのか、放課後の教室には他にはもう誰もいない。

(あ……この人)
 一人は夏休み前、やさぐれた諒にちょっかい出そうとしていた髪の長い人だ。あと一人は、演劇部の部長だった人。

「えーと? なんでしょう? 藤野先輩」
「ごめんね。この二人が話があるっていうからさ」
「……………」

 二人とも一時期諒と付き合っていたことがある。友達だったのか……

「話って……」
「あのっ」

 こちらが何か言う前に、二人は同時に立ち上がり、

「ごめんなさい」
「ホント、ごめんなさい」

 深々と頭を下げてきた。

「はい?」
 頭の中がハテナでいっぱいになる。

「あの……何が……」
「今さら、なんだけどさ」

 長髪の先輩が言いにくそうに頬をかいた。

「文化祭の時の貼り紙、私達がやったの」
「…………?」

 貼り紙? ってなんだっけ……と一瞬考えてから、「ああ!あれ!」と思い出す。

 私が桜井先生の車に乗り込もうとしている写真に『密会スクープ』と書かれた貼り紙のことだ。予想通り、諒の元カノの仕業だった、というわけだ。


***



「やっぱりさあ、諒君みたいな人はどこにもいないよねえ」
「だよねえ」

 元カノ2人は、ポリポリとポッキーをかじりながら、あーあ、とため息をついて私を見ると、

「相澤さんはいいよねえ……半年も付き合って、別れた今も友達で……」
「うらやましい……」

 さっきから同じようなことを何度も言っている2人に、藤野先輩も呆れ気味だ。

「ごめんねー。この2人、こればっかりで」
「あ、いえ……」

 そう言われても何と答えてよいか困ってしまう。
 でも、勧められるままお菓子を食べながら、色々と興味深い話を聞けた。

 諒は女の子と「付き合う」時は、はじめから「1ヶ月だけ」と言っていたそうだ。
 どんなに気があっても、体の相性がよくても、1ヶ月たったらアッサリ別れる。束縛の強すぎる女の子は、それ以前に別れを切り出されてしまうらしい。
 だから、半年も付き合っていた私は相当のレアケースというわけだ。

「高瀬君って、何がいいって、顔も良いけど、優しいところが良いよね」
「ね~。ホント優しかった。特にあれの時……」
「うんうん。あんなに尽くしてくれる人いないよね」
「いえてる!今の彼氏も普段は優しいんだけどさ~、やっぱり……ねえ?」
「分かる分かる! それでいてさ……」
「そうそう!体力あるよね~」

 なんだかとんでもない話で盛り上がっている2人……
 2人によると、諒はエッチの時、決して彼女に何かさせようと要求してきたりせず、自分の性欲を満たすことよりも、彼女を気持ちよくさせることだけを優先してくれ(それは普通の男ではありえないこと、らしい)、それでいて、いざ本番となると別人のように激しくて……

「相澤さんも新しい彼氏ができたら分かるよ! どんなに諒君が上手いのか!」

 なんて力説され、もう苦笑するしかない。

(確かに、比較対象がいないからどれだけすごいのか分からないけどさ……)
 
 しかも、たぶん私の時は、隣の部屋で泉が聞いているという興奮材料も加わって、更に激しかったと思う。けど、そんなことは言えない……。

 こうして、なんだかんだと笑いながら話していた2人だけれども……

「でも、私のことなんか名前も覚えてないんだろうなあ……」
「え……」

 ふと、寂しげに言った演劇部元部長の言葉に、長髪の先輩もコクリとうなずいた。

「付き合ってた時だって、覚えてたかどうかあやしいんだよね……」
「ね……」

「あんなに優しいから勘違いしたくなっちゃうけどさ……結局、高瀬君にとって、私ってその場かぎりの、通りすがりの人と同じだったんだろうなって……」
「うん。それ分かる……」

 はあ……とため息をつく二人。

「いいなあ……相澤さんは……」
「うらやましい……」

 二人とも新しい彼氏がいるみたいなのに、まだまだ諒に未練があるということなんだろうか……

「それであんな嫌がらせしちゃって……」
「ほんとごめんなさい……」
「あ、いえ………」

 で、ここに行きつくわけだ。
 貼り紙のことなんてこちらはすっかり忘れていたけれど、本人達は気にしていたらしく、受験前にスッキリさせたかったそうだ。

 ポリポリポリ……とポッキーをかじる音が教室に響く中、ふと、思い付いた。

(そういえば、あの写真ってどうやって撮ったんだろう……)

 携帯にしては望遠がききすぎてた。ちゃんとしたカメラで撮ったんだろうか……でもそれって偶然カメラ持ってたってこと……?

「あの……」
 その事を聞こうと、顔をあげた、その時だった。

「あー、侑奈いたー」
「!」

 話題の本人がヒョイとドアから顔を出したので、ビックリして立ち上がってしまった。

「りょ、諒……?」
「優真も小野寺さんも探してるよ? 今日4人でケーキの食べ放題行くって……」
 
 諒は言いながら入ってきて、他のメンバーを見て「あれ?」と首をかしげた。

「えーと………、こんにちは?」
「………………」
「………………」
「………………」
 
 顔を見合わせ、ぷっと吹き出した元カノ2人と藤野先輩。

「……ホントだ。こんな間近で見たの初めてだけど、綺麗な顔してんのね」

 感心したように藤野先輩が言うと、諒は更にハテナ?という顔をして私を振り返った。

「えーと……何してるの?」
「んー……元カノ会? みんなで諒の悪口言ってたとこ」
「え!」

 手で口元を押さえた諒は、やっぱりクールな諒じゃなくて、可愛い諒だ。

「わ、ごめんなさい。悪口ってことは、オレに悪いところがあったってことだよね?」
「悪いって認識してないんだ……」

 その認識力、ビックリするわ……あんだけとっかえひっかえしておいて……

「ね、高瀬君」
 演劇部元部長が笑いながら諒に問う。

「高瀬君、私のこと覚えてる?」
「え、もちろん……」
「名前は?」
「え」

 笑顔を張り付かせた諒。

「えーと……それは……」
「ほら、やっぱり覚えてない!」
「うわ、ホントなんだー」

 わー最低、と藤野先輩が言うと、諒は慌てたように、

「ごめんなさい、オレ、人の名前覚えるの苦手で……っ」
「名前だけじゃないでしょ。私のこと自体、覚えてないでしょ?」
「そんなこと、あるわけないです」

 ふっと真面目な顔になり、元部長を見返した諒。

「中学の時から演劇部で、演劇が大好きで、演劇の話するときはいつも嬉しそうだったの、よく覚えてます」
「…………え」

「映画のビデオ一緒にみたり、CD一緒に聴いたりしたし……」
「…………」

「あ、それに、体柔らかかった。毎日柔軟してるって言ってた」
「…………」

 元部長さん、息を飲んで……顔を背けた。泣いてる……?

「…………私は? 覚えてる?」

 髪の長い先輩が、緊張した面持ちで聞くと、諒は目をパチパチさせて「もちろん」とうなずいてから、言葉を続けた。

「ココア、元気ですか?」
「あ……、諒君、ココア好きだったよね」

 ふっと笑った先輩。
 ココアと言うのは猫のことだそうだ。人の名前は覚えてないのに猫の名前は覚えてるんだ……

「諒君、うちにくるとずっとココアと遊んでたもんね」
「ココア、可愛かったから……」
「じゃ、私は? ココアじゃなくて、私自身のことって、覚えてる?」

 切ないような笑顔で聞いてきた先輩に、諒はまたコックリとうなずいた。

「肩に3つ並んだホクロがある」
「!」

 バッと赤くなった先輩。
 淡々と諒は続ける。

「将来はデザイン関係の仕事をしたいって」
「…………」

「雑誌たくさん読んでて、おしゃれで、オレに似合う服とか教えてくれて……」
「…………」

「何度か洋服一緒に買いにいきましたよね」
「…………」

 先輩は苦しいかのように胸のあたりを押さえて、何度もうなずいて……

 耳が痛くなるほど、シンと静まりかえった教室の中……

「なーんだ」

 緊迫感に包まれた空気を、藤野先輩の能天気な声が打ち破った。

「高瀬君、二人のことちゃんと見ててくれてたんじゃない」

 通りすがりの人じゃなくて、ちゃんと一人の女の子として……

「…………ね」
「うん……」

 そして顔を上げた二人は、つらそうで、でも、嬉しそうで……、そして何だかスッキリした表情をしていた。


***


「諒君、今、彼女は?」
「いません」

 昇降口に向かう階段をおりながら、諒がニコニコと答える。

「彼氏ならいるんですけど!」
「あ~それね」
「聞いた聞いた~」

 あはははは、と笑う先輩方。

「それ、いいと思う!」
「ありだね~」
「ありあり!」
「そうですか!? ありがとうございます♪」

 諒、語尾に♪がついてる……
 嬉しそうだけど、誰も信じてないからね……?

「彼氏とのツーショット写真撮らせてよー」
「え、何に使うんですか?」
「ネタ的に面白いじゃない? 男に男取られました!ってさー」
「それいい!私も撮らせてー」

 きゃっきゃっとはしゃぐ声を聞きながら、先ほど疑問に思ったことを思い出した。そうだ、写真……

「あの……、すみません」

 こそっと、藤野先輩に聞いてみる。

「あの貼り紙に使われた写真ってお二人のどちらかの携帯で撮ったんですかねえ? すごい望遠きいてて……」
「ああ、違うらしいよ」
「違う?」

 聞き直すより先に、藤野先輩が演劇部元部長に声をかけていた。

「ねー、あの写真、演劇部の後輩が送ってくれたんだよねー?」
「やだ藤野!それ内緒の話!」

 慌てた様子の元部長。

「あれ?ごめん、内緒だったっけ?」
「内緒だよ!」

 演劇部の後輩? 内緒……?


「あ!優真!」

 昇降口前の廊下に、クラスメートの小野寺聡美(通称寺ちゃん)と一緒に立っている泉を見つけて、諒が弾けるようにかけだした。

「優真とオレのツーショット写真が欲しいって言われてるんだけど!」
「はあ?なんで?」
「男に男取られたって見せるんだってー」
「なんだよそれ?」

 はははと笑う泉、まんざらでもなさそうだ……。
 アホなカップルの横にいる寺ちゃんに私も駆けよる。

「ごめん、寺ちゃん。お待たせ」
「え、あ」
「?」

 なぜか焦ったような顔をした寺ちゃん。
 どうしたんだろう?

「寺ちゃん?」
「こん……にちは」

 私の問いかけには答えず、寺ちゃんは後から来た先輩方に頭を下げると、さっと自分の下駄箱に行ってしまった。

「………………?」

 何……?
 先輩方を振り返ると、演劇部元部長さんが何だかすごく気まずそうな顔をしていて………

 それで、ああ、と今更なことを思い出した。

 寺ちゃんは、演劇部だ。



---


お読みくださりありがとうございました!

お休み中、更新していないのにクリックしてくださった方!!見にきてくださった方!本当に本当にありがとうございました!めっちゃ励みになりました!ありがとうございます!!
1日フライングですが、上げさせていただきます~。あいかわらず地味な話(>_<)

また終わる終わる詐欺(思えば「あいじょうのかたち」も「たずさえても」もそうだった)になってしまい(>_<)あと2回くらいで最終回、と以前書きましたが、終われませんでした~~。たぶん次回が侑奈視点最終回で、そして、諒視点、浩介視点、で終わりかな、と。


寺ちゃんに関して。
プロット初期段階では彼女はもっと話に絡んでくることになっていました。が、話が無駄に長くなるので、見直した時点で控えてもらった、というイキサツがありまして……(だから今まで3回しか登場しておらず、セリフも少なめー)
前にも書いたかもなのですが、「嘘の嘘の、嘘」という副題には「登場人物の誰もが何かしら嘘をついている」という意味があります。寺ちゃんもその一人でした。

と、いうことで。続きは明後日……どうぞよろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 18-6(泉視点)

2017年01月29日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


***


 それからたくさん、キスをした。
 お互いの肌を撫でて唇を這わせた。
 モノ自体に直接触れるのを避けたのは、「イチャイチャ」を満喫したかったからだ。言葉にだして言ったわけではないのに、諒も同じように、モノには触れず、じゃれるようなキスをたくさんくれて嬉しくなる。


 胸がないからと言って性懲りもなく隠そうとした手を外して、そこに舌を這わせると、くすぐったいっと言って少し高い声で諒が笑いだした。それが可愛すぎて……

「なんか悔しいなあ……」
 ついつい愚痴めいた言葉がでてしまう。

「お前のこういう可愛いとこ、何人の女がみてるんだ?」
「みてないよ?」

 肌と肌が溶け合うくらいくっついて諒が言う。

「オレ、基本的に服、下しか脱がなかったから」
「え」
「だってやるだけなんだから、上脱ぐ必要ないじゃん?」
「……………。なんかお前ホント鬼畜だよな」
「そうかな……」

 首を傾げた諒。

「女の子達も別にオレのことなんか好きじゃないからお互い様だと思うけど」
「何言ってんだよ、あんだけモテてて……」
「彼女達にとってオレはアクセサリーみたいなもんだし。そうじゃなかったのは、侑奈と……ユミさんだけ」
「ユミさん?」

 誰だそれ?
 聞くと諒はちょっと気まずそうに答えた。

「中一の時のお手伝いさん」
「ああ……あの」

 前に聞いたことがある。諒の初めての女、だ。20歳くらい年上の人。
 諒の初めてがその人で良かった、と思ったんだ。同年代の女と初めて同士、とかだとすごく重い感じがして嫌だけど、20歳も年上の女性なら「手ほどきを受けた」って感じで何か納得ができる。

 そんなことを言うと、諒はホッとしたように「うん。そう、手ほどき」とうなずき、

「それでね、ユミさんに言われたんだよ」
「何を?」

 言いながらもキスをせがむように顔を寄せてきたので、軽く唇を合わせる。すると、この上もなく嬉しそうな笑顔を浮かべた諒。

「唇へのキスは本当に好きな人としなさいって」
「あ、それで……」

 散々色々な女とやりまくっていたくせに、キスはしたことがなかった、というのはそれでだったのか。
 諒のファーストキスはオレがもらった。そんなアドバイスをしてくれた「ユミさん」に感謝だな。

 諒は今度は自分から唇を寄せてくると、にっこりとして、

「オレの初めては優真にあげるから」
「………」

 諒の言葉にドキッとする。ずっと素っ裸で肌を合わせあっていたので、もちろんモノはずっと兆したままだったけど、そんなこと言われたら、もう……

「優真……」

 それを察したように、諒が「いい?」と上目遣いで言いながら、そっとオレを包み込んだ。 


 そして……


 キスをしながらお互い扱きあって、それから、諒が手際よくゴムを付けてくれて、潤滑のジェルも塗ってくれて……

 自然な流れで諒が上になり、繋いだ手に力をこめた。騎乗位、というやつだ。ゆっくり、ゆっくりとオレのものを包み込みながら降りてくる。

「……っ」
 温かい、というより、熱い。すごい締め付けに声が出そうになる。

 後から聞いたんだけど、諒はこの日のために毎日入れる練習をしてくれていたらしい。シャワーが30分以上かかったのも、中をキレイにしたり、すぐにできるようにしていたからだったそうで……

 そんな努力のおかげで、スムーズにオレは諒の中に入っていけて……

「入っ………た」
 諒の尻がオレの股までおりてきて密着した。全部入った、ということだ……。

(諒と繋がってる……)

 心臓が高鳴る。感動と、初めての自分の手以外による刺激の気持ちよさに、思わず眉間にシワが寄ってしまう。

「優ちゃん……」
「え……」

 こちらを見下ろしている諒。……なんだ? 不安そうな…… 

「諒……?」
「優ちゃん………気持ち良くない?」
「何言ってんだよ?」
「だって……」
「こんなになってんの、分かんない?」

 下から思いきり突き上げると、「あ…っ」と諒が悲鳴じみた声をあげた。それに刺激され、衝動をこらえきれず数回突きあげたら、すぐに、イク寸前まで持っていかれてしまい、慌ててやめる。……と、

「諒?!」

 諒の両頬に涙が伝っていることに気が付いて、ハッとする。

 もしかして、痛いのか?!

 見ると諒のモノはたいした力ももたず、オレの腹の上に乗っているだけだ。それなのにオレ、自分の欲求に任せて……っ

「ごめん、オレ調子に乗って……っ」
「……違っ」

 ブンブン、と諒は首をふった。

「違う……」

 そして、ポロポロと涙をこぼしながら、やさしく微笑んだ。

「優ちゃんが、オレの中にいる……」
「え……」
「それが、嬉しくて……」

 ぎゅうっと握った手に力がこもっている。

「夢、みたい……」
「……諒」

 愛しい……愛しい諒……

「お前の中、すっげー気持ちいいよ」
「ホントに?」
「うん」

 体を起こし、繋がったまま、唇を重ねる。まだ涙を流し続けているその頬にキスをする。

「大好きだよ、諒」
「優真……」

 諒は、本当に幸せそうに、幸せそうに、微笑むと、

「誕生日おめでとう」

 そう言って、きゅっと抱きついてきた。


***


 誕生日当日の夜は、例年通り、諒と侑奈も招いて、うちの家族全員と一緒にご飯を食べた。

 普段は店があるため、家族全員揃ってご飯を食べることはほとんどないのだけれども、誰かの誕生日の時だけは、全員集まることが義務づけられている。
 うちは、今時珍しいくらい厳格な家長制なので、祖父の言うことは絶対なのだ。その祖父がなぜか誕生日にこだわる人なため、両親・兄・姉2人・妹、誰一人文句も言わず集まっている。だから、友達や恋人と過ごしたい、という場合は、その友達や恋人を家に連れて来るしかないわけで……


「お誕生日おめでと~」

 畳の部屋。ちゃぶ台とローテーブルの上には、和洋折衷の料理とケーキが並んでいる。
 この歳になって、家族に囲まれてローソクを消すのは、ちょっと恥ずかしい。でも、隣に座っている諒が去年よりもずっと諒らしい顔でニコニコしてくれているのが、ものすごく嬉しい。

「幸せそうな顔しちゃって」
 うちの家族の騒がしい食事風景の中、右隣に座った侑奈が小さくいって、脇腹を小突いてきた。

「おめでとう、ございます?」
 疑問形で言う侑奈。その「おめでとう」は、誕生日のおめでとうではないな……

「……おお。色々ありがとう」

 察して素直に言うと、

「わ、ホントに?良かった!おめでとう!」

 侑奈ははしゃいだように笑ってくれた。
 やっぱり侑奈はオレの救いの女神だと、あらためて思う。

 と、そこへ……

「おめでとう、の相手は、もしかして諒君か?」
「!」

 耳元で聞こえてきた言葉にバッと振り返ると、兄が真面目な顔をしながらオレとオレの左隣にいる諒を見比べていた。

「え、あの」
「うん」

 戸惑ったような諒が何か言い出す前に、大きく肯いてやる。

「兄ちゃん、よくわかったな」
「わかったっていうか……」

 兄はちょっと呆れたように、

「お前さ、オレのパソコン勝手に使っただろ」
「え」
「閲覧履歴消したからバレてないとでも思ったか?」
「え」

 履歴消せば大丈夫なんじゃないのか?!

「閲覧履歴消したって、検索履歴は残ってるからな」
「………え」

 検索……履歴? 検索って、オレかなり恥ずかしい言葉を入れたような……っ

「え、えええええ?!」
「ええーじゃねえよ。馬鹿優真」

 ゴン、と頭を小突かれる。

「とりあえず、大人になるまでは、じいちゃんと父さんにはバレないようにしろ」
「え」
「認めてもらうのは、成人して、家を出てからでいいだろ」
「…………」

 確かに頭の固い二人に理解してもらうのは難しいだろうけど……
 でも、まだ、嘘をつかないといけないのか……

「諒君、侑奈ちゃん、こんな馬鹿だけどこれからもよろしくね」
「………」

 兄は二人に頭を下げると、立ち上がって台所に行ってしまった。侑奈が慌てたように兄の後を追っていって、何かコソコソ話して笑っている。絶対オレのこと話して笑ってる……

「………」
「………」

 残されたオレ達、顔を見合わせた。

「まだ、嘘つかないといけないんだな……」
「……しょうがないよ」
「でもさ」

 諒の手に、テーブルの下でそっと触れる。

「大人になったら、ちゃんと言うからな」
「……うん」

 ぎゅっと手が握り返される。

 オレは今までずっと嘘を重ねてきた。
 そのせいで、諒のことも侑奈のことも傷つけた。
 でももう、二度とそんなことはしないって決めたから。

 出会った頃に誓ったように、今、心から誓う。

「お前のことは、オレが一生守ってやるからな」

 言うと、諒はあの頃と同じように、嬉しそうにうなずいてくれた。



---



お読みくださりありがとうございました!

泉視点最終回でした。お幸せに~^^な感じで!!
作中2001年8月。スマホはもちろんないので、お兄ちゃんのパソコンを借りた泉君なのでした~^^;

昨日もお知らせさせていただきましたが、あと2回くらい?でこの「嘘の嘘の、嘘」は終わりなのですが、
しばらくバタバタで書く余裕がないため、2月6日(月)から再開しようと思っております。
物語内も数ヵ月時間が過ぎてからのお話になると思います。
もしよろしければ、また遊びにきていただけると嬉しいです!!よろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 18-5(泉視点)

2017年01月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 17歳の誕生日前日、約束通り、諒の家に泊まりにいくことになった。誕生日プレゼントを受け取るためだ。

「お前の初めて、オレにくれ」

 2週間前、そういったオレに、諒はぎゅううっと抱きついてきて、

「うれしい」

と、ため息まじりに言ってくれた。実は諒もそのつもりだったということは後から聞いた。


 ただでさえ諒は女性経験が豊富だ。ガッカリさせないためにも何とかしないと……と、ずっと考えていたのだけれども、結局、なんの対策も立てられないままこの日を迎えてしまった……

 方法は噂通り尻穴を使うということは侑奈から聞いた。他は男女と変わらないというので、一応、手持ちのAVやエロ本を見返そうとは思ったんだけど、なんかそれも違う気がして……。
 それで兄のパソコンをこっそり使って男同士の方法の検索をかけてみた。でも、見つけたサイトがちょっとエグくて見続けることができなくて……


「変なプライド捨てて、諒にまかせれば?」
「変なプライドって」

 誕生日前日、夕飯を食べた後、コソコソと言ってきた侑奈に、ムッとして返す。

「オレはただ諒をガッカリさせたくなくて……」
「別にドーテー君に期待なんかしてないでしょ」
「……………」
「それに」

 侑奈は真面目な顔をして言ってくれた。

「諒は泉とそういうことできるってことだけで満足なんだから大丈夫だよ」
「……そういうもんか?」
「そういうもんです」

 そして、侑奈は洗い物をしている諒のところにいって、何かコソコソ話しはじめた。諒と侑奈、すっかり小学校の時のノリに戻った感じがする。元恋人とはとても思えない。どちらかというと女子同士のような感じだ……

 こうして、侑奈の家で夕飯とケーキを食べて、ガッツポーズの侑奈に見送られ、二人で諒の家に移動したんだけど……



「…………。遅い」

 ポツーンと、諒の部屋のベッドに腰かけたまま待つこと30分……。いい加減、緊張の糸も切れて、バタッと横になった。

『シャワー浴びてくるね。ちょっと時間かかるかもだけど、部屋で待ってて』

 そう言って諒は浴室に消えていった。『ちょっと時間かかる』って、もう30分だ。ちょっとじゃないだろ……

「まさか嫌になったとか……」

 そんなことも薄ら思う。思いながらも、横になったベッドから諒の匂いがしてきて、なんだか幸せな気持ちに包まれてウトウトしてきてしまった。

(そういや昨日の夜、緊張して全然眠れなかったんだった……)

 侑奈の料理とケーキでお腹もいっぱいで、余計に眠気が……



 それからどのくらいたっただろう。

(………?)

 部屋の電気がいつの間に消されていた。体にタオルケットがかけられている。そして、背中に温かいぬくもり………

「………諒?」
「……ん」

 体を反転させ、ぬくもりの方に向く。石鹸の良い匂い……

「………懐かしいな」
「うん?」

 寝ぼけたように、諒が目をこすった気配がした。そんなところも、懐かしい。こうして泊まるのは小6の時以来だ。

「まだ寝るか?」
「ううん……」
「寝てもいいぞ?」
「寝ないよ……」
「………」

 諒の首の下に腕を入れて頭を引き寄せる。諒のぬくもり。諒の匂い………

(あの時も、こうして頭引き寄せてたんだよな……)

 諒を恋愛対象として「好き」だと気が付いた小6の夏休み……。

 そんなことを思い出しながら、諒の頭を撫でていたら、

「オレね……」

 ポツンと諒が言った。

「最後に優真が泊まりに来た時……初めて出たんだよ」
「出た?」
「こうして優真にくっついてたら扱きたくなって、それでコッソリ扱いて……」
「え」

 そ、それって……

「あ。呆れてる?」
「あ、いやっ」

 心配げに言った諒の頭を再び撫でながら、当時のことをよくよく思い出す。
 あの時の諒は、いつもと違ってなんだか妙に色っぽくて……

「それでだったのか……」
「え?」
「もしかしてその後部屋から出て行ったのって」
「あ、うん。下着汚しちゃったから……って、え?」

 パッと諒が顔をあげた。

「優真、あの時起きてたの?」
「起きてた」
「うそっ」

 叫んだ諒の頬をつーっと撫で、少しおどけて言う。

「んで、お前が部屋戻ってきてから、隠れてシコってた」
「え」

 案の定ビックリした様子の諒。ヒヒと笑って続けてやる。

「あの時、お前で勃っちゃってさ」
「………」

「それで、お前のこと好きだって気がついたから、オレ」
「…………」

 諒は息を止めたまま、暗闇の中でオレのことをジッと見続けて……

「………同じ時だったんだね」
 ため息のように、つぶやいた。

「同じ時?」
「うん………」

 諒は泣きそうな声で肯いた。

「オレもあの時、優真のこと好きだって、気が付いたんだよ」
「…………え」

 そ、そうなのか?
 言うと、諒はクスクスと笑いながら、

「だから、優真にくっついてたら扱きたくなったっていったじゃん」
「あ……そっか」

 そういう、ことか……

 ため息が出てしまう。

「オレ達、5年も一緒に遠回りしてたんだな」
「うん……」
「…………」
「…………」

 そっと唇を重ねる。愛しい感触……
 頬を囲み、おでこを合わせ、そしてまた、唇を重ねる……

 あの時こうしていたら……

 なんて後悔は、もうしたくない。覚悟を決めよう。

「……諒、おれも風呂入っ……、っ」

 言いかけて、止まってしまった。諒が首筋に唇を這わせてきたからだ。充分な刺激すぎて、途端に硬化が始まってしまう。

「諒、待……、風呂」
「あとで一緒に入ろ?」
「でも、オレ、バイトから走って帰ってきて、汗かいて……っ」

 首筋を舐められ、震えてしまう。諒の唇、諒の舌……

「りょ、汚いって」
「優真の味がする」
「何言って……っ」
「ずっと、こうしたかった。中学の時もね、部活で汗かいてる優真のことみて……ここのとこ、吸いつきたくてずっと我慢してた」
「……っ」

 鎖骨の上の柔らかいあたりに舌を這わされ、鎖骨に吸い付かれ、くうっと出そうになった声をこらえる。
 代わりに諒の着ているTシャツを捲りあげ、直接肌に触れようとした。……のだけれども、

「ま、待って。待って、優真」
「え」

 慌てたように、諒がオレを押しのけた。暗いのでよく見えない。……なんだ?オレなにかまずいことしたか?

「何……」
「あの、オレ……胸とかないからね?」
「……………は?」

 言葉の意味が分からない。

「何のことだ?」
「あの……だから」

 諒は言いにくそうに言葉を詰まらせると、

「オレ、女の子と違って胸ないけど……いい?」
「何言ってんだ?お前」

 意味が分からない。

「当たり前だろ」
「でも……」

 つぶやいた諒……暗くて顔が見えないから、どんな表情をしているのかわからない。うーん、と思って立ち上がる。

「ちょっと電気つけてもいいか? さっきから暗くて何も……」
「え、ダメダメダメ!」

 暗闇の中、ガシッと腰のあたりを掴まれた。なんなんだいったい。

「なんだよ? これじゃ何がなんだか……」
「このままでいいからっ見えない方がいいから……っ」
「は?」

 必死な様子の諒の頭をグチャグチャと撫でてやる。

「さっきっから何言ってんだよ?」
「だから、だから……っ、オレのこと見て優真がやる気なくしたら困るから……っ」
「へ?」
「オレ、男だし、女の子と違って胸もないし、その……っ」
「そんなこと知ってる。毎年プールだって一緒に行ってるだろ」
「………あ」

 あ、そっか、とつぶやいた諒。
 何を今さらなことを言ってるんだこいつは。

「諒」

 暗闇の中、チュッと音を立ててキスをくれてやる。

「お前さあ、さっきっから、女の子と違う、女の子と違うっていってるけどさ」
「うん……」
「あいにくオレは、お前と違って女の胸を触ったこともなければ生でみたこともないからな。比べようないぞ」
「…………あ」

 ご、ごめん……、という諒……

 いや、謝られるのもフクザツだけど……

「電気、つけるぞ?」
「…………」

 部屋の電気でなく、勉強机のライトをつける。眩しいのですぐに背を向け、ベッドの方を向くと、諒は不安げにベッドの脇に腰かけていた。

「諒?」
「優ちゃん……」

 不安な瞳に唇を落とすと、諒は泣きそうな声で言った。

「優ちゃん、ホントにいいの……?」
「何言ってんだよ」

 こめかみに、頬に、耳たぶに、首筋に、唇を落としながら、重心をかけ押し倒す。

「オレはお前を初めて見たときから、お前と結婚するって決めてたんだからな」
「優ちゃん……」

 大好き、と言う言葉は、キスと一緒に吸い込んだ。




---



お読みくださりありがとうございました!

一気に最後まで書きたかったのですが、ついつい長くなってしまったため、二回に分けました!
続きは明日お送りいたしますっしつこくてすみません~~っ
泉君ドーテー卒業記念ということでご容赦くださいませっ。
明日、泉視点最終回でございます。ようやく、ご卒業!!

そのあと2回くらい?でこの「嘘の嘘の、嘘」は終わりなのですが、
しばらく書く余裕がないため、2月6日(月)から再開しようと思っております。
でもその前にとりあえず明日、よろしくお願いいたします~。

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