海を奪われて、
すっかり寂びれた八浜の町ではあるが・・・・
子供の頃、
町に カシホンヤ という家があった。
暗い土間の片隅の棚に、
ホコリをかぶった古い少年マガジンが、
何十冊か置かれているだけの家。
そこで読んでもいいし、
借りて帰ってもいいルールだった。
貸し賃は一冊10円位だったと思う。
暗い土間には誰もいなくて、
マンガ本を借りたい時は、
家の奥に向かって、
「すみませ~ん、すみませ~ん」 と大声で、
家の人を呼ばなければならなかった。
誰も出てこないときは、
黙って本を持ち帰ってもよかった。
マンガ本を借りると、
返しに来なくちゃいけないので、
いつも、その暗い土間で読んだ。
『アシュラ』 (ジョージ秋山) が大好きだった。
人肉食、人狩り、累々と描かれる屍、ウジ虫・・・・
どうしようもない境遇の描写が延々と続く
とても哀しくて、とても恐いマンガだった。
カシホンヤ の暗い土間で、
目をこすりながら読みふけった 『アシュラ』 は、
今の自分に多大なる影響を与えていると思う。
ついつい、悲観的に世の中を捉えてしまう
私の性格の要因の一つに、
「生まれてこないほうがよかった」 と叫ぶアシュラがいる。
(2012年映画化)
今から思えば、
『アシュラ』 には、
『はだしのゲン』 なんかより、哲学的な深みがあった。
未だに、
ジョージ秋山 から投げかけられた
主題(問い)に答えられない自分がいる。
平安時代に 児島の泊(とまり) と歌われ、
今ではすっかり寂びれてしまった八浜の町・・・・
荒れ果てた飢餓の平安時代を生き抜いたアシュラ・・・・
そして、混沌とする日本のミライ・・・・
底辺側に身を置いて、
朽ちてゆく美を見つけながら・・・・
世の末を見定めよう。