限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第317回目)『良質の情報源を手にいれるには?(その22)』

2019-08-11 16:03:14 | 日記
前回

C-1.英語辞書

C-1-2 Funk & Wagnalls -- Standard College Dictionary

前回紹介した、Websterの辞典の詳細な説明をした『ウエブスター大辞典物語』モートン、大修館書店(原題:The Story of Webster's Third)という本がある。これによると、1890年から1940年頃にかけて、アメリカではWebsterと並んで Century 社や今回紹介する Funk& Wagnalls (以下、F&W社) という2つの会社がWebster Unabridgedに匹敵する超大型版の辞書を作成していた。しかし、最終的には、 Webster社がこの両社を圧倒して絶対的な不動の地位を獲得するに至った。ただ、1992年に出版された American Heitage English Dictionary の第3版はWebsterの不動の牙城に迫っているとのことだ。



さて、今回紹介するのは、一時期、Websterと辞書の覇をあらそった名門の F&W社のCollege Dictionary である。

私がこの辞書を手に入れたのは、大学の3年生の時であった。当時、私は教養部を終えて工学部に進学したが、専門の授業はそこそこにして、語学の授業をかなり多く取っていた。ドイツ語会話(2コマ)、フランス語(文法、リーダー、それぞれ1コマ)、英会話(1コマ)。余談になるが、これらの語学の授業の内、現在に至るまで非常に役立っているのが、ドイツ語会話とフランス語文法であった。とりわけ、ドイツ語会話の授業を取ったおかげでドイツに留学することが叶い、その結果、人生と世界に対する眼が大きく開かされた。一方、フランス語の文法は、授業をとっていた当時は、予習が大変であったので、何度も「これで最後の授業にしよう」と挫けそうになったが、とうとう最後まで頑張って続け、単位をとった。正直なところ、まったく頼りないフランス語の基礎知識であったが、その後、ドイツ留学時にフランスを旅行した時には、それでも結構役立った。その後、フランス語はあまり熱心に勉強しなかったのだが、英語の力が伸びるに従って、フランス語の力もつられて、自然と伸びていった。それで、今ではフランス語の辞書や本もかなり理解できるようになっている。この経験から、私は若者に「学生時代には英語以外の外国語もちょっとはかじっておくのが良いよ」と勧めている。

【閑話休題】

さて、話を元に戻すと、学生時代にとっていた英会話のクラスであるが、20人近い受講者の中に、一人だけ英語がかなり上手な学生がいて、常に中味のある立派な発言をしていた。後に親友になったのでいろいろと聞いたが、文学部・米文学専攻で、イギリスにも 1年近く住んだこともあるとのことだった。私は、当時はまだ国外にでたことがなかったので、英語をまだうまく話せなかった。その原因は単語力不足と、単語のニュアンスがつかめていないことであったと感じたので、立派な英語の辞書を買うことにした。

そこで早速、京都河原町の丸善に行った。英語の辞書のコーナーには Webster Unabridgedも置いてあったことと思うが、買いたかったのは片手でもてる、手頃な価格の英英辞典であった。そこまで、英英辞典といえば開拓社の Idiomatic And Syntactic English Dictionary(ISED) を高校に入学した時から使っていたのだが、次第に不満に感じる所がでてきた。それは、同義語(synonym)の説明がないことであった。例えば arrogantを引くと "showing extreme pride or too much confidence"との説明が載っているだけだ。これは高校生が arrogant の意味を知るには十分であるが、もう少しレベルが高くなってくると、arrogant の同義語の proud, haughty, insolent, presumptuous とはどう違っているのか、を知りたくなってくる。英語の単語には、日本語と同様、外来語と土着語の2系統があり、また日本語の(呉音、漢音、唐音)のように外来語も、その時々に入ってきた単語をそのまま整理せずに後生大事に保存している。それで、英語は語彙が極めて多い上に、統一が取れていないし、似たような単語が幾つも併存している。

大学に入って、英語の本をいろいろと読んでいて、このような雑多な系統の語彙に一体どのようなニュアンスの差があるのか興味を持つようになった。それで、丸善ではそのような要望を満たしてくれる辞書を探した。幾つもの辞書を見たが、どれもページ数が薄かったり、説明が簡略すぎたりで、最終的には2つの辞書が残った。一つは、著名な Webster's Collegiate Dictionary(あるいは、New World Dictionary College Edition だったかも? )、もう一つはこの F&W社のCollege Dictionary だった。Websterはすでに名前は知っていたので、内容に不安はなかったが、フォント、レイアウト、語句の説明、など、いろいろな点でどうも気にいらなかった。



一方、F&W社のものは、まれに活字が壊れている所があるという欠点はあるものの、読めない訳ではなかった。フォント、レイアウトの点では全く申し分なかった。その上、同義語( synonym)や反義語(antonym)の説明が私が求めていたレベルであった。例えば、arrogant についての説明を上に掲げたが、同義語を5ヶ挙げて詳しく説明し、さらに反義語を4ヶも挙げている。



これは当時、日本の英和辞書の最高峰といわれた研究社の新英和大辞典の説明(上図)と比べてみても遥かに詳しい。(もっとも現在では新英和大辞典も改定されて内容はもっと充実しているかもしれないが。。。)

丸善でこの2つの辞書をじっくりと見比べて、最終的に知名度においては劣るが内容的に優れているF&W社の辞書を買った。その後、ずっと使っていて、ドイツ留学にも持っていった(さすがにアメリカ留学時には、アメリカで新しい辞書を買おうと思って持って行かなかったが)。買ってからすでに40年以上経った今でもこの辞書は日常的に使っているが、不満を感じたことは殆どない。あの時、名声だけでWebsterを選択しなくて良かったと思っている。もっとも、現在ではF&K社は辞書戦争に敗北したので同社の辞書を入手することは、古本以外では不可能である。このような良書が消えてしまったのは残念に思う。

私はその後、多くの辞書を買ったが、基本的にこの時の経験から、良い辞書を選ぶコツは「辞書に何を求めるか、という明確な自覚を持っていること」が決め手だと思っている。それには何冊もの辞書を実際に引いて比較してみることが重要だ。私は売れ筋だけで決めることはしないし、内容的にダブることはあっても、目的に応じて複数の辞書を積極的に買う。

語学上達の為には、自分の波長に合った、お気に入りの優秀な辞書を多数、常に身の周りに「侍らす」ことが肝要であると確信している。

続く。。。
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