限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第17回目)『ギリシャ語の造語力の魅力(その3)』

2009-08-09 20:10:21 | 日記
英語の単語の由来(語源)の分布を調べたものがある。(本来語と借入語の分布に出身別調べ、『現代英語学辞典』(成美堂,1973)p.993))



それによるとギリシャ語語源の英単語は5%にすぎない。しかし、学術、特に現代の先端医学やバイオ技術においては、ほとんどすべての単語がギリシャ語源、あるいはラテン語とのミックスと言っていいほどである。
赤血球(erythrocyte)
クロマトグラフィー(chromatography)
溶菌(bacteriolysis)
ヒドロキシル(hydroxyl)
ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)
など。

一般的に使われている英単語にもギリシャ語語源の単語があるが、広く使われているにも拘らず、本当の意味をあまり分からずに使われている単語がいくつかある。その最たる者が、パラダイム(paradigm)であろう。日本語では、『理論的枠組、規範』などと訳されているが、どうも人それぞれ、理解している意味が異なっているようだ。

元来 paradigm は para + deigma である。para とは横、deigma とは deiknyunai(提示する) という動詞の過去分詞である。従って paradigm とは漢語でいうと『横+示+物』である。つまりパラダイムとは、我々が習字をする時、お手本を横に見ながら、字をなぞるのに使う手本という意味なのだ。

この para は横という意味をもつが、物理的によこ(side)にある、というだけでなく、『横行、横暴、横死』の時の横とおなじく、『無理やり、よこしまな、正常ではない』という意味をも持つ。ギリシャ語と中国語が『para、横』という文字に図らずも全く同じ意味あいを感じた、といえよう。その他『hodos、道』も同様にこの二つの言語で、物理的な道という意味と、方策という観念的な意味の両方を持つ。

IT業界などではよくメタ知識(meta)、メタスキーマと言う語句を使う。これもなんとなく、分かったようで分からない、どうも落ち着きどころの悪い単語である。そもそも meta というのは、among, between, after, according to などの意味を持った副詞、前置詞であり、動詞と結合すると『変化する』をいう意味をもつ。メタ知識で使われているような『。。。を統括した』という意味はかなりメタの原義を外れていると私には思える。

このように、ギリシャ語やラテン語の原義を外れて、誤用されているケースが結構ある。そういえば、昔、ある高名な経済学者が、『インテリジェンスやインテレクチャルという単語から類推して、インテリと言うのが智恵を表すのだ』とどこかで言っていたような記憶がある。しかし、 intelligence とは元来 inter + lego であり、漢語で表すと『間+択』。つまり、昼ごはんに『すし、にするか、そば、にするか』を決めるように、intelligence とはinter (どちらかを)lego(選ぶ)か、という点に智恵と判断を要するというのが原義である。つまり『インテリ』という語自身には残念ながら、智恵のかけらは全く見出せないのである。

ところで、この intelligence は元来、『情報』と訳していたという話を耳にした。早速手元の古い辞書
 * 模範英和辞典 三省堂、神田乃武・編 1911(明治44)年
 * 新英和大辞典 研究社、岡倉由三郎・編纂 1941(昭和16)年
でチェックしてみると、確かに、情報は intelligence の訳であり、information の訳には、通知や報知などの訳が当てられていた。これら二つの単語(intelligence、information)の訳に変化があったのは戦後らしい。

さて、話を元に戻してギリシャ語源の単語で、ちょっと面白い例を紹介しよう。anecdote(逸話,奇談)というのがあるが、これは元来 an + ek + didonai 、漢語に直訳すると『非+外+与+物』つまり、アネクドーテとは『門外不出の話』であったのだが、むしろ専ら外に漏れ聞こえた話を指すようになったとは、これこそ全く奇談ではないか!

最後に、英語にも良く出てくるギリシャ語の前置詞の一覧表を掲げる。

出典:前置詞の用法

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