限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

杜漢漫策:(第3回目)『デュエムの宇宙の体系・読書メモ(その3)』

2024-09-08 07:00:58 | 日記
前回

本連載のタイトルである「杜漢漫策」の「杜漢」とはデュエム(Pierre Maurice Marie Duhem)であることは、既に述べたが、後半の「漫策」とは、「きままにだらだらと散策すること」との意味だ。

物事の研究には、集中的に成し遂げる方がよい場合と、散漫的にする方がよい場合の2通りがある。受験勉強や資格試験の勉強などは、前者であろう。時間を効率的に使い、なるべく脇道に逸れることなく、決められた内容をきっちりと覚えこむことが成果を生む。しかし、それとは逆に新しい企画を練る場合のように、調べることが明確になっていないような場合はなるべく間口を広げていろいろな所に寄り道するのがよいだろう。

日本では中学、あるいは高校から大学受験のために、受験勉強の仕方以外の勉強の方法を知らないので、どのような場合でも効率を重視して、脇目もふらず進むことをよしと考えている人が多い。リベラルアーツ道においてはこのような直線的な方法ではうまくいかない。それとは真逆の、至るところで寄り道をしたり、脇道に逸れるのがよい。今回、デュエムの分厚い本(全10巻、総ページ数、5000ページ超)を読み進めているが、今まで以上に積極的に寄り道をしながら読んでいる。



それは、いままで諸般の事情で参照することが困難であったヨーロッパの権威ある百科事典や辞書を活用できることになったのが一つの理由だ。現在、毎日のごとく参照している百科事典について説明しよう(番号は前回からの通し番号)

6.フランス語:La Grand Encyclopédie (1886年)

先ず、フランス語の百科事典だが、これは前回紹介した5.Larousseのものと異なり、私の好きな「大項目」の事典で、次に紹介するBritannicaに匹敵する。とにかく、フランス語の書物を読むのであるから、人名などはフランス語の百科事典の方が調べやすい。私がデュエムの『宇宙の体系』をフランス語で読んでみようと踏み出したきっかけの一つは、この百科事典を ― PDF版ではあるが― を入手できたことにある。しかし、紙と違って、PDFというのは、項目の該当のページが分からないと、探す手間が非常にかかる。それだと話にならないので、かなりの時間をかけて、PDFの検索システムを自作した。

自作したのは、検索項目がPDFの何ページ目(あたり)にあるかを割り出し、その該当ページを指定した倍率で表示するシステムである。このようなことは、いとも簡単にできるように思えるが、どっこい、数々の困難があった。例えば、地図や図、写真などがあると、該当ページには番号が振られないので、PDFのページ数と元の百科事典のページ数が食い違う。また、PDFからOCR解析した文字情報は、3と8や小文字のl(エル)と1(数字の一)を読み間違えるなど、実に様々な問題にぶつかった。しかし、苦労して検索システムを完成させたおかげで、人名など調べたいことがあると即座に該当ページを見ることができる。実にスムーズに情報にアクセスできる。このシステムは汎用的で、今回紹介するPDFの百科事典だけでなく辞書など、数多くの検索システムを作った。ちなみに、私は今回のデュエムのような学術書を読むときには、Wikipediaよりは、圧倒的に紙の事典類を信頼する。
【参照ブログ】
 百論簇出:(第280回目)『シニア・エンジニアのPython事始(その6)』

7.英語-1: Encyclopedia Britannica, 9th version(1875-1889 出版)
8.英語-2: Encyclopedia Britannica, 11th version(1910-1911 出版)

前回紹介した、2.Encyclopedia Britannicaよりずっと古いが、今まで出版されたBritannicaで、いずれの版も学術的見地から最高峰との評価を受けている。Britannicaには中学生の時に始めて出会って以来、常に憧れ、いくつかの版を入手した。この2つのBritannicaもそれぞれ紙の物は所有している。ただ、11版は最近になって、ドイツ人の友人の昇進祝いに贈呈したので手元にない。しかし、幸いなことにこれらの版のPDFとOCR化されたテキストをインターネットからダウンロードすることができた。そして、上で述べた方法で、インデックス化して、検索項目のページにすばやくアクセスできる環境を整えた。
【参照ブログ】
 沂風詠録:(第304回目)『良質の情報源を手にいれるには?(その9)』

9.ドイツ語:Meyers Konversationslexikon(1885-1892 出版)

ドイツ語の百科事典は前回紹介した4.Brockhausより古く、上に紹介した、6.7.とほぼ同時代に出版された。ドイツ語の百科事典は私の見た限りでは、どれも小項目主義のため説明が短く物足りないので、滅多に参照しない。

10.ドイツ語:Der Kleine Pauly (1964-1975 出版)

このKleine Paulyはギリシャ・ローマの文献や事蹟に特化した百科事典だ。こと、古代のギリシャ・ローマに関することであれば、普通の百科事典に載っていないようなマイナーな人物や事柄も知ることができる。

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デュエム(杜漢)を読みながら、気にかかった事項は、その都度、これらの百科事典をチェックするので、なかなか進展は遅い。学術的に高いレベルの優れた百科事典類を使いながら、寄り道ばかりの漫策を楽しんでいる。

続く。。。
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