限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

【座右之銘・144】『quanto antestaret eloquentia innocentiae』

2024-09-15 10:38:05 | 日記
現在、世の中は自民党や立憲民主党の党首の選挙で騒がしいが、残念ながら、どちらの政党の候補者にしろ清廉な政治家は至って少ない。どの時代もそうだったが、かつて、ギリシャにアリステーデスという極めて清廉な政治家がいたとローマのネポスが『英雄伝』に書き残している。数ある名誉ある称号の中で「Iustus」(正義)というあだ名が付けられたのはアリステーデスただ一人だけであった。
(アリステーデスについては下記のブログにも既にかなり詳しく述べてある。)

【参照ブログ】
想溢筆翔:(第45回目)『日本に民主主義はない』
希羅聚銘:(第33回目)『ギリシャ・ローマにもあった武士道精神』
翠滴残照:(第10回目)『読書レビュー:教養を極める読書術(その9)』

さて、当時アテネは名だたる政治家を多数輩出したがアリステーデスのライバルとも目されたのが、ペルシャ戦争でアテネ海軍を率いてペルシャ王クセルクセス1世が率いる大軍をサラミスの海戦で打ち破ったテミストクレスであった。

この2人は生れた境遇がまるで正反対であった。アリステーデスは裕福の家、テミストクレスは下級階層であった。アリステーデスは生れの良さだけでなく、人格的にも優れて高潔であった。一方のテミストクレスは、貧しい生活の中で生き延びるための智恵が優れていたが、時にそれはずる賢い奸計ともいえるようなものであった。



さて、ネポスの『英雄伝』ではこの2人のライバル関係を次の言葉で批評した。
【原文】In his autem cognitum est, quanto antestaret eloquentia innocentiae.
【私訳】これからも分かることであるが、正直より雄弁の方が遥かに威力がある。
【英訳】It was seen in their case how much eloquence could prevail over integrity.
【独訳】Das Beispiel dieser beiden hat gelehrt, um wieviel maechtiger Beredsamkeit ist als Integritaet.
【仏訳】On vit, dans leur rivalite, combien l'eloquence a d'avantage sur la vertu.

アテネがペルシャ戦争に勝利できたのは、まさしくこの両人の功績ではあったが、その功績の大きさを比べると、正直なアリステーデスよりも弁論と策略に優るテミストクレスに軍配が挙がることは否定できない。雄弁術(弁論術、レトリーク)の発祥の地、アテネでは雄弁が政治家の資質として何よりも重視されたということだ。翻って日本では事情は真逆ともいえるほど弁論の評価は低い。現在の党首の立候補者たちの主張を聞いていても、心に響くような言い方の人は少ない。残念ながら、我々はこういった人のなかで最悪でない人を選ぶという選択肢しかないのである。「弁論貧困国」日本が選ぶ党首たちはグローバルな観点からすると、なんとも対話のし甲斐のない人だと推察される。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする