限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

希羅聚銘:(第12回目)『何事も鳥占いで決めるローマ』

2009-12-06 21:16:47 | 日記
Livy, History of Rome (Livius, Ab urbe condita)

(英訳: "Everyman's Library", Translator: Canon Roberts, 1905)

日本の古典文学を読んでいて、いつも首をかしげてしまうのが、彼らの迷信深さだ。我々同様の理性をもった人間が、いとも簡単に非科学的な迷信に陥っている。一例を挙げると平安貴族が忠実に守っていた『方違え』というのがそれだ。『道長の日記、御堂関白日記(その2)』にも書いたように、当時の人々は犬の死骸が縁の下にあっただけで、穢れがうつると考えていたようだ。

だが、こういった迷信は何も日本だけでない。古代ローマにもあった。それも日本より輪をかけてひどかった。日本では決まりごとに不都合があると、いろいろな口実や方便を使ってルールを完全に履行しようとはしない。しかしローマではそのようなルールでも完全に遵法しようとする。



さて、タルクィニウス王(Lucius Tarquinius Superbus)は国力増強のために近隣の部族から騎兵をかり集めようとした。ところが占鳥官のAttus Naviusから反対された。初代のロムルス王の決まりを変更するには、鳥占いでOKがでないといけない、というのだ。

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Book1, Section 36

ロムルスの下で高名な鳥占官であったアッツス・ナウィスはタルクィニウス王に対して、『ロムルス王から受け継いできた決まりは、鳥占いで吉兆が出ない限りは、変更も追加も許されない』と主張した。その言葉に怒ったタルクィニウス王は、『それほど鳥占いが確かなものなら、わしが今考えていることが実現可能なものかどうか占ってみよ』と申し付けた。アッツスは占った結果、できる、とタルクィニウス王に告げた。王は、『わしの考えていたのは、剃刀で岩を切ることだ。』それを聞いたアッツスはためらわず、剃刀を岩にあてると、見事岩を切断してみせたのであった。

Id quia inaugurato Romulus fecerat, negare Attus Navius, inclitus ea tempestate augur, neque mutari neque novum constitui nisi aves addixissent posse. Ex eo ira regi mota; eludensque artem ut ferunt, "Age dum" inquit, "divine tu, inaugura fierine possit quod nunc ego mente concipio." Cum ille augurio rem expertus profecto futuram dixisset, "Atqui hoc animo agitavi" inquit, "te novacula cotem discissurum. Cape haec et perage quod aves tuae fieri posse portendunt." Tum illum haud cunctanter discidisse cotem ferunt.

【英訳】Now as Romulus had acted under the sanction of the auspices, Attus Navius, a celebrated augur at that time, insisted that no change could be made, nothing new introduced, unless the birds gave a favourable omen. The king's anger was roused, and in mockery of the augur's skill he is reported to have said, "Come, you diviner, find out by your augury whether what I am now contemplating can be done." Attus, after consulting the omens, declared that it could. "Well," the king replied, "I had it in my mind that you should cut a whetstone with a razor. Take these, and perform the feat which your birds portend can be done." It is said that without the slightest hesitation he cut it through.

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なんとも、剃刀で岩をまっぷたつに切り裂いたというのである。中国では、李広将軍が石を虎だと思って射った矢が石に突き刺さった、という話があるが、信念というのはなんとも恐ろしいものだ。『史記・巻109:李広出猟,見草中石,以為虎而射之,中石没鏃,視之石也.因復更射之,終不能復入石矣』

ローマの迷信深さは、この例だけに止まらず、ローマ文明の本質的なもののように私には思える。それを実証する例がいくらでもあるが、追々紹介しよう。
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