どうして、つれていくというのかね。それには、すばらしい武器があるんだ。あんたは、今から二週間ほどまえ、銀座にあらわれた、でっかいカブトムシのことを、知ってるだろう。あれが、鉄塔王国のまもり神だ。あれは、カブトムシの戦車だよ。ピストルのたまだってはじきかえす鋼鉄の戦車だ。そればかりじゃない。あれは魔法つかいだ。幽霊カブトムシだ。みんなの見ているまえで、スーッと、煙のように消えてしまうんだ。それがしょうこに、いつかの晩のカブトムシは、数寄屋橋で消えたまま、どうしても見つからなかったじゃないか。
――江戸川乱歩「鉄塔王国」