http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20060801/107256/
つまらない番組を流したテレビ局には、ペナルティーを科す――。
「世界のTOYOTA」が、米国3大ネットワークの一角、NBCと結んだCM契約は、日本のテレビ局が聞いたら震撼するような内容になっている。「番組関心度調査」なる新手法を持ち込んで、提供するテレビ番組が視聴者の関心を引けなかった場合、埋め合わせの追加CMを無料で放映させる。
トヨタの米国におけるCM料金は膨れ上がり、ここ6年間で約37億ドル(約4300億円)に達する。そんな大金を注ぎ込んできたトヨタは、その効果に疑念を抱いている。
合理性と効率性を追求する米国だが、テレビCMに限っては「まき散らしておいて、その後は神に祈るのみ(spray and pray)」と言われるほど曖昧な世界だ。そこに、トヨタは風穴を開けようとしている。
「視聴率では計れない」
「テレビCMは本当に効果があるのか。トヨタにとってどれほど有益なのか見極める必要がある」と米国トヨタ自動車販売の広報担当であるデニース・モリシー氏は言う。米国トヨタ自販の疑問の矛先が真っ先に向かったのが3大ネットのNBCだった。毎年5月から6月にかけて、テレビCM枠の先行販売が実施される。秋の番組のスポンサーを募集していたNBCに対して、米国トヨタ自販は「番組関心度」の保証を求めたわけだ。
その背景には、視聴率への不信感がある。テレビのスイッチさえ入っていれば、視聴者が番組を真剣に見ていなくてもカウントされる。だが、インターネットが普及した今、パソコンに集中している間、テレビをBGMのようにつけておくケースも増えている。視聴率とCM効果との乖離が進んでいると見られる。
そこで、番組関心度調査が意味を持ってくる。この調査は視聴者にテレビ番組の内容やストーリーなどを質問するため、ただスイッチをつけていただけの人には答えられない。また、印象の薄い番組は、記憶に残らず、数値が上がらない仕組みになっている。つまり、視聴者をテレビ画面に釘づけにして、見た人の記憶に残る番組を作らなければならないわけだ。
「番組に関心が高い視聴者はその番組で流れるCMに対する関心もおのずと高くなる、と我々は考えている。良い内容の番組なら、視聴者はCMが流れている間に、例えばサンドイッチを食べにどこかに行くようなことはしないはずだから」(米国トヨタ自販のモリシー氏)
これまでも、テレビ局はトヨタなどの広告主に一定の視聴率を保証することはあった。この場合も、一定水準を下回る数字だった場合に、無料CMが流された。だが、米国トヨタ自販にとっては、CM販売の基準が視聴率である限り、費用対効果は不透明だという判断を下している。しかも、テレビ番組の視聴率を見ていても、実際にはCMになった瞬間に大きく下落すると言われている。米広告大手マグナ・グローバルの調査では、番組とCMの視聴率の差は約7ポイントにも及ぶという。
米メディア調査大手のニールセン・メディア・リサーチは、今年11月までには、番組視聴率だけでなく、CM視聴率の情報提供にも乗り出す予定だ。だが、視聴率自体に懐疑的な米国トヨタ自販に言わせれば、「我々の使う調査手法は、CM視聴率よりも効果的」(モリシー氏)だということになる。
「テレビキラー」が日本に上陸する日
CMに精緻な「成績評価」を取り入れられた形だが、テレビ局は努めて冷静を装う。NBCの販売・マーケティング担当であるマリアン・ギャンベリ上級副社長は、「広告主の要望に応えるために、NBCは自ら革新的なソリューションを生み出してきた。今回の米国トヨタ自販との契約も、その1つだ。彼らが求めているような、視聴者が釘付けになるような番組を作っていく」と今回の契約を前向きに評価する。
だが、トヨタがNBCに払っている年間の広告費は約1億2000万ドル(約138億円)にも上る。巨大な広告主に、テレビ局が屈した感は否めない。果たして、トヨタは今後も、テレビCMに巨額のカネを投じていくのだろうか。
今のところ、トヨタは米国内で、テレビにおける露出を高めている。今年5月の時点で、すでに約3億5000万ドル(約402億5000万円)を費やし、昨年を上回るペースになっている。ちなみに、米広告情報誌の調査によれば、トヨタは日本企業の中で、最も米国内で広告費を使っているスポンサーだという。
だからこそ、広告としてのテレビに「効果が薄い」と判断した場合、その影響は計り知れない。テレビ局が、番組を厳しく査定される調査を受け入れるのは、そんなスポンサーとの力関係にあると言える。
そして、米国でテレビに懐疑的な視線を送るトヨタは、その広告測定手法を日本に持ち帰る可能性がある。メディア先進国、米国での“実験”が、日本のテレビ界を震撼させる日は近いかもしれない。
(ニューヨーク支局)
つまらない番組を流したテレビ局には、ペナルティーを科す――。
「世界のTOYOTA」が、米国3大ネットワークの一角、NBCと結んだCM契約は、日本のテレビ局が聞いたら震撼するような内容になっている。「番組関心度調査」なる新手法を持ち込んで、提供するテレビ番組が視聴者の関心を引けなかった場合、埋め合わせの追加CMを無料で放映させる。
トヨタの米国におけるCM料金は膨れ上がり、ここ6年間で約37億ドル(約4300億円)に達する。そんな大金を注ぎ込んできたトヨタは、その効果に疑念を抱いている。
合理性と効率性を追求する米国だが、テレビCMに限っては「まき散らしておいて、その後は神に祈るのみ(spray and pray)」と言われるほど曖昧な世界だ。そこに、トヨタは風穴を開けようとしている。
「視聴率では計れない」
「テレビCMは本当に効果があるのか。トヨタにとってどれほど有益なのか見極める必要がある」と米国トヨタ自動車販売の広報担当であるデニース・モリシー氏は言う。米国トヨタ自販の疑問の矛先が真っ先に向かったのが3大ネットのNBCだった。毎年5月から6月にかけて、テレビCM枠の先行販売が実施される。秋の番組のスポンサーを募集していたNBCに対して、米国トヨタ自販は「番組関心度」の保証を求めたわけだ。
その背景には、視聴率への不信感がある。テレビのスイッチさえ入っていれば、視聴者が番組を真剣に見ていなくてもカウントされる。だが、インターネットが普及した今、パソコンに集中している間、テレビをBGMのようにつけておくケースも増えている。視聴率とCM効果との乖離が進んでいると見られる。
そこで、番組関心度調査が意味を持ってくる。この調査は視聴者にテレビ番組の内容やストーリーなどを質問するため、ただスイッチをつけていただけの人には答えられない。また、印象の薄い番組は、記憶に残らず、数値が上がらない仕組みになっている。つまり、視聴者をテレビ画面に釘づけにして、見た人の記憶に残る番組を作らなければならないわけだ。
「番組に関心が高い視聴者はその番組で流れるCMに対する関心もおのずと高くなる、と我々は考えている。良い内容の番組なら、視聴者はCMが流れている間に、例えばサンドイッチを食べにどこかに行くようなことはしないはずだから」(米国トヨタ自販のモリシー氏)
これまでも、テレビ局はトヨタなどの広告主に一定の視聴率を保証することはあった。この場合も、一定水準を下回る数字だった場合に、無料CMが流された。だが、米国トヨタ自販にとっては、CM販売の基準が視聴率である限り、費用対効果は不透明だという判断を下している。しかも、テレビ番組の視聴率を見ていても、実際にはCMになった瞬間に大きく下落すると言われている。米広告大手マグナ・グローバルの調査では、番組とCMの視聴率の差は約7ポイントにも及ぶという。
米メディア調査大手のニールセン・メディア・リサーチは、今年11月までには、番組視聴率だけでなく、CM視聴率の情報提供にも乗り出す予定だ。だが、視聴率自体に懐疑的な米国トヨタ自販に言わせれば、「我々の使う調査手法は、CM視聴率よりも効果的」(モリシー氏)だということになる。
「テレビキラー」が日本に上陸する日
CMに精緻な「成績評価」を取り入れられた形だが、テレビ局は努めて冷静を装う。NBCの販売・マーケティング担当であるマリアン・ギャンベリ上級副社長は、「広告主の要望に応えるために、NBCは自ら革新的なソリューションを生み出してきた。今回の米国トヨタ自販との契約も、その1つだ。彼らが求めているような、視聴者が釘付けになるような番組を作っていく」と今回の契約を前向きに評価する。
だが、トヨタがNBCに払っている年間の広告費は約1億2000万ドル(約138億円)にも上る。巨大な広告主に、テレビ局が屈した感は否めない。果たして、トヨタは今後も、テレビCMに巨額のカネを投じていくのだろうか。
今のところ、トヨタは米国内で、テレビにおける露出を高めている。今年5月の時点で、すでに約3億5000万ドル(約402億5000万円)を費やし、昨年を上回るペースになっている。ちなみに、米広告情報誌の調査によれば、トヨタは日本企業の中で、最も米国内で広告費を使っているスポンサーだという。
だからこそ、広告としてのテレビに「効果が薄い」と判断した場合、その影響は計り知れない。テレビ局が、番組を厳しく査定される調査を受け入れるのは、そんなスポンサーとの力関係にあると言える。
そして、米国でテレビに懐疑的な視線を送るトヨタは、その広告測定手法を日本に持ち帰る可能性がある。メディア先進国、米国での“実験”が、日本のテレビ界を震撼させる日は近いかもしれない。
(ニューヨーク支局)