続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

デュシャン『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)③

2020-05-18 07:09:15 | 美術ノート

 彼女・独身者・裸・花嫁・・・これら単語は固有名詞ではなく、決定的な焦点はない。抽象的なイメージは空想を増幅させるが、明確な答えには届かず霧消してしまう。デュシャンは思考の果てにこの無限の無為を言語と事物の破壊的な羅列によって造り得たのである。

 美しくなく、善でもない。しかし永遠の真実である《無》に近づくことを念頭に入れ、これらを配置している。

 偶然、これは最も大きな位置を占めているかもしれない。しかし、生きることは必然を模索することでもある。誕生から死への時間、制作は崩壊を予感させるトリックを組み入れている。一見確実に見えるものの小さな(しかし、決定的な)綻び・・・重心の偏り、あるいは接続の不備、回転のエネルギーの欠如、本体を隠すはずの鋳型の意味ありげな表明は笑止である・・・ヒビ(亀裂)の入った大ガラスは崩壊を予感させる。崩壊(死・消滅)への時間が鑑賞者の胸に刻まれ、現況の平安と未来の滅亡の狭間に震撼とする。
 作品の前に立つ鑑賞者は危うく身をのけぞらせて沈黙するしかないのではないか。


 写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク www.taschen.comより


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