夕焼け金魚 

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濃い影の女

2015-02-12 | 創作
この街は、昆虫世界のように気をつけていないと思わぬ落とし穴に落ちることがあります。
暗い夜道に黒い影がポツンとあったら、近づいてはいけません。
もしかしたら影蜘蛛かも知れないのです。影蜘蛛とは、この地方に昔からいるもので、影のように見える網を広げていて、夜行性の動物等が影に足を入れると、包み込んで殺して血を吸うという蜘蛛です。
大きさは三尺(1メートル)から大きいものは1丈(3メートル)もあるものもいると言うから、人間でも簡単に餌食にされると言われてます。
むかし、山で暮らしていた頃、近所の女の子と山を歩いていたら、ずっと黒い影が付いて来たことがあります。
いくら歩いても、五メートル程後ろに黒い影があるのです。
曇り空だったので、あんなに黒い影が出来るはずがないし、それに彼女とは別に影だけがあるような感じなのです。
気になって仕方なかったのですが、何も言いませんでした。
そのうち前に三匹の野犬が現れたのです。
当時の私は、野犬が一匹だけなら撃退する自信があったのですけど、三匹になるとちょっと自信がありません。
今でも子供が野犬に襲われて亡くなる事故がありますが、当時の山には野犬が何匹もいたのです。
困ったなぁと思いながらも女の子の前に出て、野犬と対峙しました。
ところが、彼女が何もないかのように私の横をすり抜けて、野犬の方に近づくのです。
びっくりした瞬間、野犬の一匹が歯を剥き出して、彼女に向かって飛びかかってきたのです。
彼女の前で歯をむき出していた野犬が、地面から伸びてきた黒い布に、彼女の目の前で宙に浮かんだままみるまに包まれて真っ黒な塊となって道に落ちてきました。
目の前で真っ黒な塊になった野犬が、ピクピク動いていたと思うと、すぐに動かなくなってしまいました。
これを見ていた二匹の野犬は、尻尾を巻いて逃げていってしまいました。
「何なの、これ」とびっくりして聞くと「わちの護衛」と女の子が笑って言うのです。
「この山では、これよりも強いのいないってばあちゃんが言うとったから」と言うと何事もなくスタスタと歩き出したのです。
黒い塊になっていた野犬は、いつのまにかミイラのようにカリカリになって、道の真ん中に転がっていました。
彼女が歩いていくと、その後ろを黒い影がやはり5メートル程後ろから付いていくのです。
黒い影をじっと見ると、影の中に赤い目が二つ見えました。ジロリと私を見たような気がします。
それ以来、彼女とは一緒に歩かないようにしました。
彼女が間違えて、あの護衛に金魚を襲わせるような事が、無いとも言えないのです。
襲われてカラカラに乾いた金魚が、室内に転がっていたなんて、洒落にもなりませんから。
この街の女に手を出すときは、彼女の後ろに黒くて濃い影がないかを、確かめた方が良いですよ。
部屋の中でも黒い濃い影がある女には、怖い護衛が付いているかも。

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