しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「楽園」 宮部みゆき 

2008年06月03日 | 読書
「楽園」 宮部みゆき     文藝春秋

フリーライターの前畑滋子は9年前に連続誘拐殺人事件(『模倣犯』)に係わるが、その事件から受けたダメージは大きく、まだ立ち直っていなかった。
そして、事件とは関係のないフリーペーパー専門の編集プロダクションで働いていた。
2005年5月、そんな滋子に、ある母親、萩谷敏子の相談にのって欲しいと、依頼が入る。
敏子は53歳で、12歳になる息子の等をこの年の3月に交通事故で亡くしていた。
その等が超能力を持っていたのではないかと知人に言われ、敏子はその真偽を知りたいというのだった。
等は予知したことを絵に描いていた。
絵の中に、蝙蝠の風見鶏のある家に埋められた少女の絵があり、それは等が死んでから発覚した事件だという。
16年前に両親が娘を殺し床下に埋めたが、火事で見つかったというものだった。
事前に等がそのことを知っていた可能性があるかを探るため、滋子は関係者に話しを聞いていく。



織り込まれる物語が幾つかある。
敏子と等の萩谷家の物語。
床下に埋められていた少女、土井崎茜を中心にした土井崎家の物語。
そして、前畑滋子の気持ちの変化。
それぞれ係わりがあるのだが、ちょっと盛りだくさんな感じもあり、ちょっと焦点がぼやける感じもする。
というか、何となく無理につながりを持たせた感じがないでもない
ひとつひとつが興味深いから、それぞれひとつの物語でもいいような気もする。
サスペンスなのだが、解決がすっきりとつく物語ではない。
気持ちも問題だから。心なんて自分でも明確に理解出来なかったりする。
色々なものがもやもやと心に残る。

萩谷等の物語は、特殊な能力に対する苦悩があるだろう。『龍は眠る』を思い出させる。
そして、土井崎家の物語は、簡単に人を殺してしまう今の世の中に、命の重さを伝えようとしているようだ。

すっきりしないのは、等の絵に中にあった、『模倣犯』の別荘の絵。
これはどうして描かれたかはなかったけれど、等が誰かの心に触れたことになるのだろうか。
等の物語をもっと知りたかった。等の辛さ楽しさを共感したかった。

滋子は調査するにあたり、敏子の身の上を聞いていくが、ライターというだけであれほど深く入り込めるものなのだろうか。
絶対言いたくない秘密を暴いていくという感覚があり、土井崎夫婦もそうだが、ちょっと不快というか、話してしまう人たちにも不思議だった。
まあ、そうしないと話しが進まないのだけれど。
それと「あおぞら会」、豪華というだけで不審感を持つもの、不思議。
確かに色々あるかも知れないが、やろうとしていることは間違ってはいない感じだった。


タイトルの「楽園」とは。
「あるとき必ず、己の楽園を見出すのだ。
たとえ、ほんのひとときであろうとも。
萩谷等はそれを描いていた。
あらかじめ失われたすべての楽園と、それを取り戻すために支払われるすべての代償を」

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