この本は、いつも読書の参考にさせていただいている「ふとっちょパパさん」も読まれたようです。
ここ数年の労働環境を語る際、大きな問題となったのが「偽装請負」です。
本書は、朝日新聞特別報道チームによる「偽装請負追及キャンペーン」展開時の取材内容を取りまとめたものです。
(p17より引用) 偽装請負と呼ばれる雇用システムをひとことで言い表すなら、「必要がなくなれば、いつでも使い捨てることができる労働力」のことだ。企業にとって、これほど都合のよい「雇い方」はない。
特別チームは、「キヤノン」「松下電器産業」といった日本を代表する超一流企業の「偽装請負」の実態を、具体的な証言や取材記録をもとに明らかにしていきます。
また、一時期、日本最大の請負会社グループであった「クリスタル」にも焦点をあてていますが、このあたりは従来あまり実態が明らかではなかっただけに、非常に興味深いものがありました。
(p18より引用) 偽装請負の実態は、労働派遣そのものだ。しかし、請負契約を装っているので、労働派遣法の制約はすべて無視する。・・・
生産量にあわせて、労働力を増やしたり減らしたりできる偽装請負は、メーカーにとって麻薬のように危険で魅惑的だった。・・・以前の企業は、予想される最も忙しい操業状態に合わせて、多数の労働力を抱えておかなければならなかったが、いつでも容易にクビを切れる魔法を手にしたとき、抱える労働力は最小限で済んだ。労働コストは大幅に削減され、利益はあがるという図式だ。
企業の生産活動は、当然、労働力に支えられています。正社員・派遣社員による業務遂行のほか、一定の業務をひとかたまりで委託する形態(請負)があります。
本書で取り上げられている「(偽装)請負」のケースは、多くの場合、委託側が受託側に対して圧倒的に強い立場にあります。
多くの場合表面に出なかった偽装請負が顕在化する契機としては、事業環境の変化に耐えうる「流動的な労働力」を求める企業側の思惑と、「安定的な雇用」を求める労働者側の希望との「ミスマッチ」があります。
もちろん「偽装請負」は実態としては「派遣」と同様の雇用関係になっているわけですから、労働者側の「安定的な雇用」を求める姿勢の方が正しいものです。
広く現在の労働環境を俯瞰すると、「安定した労働力」を求める企業もあれば、「柔軟な雇用形態」を求める労働者も存在します。「流動的な労働力」を求める企業や「安定的な雇用」を求める労働者ばかりとは限りません。
この4つの相の量的バランスが崩れてミスマッチを起こしているところに問題事象のひとつの根があるのです。
本来、教科書的にいえば、企業と労働者は対等な関係であるべきで、また、委託側と受託側とはwin-winの関係であるべきです。
数年前、BPO(business process outsourcing)という形態が流行ったことがあります。これは、企業が自社の業務処理(ビジネスプロセス)の一部を、外部の業者にアウトソーシングするものです。
まずは、情報システム関係の業務ではじまり、その後、経理や給与支払・人事管理・福利厚生や不動産管理といった間接業務も情報システムの運用業務と一緒に外部に切り出す動きが見られました。
この動きが成功例かといえば、ビジネス的にはそうとは言い難い面はあります。しかしながら、win-win請負形態を目指したひとつの動きとはいえると思います。
日本の雇用関係の実態は、今回の取材でも明らかになったように、真っ白からほとんど白、グレー、真っ黒といった様々な状況が複雑にからまり混在しています。
本書のところどころで御手洗日本経団連会長(キヤノン会長)の発言が紹介されています。
その主張内容や背景も含め、「偽装請負」をテーマにしたリアルな労働実態のレポートは、昨今の雇用関係を考えるよい材料を与えてくれました。
偽装請負―格差社会の労働現場 価格:¥ 735(税込) 発売日:2007-05 |
考えさせられる内容の本ですね。
BPOという形は今後とも進むでしょう。
他方、企業の委託先も含めたマネジメントもいい加減というわけには行きません。
法の意味するところも考えながら、業務運営するということがより大事になりますね。
コメント、ありがとうございます。
ご指摘のとおりです。
実際の現場によっては、委託側のみならず受託側も「派遣的な請負形態(≒偽装請負)」の方が業務を回しやすいと考えている場合もあります。また、法を(形式的に)守っているだけで、実態が伴っていないケースもあります。
しかしながら、法制度の趣旨(精神)を踏まえて、その意図するものの中できちんと体制やプロセスを整えることは可能です。
委託元と委託先、派遣元と派遣先の双方が、対等にそれぞれのポリシーに沿って「ひとつの業務」を取り運んでいくのだと思います。