表題作の「陰翳礼讃」は、文化論としても有名です。
たとえば、「陰翳」「陰」「闇」を地にした、「光」「金襴」「塗物」などの深く鈍い美しさ。こういった美意識が、西洋にない東洋的感性だと谷崎氏は言います。
私が選んだ本書には、「陰翳礼讃」のほか、「懶惰の説」「恋愛及び色情」「客ぎらい」「旅のいろいろ」「厠のいろいろ」の5編の随筆も収録されています。
「懶惰の説」にも東洋と西洋を比較した谷崎氏ならではの考察が紹介されています。
(p70より引用) 自分が楽しむよりも人を楽しませることを主眼とする西洋流の声楽は、この点において何処か窮屈で、努力的、作為的である。聞いていて羨ましい声量だとは思っても、その唇の動きを見ていると何んだか声を出す機械のような気がして、わざとらしい感じが伴う。だから唄っている本人の三昧境の心持が聴衆に伝わると云うようなことはないと云っていい。これは音楽のみならず、総べての芸術においてこの傾きがあると思う。
西洋の精力的で勤勉な生活テンポに対しある種の無味乾燥の感を抱き、それと比較して、東洋の「億劫がった物憂い生活感」に人間的な価値を認めているようです。
こういう考えを抱くに至ったくだりについて、氏は、「トイレや浴室のタイル」や「ハリウッドの映画俳優の白い歯並び」を例示としてあげていますが、このあたりの著述は、ウィットも感じられてなかなかさすがに秀逸です。
その他、「客ぎらい」では、谷崎氏自身による人となりの自己分析が、また、「旅のいろいろ」「厠のいろいろ」では、当時の生活習慣やその中での谷崎氏一流の着眼等が、とてもおもしろく感じられました。
陰翳礼讃 価格:¥ 500(税込) 発売日:1995-09 |
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