いつも利用している図書館の新着本リストで目につきました。
「サンデー毎日」連載のコラムの書籍化です。定番の「五木寛之」さんの最新版といってもいいエッセイなので、条件反射的に手に取ってみました。
早速、私の関心を惹いたところをいくつか書き留めておきましょう。
まずは、1972年春、モハメッド・アリさんへのインタビューの思い出から。
(p145より引用) 少量の白身魚の身を指でほぐして、貴重なものを味わうように口に運びながら、アリはこんなことを話した。
「たとえばエンジェル・ケーキといえば真っ白いケーキで、デビル・ケーキというのはチョコレートで作った黒いケーキのことです。黒い帽子というと不吉の星を意味するし、脅迫することをブラック・メイルという。ブラック・リスト、ブラック・マーケット、とにかく白は常に良くて、黒は常に悪いという印象を私たちは植えつけられてきました。この刷りこみから自由になることが私たちには大事なんです」
これまで会った中でも、ことに忘れがたい人物の一人である。
モハメッド・アリさんとはじめて会った五木さんは、繊細で知的な人物だという印象を受けたといいます。
次に、1979年冬、写真家リチャード・アドベンさんへのインタビュー。
(p147より引用) アベドンがベトナム戦争のときに、現地で多くの写真を撮ったことは、あまり語られることがない。私がそのことをたずねたとき、彼は口ごもりながら答えた。
「そう。ぼくはベトナムで千枚以上の写真を撮った。でも、その中の一枚だけしか発表しなかった。ある将軍のポートレートを、一枚だけね」
「なぜベトナムの写真を発表しなかったんですか」
彼はしばらく黙ってから答えた。
「ぼくの撮った戦争の写真が、あまりにも美しすぎたから」
私には彼の言わんとするところがよくわかった。
“考えオチ” のような問答ですが、これもまた言葉のコントラストが心の底にまで響きますね。
さて、本書を読んでの感想ですが、何より五木さんが持つ “素晴らしい言葉” に出会う能力には驚かされます。何がその確率を高めているのでしょう。
もちろん “類は友を呼ぶ” ということで、その機会が増すということもあるでしょうし、五木さん自身が育んできた “感度の高さ” も大きな要因です。
私にはそういった素養は全くないので、こうやって五木さんの著作を読むことで、ご相伴に与ることができでいるわけです。